話し合おう
翌日、学校に来た里美は華湖に話しかけてきた。
「ねえ、華湖」
「あ、里美ちゃん!おはよう」
華湖は内心では緊張していたが、あくまで平静を装って答えた。
「後で、話があるんだけど」
「わかった」
「部活の前に、ちょっとだけ時間いい?」
「もちろん、いいよ」
何の話かはだいたい察しがついたが、華湖は、その日の授業はずっとうわの空だった。
全ての授業が終わり、部活の準備を始めるものや、帰り支度をするもので教室は騒がしくなった。里美が華湖の席へやってきて言った。
「ここじゃなんだから、ちょっと静かなところに行こう」
「うん」
2人は、普段はあまり使われていない視聴覚室へ行った。幸い空室のようだ。教室のドアを閉めると、里美は話しだした。
「わかってると思うけど、代表の件ね」
「うん」
「部長に相談したんだけど、華湖と代わるのは認められないって」
「うん、私も同じこと言われたよ」
「そうなんだ。それで、アタシも考えたんだけど」
「うん」
「やっぱりアタシがやるよ」
「うん、それがいいよ」
「それでね…その…ごめん!」
里美は勢いよく頭を下げた。あまりのことに目を丸くする華湖。
「ちょちょちょ!どうしたの!?」
「ごめん!」
もう一度言ってから頭を上げた里美は、目を潤ませていた。
「正直言って、嫉妬してたんだと思う」
「…うん」
「それで、カッとなってあんなこと言っちゃって」
「いいんだよ、そんなこと」
「ダメ!それじゃアタシも納得できないから」
「いいのに…」
「それでね、反省したからってわけじゃないけど、昨日、ランクをやりまくったの」
「それで来なかったんだ?」
「うん、でね、今はダイヤになった」
「えー!たった1日で!?」
「うん。これで少しは認めてもらえるかな?」
「いや、私が認めるもなにも。先輩たちが選んだんだから。もっと自信持って!」
「これでさ、一応だけど、愛と同じランクになったわけだし」
「愛ちゃんもダイヤだったっけ」
「うん。まぁ向こうはチャンピオン目前のダイヤで、アタシはなりたてのダイヤだけどね」
「ううん、でもスゴイよ!」
「そ、そうかな?」
「1日でそこまで上げられないよー。それじゃさ、部長にちゃんと話しようよ」
「うん。華湖も付き合って」
「もちろん!」
2人は連れ立って部室へ向かい、そのまま楼瑠の元へと行った。
里美が話を始める。
「あの、部長。お話していいですか?」
「うん、どうした?」
「代表の件なんですが、やっぱりアタシがやることにしました。いや、やらせてください!」
「おー、やる決心ついたか」
「ハイ!」
「華湖も問題ないよな?」
「も、も、もちろんです!」
「わかった。よーし、それじゃこれからも練習に励めよ」
「「ハイ!」」
スッキリした2人は笑顔で楼瑠に頭を下げる。
「あ、そうそう。ゴールデンウィークにコミュニティ主催の大会があってさ。1年と2年は出てもらうぞ」
「え!大会ですか!?」大会と聞いて華湖は両手を胸の前で組んだ。髪で見えないが、目は輝いているに違いない。
「うん。まぁ小さい大会だからね。とくに賞品も出ないけど、大会の雰囲気に慣れるのが目的だから」
「やった!楽しみ!」
「おー、華湖はやる気あるねぇ。でも華湖は代表じゃないけどね」
「そ、そうでした…」
華湖はがっくり肩を落とした。
「あっはっは!まぁ今回は応援だな!」
「はーい」
「でも、夏には大きい大会がいくつかあるからな。その前にまた選考会をやるぞ」
「ホントですか!」
「華湖!やったね!一緒に大会でよう!」
「うん!」
「おー、2人とも自信あるじゃない。言っとくけど、他の子だって代表になるつもりで練習してるんだからね。あんた達も気合入れないと、抜かされるかもよ?」
「そうですよね!頑張ります!」
「アタシも!」
「よしよし。大会の件はもうみんなには言ってあるからな。あんた達は遅れてきたから今、言ったけど」
「あ。そうでした…」
「遅れてすみません…」
「あっはっは!2人で話してたんだろ?別にゆっくり来ても誰も文句言わないし。ウチは、ってかeスポーツ部は普段はそんな感じよ」
「「ありがとうございます!」」
「うん、じゃあ。練習練習!」
「「ハイ!」」
意気揚々と席に向かう2人だったが、見回してもすでに空席がない。
「あー、言い忘れてたけど…お前らの席、ねーから!」
「えええ、そんなぁ!」
楼瑠がお腹を抱えてゲラゲラと笑った。
「遅れて来たら埋まっちゃうからなー。PC席使いたいなら、早く来ること。でもさ、華湖は自宅にパソコンあるんだろ?」
「ハイ。あります」
「そしたら、なるべくオンラインで参加してほしいかな」
「そのほうが良いんですか?」
「ああ。まだ自宅でプレイする環境がない子もいるからさ。そういう子を優先してほしい」
「あー、なるほど、ですねぇ」
「アタシもですか?」
「里美も基本はそうなんだけど、ただ、代表で集まることもあるからさ。そんときは来てね」
「わかりました!」
(気楽なのは良いけど、コミュ障を治したいんだけどなぁ)
さすがのeスポーツ先進校でも、全員分のプレイ環境を整えるほどの予算があるわけではない。ただ、いずれはそれを達成する、というのが学長の目標らしい。いつかの朝礼でそんな話をしていたことを、華湖は思い出していた。
VRを使った授業、というのも検討しているらしい。それが可能なら学校に来る必要すらなくなる。華湖のような人間にとっては夢のような話だ。
「じゃ、帰ろっか?」
「里美は電車だっけ?」
「うん。家ついたら連絡するから。玲流も呼ぼう」
「わかった。ちょっと試したいこともあるから、付き合って」
「おっけー!」
そんな会話をごく自然にできるようになっている。それは以前の華湖なら考えられないことだった。
すでにコミュ障を克服しつつあるということに、華湖自身はまだ気がついていなかった。




