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紺青ラプソディー  作者: 蔵崎とら


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お酒とアクセサリー

 

 

 

 

 

 次は、騎士二人の分かな。

 そんな事を考えながら食堂へと足を踏み入れれば、丁度良く騎士さん二人がそこに揃っていた。


「丁度良かった。お二人にお土産です。」


 私はそう言いながら、手に持っていた紙袋を二人の前にドスン、と置く。


「お土産、ですか?」


 と、首を傾げる青い騎士さん。


「あぁ、王都土産?わざわざ買ってきてくれたのか。」


 と、ニヤニヤ笑う赤い騎士さん。

 二人は本当に対照的だと思う。


「ええ、わざわざ。」


 皮肉っぽく笑って見せれば、赤い騎士さんの表情が苦笑に変わった。


「開けても?」


「どうぞ、お酒ですよ。」


 ガサガサと音を立てて紙袋を漁っている赤い騎士さんに返事をする。

 何も言わない青い騎士さんが気になって、チラリと様子を伺ってみると、何故かジーっと紙袋を見詰めていた。

 ガン見だ。

 何か気になることでもあったのだろうか?


「えっと、青い騎士さん?気に入りませんでしたか?お酒は飲みますよね?以前二日酔いだとか言ってたこともあったし…」


 私が声を掛けると、青い騎士さんはハッとして私を見る。


「あ、いえ。…あぁ、酒は飲みます。」


 気に入らなかったわけじゃないのなら良かった、なんて言おうとしていると、青い騎士さんは目の前に置かれていた紙袋を掻っ攫うように膝の上に乗せていた。


「おー有名な銘柄のやつだな。」


 いつのまにか紙袋から酒瓶を取り出していたらしい赤い騎士さんの声がする。


「正直さっぱり解らなかったので店員さんのオススメを選んだんです。お二人の好みも解りませんし。」


 そう、この近辺で飲まれている酒ならなんとなくは解るようになってきたのだが、王都となると話は変わってくる。

 いかんせん酒の種類がアホみたいに多いのだ。

 どれが美味しくてどれが不味いかなんて解らないし、どれが人気でどれが不人気なのかもわからない。

 だから丁度近くに居た店員さんに予算を伝えてそれで買える美味しい物を、と頼んだのだ。


「キキョウ様、その店員は男ですか…?」


「いえ、女性です。でも既婚者だったそうで彼女のご主人が気に入っている物を勧められましたよ。なので男性の口に合うものなんじゃないかと。」


 ちなみに余談だが、見事な惚気話というオマケ付きでその酒を勧められた。

 半ばうんざりしていたので流されてその銘柄の酒に決めたといっても間違いではないかもしれない。

 なんて、そんな事二人には言えないけど。


「よしトリーナちゃん、今夜一緒に飲もうか。」


「はい?」


 突然何を言い出すのか、と首を傾げる私に、畳み掛けるように言葉を続ける赤い騎士さん。


「折角の良い酒だ、一人で飲むのも寂しいからな。」


 なんて、とても良い笑顔で言ってのける。


「じゃあロゼ達も誘って皆で飲みましょう。」


「いやいやいやそれだと一瞬で無くなるだろう…」


 ケチ臭いこと言うなぁ赤い騎士さんは。


「キキョウ様、試飲はされましたか?」


 呆れた眼差しで赤い騎士さんを見ているところに、青い騎士さんから声が掛かった。


「すみません、時間が無くて出来なかったんです。」


 正直アクセサリーショップとお菓子屋さんでで時間を食ってしまったから急ぎ足だったんだよな、二人のお土産選ぶの。

 その上店員の惚気話ときたものだから。


「そうですか。じゃあこれを飲む時は少しだけ付き合ってもらえますか?俺も初めて飲む酒ですので。」


 どこか嬉しそうに微笑みながら首を傾げる青い騎士さんを見ていると、私の首は自然と縦に動いていた。


「あの、はい。」


 なんて言いながら。

 それももちろん口から自然と滑り落ちた言葉だった。


「ちょっと待て、俺の時は皆でとか言ったくせに何故ファルケの時は平然と頷いたんだトリーナちゃん。」


「…誘い方に問題があったんじゃないかと。作りこまれた誑しと天然誑しの差を見た気分でした。」


 正直赤い騎士さんの誘いは下心剥き出しというか、以前部屋に誘い込まれた時と同じ匂いがしたからな。

 青い騎士さんの場合、通常ならわりと鬼気迫る表情で言い募ってくるくせに、さっきは何故か微笑んでいたから。

 呆気に取られて頷いたといっても過言ではない。

 これがわざとだったら結構な策士かもしれないが。


「なぁ、トリーナちゃん、俺は一切脈無しなのか…?」


 頬杖を付きながら、赤い騎士さんは言った。

 だから私は答える。


「そんなん自分で考えてください。」


 と。

 そもそも赤い騎士さんの方が私の事そんなに好きじゃないくせに。


「うわぁ無さそー…」


「諦めろイービス。」


「お前に言われたかねぇよ」


 赤い騎士さんんと青い騎士さんでそんな会話が繰り広げられているのをぼんやりしながら聞いていると、ふいに青い騎士さんの視線がこちらを向いた。


「何故キキョウ様はイービスなどに土産を…」


 何故ってそれは、


「全員分買って来ましたからね、さすがに赤い騎士さんにだけ買わないとなると可哀想だし仕方なく。」


 そう答える以外にないだろう。


「淡々と言わないでトリーナちゃん、さすがの俺も若干傷付くから…」


 ほーう赤い騎士さんでも傷付くことがあるのかー。


「全員ということは、」


 という青い騎士さんの言葉に、


「旦那様達にも使用人の皆にもライさんにも、あと長男様と次男様にも。」


 ね、全員でしょう?と言う。


「本当に全員か。残念だったなファルケ、お前だって俺と大差無い。」


 と、赤い騎士さんは青い騎士さんに言った。


「どこがだ。」


 ふん、と鼻を鳴らす青い騎士さん。

 落ち着き払った青い騎士さんや鬼気迫る表情の青い騎士さんはよく見るが、こうやって話している青い騎士さんは珍しい気がする。

 敬語じゃない青い騎士さんをこんなに長々と見ることすら珍しいもんな。


「別にお前が特別扱いされてるわけじゃない。」


「…お前に言われなくても解っている。」


 そう言った青い騎士さんはあからさまにムッとしている。

 特別扱い…ねぇ。

 そこで例のブレスレットの存在を思い出したのだが、この流れで出すのはおかしいだろう。

 保留にしておこう。そうしよう。


「ちなみにトリーナちゃん、あの伯爵には何かあげたの?」


 何故皆私と赤松について聞きたがるんだろうか。


「伯爵には買ってませんよ。夜会でも一緒に居ましたし、彼も王都に居たわけだから買わなくても良いかな、って。」


 正直予算的にも危なかったし。


「…一緒に?」


 私が放った言葉の一部に、青い騎士さんが食いついた。

 いつもの、どこか恐ろしい表情に戻っている。


「その、下世話な噂話に興じる下衆…間違えた、貴族様方の標的になりましてね。伯爵には暴れる直前で止めてもらったといいますか、」


 あの会場で公爵令嬢以外の顔見知りは伯爵しかいませんでしたし、と続けると、青い騎士さんが口を開いた。


「…キキョウ様、その下衆共の名前はわかりますか?」


 あ、この人はっきり下衆共って言っちゃったわ。

 私は我慢したというのに。


「名前ですか?」


「キキョウ様を傷付けたものにはそれ相応の仕打ちを、」


「あ、大丈夫だと思います。それ相応どころか数倍返しの仕打ちが降りかかりそうだったので。公爵令嬢のほうから。」


 そりゃあもう恐ろしい雰囲気醸し出してましたからね、なんて笑えば、青い騎士さんは大人しく引き下がってくれた。

 あの公爵令嬢なら、なんてぼそぼそと呟きながら。

 ちなみに赤い騎士さんは公爵令嬢の報復か、恐ろしいな、などと呟いていた。

 煌びやか令嬢の恐ろしさはそんなに有名なんだろうか?…有名そうだな。なんたってあの煌びやか令嬢だし。


「そういえばトリーナちゃん、自分用のお土産は?そのネックレス?」


 首元をとんとん、と指し示しながら言う赤い騎士さん。


「あぁ、はい。と言っても自分で買ったわけじゃないんですけど。」


「ってことは買ってもらったってこと?」


 という赤い騎士さんの問いに、


「はい、」


 と答える。すぐに煌びやか令嬢から貰ったことを説明するつもりだったのだが、青い騎士さんに遮られた。


「まさか伯爵に買ってもらったわけじゃないでしょうね、キキョウ様…」


 そんな言葉で。

 今度こそ煌びやか令嬢に貰ったんだと言おうとしたのだが、今度は赤い騎士さんに遮られる。


「男に貰ったアクセサリーを身に付けるってことは完全に気を許したってことでそいつと結婚しても良いっていう意思表示、だったか。」


「は?そんな話初耳なんですけど。」


「どういうことなんですかキキョウ様!」


 青い騎士さんの方からそんな言葉とともに手が伸びてきた。

 ネックレスが引き千切られそうな勢いだったので、私は咄嗟に仰け反って退避する。


「違います違います違います、これをくれたのは公爵令嬢ですから!」


 私の言葉も聞かずに勘違いしたくせに何をしようとしてるんだまったく!

 千切れたりしたら煌びやか令嬢に怒られちゃうじゃないか!

 っていうか獣みたいな目でこっち見るの止めろ!

 なんて非難を含んだ視線で青い騎士さんを見ていると、


「…女か。」


 と、小さく零した。

 過敏過ぎるよアンタ…。


「っていうか男に貰ったアクセサリーをどうのこうのって話、」


「初耳だろうな。今俺が考えたし。」


 平然と言ってくれましたがね赤い騎士さんよ、クソ迷惑な作り話とかやめてもらえませんかね。


「なんでそんなわけ解んないこと…」


「ファルケの反応見てみたかっただけだよ。」


 ホント迷惑だわぁ…

 なんて考えながら頭を抱えていると、赤い騎士さんが続ける。


「まぁ昔は独占欲を見せ付けるために恋人にアクセサリーを付けさせるって風習もあったらしいが…」


 とのこと。


「ホントですか?」


 さっき見事に騙されたわけだから、すんなりと信じる気にはなれないのだが。


「そんな風習、上位貴族の中で流行っていただけだろう。俺は知らない。」


 と、青い騎士さんは言う。

 凄く不機嫌そうだ。面白がられたからだろうか。


「上位貴族かぁ、じゃあ公爵令嬢はその風習を知っててこれをくれたのかな?これ、公爵令嬢と色違いなんですよね。」


 ちゃりちゃりとネックレスを指で弄びながら言うと、二人の騎士さんは揃って首を傾げた。


「トリーナちゃんを独占したいとは思ってそうだから否定は出来ない気もするが…」


 …まぁ同性だしそんな事考えずにただただ可愛いからってくれただけかもしれないけどね。


「それにしても何で赤い騎士さんがそんな風習知ってるんですか?」


 ふと疑問に思ったので尋ねてみたのだが、青い騎士さんから横槍が入った。


「大方女を口説く時の材料でしょう。キキョウ様はそんなこと気にしなくて良い。」


 と。


「確かに女性が喜んで食い付きそうなネタですね。」


 私の頭の中に、女性と二人きりの時にこの話を持ちかけている赤い騎士さんの姿が浮かんで、ふと笑いが込み上げる。


「しかし……。うん。キキョウ様、俺からもアクセサリーを贈りましょう。お揃いでも構いません、」


「はい?いりませんけど…」


 何か考え込んでいたと思ったら唐突にそんな事を言い出す青い騎士さん。

 私の返事を聞いた赤い騎士さんは、


「見事に振られたなファルケ!」


 と笑っていた。


「そういえば、青い騎士さんがアクセサリーを付けてるとこって見た事ないんですが、アクセサリーなんて身に付けるんですか?」


 ふと青い騎士さんの私服姿を思い出したのだが、彼がアクセサリーらしいものを身につけているところなんて見たことがなかった。


「いえ、持ってもいません。」


「苦手なんですか?」


 苦手だといわれればあのブレスレットは日の目を見る事無く封印されることになるな。


「苦手ではないのですが、買う機会がないというか、男が一人で買いに行くようなものでもないかと思いまして。」


 …なるほど、これはチャラ男…もとい赤い騎士さんへ向けての皮肉も入っているな。

 チラリと赤い騎士さんを見ると、別に一人で買いに行っても良いだろう、と呟いていた。

 買いに行くんだな、この人は。


「ってことは機会が無いだけで苦手ではないんですね。」


「そうですね。今まで然程興味もありませんでしたから。しかしキキョウ様とお揃いとなると話は変ってきます。」


「…お揃いはちょっと。」


 私は曖昧な笑顔を見せて、そのまま俯いた。

 苦手じゃないのなら、と思ったが、この話の流れを考えれば今青い騎士さんにブレスレットを渡すなど、


「無理だわ。」


「キキョウ様?何か言いましたか?」


「いえ、なんでもありません。」


 うん、あのブレスレットは封印確定だな。





 

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