表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう終わりにしましょう?  作者: ごろごろみかん。
3.再生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/33

10.あなたは誰 【後】

月間総合1位になってました。

ブクマ評価等々、ありがとうございます。










「きゃっ……!ごめんなさい!」


慌てて離れようにも、じくじくと痛みだした足は、思うように動かない。


(どうして?だって、今は──)


代足杖をつけている。

それなのに、どうして。

困惑した私に、ノイルさんが声をかける。


「どうしました?大丈夫ですか?」


「ええ、と……」


何を言えばいいのか、どこまで言っていいのか分からず混乱していると、すぐに私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「お嬢様!!!!」


「カティア、ローラ……」


振り向くと、侍女ふたりと、騎士たちがこちらに向かっていた。

彼らは、ノイルさんと話している時、ここまで近づくことはない。

彼ら自身、ノイルさんと関わりあいになることを避けていたようだった。


「どうなさいました?」


「足が、痛いのですか?……失礼しますね」


ローラが私の足に、服越しに触れる。


「痛っ……!!」


それは、強い痛みとなって私を襲った。


「…………ッ……!」


少し、触れられただけで呼吸が止まりそうなほど痛い。

じんじんとした痛みは、酷い鳥肌と冷や汗を連れてきた。

がんがんと、頭が痛む。


詰めている息をそのままにしていれば、少しだけ痛みが和らいだ気がして、私は何も答えられずにカティアとローラに首を横に振った。


「代足杖は、今もつけられているのですよね……!?」


必死な形相のカティアに、ぶんぶんと何度も頷いて答える。


「代足杖……?」


そこで、ぽつりと声が聞こえてくる。

ノイルさんだ。

その声に、カティアたちも、ノイルさんがいることを思い出したのだろう。


「失礼します!お嬢様は私たちがお連れします」


カティアが鋭くノイルさんに言う声が聞こえてくる。


(いた……い)


ぼんやりとした視界の中、音が遠かった。

今までの、リハビリの痛みとはまた違った。


撃たれた時を彷彿とさせるような──強烈な、痛み。


痛いと口にすることも難しく、心臓の音が激しく聞こえて。

視界が暗がかり、鳥肌に襲われる。


「──……っ」


脹脛の痛みが引き連れてくる頭痛と、眩暈。

吐き気。


堪えていると、ノイルさんとカティアたちが何か話しているのが聞こえた。


視界に入るのは、白い砂浜だけ。

だけどそれもやがて、霞がかり──目の前が、ブラックアウトした。









「……一度……か、ありません」


誰かの声で、意識が浮上する。


(ここ、は……?)


瞼を開けるのが億劫で、ゆっくり私は息を吐いた。


(確か……そうだわ)


海辺で、ノイルさんと話をした。

お花の話をして、次までに彼が好きなお花を見つけると宣言して──それで、お話は終わった、はずだった。


帰ろうとする彼を呼び止めて、名を名乗るつもりだったのだ。

だけど、足の向きを変えて、一歩踏み出したとき。

猛烈な痛みが私を襲った。


悲鳴を上げることすらできずに、崩れ落ちた。

それを支えてくれたのはノイルさんで、途中からカティアとローラにそれぞれ支えてもらった。

ゆっくりと、意識を失う前のことを思い出す。


同時に、室内にいる誰かの話し声が聞こえてきた。


「そう、ですか……。承知しました。旦那様にご相談いたします」


ひとりは、カティア。

そしてもうひとりは。


「ですが──私なら、直せるかもしれません」


ここにいるはずの、ないひとのものだった。


(どうして、ノイルさんが……?)


ゆっくりと、瞼を開ける。

酷い痛みは落ち着いていたけど、変わらず鈍痛はあった。


意識が覚醒すると、朧気だった会話がしっかりと耳に飛び込んできた。


「ノイルさんが……ですか?」


訝し気なカティアの声。

室内を見渡すと、白の壁紙にピンクのカーテン。

プルメリアとハイビスカスの花束が、サイドテーブルの花瓶に生けてある。


ここは、私の寝室だ。間違いない。

だけど……どうして、ここにノイルさんが?


困惑していると、ノイルさんの落ち着いた声が聞こえてきた。


「私は手先が器用で、故郷でもこういった仕事をしていました。一晩で、というのは難しいですが……一週間もいただければ、直せるかと思います。少なくとも、しばらくの間、代用品にはなるでしょう」


「ですが」


「ご安心ください。このことは誰にも言いません。契約書を結んでも構いません。もし、私の腕前に不安があるようでしたら、監視を立てていただいても構いません」


「それは、有難い提案ではありますが……」


カティアの返答は色よくない。

困惑した様子の彼女が気になって、私はゆっくりと起き上がった。

体を起こすと、私に背を向ける形でソファに座っているカティア。

その対面に、ノイルさんが腰を下ろしていた。

ノイルさんは私と向き合う形なので、体を起こすとすぐに彼と目が合った。


「お嬢さん!気付かれましたか」


ノイルさんが急いで立ち上がり、続いてカティアが弾かれたようにソファから腰を上げた。


「お嬢様!!!!」


壁際に控えていたローラと、ほかにも侍女が全員集合していた。

とても、心配させてしまったようだった。


「具合はいかがですか?今、旦那様と坊ちゃまにも、早馬を出したところです。先生をお呼びして先に診ていただこうとしたのですが」


怒涛のように話し始めるローラに目を瞬いていると、カティアが割って入った。


「お嬢様は今お目覚めになったばかりでしょう!混乱されているはず。……お嬢様、ご気分はいかがですか?」


ゆったりとした声で、尋ねられる。

それにホッとして、私は苦く笑った。


「大丈夫。……でも、一体何があったの?代足杖は変わらず着けていたわ」


尋ねると、カティアが困ったように首を横に振った。


「どうやら、代足杖の故障……のようです」


「故障……!?」


「はい。再び起動を試みたのですが、うんともすんとも言いません。これは……一度、王都でのメンテナンスが必要になるかと」


「王都……」


戻る、予定ではあった。

戻ろうとしていた。


だけど、それは、代足杖が壊れたから戻る、という理由からではなかった。


代足杖は私の右足の代わりだ。

もし、これを失ってしまったら──それを考えただけで、ゾッとする。


私は既に、この代足杖に依存している。

……これがなければ、私は歩くことができない。


「……ですが、お嬢様の知人の男性が、こちらの修理が可能だと仰っておりまして」


「えっ!?」


知人──それは、ノイルさんのことだろう。

驚いて顔を上げると、ソファから立ち上がった格好のまま、ノイルさんが会釈した。


しかし、それを返すことができないほど、私は動揺していた。


(どうして……)


代足杖は、とても複雑なシステムで、魔術師団所属の技術者にしか、扱えない。

メンテナンスだって、そうだ。


代足杖は、ひとつ作るのに、最短で半年、遅くて三年ほどかかる代物。


お父様が……ローウェル公爵家が、すぐに用意できたのは、ひとえに我が家が公爵家だから。

魔石を潤沢に使えて、資金にも余裕があったからだ。


本来は、手元にくるまでとても時間がかかる。


もともと、代足杖は隣国ベルフォールで開発された。

技術者の大半が、ベルフォール人だ。

ミレヴァール国の技術者も学びには行っているけど、本国の技術には適わない。


(ノイルさんが、修理できるのは、彼がベルフォール人だから……?)


でも、ベルフォール人なら誰でも可能、というわけではないだろう。


「──……」


心臓が、嫌な音を立てた。


(あなたは、誰なの?)


その言葉が、口をついて出そうになる。


「お嬢様、それと……」


カティアがちら、と私に視線を向ける。


「お召し物を変えましょう。砂浜で膝をつかれたので、裾に砂がついたままなのですわ……」


砂が付いたまま、ということに驚いて目を瞬く。

それに、カティアは申し訳なさそうな顔になった。


「まずは入浴もなさって、清潔にいたしましょう?お話は、その後で。よろしいでしょうか?」


カティアに尋ねられ、私は頷いて答えた。

話が落ち着いたところで、ローラがノイルさんに声をかけた。


「では、お嬢様は一度身支度をなさいますので。ご退室願えますでしょうか?」


「はい。……無理を言ってすみませんでした。何かあったら、私なら対処可能かと思っての判断です」


「……応接室にご案内いたします」


ローラは、ノイルさんの言葉には答えずに、扉に向かって歩いていった。


そこで、気が付く。室内に侍る、侍女と、騎士。

彼らの目が──ノイルさんに向ける眼差しが、とても冷たいことに。


その理由に思い至り、私はノイルさんに罪悪感を抱いた。


(彼に、申し訳ないことを……してしまったわ)


ノイルさんはきっと、とても居心地が悪かったに違いない。

ローラやカティアたち侍女。そして騎士たちが警戒するのは理由がある。

だけどノイルさんはその理由を知らない。


ノイルさんとローラが退室してから、カティアがそっと私に耳打ちした。


「お嬢様……祝石をご確認ください」


「え……?」


困惑すると、カティアが眉を下げて言った。


「本当は、ベッドにで休んでいただく際、お召し物を変えて、靴も脱がせる予定だったのです。ですが、それはできず……」


「……?」


カティアの言葉を不思議に思いながら、私はするりと首元からチェーンネックレスを取り出した。


そして、目を見開いた。


(どうして……?)


祝石は、依然として煌めきを帯びている。


だけどそれは、以前の比ではなくて──


手の隙間から零れ落ちるほどの、光量だった。


驚きに息を呑む私に、カティアが言った。


「お嬢様。お分かりになられませんか……?今、お嬢様は祝石の力を、使われているのです」


カティアに言われて、言葉を失った。


(祝石を、私が、今……?)


この一ヶ月、何度となく手に持っては、祝石の力を引き出そうとした。

その度に失敗して、どうしたらこれを使うことができるのか分からず、途方に暮れた。


その、祝石が──


祝石は変わらず、水銀が煌めくように、その中に銀粉がちらちらと舞っている。

さながら、聖夜を連想させるような、幻想的な光景だ。


だけど今は──さらに、トォン……トォン……と、まるで雨粒が水面に触れて、波紋が生まれるような。そんな揺らめきがある。

石は光を帯びていて、それは指の隙間からこぼれる程だった。


(これが……祝石の力を使っている、ということ?)


意識すれば、確かに、体が温かなものに包まれているようだった。


それは、秋の木漏れ日、とか。

小春日和を想起させるような……仄かなぬくもり。

冬の日の、暖炉のそばのような、温かさ。


(まさか、これが……?)


顔を上げると、カティアが頷いた。


「お嬢様は、恐らく……祝石に守られておりました。そのため、我々が触れることはできなかったのです。お嬢様、そちら、解除できますか?」


「解……除?」


どうやれば。

どうしたら。


手に持った祝石に力を込めても、波紋が広がるだけで、力が解除されることはない。



戸惑った私の耳に、次に飛び込んできたのは──勢いよく扉の開く音だった。


バンッッ!!と礼儀も何もない、荒々しい物音に、室内の使用人たちがみな警戒態勢に入る。

騎士は剣を抜き、魔術に長けた侍女が詠唱の準備に入る。


だけど、飛び込んできた人物の顔を見て、みな、警戒態勢を説いた。


なぜなら──


「姉上ッッ!!!!倒れられたって聞きました!!大丈夫なんですか!?!?」


入ってきたのが、弟のエイリクだったからだ。


考えてみれば、客人であるノイルさんがそんな乱暴な真似をするはずがない。

私は、海辺で見た彼のことしか知らないけれど、彼は強引な真似はしないだろう……と思っていた。


エイリクは一目散に、ベッドに座っている私のもとに走ってきた。


「姉上!!!!」


「エイリク……。ありがとう。急いで戻ってきてくれたの?」


「当然ですよ!!姉上が倒れられたって聞いて、僕、僕は……!大丈夫なんですか?起き上がって。け、怪我は!?患部に触れてもいいですか!?あっ、冷やしたほうがいいんでしたっけ!?ええと、まずは氷……いや、水?」


混乱するエイリクに割り込むように、カティアが言った。


「落ち着いてくださいませ、坊ちゃま。お嬢様は今、目を覚ましたばかりです。まずは入浴とお召替えが先です。旦那様と、エリアス坊ちゃまには早馬を出しております。エイリク坊ちゃまには、お客様の相手をお願いしたく存じます」


てきぱきと振る舞うカティアに、エイリクが一瞬虚を突かれる。

それから少しして


「客人?」


と首を傾げた。

それに、カティアが頷いた。


「お嬢様の知人の方です。壊れた代足杖を修理できると仰られて、今、応接室でお待ちいただいております」


「知人?姉上の?それってまさか」


エイリクの視線が私に向くので、頷いて答えた。


「そう、ノイルさんよ。……ごめんなさい、エイリク。私も、支度が済んだら向かうから、お客様のお相手をお願いできるかしら」


お願いすると、エイリクは驚いたように目を見開いたが、少しして強く頷いた。


「分かりました。僕も、一度、話してみたいと思っていたんです。でも、姉上はだめです。この後、医者の診察があるんでしょう?客人の相手は僕に任せて、姉上は休んでいてください」


そういえば、さっき、ローラは

『先生をお呼びして先に診ていただこうとしたのですが……』と言っていた。

恐らく、お医者様を呼んだはいいものの、私が祝石で守られていたから、診療できなかったのだろう。

エイリクの言葉に、私は頷いた。


「後は、父上の判断を仰ぎます。……ひとつ、聞きたいんですけど。姉上が倒れた時、そのひとも一緒だったんですか?」


それに頷くと、エイリクは「そうですか……」となにか考え込みながら答えた。





エイリクが退室すると、カティアがぽつりと言った。


「祝石の力、収まっておりますわ」


「えっ……!」


驚いて手元を見れば、確かに眩いほどの光は収束している。

ほのかに光を帯びていて、私の知る祝石に戻っていた。


エイリクの訪れに、驚いたから……?



そういえば、あの時。

襲撃があったあの夜も、そうだった。


撃たれる直前、祝石の力が発動して、それに驚いた直後にそれは解除された。


驚くと、祝石の力が途絶えてしまうのかもしれない。

私はじっと、祝石を見つめた。


試しに、もう一度、祝石に力を込めてみる。

先程の温もりを思い出して、もう一度。


すると──


ふわ、と温かなものに、包まれた。

祝石は先程のように不思議な揺らぎを見せている。


「これ……」


思わず、目を見開いた。

私の反応に、すぐにカティアが気がつく。


「お嬢様……!祝石を……扱えるようになったのですね……!?」


カティアの声は、今にも泣きそうだった。


ふ、と意識して力を抜けば、祝石の力も消えた。祝石の波紋も無くなり、仄かな光を放つだけになる。


(祝石を……)


扱える、ようになった。


「っ……」


私は、意識して微笑んだ。

そうでもしないと、泣いてしまいそうだったから。


「ねえ、カティア」


「はい」


「祝石を扱えるようになったわ。これも怪我の功名……というやつなのかしら?」


茶化すように言うと、カティアも笑ってくれた。


「お嬢様。まずは入浴をいたしましょう?私どもが、介添えいたしますわ」


カティアの言葉に、私は頷いた。


考えることは、考えなければならないことはたくさんある。


祝石のこと。

故障してしまった代足杖のこと。

そして、それを修理できるという、ノイルさんのこと──。


(お父様にも、報告しないと……)


だけどまずは。

私は手に持った祝石をじっと見つめた。


もし、また同じように襲撃を受けたとしても、今度こそ、私は自分で、自分の身を守ることが出来る。


ずっと立ち止まっていたところから、ようやく一歩。踏み出せた気がした。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
義肢装具士みたいなモンか ご母堂をなんとか助けたかったけど、ダメだったんだろうか
個人的にはノイルと上手くいって欲しいです。 そして、グレンには盛大なざまぁを期待したいな。。。
ホント。°(°´ᯅ`°)°。良かったね~♪ コレで自分を護るコトが出来るね~♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ