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もう終わりにしましょう?  作者: ごろごろみかん。
2.確認

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15/20

9.確認 【前】

目が覚めて、お医者様の言葉を聞いて。

感じたのは、絶望と後悔だった。


絶望は、もう以前のように歩けないかもしれない、という可能性に。


後悔は、お兄様を、お母様を、お父様を、そしてエイリクを。侍女たちを、こんなにも悲しませてしまったことに。


あの時、私はどうすべきだったのだろう?

答えは出ない。


考えても、考えても。

光の見えない暗闇を彷徨うように、答えは見つけられなかった。




お医者様の診察を受けて、お父様から城での事情を聞かれる。

お父様がとても、とてもこころを砕いてくださったのが分かるから、私もできるだけ、事実を口にしようとした。


私はグレンと一緒にいた。

あの時。爆発が起きた時。

グレンは、周囲を警戒し、職務を果たすために……


「……突然、爆発が起きたの。私がひとりだったのは……グ、レンが」


こころの中で考える分には問題がなかったのに、それを口にした途端、指が震えた。

その震えは、指から手に、腕に、体に、伝わって。


さぁ、と血の気が引くのが自分でもわかった。よく分からない動揺に呑まれて、視界が歪む。

気がつけば、私はお兄様に支えられて、深く息を吐くように言われているところだった。


お医者様がすぐ呼ばれて、診察を受ける。

診断は、過呼吸。


(驚いたわ……)


我ながら、どうしてだろう。他人事のように見てしまう。

こんなにも過剰反応すると思わなかった。


私はまだ、グレンが好きなの?

だから、こんなにも反応をしてしまうの……?


その可能性を考えて、ゾッとした。

身震いする。


(……違う)


私が、グレンの名を口にして、恐怖を覚えるのは。


怖い、と思ってしまうのは──。




あれは、二回目の爆発が起きた時のことだった。


彼の服の裾を、縋るように持っていた。

だけど、爆発が起きて、バランスを崩して、転んでしまったの。


『グ、グレン……きゃあっ!?』


『きみは、兄君のところにいるんだ。いいね?』


『待っ……待って。どこに、行くの?』


『俺は、アルセリアを見てくる。敵の狙いはアルセリアかもしれない。急いでるんだ』


『待って……!!』


私の言葉は、いつだって聞き届けられない。


名前を呼んでも、彼は私を見ない。

振り返ることは、しない。


私が見るのはいつだって、グレンの後ろ姿だった。


アフターヌーンティーでも、パーティーでも。

あの、事件の時だってそう。


名前を呼んでも、応えてもらえないのなら。

呼ぶことに、何の意味があるのだろう?


『待って……!!』


私の声は、いつだって届かない。


その後──その後のことは。


……思い出したくない。

思い出したくない、という強い思いが、きっと、強い拒否反応を呼び起こした。


お父様も、お兄様も、そんな私の反応に、愕然としているようだった。

驚かせてしまっている。悲しませてしまっている。


私は、自分の足が──以前のように動かすことは難しいかもしれない、と聞いて。

それ以上に、それを悲しむ家族を見ることの方が、よっぽど辛かった。


「ごめん、なさい。不甲斐ない妹で、ごめんなさいっ……!!」


この婚約は、私が、自分の意思でお父様にお願いしたものだ。

お父様に、聞かれたのに。

グレンは信頼出来るひとか、って。


それに私は答えたの。

グレンは信頼出来るひとよ、って。


その時は、確かに信じていた。

信じられた。


だけど結果的に、私の答えは誤りになってしまった。


婚約を認めたお父様は、その選択を悔やんでいる。

誰よりもそばで私を見ていたお兄様は、苦しそうだった。


エイリクは、何も知らなかったから。

ただただ、驚かせてしまっている。

これが、エイリクのトラウマになったら……。


そうならないように。

そうは、なりませんように。


もし、そうなったら。

私はどう責任を取ればいいのだろう?

謝っても、謝りきれない。


お母様にも、とても心労をかけてしまった。

お母様の頬の輪郭は、まるで、病人のようにこそげ落ちていた。

クマもできていて、とても、とても心配させてしまったのだと理解した。


ごめんなさい。

私が、私が、至らない娘だったから。

私が……もっと、ちゃんとしていれば。


たとえば……。

私にできることは、何があった?


あの事件が起きた時。

すぐに逃げるべきだった?

お父様にお願いして、護衛をつけてもらうべきだった?


どちらも現実的ではない。

だって、敵の狙いは私だった。

逃げようとしても、きっと見つかっていた。

護衛だって、グレンがいるのにお願いできるはずがない。


それでも、考えてしまう。

私がもっと、賢くて、器量が良くて、気立てのいい娘だったなら。


こんなことにも、なっていなかったのではないか、って。


お兄様は私が謝るのをずっと静かに聞いていた。


その手があまりにも優しくて、労りに満ちていて。また私は泣いてしまった。


「僕は、ルナリアが大好きだ。ルナリアは?」


そんなの、決まっていた。

私だって。私の方が、ずっと。


私はお兄様の服を強く、強く握りしめた。

外の香りがする。きっと、先程外出から帰ったばかりなのだろう。


「私も……私も、お兄様が、好き」


酷い鼻声だった。洟も出て、シャツについてしまったかもしれない。額を押し付けると、お兄様が頭を撫でてくれる。


大好きなお兄様。

優しくて、視野が広くて、思いやりに満ちていて。気位が高いこのひとは、実は、懐に入れたひとに対してのみ、とても情熱的だということを、妹の私は知っている。


「ルナリア。……海に行かないかい?」


ふと、お兄様は突然そんな提案をした。

目を瞬く私に、お兄様が優しく笑う。


「ローウェル公爵家が所有するユジュの別邸。南の方にあるだろう?お前、好きだったじゃないか。海が綺麗で、よく水遊びをしたろう?……昔はよく行ったものだね」


ユジュの別邸。とても、懐かしかった。

幼い頃は、よく行った。幼い私とエイリクを見守るのは、いつだってお兄様だった。





グレンが、邸を訪れているらしい。

それを知った時、驚きに息が詰まった。


「ご歓談中、失礼いたします。……坊っちゃま。ご子息様ですが、本日も」


執事が、私を見ることなくお兄様に報告する。

私のためだろう。それは、さり気なさを装った報告だったけど、分かってしまった。


どうして、こんな時だけ気がついてしまうのだろう。


金木犀の香り。

目が覚めてからは、まだしていない。


だけど──グレンを見たら。会ったら。

また、香りがして、しまうのかもしれない。


手は震えた。

お兄様は、ひとつ頷いただけで、何も言わない。

応対する気はない、ということだろう。


私とグレンの婚約は、解消に向けて話を進めているとお父様が教えてくれた。

このまま、私はグレンとの婚約を解消するのだろう。


そして、きっと、私はグレンではないひとと、婚約し、結婚する。

この足で、ふたたび婚約を望めるかは分からなかった。


だけどそれでも、私はこの傷を背負ったまま、生きていく。


お医者様に言われた通り、患部は夜になると痛みだし、熱を持った。

まだ、傷が塞がりきっていないので、歩く許可は出ていない。


グレンとの、婚約を解消して。

彼を忘れて、生きていく。


それで、いいの?


……何も、話さないままで、いいの?


ちゃんと、私の言いたいこと。言えた?

話したいことが、あるのではない?


そこまで考えた時、私は意識するよりも先に、お兄様に言っていた。


「私……会うわ。彼に」


お兄様は、唖然とした顔をした。

どうして、とその顔には書かれていたし、そのようにお兄様も尋ねてきた。


それに、苦く笑う。

グレンに想いを残しているわけじゃない。


違う。違うの。

最後に、話をすべきだと思ったの。


婚約が、当主間で解消されるのだとしても。

お互いに、一度話した方がいい。

互いに、蟠りを無くして、今後──未来を、見るために。ちゃんと、関係を精算するために。


終わらせる、ために。


(でも……本当は、怖い)


また、以前のように口論になってしまったら。


『何それ?察してほしかったってわけ?』


グレンのその言葉は、鋭く私の胸を穿った。


彼と話していると、何が何だか分からなくなってしまう。

傷つくのに脅えて、本題を見失ってしまう。


だから……だから、お兄様に、そばにいてほしかった。

そうすれば、少しは、勇気を持てるから。


話す勇気。向き合う覚悟。震える手を抑えるように強く拳を握る。

お兄様は、だめだ、とは言わなかった。





お兄様に、応接室に連れて行ってもらって、紅茶が運ばれる。


準備が整ってから、グレンが呼ばれる。

それまで彼は、玄関ホールで待っていたらしい。本来、公爵家の子息相手にそんな無礼はしない。

だけど、お兄様は、待たせても構わないと判断したのだろう。


執事がグレンを呼びに行き、ついにその時になった。


「…………」


はぁ、と吐いた息は震えていた。

胸元を、手で掴む。


心臓が驚くほど音を立てていた。


私ではなく、ほかの女性(ひと)を選んだ婚約者。


経緯はどうあれ、それは事実だった。

そしてその事実が、私のこころを重たくさせる。


気がつくと、俯いてしまいそうだったので、意識して顔を上げる。


(大丈夫、大丈夫。落ち着いて。ゆっくり、話すのよ)


靴音が響き、足音が近づいてくる。


呼吸の間隔が短くなって、自分でも緊張しているのだと気がついた。


(息を、吐いて。吸って)


お医者様に言われたとおり、お腹の底から息を吸うようなイメージで。


でも、手は震えてしまう。


……怖い。

会いたく、ない。


今更、会って、何を話せば?


だんだん、会うという選択をしたことを悔やんでしまいそうになる。

やっぱり、嫌──そんなの、言えるはずがなかったし、言うつもりもない。


どうしよう。怖い。

会いたくない。

思い出してしまう。


だって、あなたは。

あなたはあの時。王女殿下は。


意味を成さない単語ばかり頭の中を過っていく。

カタカタと手が震えた時、そっと、手にぬくもりを感じた。

ハッとして、見れば、それはお兄様の手だった。


……そうだわ。隣には、お兄様がいるのだった。

前とは、違う。

今は、お兄様がいてくださる。

そして、侍女も。


ここは邸で、私はひとりではない。


それを自覚すると、緊張に強ばったこころが少し、緩む気がした。


ちょうどその時、扉がノックされた。


「お客様をお連れしました」


執事が扉を開けて、入室したのは私の婚約者。

小麦色の髪に、翠の瞳。

彼は部屋を見渡して、私を見るとホッとしたように息を吐いた。


それに──私は、どうしてだろう。


「…………?」


想像よりも、予想よりもずっと、ずっと、落ち着いていた。


緊張と動揺が行き過ぎて、返って落ち着いてしまったのかしら……?


自分でも、困惑した。


グレンが対面の席に座る。

お兄様がすかさず言った。


「ルナリアはまだ本調子ではない。五分で退室して欲しい」


「みっ……短くないか!?それにどうして、きみがいる?俺は」


「黙れ。文句を言うなら、帰って構わない」


お兄様がピシャリと言うと、グレンは黙った。












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― 新着の感想 ―
気になる!タイトルがようやく目前に?! でもグレンは引かないと思う グレンの押し掛けの頻度、『祝石の覚醒』を知っているのではないか? 襲撃した人間から聞いて。王女のために祝石を一刻も早く奪いたいのでは…
うーんようやく直接対決かと思いきや回想や同じ内容の繰り返しだけでほぼ終わってしまうのかちょっと残念。早いとこクズで低能で幼稚なグレンをボコボコにしてスカッとしたいですわ。
他の方も書いてるけどむしろ5分は長い いや、最後の温情かな? そして次回、タイトル回収?
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