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もう終わりにしましょう?  作者: ごろごろみかん。
2.確認

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14/16

8.確認 【エリアス】

日間総合1位でした…!ありがとうございます。

ちょっと長めの8話です。







翌日。父上がルナリアの寝室にやってきて、体調を聞いた。


「体調はどうだ?少し、事件当時のことを聞きたいんだ。……できるかい?」


父上が、ルナリアの額に手を当てる。

まだ少し火照っているのだろう。

朝は熱が下がっても、昼頃になると微熱が出てしまう。ルナリアの額に手を当てて、体温を確かめた父上が眉を下げる。


「辛そうだね……。日を改めようか」


「大丈夫よ。少し、体が重たいだけなの。それに私、ずっとベッドで寝ているのよ?せっかくだもの。お父様。話し相手になって?」


ルナリアが悪戯っぽく笑う。


だけどそれが、ルナリアの気遣いであることは、言われずともわかった。


父上は、ちいさく頷いて、ベッド横の椅子に座る。すぐ終わるだろう。

父上も、無理をさせたいはずがない。


「王城で、何があったんだい?お前はどうして、ひとりだった?」


父上に尋ねられ、ルナリアが顔を伏せる。

さながら、記憶を辿るように。


「……突然、爆発が起きたの。私がひとりだったのは……グ、レンが」


そこで、異変が起きた。

ルナリアは、その単語──つまり、【グレン】という名を呼んだ途端、息を詰まらせたのだ。

言葉が出ないようで、ルナリア自身、驚いたように目を見開いている。体を折るようにして、ルナリアは自身を抱き締めた。

……様子がおかしい。


「ルナリア?」


父上も気がついて、ルナリアを呼ぶけど、返事はない。

ルナリアが、苦しげに呼吸を繰り返す。


「っ……は、っ……ぁ、うっ、ぁっ……!!」


「…………!!」


僕はすぐにルナリアを抱き起こし、顔色を確認する。


その顔は真っ青だった。

ルナリアは、カタカタと震えて、顔からは血の気が引いている。震えが、収まらない。

父上がすぐに怒鳴るように命じた。


「医者を呼べ!!今すぐにだ!!」


すぐに、控えていた侍女たちが部屋を飛び出していく。

僕はその間、何度もルナリアのその背を撫でた。少しでも、気が紛れるように。


「ひゅっ……う……!ぁっ……はっ」


喘ぐように、ルナリアが苦しがる。


目を細めて、その瞳には涙が滲んでいた。

苦しさゆえに、だろう。


まさか、これは──


(過呼吸…………!!)


僕は近くにあった布を、ルナリアの口元に押し付けた。その背に手をあてて、もたれかけさせる。


「ゆっくり、息を吐くんだ。……そうだ。いい子だね。もう一回」


「──っ……。……」


ルナリアは微かに頷いた後、肩を震わせながら僕の言うことを聞いた。

すぐに医者が呼ばれて、ルナリアを視る。



やはり、診断は過呼吸、だった。


僕は、愕然としていた。

恐らく、父上も。


(そこまで……)


そこまで、傷ついていたのだ。ルナリアは。


グレンの名を、あの騎士の名を、口にするだけで恐怖が甦ってしまうほどに。



ルナリアが落ち着きを取り戻して、父上がルナリアに言った。


「話は明日にしよう」


「大丈夫!大丈夫だから……!お願い、お父様。私の話を、聞いて欲しいの」


ルナリアは懸命に言う。

シーツを握りしめながら。

その指は、見ていて痛々しいほどに、真っ白だ。


「今、じゃないと……きっと、もう、話せなくななってしまう。だから、お願い。お父様」


ルナリアは、未だに荒い呼吸のまま、父上を見上げた。


それは、ルナリアの覚悟だったのだろう。

父上は、判断に迷ったようだった。

苦渋の判断の末、父上は頷いた。


「……分かった。だけど、僕がもうこれ以上は無理だ、と判断したらそこまでだよ?分かったね?」


「……ええ。ありがとう、お父様」


ホッとしたように、ルナリアが笑う。

それから、ルナリアは話し始めた。


夜会で、婚約者が職務を果たすために自分のそばを離れたこと。

襲撃者と相対したこと。


そして、襲撃者の狙いは、ルナリアの持つ祝石のようだった、ということ。


ひとつめとふたつめは既にわかっていたことだ。


だけど、三つ目は──。

僕が息を呑んだのと同時、父上も、メモをとる手が止まった。


「相手は、お前が祝石を持っていたと知っていたのか?」


「知っていたわ。……それに、顔も見たの。銀髪に、薄い青色の瞳の男のひとよ。隣国の関係者かと思ったのだけど……見覚えがないわ。高貴な……家柄のひとだとは……思うのだけど」


自信がなさそうにルナリアが言う。

相対したのは、恐らく一瞬。

その一瞬で、ルナリアはそこまで覚えている。


魔法銃は、隣国ベルフォール国で軍事開発に成功したともっぱら噂の代物で、未だ、市場には出回っていない。


それに……そうだ。

あの時、魔法が無効化される陣が組まれていた。

あれもまた、相当に難易度が高い。

見知らぬ土地で、一発勝負で成功するものでは決してない。


相当な手練か、優秀な魔術者か……。

あるいは、身内に裏切り者がいたのだろう。


「そうか……。よく話してくれた。今日はもう、休みなさい」


話が終わると、父上はルナリアにそう声をかけた。


ルナリアは、長話をしたせいか、また少し熱が上がってしまったようだ。

会話中、ルナリアは決してグレンの名を出さなかったし、それは父上も同様だった。






それから、一週間が経過した。

未だに、グレンは毎日邸を訪れる。

それを執事に追い返させる度、僕は腹が立って仕方なかった。


何せ、あれだけ、散々……!!


ルナリアのことを邪険に扱ってきたじゃないか。


僕が何度、寂しげに帰宅した妹の姿を見てきたと思っている……!?


デートの途中だって、約束ごとだって、全部そっちの都合で散々キャンセルしてきたくせに。


今更遅い。遅すぎる。

今更、なんだ?


そんなに、毎日足繁く邸に通えるくらいなら、もっと早く。もっと前から、ルナリアのために時間を使って欲しかった。













「では、行ってらっしゃいませ」


「ああ。行ってくる」


執事に答えて、玄関ホールを出る。


今日は、ジェニファーとの約束があった。

ジェニファーは、ルナリアの容態をとても心配していて、見舞いの品を贈っても構わないか、と手紙を貰ったのだ。


あの日の夜のことを、ジェニファーにも少し聞いておきたい。

その帰りに、紳士クラブに寄ろう。


ウィンザー公爵家がどう動くかはまだ分からないが、向こうに有利の噂話でも吹聴されてはたまらない。


ジェニファーにも、社交界で、真実を話してもらうよう協力を取り付けなければ。


そう思って、玄関扉を開け、邸の外に出る。

一歩外に出た瞬間、生ぬるい風が頬をすり抜けていく。


「あ……」


先に声を上げたのは、向こうだった。


また来たのか、という感想と、いい加減にしてくれ、という苛立ちで、僕は一瞬、そいつ──グレンを、睨みつけた。


だけど、取り合うつもりはない。

見なかったことにして、彼の横を通り抜ける。……通り抜けようとした。

だけど、先にグレンに腕を掴まれた。

とんでもない無作法ぶりだ。


「待ってくれ!!一目でいい。ルナリアに──」


「気軽に妹の名を口にするな!!!!」


気がつけば、僕は怒鳴るように言っていた。


口にしてから、しまった、と自覚する。

こんなに大きな声を出しては、ルナリアに気付かれてしまう。ルナリアは、熱が出たり下がったりを繰り返していて、今さっきようやく、眠りについたところだ。


起こしたくはない。こんなことで。


僕は短く舌打ちをして、掴まれた腕を振る。


「離せ。お前と話すことなどない」


「待ってくれ……エリアス。それならお前は、どうしていた?お前なら、どうしていたんだ……!?」


縋るように問われて、僕は鼻で笑った。


どうしていた、だって?


「そんなもの。未だに他人に聞いている時点で、お前は考えることを放棄してるんだよ。僕を宛てにするな。僕はお前に失望した。うんざりだ。二度と話しかけるな」


吐き捨てるように言うと、グレンの、僕の腕を掴んでいた手は、力なく落ちた。

僕は、グレンを見ることなく、馬車へと足を向ける。


背後で彼がどんな顔をしていたのか、僕は知らない。知る必要も、またない。










夜、帰宅して。

ルナリアの部屋を訪ねる。

様子を見に行こうと思ったのだ。


扉を軽くノックしようとすれば、その直前。

啜り泣くような声が聞こえてきた。


「──!」


ルナリアの声だ。

すぐにそれが分かって、息を呑む。

僕はノックするより先に、扉を押し開いた。


「ごめんね、ルナリア。起きてる?」


ノックもなく扉を開けた非礼を詫びながら言うと、ルナリアはベッドの上にいた。


部屋は暗い。侍女は……誰ひとりいない。

ルナリアが下げさせたのか?


「ルナリア?どうしたの?」


時刻は、日付が変わろうとしている時間帯。

僕は、ベッド横の椅子に腰を下ろした。


本当は、ベッドに座りたかったけど、生憎僕は外から帰ったばかりだ。

汚れた服のまま、ルナリアの眠るベッドに座ることははばかられた。


尋ねると、ルナリアは──


「お、にい、さまっ……」


苦しげに、そう言った。

はちみつ色の瞳は、涙で潤んでいる。

次から次に、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。


ひとりで、泣いていたのだろう。

すぐに分かった。


侍女を下げていたのは、このためか?

ひとりで泣きたいから──涙を、見せたくなかったから。


ルナリアは、僕を呼んだと同時、抱きついてきた。

それを、受け止める。


ルナリアの体は、まだ熱い。発熱しているためだ。


そっと、ルナリアの背を撫でた。

何度も、何度も。彼女を落ち着かせるように。幼い頃に良く、そうしてやったように。


「大丈夫。大丈夫だよ、ルナリア。怖いことなんて、何も無い」


「……っ……、……!」


しかし、ルナリアは首を横に振る。

顔を見ると、ルナリアは涙でぐちゃぐちゃなまま、しゃくりあげて言った。


「違う。違うの……!!」


「何が、違うんだい?」


できる限り優しく、僕はルナリアに尋ねた。

ルナリアは何度も何度もしゃくりあげながら、思いを吐露する。


「ごめん、なさい。不甲斐ない妹で、ごめんなさいっ……!!」


「──」


僕は、その時気がついた。

ルナリアが、悲しんでいる理由。


婚約者に選ばれなかった。事件当時、置いていかれた。その結果、ルナリアは怪我を負った。それも、後遺症の残る酷い怪我だ──。


それを、悲しみ、苦しんでいるのだと思っていた。


だけど、まさか。


「……僕たちのことなら、気にしないでいい。ルナリアが生きていた。それだけで、十分なんだよ」


ルナリアは、それでも首を横に振る。


ルナリアが、気に病んでいる理由。

それは──自分のことで、家族を悲しませているから……か?


確かに、ルナリアが怪我をしたことで、諸々の問題が起きた。

だけどそれは、僕たちがしたいからしていることで。ルナリアが気に病むことなど、ひとつもなかったのに。


僕も、母上も、父上も。昼夜を問わずに動いている。


社交嫌いのはずの母上は、ルナリアが目を覚ましてから、精力的に夜会やパーティーに参加するようになった。

情報操作のためだ。

元々、母上は社交界の花として名を馳せたひとだった。その母上が、社交に精を出しているのだ。既に、ルナリアとグレンの話は広まりつつあった。


もちろん、事実そのままを広めているのではない。

一部は、ぼかしてある。


だけど大事なのは、グレンが職務を優先し、ルナリアは置いていかれた、ということ。


これを言えば、大抵のご婦人は同情する。

ご令嬢も、自分の身に置き換えて、気の毒に思う。


ジェニファーにも協力を仰ぎ、令嬢たちの集まる集まるティーパーティーで、情報を流すようお願いした。

彼女は事の顛末を知ると、烈火のごとく怒った。

今にもグレンのところに殴り込みに行きそうだったので、止めるのに苦労したくらいだ。


ルナリアは──僕たちが、忙しなく邸を出ていることに気がついている。


そして、それを申し訳なく思っているし、自分が情けないと思っているのだろう。


僕は、ルナリアを強く、強く抱き締めた。



「……大丈夫。大丈夫だよ。ルナリア。泣きたい時は、泣けばいい」


泣きじゃくる妹の背を、ゆっくりと、何度も、何度も撫でる。


ルナリアは何度も謝った。

きっと、それが本心だったのだろう。

目を覚ましてから、気丈に振る舞っていたのは──弱音など吐いていられない、と思ったのかもしれない。

迷惑をかけていると、そう思ったのだろう。


「僕は、ルナリアが大好きだ。ルナリアは?」


「私も……私も、お兄様が、好き」


酷い鼻声で、しゃくりあげながらルナリアが答えた。

盛大に泣いたために、ルナリアの顔はぐちゃぐちゃだった。瞼は腫れぼったく、鼻は赤い。髪が、涙で頬に張り付いている。


僕はそれを取ってやりながら、視線を扉へと向けた。


そこでは、ルナリアの泣き声を聞きつけたのだろう。侍女のクラリスがこちらを窺っていたので、首を横に振る。


もう少しだけ、待ってやってほしい。


「ルナリア。……海に行かないかい?」


突然の提案だったので、ルナリアが目を瞬く。


「…………う、み?」


「そうだよ。ローウェル公爵家が所有するユジュの別邸。南の方にあるだろう?お前、好きだったじゃないか。海が綺麗で、よく水遊びをしたろう?……昔はよく行ったものだね」


そういうと、ルナリアも思い出したのだろう。

何度もぱちぱちと瞬きをして──それから、ふにゃりと笑った。


「懐かしい……。あの時は……まだ」


その言葉の先は、音にならない。

グレンと出会っていなかった、と。

そう言いたいのだろう。


僕はルナリアの頭を撫でる。

ルナリアが頭を押し付けるようにして甘えてきたので、何度もそうしてやった。


「しばらく、ユジュの別邸に行っているといい。そこで、英気を養ってくるんだ。……ルナリア。誰も、お前のことを迷惑なんて思っていない。僕も、母上も、父上も、エイリクも。お前のことが、とても大事なんだよ」


だから──どうか。


(神様。これ以上、ルナリアを追い詰めないでください)


もうこれ以上、悲しむルナリアの姿を、泣く妹の姿を、僕は見たくないんだ。


僕の提案に、ルナリアはこくん、とちいさく頷いた。







ルナリアがユジュの別邸に行くことが決まり、その支度を進めていた頃。

ここ数日は訪れがなかったというのに、また、グレンが訪問した。


しかも彼は、連日手紙を送ってくる。

宛先は、ルナリアだ。

以前のようなメッセージカードではない。手紙が便箋に入れられているので、流石に何が書いてあるか、読むことは出来ない。


ひとまず、手紙は父上が預かっている。




その時、僕とルナリアは、ユジュの地図を見て、思い出話に花を咲かせている最中だった。


扉がノックされ、執事が頭を下げて入室する。


彼は、ルナリアをちらりと見てから、言いにくそうにしながらも言葉を続けた。


「ご歓談中、失礼いたします。……坊っちゃま。ご子息様ですが、本日も」


ぼかしているが、グレンのことだろう。


今日も、父上は不在だ。

だから、僕に報告に来たのだ。


僕はひとつ頷くだけに留めた。

あまり長話をすると、ルナリアに気付かれてしまう。


だけど──遅かった。

ルナリアは、執事の僅かな単語で、訪問者が来ていること。

そして、その訪問者が誰か、まで理解してしまった。


「……待って。お兄様。……来てるのね?……彼、が」


ルナリアは、グレンの名を呼ばない。

呼べないのだろう。


僕はルナリアの言葉になんて返そうか迷ったが、その前にルナリアが言った。


「……お兄様。私……」


「無理はしなくていいんだよ。それに……約束なんてしていない。一方的に押しかけられているだけだ」


困ったように、冗談交じりに言う。

そうすれば、緊張していた空気が緩んだことに、ルナリアがホッとした様子を見せた。


それから、ルナリアは何度も視線を彷徨わせてから、言った。


「私……会うわ。彼に」


「ルナリア?」


息を呑む。

まさか、という思いで目を見開いた。


それに、ルナリアは苦笑した。

ゆっくりと、首を横に振る。


「彼に、話したいことが、あるの。話さなければ、ならないことが。きっと、今話さなければ……もう二度と、話せないと思うから」


だから、とルナリアは声を振り絞る。


「お兄様。お願い。……彼と話す時。……そばに、隣に、いてほしいの。ひとりで話すのは、まだ、少しだけ、怖いから」


ルナリアは困ったように笑って、僕を見た。

その手は、震えている。その震えを抑えるようにして、ルナリアが僕を見つめてくる。


辛そうに、苦しげにしているのに。

それでも会うことを、話し合いを望むルナリアの希望を、その覚悟を──兄である僕が、否定できるはずがない。













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― 新着の感想 ―
グレンもその父親もあまりに身勝手で読んでいて腹立たしいです。 早く痛い目にあって欲しいと思ってしまいます。 ルナリアが幸せになりますように。
父親の公爵から祝石を絶対に逃すなって厳命されてるのかね 少なくともグレンが王女と恋仲なのは確定だろうし、悪いと思って来たわけじゃないだろうな 王女自身も「貴女の婚約者取っちゃってごめんね〜wでも私って…
もう終わりにしましょう]の出番か
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