表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう終わりにしましょう?  作者: ごろごろみかん。
2.確認

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

5.どこまでも 【ローハン】




玄関ホールで長々と立ち話する話でもない。

応接室にウィンザー公爵を通すと、すぐに紅茶が運ばれてくる。

夏なので、応対用の紅茶はアイスだ。


書簡は送ったものの、もし、ウィンザー公爵がグレンを随行させていたらどうしようかと思っていた。

だが、その懸念は無事払拭されたので、僕は内心ホッとしていた。


流石に、夏真っ盛りの今。

ウィンザー公爵当主とその息子を、東屋に案内するような真似は、僕も進んでやりたくはない。


カラン、と氷が溶ける音を合図に、僕は本題を切り出した。


「本日は、世間話をするためだけにご足労いただいたわけではありません。貴公もそうでしょう?私の娘ルナリアと、貴公の息子グレンの婚約について、書簡で予めお伝えした通りです。こちらは、白紙とさせていただきたい」


話を切り出すと、ウィンザー公爵が眉を寄せた。出された紅茶に手をつけることなく、彼が答えた。


「ええ。見ましたとも。ですが、少し一方的すぎませんか?」


(一方的すぎるのは、お前の息子が送り付けてきたメッセージカードだろう……!!)


よっぽどそう言ってやりたかったが、自分宛でもないメッセージカードの内容を見たと口にするのは悪手だ。

それに、グレンを追い出した時の方便として、メッセージカードなど届いてない。

知らないのだから、グレンを迎える準備もしていないと断ったのだ。


僕は、対外的には、あのメッセージカードについて、知らぬ存ぜぬを通さねばならない。


「こういうのは、当事者の意見も大切でしょう。それに、瑕疵がついたくらい、何だというのです」


瑕疵がついたくらい(・・・・・・・・・)?」


「ええ。そうですよ。だいたい、先程卿だって仰っておられたではありませんか。我が息子の行動によって、ルナリア嬢は怪我をされた……と。それなら、我が息子が責任を取るのが筋だと思いますがね?」


「ハハハ。冗談はよしていただきたい。娘を見捨て……失礼。職務に忠実な騎士殿には、我が娘は不相応ですよ。私の娘は、甘やかされて育ちましたからね。ウィンザー公爵家の教育方針とは……とてもとても!相容れるものではありません」


「何をおっしゃる。ルナリア嬢とて、淑女教育を受けられているのでしょう?なら、問題はありません。確かに今回のことは、多少のハプニング(・・・・・・・・)もありました。ですが、それまでは上手くやって来ていたではありませんか。ルナリア嬢も、グレンの仕事内容に理解があった。……ああ、そうです。ルナリア嬢はなんと言ってるのです?この婚約解消は、本人の意思なのですか?」


「面白いことを仰られる。貴族の娘の婚約は、親が取り仕切るものでしょう。貴公はいちいち、子供の意志を確認するのですか?」


我がローウェル公爵家では、子供の意思を蔑ろにして婚約を進めるということはまず絶対にない。

だけど、ウィンザー公爵家ではその限りではないだろう。

そちらの礼儀に則った返事をすれば、ウィンザー公爵家は鼻白んだ。


ローウェル公爵当主──つまり僕が、子供達をかわいがっているのは、社交界でも有名な話だ。

だから、ウィンザー公爵は、ルナリアの意思の確認など抜かしてきた。

都合のいい時だけ、こちらの価値観を利用しようとしてくる。


「我が娘は、後遺症が残るかもしれないんですよ。騎士殿の妻など、とてもとても。ルナリアには務まりますまい」


「そう答えを急ぐ必要はありませんよ。まずはルナリア嬢が目を覚ましてから──」


「ルナリアには、騎士殿の妻は務まりません。ですから、婚約解消に合意をお願いします」


のらりくらりと交わす男に、僕は念押するようにふたたび言葉を重ねた。上辺だけの言葉遊びなど、したい気分でもなかったし、そんな暇もない。

ルナリアとグレンの婚約は解消する。僕には、それ以外の選択肢はなかった。


「…………グレンが不憫ではありませんか。婚約者は守れず、婚約解消など。周りは、婚約者も守れなかった男として、彼の名誉を著しく傷つけることになる」


自業自得では?

とは、思ったが、それは言わずに僕は愛想笑いを浮かべる。それは、蔑むような笑みになっただろう。


「それはそれは。ですが、卿は噂話を真に受けるようなお人ではないでしょう?私の娘はとても繊細でしてね、そういったものに深く傷つくのですよ。ああ、そうだな。もっと早くにこうしておくべきだった」


後半は独り言のように、あえてウィンザー公爵に聞かせる。


それから、埒が明かないと思った僕は、従僕に目配せをして、あるものを書斎から取ってくるよう命じた。


時を置かずに、従僕が目当てのものを取って、戻ってきた。ウィンザー公爵は、何を取ってこさせたのからと怪訝な顔をしていたが、それを見て顔色を変えた。


従僕から受け取った僕はそれ──いくつかの新聞紙の束を、まとめてテーブルの上に放り投げる。


そのほとんどが大衆紙。

王女と騎士の秘密の恋を、流行りのオペラになぞらえて、面白おかしく書いている。


「騎士殿が不憫?こんな噂話を許していた、我が娘の方がずっと哀れだったのでは?貴公はこれを知っていて放置していたのですから、貴公にとって噂話など、取るに足らない問題なのでしょう」


ウィンザー公爵は、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。しかし、その歯切れは悪い。


「そんなものは、たかが大衆紙ではありませんか。社交界の風評とはまた違います」


「多くの貴婦人がそうであるように、社交界の人間も、ゴシップ好きなのですよ。ひとりの親として言わせていただきたい。先程、卿は騎士殿は職務を果たしただけと仰ったが──娘のこころ、ひとつ守れず何が騎士なのですか?笑わせますね。たったひとりの婚約者すら守れないではありませんか」


「その話は先程もした通りですよ、ローウェル公。グレンが責められる謂れはありません」


「ええ、そうですね。有事の際、騎士殿は王女殿下を優先された。ええ、とてもご立派です。ですが、選ばれなかったルナリアは?天秤にかけられて選ばれなかったルナリアにも、騎士殿の行動を立派だ、と褒めたたえさせるのですか?大怪我をして、未来の希望も潰えたかもしれない……あの子に?」


そんな酷なことをさせる気か、と睨むと、ウィンザー公爵は閉口した。

しかし、まだ頷かない。仕方ない。あまり使いたい手ではなかったが、出し惜しみしている余裕はない。僕も、必死なのだから。


「婚約者ではなく、王女殿下を選んだ騎士殿。ゴシップ好きな記者が知ったら、一体どんな記事を書いてくれるんでしょうねぇ?」


逆に、僕は問いかけた。

それに、ウィンザー公爵の顔色がサッと変わる。


もし、記者がその事実を知れば、それはもう、面白おかしく脚色して記事を書いてくれるだろう。

それは、グレンと王女殿下にどんな変化をもたらすだろうか。


「それは、宣戦布告と受け取ってもよろしいか。貴公は、私を脅したいらしい」


「まさか!ですが……そう、人の口に戸は立てられない。誰かが(・・・)、うっかり口を滑らせてしまうかも。どこから情報が漏れるか分からない。怖いですねぇ?」


これは、本気だ。

本気で僕は、記者に金を握らせ、新聞にありとあらゆることを書かせようと思っていた。

王都はしばらく騒がしくなるだろう。

そうなる前に、領地に引っ込めばいい。

幸い、ローウェル公爵家の家業は魔石造りだ。

社交をしなくても立ち行く。


元々妻のヴィオラは社交嫌いだし、そんな妻に付き合い、僕も必要最低限のパーティーにしか出ていなかった。


ジェニファーの父、アルモンド伯爵には訳を知らせる必要があるが、彼とは長い付き合いだ。理解してくれるだろう。

ジェニファーにもパーティーの出席頻度を落としてもらうことになるが、エリアスが同伴するし、彼女の評判には関わらない。


ウィンザー公爵は僕を見て、本気だと分かったのだろう。

苦々しげに顔を顰め、ようやく彼は言った。


「……一度、息子と相談します。グレンはまだ、何も知りませんからね。この話はひとまず保留にさせていただきたい」


「構いませんが、期日を設けます。今から、一週間。その間のご返答を願いますよ」


もちろん、これは本気ではない。

取引の基本だ。

最初は無理な要望を求め、その後に本来の目的を通す。

普段のウィンザー公爵なら気付いただろうが、今の彼は焦っている。正常な判断ができていない。


「一週間!?冗談でしょう」


「冗談ではありません。私は一刻も早く、娘の心身の安全を確保してやりたいのですよ。娘が目を覚ました時、ふたたび絶望させたくはありません」


あまりにも分かりやすく、お前の息子との婚約継続はルナリアの絶望だ、突きつけてやれば、ウィンザー公爵が歪む。


根からの貴族主義。選民意識の強い彼は、生来のプライドも高いのだろう。

こんなにコケにされることはあまりないに違いない。

今にも歯ぎしりしそうな顔でウィンザー公爵が答えた。

もはや、完全にこちらのペースだ。


「せめて、一ヶ月」


「ふむ。構いませんが、その間に、新聞に妙な記事が載らないといいですね?情報は水ものですから。彼らも、顧客満足度の品質向上のため、常に新しい情報を求めています」


いつだって情報漏洩のリスクは付き物だ。

いつ、情報が漏れるか分からない。


ウィンザー公爵家は、王家と縁のある家柄だ。

陛下とウィンザー公爵は従兄弟という関係性で、強引にことを進めれば陛下の介入があるかもしれない。


特に今回は、間接的にとはいえ、王女殿下が関わっている。

急いては事を仕損じる。


今はこれくらいにしておくべきだろう。

ただし、譲歩はしない。

陛下への根回しも必要だ。


笑いかけると、ウィンザー公爵は僕を睨めつけてきた。

そして、先程までは確かにあった余裕をかなぐり捨てたような低い声で、彼が言う。


「グレンとの婚約を解消して、どうします。ルナリア嬢の傷は深いのでしょう?再婚約は難しいのでは?」


「──」


そして、それは確かに僕の逆鱗に触れた。


どの立場で物を言っている?

どうして、ルナリアは怪我をした?


それに──ウィンザー公爵は、気がついているだろうか。

いや、分かっているのだろうな。


彼は、この事件が起きてから一度も、息子のグレンでさえ。


我がローウェル公爵家に、そしてルナリアに。


一度も謝罪していないのだ。


グレンには、近衛騎士としての職務があった。

それは分かる。分かるとも。


これでも僕は、ずっとローウェル公爵を名乗ってきたのだから。


だけど、ずっと王女殿下に侍っていなければならないものだったのか?

あの事件当時、王女殿下には六人の近衛騎士と、五人の騎士団所属の騎士がついていた。魔術師も、何人かついていたはずだ。


襲撃者は、騎士に応戦され、ジリ貧と見ると、すぐに離脱した。

王女殿下に傷は、かすり傷ひとつない。


結果的に、グレンは王女殿下のそばにいなくても良かったはずだった。

だけど確かにこれは結果論に過ぎない。


だけど彼は、少しでも思い出さなかったのだろうか。


置いていったルナリアのことを。


誰かに託すでも構わない。

自分が動けないのなら、代わりのものを手配する。


それくらいの心遣いはあってもよかったのではないか?


婚約者なんだろう?


だけどそれは過ぎた要望というもの。

あくまで、それは配慮に過ぎないからだ。


こちらから言うことは出来ない。


だけど、そんな心配りすらできない男が、娘の婚約者など。認めたくはない事実だった。


「は、ははは……はははは……!!」


どこまで。どこまで、ルナリアを貶めれば、気が済むんだ?この、親子は。




















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うん、普通に宣戦布告だなこれ 公爵家って、その時が来たなら公国建てられるほどの家なわけで ここまで舐められたら、やらなきゃメンツが死ぬ
「よろしい、ならば戦争だ」
 ハハハ…( ´-ω-)スンッよし、殺ろう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ