第二十四話 龍殺しと妖狐
エリアと一緒に作った夕食は最高だった。
ドラゴンテールの照り焼きとドラゴンの卵スープ、どちらも元の世界にあった料理で例えるのは難しいと思う。
特にドラゴンテールは食感が近いのは豚肉なのだが、味は鶏肉にも牛肉にも似ていて不思議な味だった。
卵スープの方は甘めという事もあり、一般的に想像する卵スープに砂糖を加えたような感じがしたが、黄身が大きい分卵の割合が多く、スープ自体を辛めにする事でバランスを取っている。
味はだし巻き玉子に近いと感じた。
「エリアご馳走様、料理とても美味しかった」
「ふふ、口にあったなら良かった」
夕食を終えた後、何しようか迷っているとアルデライトさんから声をかけられた。
「クリスくん、先にお風呂に入って出たら私の部屋に来なさい。話が途中になってしまったからね」
「わかりました」
エリアの家の浴室は一般的な家庭と大して変わらないが、湯船が横長タイプではなく縦長タイプだった。
「確かおばあちゃん家がこんな湯船だったような」
ここで言うおばあちゃんは元の世界の話だ。
家の事情で数年間母親と一緒におばあちゃんの家で暮らしていたため、湯船を見て懐かしく感じた。
「森の中で住んでるという割には、日用品とかキチンと揃ってるなこの家」
シャワーのそばに置かれたボディソープやシャンプー等を目にして、つい口から漏れてしまった。
各種一本ずつしか置かれていないため、エリアもアルデライトさんも同じモノを使っているのだろう。
「そういえばエリアの髪、結構サラサラだったな。料理中もゆらゆら動いてたし……あ、ウィンダの髪も確かサラサラだった気がする。セームは……まぁ場所が場所だったから少しごわついてた気がするな、それでも大きくなってちゃんとケアしたら2人みたいにサラサラヘアになるだろうし……セナさんが綺麗な人だったからセームも綺麗系になりそうだな」
ふと髪の話をしていたら、3人の髪が揺れ動くシーンを思い出した。
エリアのポニーテール、セームのツインテール、ウィンダのハーフアップ、甲乙つけがたいほど皆それぞれ似合ってたと思う。
「エリアのポニーテールにはレースタイプのリボンが一番似合うだろうし、セームのツインテールはあげたシュシュもいいけど、出会った時に使ってたリボンも可愛かったな。ウィンダはゴムのままでアップした髪を三つ編みとかにしたら可愛いかもなぁ」
髪と言えばセームは下ろしても肩甲骨辺りまでで、ウィンダが腰辺り、エリアがもう少し長くてお尻隠せるぐらい長かったな。
「ふっ」
アイツも確か、俺が長い方が好きって言ったら伸ばし始めたっけ。
顔も声も思い出せない1人の女性を思い出した直後、また頭痛に襲われた。
「痛っ、ホントなんなんだこの頭痛は」
痛みが治まるのを待ってからバシャッと湯船から上がり、頭、身体の順で洗っていく。
石鹸を洗い流したあと、再び湯船に数分浸かった後シャワーで軽く流して浴室が出ると、脱衣所の扉がガチャっと開いた。
「ごめんクリス、タオルってあ……る?」
脱衣所を覗き込んできたエリアと目が合う。
「ふふふ、これでおあいこだね」
「何がだよ……あ、裸か」
特に見られて恥ずかしい身体つきもしてないため、隠すようなことはしなかった。
「キャーって悲鳴あげた方がいいか?」
「そこは合わせなくていいから……」
「ぷっ、くふふ」
「あはははは」
2人して何故か笑ってしまった。
「あ、ちなみにタオルはあるから大丈夫だ、ありがとう」
そう言い俺はタオルを具現化させる。
「あったなら大丈夫、お邪魔しました」
エリアはスっと顔を引っ込めパタンと扉を閉める。
寝間着に着替えて廊下に出ると、アルデライトさんが扉から手だけを出して手招きしていた。
「あのーアルデライトさん。手だけ出すとホラーなんでやめてください」
「ははは、すまない。特に問題なければ先程の続きでも話そうか」
この後したい事もなかったから「いいですよ」とだけ返して、アルデライトさんの部屋に向かった。
先程と同様に座ると、アルデライトさんが口を開く。
「君にエリアを託す上で知っておいてほしいことがある」
「なんでしょう」
アルデライトさんの真剣な眼差しにつられ、俺自身も真面目なトーンで返した。
「実は私は”アルデライト”ではないんだ」
正直、意味がわからない。
「えっと、どういう意味です?」
「そのままの意味だ、私は”アルデライト”ではない」
俺が困った表情を浮かべるので、アルデライトさんはそのまま続けた。
「姿形はアルデライトのものだが、中身がアルデライトではないという事だ。……まぁ実際に見てもらった方が早いだろう」
そう言うとアルデライトさんは立ち上がり、その場でバク宙を1回すると、ボフンッと煙が立ち込める。
やがて煙が収まると、アルデライトさんが立っていた座布団の上には1匹の狐が座っていた。
白銀の毛並みに、うねうねと動き続ける7本の尻尾が生えている。
空いてる窓から差し込める月明かりと軽い夜風に、白銀の毛並みが揺れて輝いて見えた。
ふと顔に視線を向けると、赤色の瞳がこちらをじっと見つめている。
突然現れた化け狐とその姿に困惑していた俺は、右手にナイフを具現化させた。
「そう、警戒せんでも良い。別に取って食ったりせん」
「え、今喋った? もしかしてアルデライトさん?」
「うむ、まぁそうとも言うし、そうとも言わんな」
「ど、どっちですか……」
その白銀の化け狐から発せられる声は、アルデライトさんの低い声から一変して、妙に色気を感じる艶かしい声だ。
「もしかして、そっちが本来の姿か?」
「いかにも、これが私の本来の姿じゃ」
聞きたいことは沢山頭に浮かんだが、とりあえず一番聞きたいことあった。
「アルデライトさんは、どうした?」
「彼なら、嫁さんと一緒に死んでおるよ」
その一言にドクンッと心臓の強い鼓動を感じた。
まだこの化け狐が2人を殺ったとは限らないが、心の奥底から湧き上がり始めてる殺意を抑えながら、会話を続ける。
「一緒に死んだとは、どういうことだ」
俺の問に化け狐は少し沈黙したが、ゆっくりと立ち上がりボフンッと煙をあげた。
収まった煙の中からはアルデライトさんが現れ、胡座をかいて座布団に座る。
「どこから話せばいいかの」
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ユリアルカ夫妻に出会ったのは、私がまだ幼い頃の話だ。
母に連れられ兄妹達と一緒に森を歩いてる時に、ダブルヘッド・ドラゴンと言う首が2つあるドラゴンに襲われた。
兄妹達も最後まで抵抗していた母も食われてしまい、次は自分の番だと思った時にエリアの母親”エリナ”に命を救われた。
「あら、この子まだ生きてるわね。あなたー! ちょっと来てー!」
エリナが呼んだのはアルデライトだった。
「どうしたエリナ」
「この子まだ生きてるみたいなの、まだ小さい子だし保護したらダメかな?」
「珍しいな。七尾の子供か」
「えぇ。左後ろ足を食われてしまったいるけど、保護してあげたいわ」
「いいだろう、ちょっと待ちなさい」
アルデライトは綺麗な布を取り出すと、それを拡げて地面に敷いた。
動けない私を持ち上げて一度布の上に下ろすと、まるで赤ちゃんを抱くように余った部分で包み抱っこしたの。
そうして連れられたのがこの家だった。
『エリアの両親に助けられたのか』
『えぇ。エリアと初めて会ったのもその時よ』
「パパー、ママー、おかえりー」
玄関を開けて出迎えてくれたのはエリアだ。
「ただいまエリア」
「何持ってるの?」
「見てみるかい?」
アルデライトが聞くとエリアは満面の笑みで「うん!」と答えるので、アルデライトがしゃがんで見せた。
「わぁ、この子どうしたの?」
好奇心旺盛な幼少期のエリアは私を見るなり、くりくりなお目目をきらきらさせていたわ。
「ドラゴンに襲われたところを助けたの、脚を1本無くしちゃってるけどね」
「えぇ、可哀想」
「エリアもお世話するの、手伝ってくれるかい?」
「うん! エリアもお世話する!」
お世話のほとんどはエリナやアルデライトが中心だったけど、簡単なお世話はエリアがやってくれたの。
その時に私は”ナナ”という名前を貰ったわ。
『ナナってシンプルでいいな』
『ええ、私も気に入っているわ』
それから約半年間ユリアルカ一家に育てられすっかり元気になり、私は家を離れ森の中で暮らすようになった。
森で生活をはじめても、私は定期的にユリアルカ一家の元を訪れて、まだ小さいエリアの相手をしていたの。
そんなある日、ドラゴンスレイヤーとして名高いエリナに国から1つの依頼書が届いた。
「エリナー! なんか手紙が届いてるぞ!」
部屋の奥から濃い青色のロングヘアの女性が姿を現す。
「何なに? あ、ごめん。今エリアお昼寝してるけど見ててほしいな」
「わかった」
エリアの面倒を頼まれたアルデライトは、奥の部屋で寝ているエリアの元へと向かった。
アルデライトから手紙を受け取ったエリナは手紙を開く。
ガサガサ……
『 ドラゴンスレイヤー エリナ殿
ソナタの住む森に新種のドラゴンが出現したと報告があった。
申し訳ないがこのドラゴン「ヘブンドラゴン」を討伐して欲しい。
報酬はちゃんと用意してある。
よろしく頼む。
ヘルニクスアルニス王より』
それはこの国”ヘルニクスアルニス”の王様からだった。
「新種のドラゴン……ね、まぁやるだけやってみますか」
エリナは王からの討伐依頼を受けるとアルデライトに伝え、王には手紙を出した数日後。
王から新種のドラゴンに関する情報を受け取ったエリナは、アルデライトと対策を話し合っていた。
『 ヘブンドラゴン
頭、胴体、翼、右手、左手、右足、左足、尾で異なる属性を持っている新種のドラゴンだ。
頭から順に無、龍、風、水、氷、地、雷、毒属性を持っており、多種属性による予測不可能な攻撃を仕掛けてくる。
現状では弱点無し。
さらに気をつけなければならない事がもう1つ。
ヘブンドラゴンは基本属性10種類の他に特殊属性のうちの4種類のブレスを吐くことがある』
「……ほとんどチートじゃない!!!!」
「まぁ……万全の準備をして森に出よう、僕らなら勝てるさ今までそうしてきただろう?」
こくりと頷いたエリナは、たまたま遊びに来ていた私の元へきて頭をそっと撫でた。
「もしもの事があったらエリアの事よろしくね、ナナ」
「くぅーん?」
「ふふ、それじゃあ行ってきます」
「行ってきます」
2人の声を聞いたのはそれが最後だった。




