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第二十五話 託す者と託される者

 エリナとアルデライトがベブンドラゴンの討伐に向かった日は、1日中エリアと一緒に居たわ。


 だけど夜になっても彼女らは帰って来ず、その日は家にあった食べ物をエリアに与え、何とか空腹を凌いでエリアと夜を共に過ごした。


 夜が明けても2人が帰ってくる様子はなく探しに行こうと思ったけど、エリアを1人にする事もできず、夜エリアが寝静まるのを待ってから、私は2人を探しに家を飛び出した。


 森の中を駆け巡って何時間経ったか分からないけど、ようやく大きな湖のそばでアルデライトが倒れているのを発見したわ。

 その時何故か身体を湖に向かって倒れていて、片腕が湖に浸かってたの。


 身体を揺らしても起きる様子はなく、心臓の鼓動もなかった。


 死んじゃったのねと思ったと同時に私は、エリナを探そうと思ってその場でアルデライトに変身したの。


 私たち七尾(セブンテイル)が使う”パーフェクトコピー”には、変身した相手の記憶を見ることができるからね。


 でも見えたのは、全身ボロボロで左腕を欠損したエリナを湖に沈めるアルデライトの行動だけだった。

______________________________


 「その湖って、アルデライトさんが倒れてたっていう?」

 「あぁ、その通りだ」


 「アルデライトさんはエリナさんの遺体を湖に投げた後、そこで……」

 「まぁ、そういうことだ」


 2人共エリアを残して死ぬのはどれだけ苦痛だった事か……。


 「アルデライトさんの遺体は?」

 「エリナ同様、湖に沈めてた。夫婦同じ場所で眠った方が良いだろうと思ってな」


 正直、俺は言葉が出なかった。

 一瞬でもナナがエリアの両親を殺した、なんて考えた自分を殴ってやりたいほどに。


 「それで、なんで俺にそんな話を」

 「協力して欲しいからだ」


 「協力? 協力ってエリアを旅に同行させるとかそういう事じゃなくて?」


 ナナは目を瞑り、ゆっくりと首を振った。

 「私は長い間アルデライトに化けてエリアを育ててきた。だが私に残された時間が無いんだ」

 「時間が無い?」


 ナナが頷く

 「あぁ、私は人間ではないからな。寿命がもうそこまで来てしまっている」

 「は? なんで?」


 「七尾が使うパーフェクトコピーはな。魔力ではなく、寿命を消費しているからだ」

 「うそ……だろ」


 ナナは全てを悟ったような澄ました表情を浮かべていた。


 「なんで、なんでそんな平気そうなんだよ!」

 「大きい声をあげるなバカモノ! エリアには聞かれたくないんだ!」


 「は? この事エリア知らないのか?」

 ナナはゆっくりと頷いた後、ただ一言「知らん」とだけ答えた。


 「なんだよそれ、エリアはとっくに両親が死んでるのに。それを知らないまま旅に出て、帰ってきたらナナまで死んでて。じゃあエリアの帰る場所は何処にあるんだよ……」

 俺は口ぶりから怒っているのか、エリアの代わりに泣いているのか中途半端な感情になっていた。


 「それをクリスくん、君に託そうと言っているのだよ」

 「は? 俺が?」


 ナナは頷いた。

 「私が2人からエリアを託されたように、今度はクリスくんがエリアの家族になってあげて欲しい。頼む」

 そう言うと、ナナは床に額が着くほど深く頭を下げる。


 「……あえて聞くけど、ナナ的には俺とエリアに結婚してほしいと思ってるのか?」

 「2人が望むのならそれでも構わないが、私は”家族”になってくれたらなんでもいい」


 家族か……まさか出会って1日も経ってない女の子と家族になって欲しい、なんて人じゃない化け狐から頼まれるなんて予想できないな。


 俺は目を閉じて、一度深呼吸をしたあとゆっくりと目を開けてナナと視線を合わせる。


 「俺には再会を約束した好きな人が居るから、エリアと夫婦になることはできない」


 「そうか……なら、仕方な」

 「でも、兄妹ならなってもいい」

 ナナが落ち込んだ様子で諦めかけた所、割って入った。


 俯いていたナナが顔をバッと上げて、俺の目をマジマジと見つめる。

 「それは真か?!」

 「嘘は言わねぇよ」


 「良かった……これで私も心置きなく逝ける」

 ナナの目からは涙が溢れだし始めた。


 厳ついアルデライトさんの姿なのに、ボロボロ泣き始めるナナは本当に”エリアの家族”なんだなと感じる。

 それほどまでにナナは家族としてエリアを育ててきたのだ。


 ナナは確かに化け狐だ。それでも幼い頃に助けられた彼女は2人に恩を返すようにエリアを育ててきた。

 その話を聞いて断れるヤツいるのか?


 少なくとも俺は断れない。


 ひとしきり泣いたあと、スッキリしたような表情を浮かべるナナだが目元は赤くなっていた。


 「ありがとう、クリスくん。ありがとう、エリアと出会ってくれて」

 アルデライトさんの目元にはまた涙が溢れ始める。


 「何度もその姿で泣かれると、威厳がどっか行くからいい加減落ち着け。それで、俺はエリアを連れてすぐ出た方がいいのか?」

 「その事だが私の残りの時間はまだ1ヶ月ちょっとある、その間に君たち2人には修行を付けてやろうと思ってる」


 「なんでまた」

 「それはお前さん達の今のレベルじゃ天災に遭遇した時、即死するからだ」


 「エリナさんとアルデライトさんのレベルはいくつだったんだ?」

 「エリナが97でアルデライトは99だった」


 それを聞いて俺は全身がゾワッとするほど身の危険を感じた。


 それもそのはず、俺の今のレベルは51、エリアのレベルは聞いてないが多分近いレベルのはずだ。

 倍近くある2人が勝てなかった天災ヘブンドラゴン、確かに今のまま当たったら間違いなく死ぬだろう。


 「具体的に何をするんだ?」

 「それは明日のお楽しみだ。とりあえず今日はエリアにこの事を伝えて、明日の朝2人で裏庭に来てくれ」


 俺は「わかった」とだけ言い残して、エリアを探しに部屋を出た。


 2階にあるエリアの自室、リビング、キッチンなど探し回ったがエリアが見つからない。

 「残るはあそこか……廊下で出てくるの待ってるか」


 呟いて向かった先は脱衣所だ。

 さすがに扉は開けず廊下で待っていると、脱衣所の扉が開いた。


 「あ、エリ……ア」

 俺の呼びかけに気付き、エリアがこちらを振り向く。


 「あ、クリス! どうしたの?」

 「いや、エリアに用事があったんだけど……まず服を着てくれ」


 エリアはパンツだけを履いて、ほぼ全裸で脱衣所から出てきたのだ。

 一応胸は肩に掛けられたタオルで隠れているから、大事な部分は露出してはいないが、さすがに心臓に悪いから勘弁してほしい。


 「てか、なんで着てから出てこないんだよ」

 「服、持ち歩からないから」


 「嘘だろ……」

 そういえば、エリアと湖で初めて会った時。

 服が近くの木に掛けられてたし、サファイア・アイドラゴンを一緒に倒した時同じ服を着ていた。

 つまり替えの服が無かったのだ。


 「普段から持ち歩かないのか」

 「うん、着替える事がないからね」


 俺は軽くため息を吐いて、後ろに振り返る。

 「ふふ、クリスならそうすると思った」

 エリアが後ろで嬉しそうに笑った。


 「エリアは無防備するんじゃないか?」

 「そんな事ないわよ。クリス以外の前に、こんな姿で出てこないし」


 「アルデライトさんだったらどうするんだよ」

 「お父さんなら私がお風呂入るこの時間は、絶対に脱衣所付近に来ないわよ。なんなら部屋から出てこないし」


 まぁさすがに遭遇したら嫌だもんな、中身はメス?だけどちゃんとお父さんしてるな、ナナのヤツ。


 「それで私になにか話があったんじゃないの?」

 「あぁ、そうだった。実はだな――――。おっとすまん!」


 と気なしに振り向こうとしたところ、何とか一回転してエリアの方を見ないようにする。


 「大丈夫よ、もう服着たから」

 「そ、そうか」

 振り返ると、エリアは白色のキャミソールに水色の短パンを着用していた。

 肩には未だタオルが掛かられており、タオルと服の間に腕を通して組んでいる。


 「それで、話って?」

 「あ、あぁ。明日からしばらくの間、アルデライトさんが俺達に修行つけてくれるんだってさ」


 「え、お父さんが!? ママが死んでから戦いに行くこと無くなったのに動けるのかなー」

 「アルデライトさんが言い出したんだから、多分大丈夫だろ」


 エリアは「だといいけど」と呟いたあと首に掛けたバスタオルを手に取り、洗濯機横のカゴに投げ入れる。


 「まぁとりあえず、明日に備えて寝ないとね」

 「そうだな」


 エリアは俺の横を抜けて前に出て、クルッとこちらを振り返った。

 「じゃあおやすみ、クリス」

 「あぁ、おやすみ」


 エリアはトントントン、と階段を上がっていく。


 エリアと別れたあと再びアルデライトさんの部屋に戻ってくると、ナナの姿が見えない。


 どこ行ったんだ?


 部屋を見回すと、縁側に出る襖が少し空いているのが目に止まる。

 近づいて襖を開けると、月の光を全身に浴びて銀色に輝く煌びやかな七尾がおすわりのポーズで鎮座していた。


 「おや、クリスくん。エリアに話してきたのかい?」

 「あぁ、話してきた」

 俺は部屋から座布団を持ってきて、ナナの隣に腰を下ろす。


 一緒に月を見上げていると、一瞬ナナが横目でこちらを見てきた気がする。


 最初は気のせいかと思ったが、何度もチラチラ見てくるからこちらから声を掛ける。

 「どうしたんだ?ナナ」


 突然声を掛けられたせいか、ナナ一瞬ビクッと身体を揺らした。

 「い、いや……なんでもない」

 「ならいいが」


 と返したものの、ナナはさっきより頻度を上げてこちらをチラチラ見てくる。


 ふとナナの方をジッと見ていると、時折ゆらゆら揺れている尻尾の間から黒い何かが目に止まった。

 俺はそれを手を伸ばして取る。


 「これは……櫛か?」

 「そ、そのようじゃな」


 落ちていたのは真っ平らな解き櫛だった


 明らかに、たまたま落ちていたように見せ掛けているナナを横目に、櫛を空にかざして観察する。


 月明かりで反射する側面には、一匹の蝶が舞っているような絵が描かれていた。


 「綺麗な櫛だな。もしかしてナナ、これで毛並みを整えて欲しかったのか?」


 短い沈黙の後ナナはため息を吐く。

 「その通りじゃ、お主にその櫛で尻尾を梳いてほしかったんじゃ。悪いかの?」

 「素直に言えばいいのに。良いよ一本ずつ脚の上に下ろして」


 ナナの銀色に輝く尻尾は指を入れても引っかかる所はなく、とてもサラサラしていて気持ちよかった。

 俺は左手に持った櫛を尻尾の根元の方から入れて、毛先に向かってスーッと流す。


 指同様引っかかる所は一切なかったが、ナナはいつの間にか伏せておりリラックスしてるようだ。


 「気持ちいいか?」

 「うむ、その調子で頼む」


 「ナナの尻尾をこうして梳いてると、妹の髪を梳いてた頃を思い出すな」

 黒髪サラサラヘアを梳いてる瞬間を思い出した瞬間、強めの頭痛が起きてしまい手が止まった。


 「っつ!」

 「大丈夫か?」

 ナナは心配してくれると同時に、残りの尻尾で俺を包んでいく。


 そのうちの2本の尻尾が、俺の頭を左右から挟んだ。

 すると徐々に時痛が和らいでいき、ほんの十数秒で頭痛は完全に消えていた。


 「ありがとう」

 「なに、尻尾を解いてくれたお礼だ」


 「まだ始めたばかりだけどな」

 「そうじゃな」


 それから俺はナナの尻尾を一本一本丁寧に梳いていく。


 「お主は、その頭痛の原因が何か知りたくはないのか?」

 「んー……急に起きるから気になってはいるけど、発生条件はなんとなくわかってるから」


 「なら、知らんでもいいんじゃな?」

 「わかるなら、教えてほしい」


 「よかろう」

 ナナはそう言い一度立ち上がると、俺の方を向いて座り直した。

 それに合わせ俺もナナの方に体を向ける。


 「お主の頭痛の原因は、お主の記憶が一部封印されているからじゃ」

 「封……印?」


 封印ってどういう事だ?!


 「誰がお主にそんな事をしたかはわからぬ」

 俺が右手で右目を隠してる間もナナは続けた。

 「それにその封印は私の力でも解けぬ。解く方法はあるとは思うが――――」

 「いや、いい。ありがとう」


 全知全能の図書で調べても『この世界のルールから逸脱しているため分かりません』の一点張り。

 この世界のって事は、この記憶の封印はこの世界を作った時、もしくは作る前にされた物だろう。

 そうなるとこの世界での解除は不可能に近い。なぜなら神様の力で封印されているからだ。

 そりゃあ解けるわけがない。


 封印されているのは、頭痛が起きる条件である”義妹”に関係するものだろう。

 今のところ思い出せなくても問題ないが、義妹に関する情報を封印することに意味があるのか分からない。


 とりあえず俺がやる事は”世界の理”と呼ばれるゴール地点、アトランタルの塔最上階の攻略だ。

 ナナが修行をつけてくれるって言うし、一旦封印のことは忘れてそっちに集中するか。

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