第二十二話 経験済と未経験
龍獄の森と呼ばれる森を散策している時、大きな湖を見つけたが同時に湖から女の子が出てくる所に遭遇した。
その女の子と奇跡的に「「誰?」」とハモったが、そんな事より彼女が全裸で居ることに目を疑う。
「ごめん、まさか人が居るとは思わなくて。とりあえず服、着てもらっていいか?」
俺は両手で目を覆った。
「え?」と少女が発した直後、森全体に悲鳴が広がった。
「キャアァァァ!!」
悲鳴の後、ザブンッという音が聞こえたのでおそらく湖に顔から下を隠したのだろう。
俺は目を閉じたまま少女に言った。
「後ろ向いて立ち去るから、その後出ておいで」
後ろを振り向き、そのまま前に歩きだそうとした瞬間。
再び水しぶきが上がる音が聞こえ、同時に「待って!」と腕を掴まれた。
なんだ?と思わず振り向いた瞬間大きな雄叫びが聞こえ、全身藍色のドラゴンが水面を大きく靡かせながら降りてくる。
「サファイア・アイドラゴン」
少女がそう口ずさみ俺もドラゴンの方に目をやると、ドラゴンの瞳は名前の通りサファイアの様に輝いていた。
「さっき私が叫んじゃったから来ちゃったのね。あの子かなり好戦的だから鳴き声1つで何処からでも飛んでくるの」
サファイア・アイドラゴンの視線は確実にこちらを見ている。
向こうはいつ攻撃してきてもおかしくないな、仕方ない
「仕方ない俺がヤツを引き付けるから、その間にキミは逃げてくれ」
俺はそれだけを言い残して、全裸の少女を振り向きもせず走り出す。
「あ、ちょっと!」
なにか止められかけた気がするが後ろのことは気にせず、サファイア・アイドラゴンの気を引くようにナイフ2本で音を鳴らした。
「こっちだ! 着いてこい!」
そのまま対角線上になるところから森に入っていく。
音に釣られたサファイア・アイドラゴンは、こちらを向いて追い掛けてきた。
「よし、着いてきてるな」
と振り向いた瞬間、サファイア・アイドラゴンが口を開けて、ブレス攻撃を仕掛けてくる。
飛んできた青色の球をジャンプで回避すると、着弾したところが一瞬で凍った。
「その見た目で氷属性かよ、水だと思ってたのに」
一瞬で凍るとしたら、当たったら厄介だな。
次々と飛んでくるブレスを避けながら奥へ奥へ進んでいくと、視界が開けた場所に出た。
「広い場所だな」
ここなら俺の太刀も振り回しやすい。
俺は足を止め、追いかけてきたドラゴンの方に振り向くと、森の上空からブオンブオンと大きな翼を羽ばたかせ、サファイア・アイドラゴンが降りてくる。
「キァオオオオォン!」
サファイア・アイドラゴンが雄叫びをあげる。
耳がキーンとする程の甲高い声は、獲物を行動不能にさせるよう痛みがあった。
「くっ」
その甲高い声に気を取られたところを、サファイア・アイドラゴンはブレス攻撃仕掛ける。
しかも先程の球状のブレスではなく、着弾の早いビームのような細いブレスだった。
足先から徐々に凍っていき身動きが一切取れない。
「くっ! なかなか賢いな」
クソ、こんな所で死ぬのか!?
完全に太ももから下が凍ってしまい、太刀の柄で氷を砕こうとするが全く砕ける様子がなかった。
「くそ、クソ、クソォ!」
硬すぎだろこの氷、どうなってるんだ!
サファイア・アイドラゴンが、ズシンッズシンッとゆっくり近づいてくる。
サファイア・アイドラゴンの顔が目の前に降りてきて、もうダメかと思ったその時。
―――「雷迅一閃!」―――
蒼白い一線の光がサファイア・アイドラゴンの身体を貫通するように横切る。
「キュアアアァァァオン」
サファイア・アイドラゴンが悲鳴の様な声をあげて、地面に倒れ込んだ。
「なんだ?」と思いサファイア・アイドラゴンの体力ゲージに視線をやると、体力ゲージの上に麻痺のマークが出現していた。
「一体誰が麻痺を」
上半身が動ける範囲で見回す。
「その麻痺は私よ」
急に後方から少し低めの声が聞こえる。
「今足の氷を砕くから動かないで」
―――「龍の砕牙!」―――
バキンッと氷が砕け尻もちを着いたが、何とか足を抜くことができた。
後ろを振り返ると、先程湖で出会った少女が槍を担いで立っている。
「助けてくれたのはありがたいけど、なんで来たんだ。相手はドラゴンだぞ」
「そういうあなたこそ。私が来なかったら死んでたわよ」
「うっ、それは本当にありがとう」
「いいわよこれぐらい」
呑気に話していると、サファイア・アイドラゴンが立ち上がろうともがいていた。
「少し離れよっか。倒すことに変わりは無いけど」
「あぁ」
麻痺しているサファイア・アイドラゴンを一方的に攻撃すれば倒せる可能性はあるが、一瞬で凍るほどの氷を受けた足は凍傷で動かせない。
「まったく仕方ないわね。ほら手を貸して」
「悪い……」
少女の肩を借りて一先ず木の陰に移動した俺たちは、彼女が持っていた薬で凍傷を治療した。
「よし、これで動ける」
「あんなに意気揚々とヘイト取ってたのに酷いざまね」
「初見だったんだ、仕方ないだろ」
「まぁ私を逃がそうと、動いてくれた事には感謝してるわ。ありがとう」
少女は嬉しそうに笑う。
ウィンダの笑顔には無邪気さと上品さがあったし、セームの笑顔には幼さと強さを感じた。
そしてこの子の笑顔からは、ウィンダと同じような無邪気さと安らぎを感じる。
まぁ一言で纏めると、2人とは違う可愛さがあるという事だ。
「さて、あの子が動き出す前に行くけどその前に。私は”エリア”、あなたのお名前は?」
「俺はクリスだ」
「クリスね、よろしく」
「こっちこそ短い間だけどよろしく」
俺は太刀を正面で構え直し、隣でエリアが槍の柄を背中で支えるように右手で構えていた。
「私は何度かサファイア・アイドラゴンと戦ったことがあるから心配しないで」
「そうだったのか。なら無理してヘイト取る必要なかったかもな」
「まったくその通りよ、呼び止めたのに行っちゃうし」
「すまねぇ」
「ふふ、じゃあそろそろ行くよ」
「あぁ」
「ゴー!」
エリアの合図で、サファイア・アイドラゴンに向かって走り出す。
しかし長時間放置していたせいで、サファイア・アイドラゴンの麻痺が解けてしまい立ち上がった。
「キャオオオオオォォン!」
二足歩行で立ち上がったサファイア・アイドラゴンは、大きな翼を左右に大きく拡げて威嚇する。
―――「属性付与」―――
―――「投擲」―――
手に持っていた太刀に麻痺と雷2つの属性を乗せ、サファイア・アイドラゴンに目掛けて投げた。
甲高い威嚇で俺達が怯むと思っていたのか、サファイア・アイドラゴンは顔を見あげながら雄叫びを続けており、投げた太刀は難なくサファイア・アイドラゴンの腹部に命中。
麻痺属性が苦手なこともあり、サファイア・アイドラゴンは再び麻痺の影響で地に伏せた。
「ナイスだよ、クリス!」
エリアは麻痺したサファイア・アイドラゴンに接近していく。
「はああぁぁぁ」
サファイア・アイドラゴンに接近したエリアは、左逆袈裟斬りで左上に切り上げた後、刃を下ろし無限マークを描くように連続でドラゴンの左側面を切り付けていく。
太刀を投げた俺はエリアに続いて、回り込んでドラゴンに接近する。
同時に大剣を具現化させると走り込んだ勢いのまま身体を捻り、両手でしっかり持った大剣を回転斬りの連続ヒットでダメージを与えていく。
「はあぁあ!」
麻痺して動けないうちにダメージを通し、体力ゲージを半分近くまで削ることに成功した。
「キュアアアァァァァン」
麻痺が解けたサファイア・アイドラゴンが、今までで一番耳に来る甲高い声で鳴く。
「まずい! クリス下がって!」
「え?」
立ち上がって二足歩行になったサファイア・アイドラゴンは、真上を向いて口を大きく開けた。
その口の上には大きな氷の塊が生成されていく。
そして自分の顔を遥かに超える玉が出来上がると、サファイア・アイドラゴンがガチンッと口を閉じると、出来上がった氷の塊が砕け散り周囲に降り注ぎ始める。
「足元に注意しながら避けて!」
エリアが注意喚起をすると、着弾した場所が一瞬で凍りついていく。
「これもさっき食らったのと一緒か!」
俺はエリアの指示に従い、既に凍った場所に気をつけながら降り注いでくる氷の粒を避ける。
「粒は比較的大きいけど数が多すぎるな。じゃあこれならどうだ!」
―――「属性付与」―――
俺はスキル”属性付与”で太刀に火属性を纏わせた。
刀身が薄い赤色に染まり、周りの空気が揺らいで見える。
飛んできた氷の粒をその太刀で蒸発させていく。
「エリアは!」
辺りを見渡すがエリアの姿が見えない。
「大丈夫か!エリア!」
と声をかけると、何故か上空から「大丈夫ー」という声が聞こえた。
ようやく氷の粒が無くなり声がした方を見上げると、空からエリアが階段のように一段一段降りてくる。
「なにそれ?」
と戦闘中にも関わらず驚いてしまった。
「ふふん、すごいでしょこのスキル。私のオリジナルなんだ」
「自作スキルか!」
感心しているとサファイア・アイドラゴンが、大きな翼を羽ばたかせた。
エリアと一瞬目を合わせたあと、左右に散開する。
サファイア・アイドラゴンの羽ばたきにより、俺達が立っていた場所は雪が降ったように白くなっていく。
「それも攻撃かよ」
「えぇ、この子の攻撃は全部氷属性だから気をつけて」
「マジかよ、了解」
エリアが槍を構え直しサファイア・アイドラゴンに向かって走り出す。
接近してくるエリアを迎撃しようと、サファイア・アイドラゴンがエリアの方に首だけ曲げて口を開いた。
「クリス!」
「あぁ、任せろ!」
俺はサファイア・アイドラゴンの後方から近づいていき、大剣に持ち替えていた。
そして助走の勢いのまま飛び上がり、サファイア・アイドラゴンの頭上目掛けて大剣を振り下ろす。
―――「ブレイドインパクト!」―――
頭上からの強い衝撃でサファイア・アイドラゴンは顎を強く地面に打ち付け、気絶してしまった。
「さすがクリスね!」
「そりゃあどうも」
「じゃあ私も」
エリアは右手一本で槍の真ん中辺りを持ち、突きの体勢を取る。
―――「五月雨突き」―――
持っていた槍を高速で前後に動かし、複数回当てることができる、槍の基本技の1つだ。
「よし、もう少しね。クリスお願い!」
「了解!」
俺は急いで大剣から太刀に持ち帰ると同時に、刀身へ魔力を流し込む。
「これでトドメだぁ!」
刀身に溜めた魔力を刃にして飛ばす技、”刃魔”を放つ。
刃魔は頭からしっぽに掛けてまっすぐ切断していき、サファイア・アイドラゴンは静かに砂と化した。
「イエーイ!勝った! 勝ったよクリス!」
エリアが嬉しそうに、両手を俺の前に出してくる。
俺は戸惑いながらもエリアの両手にペチンと手を合わせた。
「お疲れ様」
「うん! お疲れ様! 初めて他の人と共闘したけど、すごくやりやすかった! もしかして他の人と共闘した事あるの?」
「あるよ、2,3人とね。今みたいに2人きりだったけど」
「そかそか。もしかして女の子かな?」
「どっちも経験あるよ」
「そうなんだ、その人とは長い付き合いだったの?」
「1人は一年近く一緒だったけど、他は数日って感じだな」
「そっか、思ってた以上に私がして欲しい事をしてくれたから、熟練者なのかと思ったけど、パーティー経験はあまりないんだね。まぁ私は今日まで0だったけど。とにかく一緒に戦ってくれてありがとう」
「こっちこそエリアが来てくれなかったら死んでたかもしれないから、ありがとな」
「ふふ、なんか男の人にお礼言われると不思議だなぁ。あ、ねぇもし良かったらお礼に家来ない?」
「い、家?」
「うん。この森を今から出ても途中で日が暮れて危ないし、この辺りに休息地もないからね」
「さすがにドラゴンばかり住んでるこの森で、休息地なしは厳しいか」
「うん、休めないと思う。それにお父さんが自分と同じぐらい強い人連れて来てって言われてるし」
「……なにゆえ?」
「さぁ? 聞いても教えてくれなかったんだよね」
「そうか」
エリアのお父さんの目的は分からないが、龍獄の森で休息地も無しに一夜明かすのは無理だと判断した俺は、エリアの提案に乗りエリアの住む家に向かった。




