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第二十一話 龍の森と湖の少女

 セーム達と別れたあと、魔法都市マギュラウトを目指して久しぶりの一人旅だ。


 村を出発してから10分ほど歩き村があった森を抜けてると、目の前には自分の肩ほどの背丈がある、黄金色の深草原地帯に入った。


 ここら一帯に生えている草は歩きづらい上に視界も悪く、物陰に隠れやすい場所のため、元の世界のような肉食系のモンスターに遭遇しやすいため注意が必要だ。


 ウィンダが持ってる索敵スキルなどがあれば周りを気にしながら進む事ができるのだが、あいにく俺にそんなスキルはないしポイントも余ってない。


 だが俺には元々師匠に教わった気配察知の感覚と、この”魔物避け消臭スプレー”がある。


 「とりあえずコレで弱いモンスターとの戦闘や物音を消して遭遇率を下げるかな」


 このスプレーを使っても意図せず遭遇する事はある。その中で一番遭遇しやすいのは警戒心の薄い小型のモンスター達だ。


 仮に中型、大型と遭遇した場合、視界の悪い中を逃げるか戦わないといけないから、スプレーを使っても使わなくても気を付けて進んだ方がいいだろうな。




 辺りを警戒しながら進むと時折、スズメやカラスなどが逃げていく姿が見える。

 この世界に降り立った頃はなにかが逃げていくと警戒していたが、慣れた今なら特に警戒することはない。


 何故かと言うと、この世界にはモンスターではない、ただの動物が存在しているからだ。


 異世界といえばモンスターしかいないと思うことが多いが、どこかの某ゲームのように馬や牛、羊などの家畜をはじめ、小鳥や小動物のような現実に居る動物が見られる。




 草原を進むこと数十分、ようやく草の隙間から森の木々らしき緑が見えた。

 「あれが龍獄の森かな」


 俺は一度足を止めて水分補給の小休憩を挟み、再び森に向かって歩き始める。


 だが森に近づくにつれ、俺は龍獄の森の異質さに気付き始めた。


 生えている木は遠くからでも広葉樹だとわかるが、徐々に高くなっていく木の根元に出ることができない。


 少なくとも今見えてる木の大きさは、先程まで居たクレアル村の森を遥かに超えていた。


 「どれだけ大きいんだ、龍獄の森の木は……」


 さらに歩き続けること数分、龍獄の森の根元に出ることができた。


 目の前には、初めて見る巨大な木の森に恐怖で足がすくむような感覚を感じる。

 「木が大きいだけで、なんでこんなに恐怖を感じるんだ」


 恐怖からか震えて足が前に出せない。


 俺は一度目を閉じ、右手をグーにして心臓辺りにそっと当てる。

 感じる鼓動は普段より早いが、恐怖心と同時に好奇心の鼓動を感じた。


 ゆっくりと手を下ろして目を開ける。

 「よし、行くぞクリス」


 左右を見回すが、村長の言う通り幹の壁がズラリと並んでいた。

 「たしかにこれは迂回できそうにないな」


 俺は意を決して一歩、また一歩とゆっくり森の中へ足を踏み入れる。


 生まれた村のそばには森があって、村を出る前に師匠と散々探索したが、この龍獄の森は今まで入ったどの森よりも怖いと感じた。


 それが大きさのせいなのか、龍と出くわすかもしれない恐怖心か分からない。


 しかしそんな恐怖心とは裏腹に、森の奥に進めば進むほど落ち着いていく気がした。


 少し進んだ所でなんとなく立ち止まって深呼吸を二回行うと、空気が澄んでいるおかげか気持ちが落ち着いていく。


 「凄く心地いいな、この森。師匠と修行した森みたいに自然の香りがする」


 この澄んだ空気と心地よい雰囲気が気に入った俺は、後に森の中で暮らす事になるとは思っていなかった。




 気持ちが落ち着いた俺は再び森の中を歩き始める。


 歩いていて思った事が二つある、一つはあまり周囲から敵意を感じない事。もう一つは”龍獄の森”と呼ばれている割にドラゴンタイプに出会わないこと、むしろモンスターに出会っていない。


 辺りを警戒しながら進むと、近くの小低木がガサガサと揺れていた。


 俺は太刀を具現化し警戒していると、小低木の隙間から背中に半透明な結晶が生えている、小さな龍が顔を出す。


 その小さな龍は俺と視線が合うと、「パァー!」と高い声を発してゆっくりと近づいてきた。


 全長1メートル程の小さなドラゴンで、全身が真っ白な鱗に覆われており、背中の翼はまだ身体を浮かせられる程大きくない。


 小さな龍から敵意を感じなかった俺は、腰を落として手のひらに、元々持っていた小さなパンを具現化する。


 突然現れたパンに小さな龍は一瞬驚いて、数歩下がってしまったが微動作にせず待っていると、再びゆっくり近付いてきた。


 そしてパンの匂いをクンクン嗅ぐと、口を大きく開け一口で食べ始める。


 「プルァー」


 嬉しそうに声を上げた小さな龍に同じパンを分け与える。


 「ふふ、そういえばセームと一緒にこのパンを食べた時も嬉しそうな顔をしてたっけ。

 そういえば、見た事ないモンスターだけどなんだろう」


 俺は目を閉じ全知全能の図書を起動。


 背中に半透明の結晶を生やした小さなドラゴンは何?


 『その龍は”クリスタレットドラゴン”と言い、宝石龍と称される7種のドラゴンの幼体です。

 彼らは育った環境などで成体が変わります。現在居る地域ですとサファイアアイドラゴンもしくは、エメラルドハートドラゴンのどちらか成ります』


 「なるほどねぇ」


 図書の情報に関心しているとクリスタレットドラゴンが、パンを乗せていた手をスンスンと嗅いだあと「ピャウゥ」と鳴いたあと、走り去って行った。


 成体になったアイツとは、出来れば戦いたくないな。


 そんな起こるか分からない感傷に浸っていると、先程のクリスタレットドラゴンが戻ってきた。


 しかも数匹の兄弟を引き連れて―――。


 そのクリスタレットドラゴン達は俺の周りを回りながら、まるで合唱するかのようにピャウピャウ鳴いている。


 もしやと思い、俺は手のひらにパンを再び具現化させると、クリスタレットドラゴン達が目を輝かせ飛び付いてきた。


 群がる右腕に1匹、また1匹としがみついてくる。


 「くっ、さすがに重たいなっ」


 俺は空いてる左手に同じパンを具現化させ、クリスタレットドラゴンを二手に別れさせた。


 手のひらに出した沢山のパンが、ものすごい速度で無くなっていく。


 そしてクリスタレットドラゴン達に夢中になっていると、頭上が突然大きな影に覆われた。


俺は恐る恐る見上げると、そこにはエメラルドハートドラゴンと目が合う。


 全長7メートルはあると思われる巨体を前に手を引く事も離れる事もできず、俺はただエメラルドハートドラゴンと視線を合わせる。

 すると、エメラルドハートドラゴンは犬の伏せのように這いつくばって、クリスタレットドラゴン達を見守っているようだった。


 やがて大量に保管していたパンが無くなり、俺は「もうパンは無いよ」と言って手を引っこめた。


 1番最初のクリスタレットドラゴンと思われる個体が「ピィアァ」と鳴いて、エメラルドハートドラゴンの顔によじ登っていく。


 他の子達も同じように鳴いた後、後に続いて顔をよじ登っていった。


 全7匹居たクリスタレットドラゴン達が登り終わると、エメラルドハートドラゴンはゆっくりと身体を起こし、森の奥へと歩き出す。


 見せた背中にはクリスタレットドラゴン達が落ちないように、鱗の隙間や背中の棘を支えにして落ちないようにしていた。


 俺はその後ろ姿を見て思わず立ち上がって、大きく手を振り

 「元気でなー!」と見送った。



 エメラルドハートドラゴン親子の背中が見えなくなり、俺も違う方向に進んでいくと前方から大きな足音が聞こえてくる。


 俺は咄嗟に太い木の幹に隠れて通り過ぎるのを待つが、近付いてきた足音は途中で止まってしまい、向こうがこちらに気付いているのか気付いていないのか確認できなかった。


 しばらく息を潜め通り過ぎるのを待っていたが、なかなか動き出す気配が無い。


 俺は幹を伝って足音の正体を確認しようとした。


 「くっそ、セームが居たら木の上から確認できたかもしれないのに」


 ゆっくりと足音がした方を覗き込むと、全身が緑色で太陽の光が反射しているドラゴンが目に入る。


 そのドラゴンは日光浴をしているのか、目を閉じたまま日光を全身に浴びていた。


 「輝きからしておそらくあれはエメラルドハートドラゴン。さっきの母龍より大きく見えるな。こっちはオスか?」


 図書の情報によるとエメラルドハートドラゴンは、名前の通り心臓がエメラルドのような緑色に輝く鉱物になっており、実際のエメラルドと逆で何故か火に強いようで。


 武器や防具などの素材に重宝されているらしい。

 

しばらく様子を見たが全く動く様子がないため、消臭スプレーの効果で足音を消してその場を離れることにした。


 来た道を戻り途中で迂回するように回っていると、前方から「ボチャンッ」と水が跳ねる音が聞こえ、辺りを警戒しながら音の聞こえた方へ進んだ。


 しばらく進むと前方から強い光が差し込んできた。


 なんだ?と思い近付くと、そこには大きな湖があり、水面に反射した光が差し込んできた光のようだ。


 俺は森から抜けて湖に近付いたその瞬間、突然水面から水しぶきが上がり、中から人魚のような水色のロングヘアの女の子が飛び出してきた。


 俺も女の子もまさか人が居るなんて思わず、お互い見つめ合ったあと「「誰?」」と声が重なる。


 人が居たことに驚いたのも束の間。


 湖に入っていた女の子は、見た目15歳ぐらいの綺麗な髪色をした子で、何も着ていなかったのだ――――――。

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