第二十話 再会の約束と旅立ち
ルナドラゴンの儀式が終わり家に戻った俺とセーム、セナさんは家に着いて早々にテーブルを囲んでいた。
夕食の前に、セナさんから話があると言われたからだ。
「とりあえずセームベル、儀式お疲れ様」
「お、お疲れ様でした」
セームが頭を、テーブルの面ギリギリまで下げる。
「そしてクリスくんには、約束通り私の鍛治スキルを継承しようと思う」
「ありがとうございます」
「クリスくん、テーブルの上に利き手を置いてもらっていいかな?」
「わかりました」
俺は右手をテーブルの上に置くと、セナさんが御札のような長方形の紙を一枚具現化させる。
その紙にはほんのり赤みが掛かった黒で、三重丸とその中心に継承の”継”の字を崩した様に見える模様が描かれていた。
セナさんはその御札を俺の右腕に乗せて、手で押さえる。
「それじゃあ始めるわよ、少し熱くなるけど我慢してちょうだいね」
「はい、よろしくお願いします」
セナさんは軽く頷き、腕を通して御札に魔力を送る。
徐々に御札が光り始め、セナさんの指の隙間から眩い光が漏れ出す。
「スキル継承。対象は鍛治」
セナさんがそう呟いた直後、御札が徐々に熱を帯び始めた。
すると目の前にスキル継承合意のウインドウが現れ、左手で”はい”の文字を押す。
さらに御札が熱くなり、御札の周りから焼けていく。
10秒ほどでセナさんの手のひらに収まるサイズまで焼け、それから徐々に冷めていくのを感じた。
完全に熱を感じなくなりセナさんが手を離すと、そこには先程御札に描かれていた模様が腕に写っていた。
「これでスキル継承完了よ、その腕に残った模様は1日経てば消えるから心配しないで」
「わかりました、ありがとうございます」
俺はステータス画面を開き、スキル一覧を開ける。
一覧にはキチンと”鍛治 Lv5”の文字があった。
「良かったですね、クリスさん!」
「あぁ、ありがとう」
「それとセームベル、クリスくん。急で申し訳ないんだけどルナの埋葬が終わったから、セームベルを連れて故郷に帰ろうと思うんだ」
「そうですよね……もうクリスさんとお別れなんですね」
「ごめんね、セームベル」
セームベルは首を横に振る。
「一度はお別れするのはわかってた事だから、大丈夫だよお母さん」
セームベルはにこやかな笑顔だったがその目には、今にも涙が溢れそうになっていた。
「セーム……」
「クリスさん。森からこに村まで着いてきてくれて、ありがとうございました! もっと強くなって自信が着いたらクイーンサンドワームを倒して、クリスさんに会いに行きますね」
泣き出しそうなのを我慢しているのか、セームの声が掠れて聞こえる。
俺はセームに「俺も着いて行こうか?」と言いかけたが、セームの気持ちを尊重してグっと堪えた。
「わかった、もし何処かで再会したら聞かせてくれ、クイーンサンドワームの討伐報告を」
「はい……」
セームの目から涙が流れ出した。
その後セームは、気持ちに整理を着けたいのか自室に戻っていった。
「今はそっとしておいてあげて」
「はい、俺もそのつもりでした」
「さすがクリスくんね、デキる男は違うわ!」
「からかわないでください、俺は俺の思った通りにしかしてないので」
「……そうね、そんな君だからこそ私はコレを託すわ」
そう言いセナさんはテーブルの上に、村長が持ってきたシャイニングタイガーの素材を置いた。
「なぜ俺に」
「君なら託しても良いと思ったから。鍛治小屋と道具は好きに使ってちょうだい、私のスキルをあげたんだから上手く使えるでしょう」
「……そういう事ですか」
「なんの事だか私には分からないわね。とりあえず私はお風呂に入ってくるけど……あ、覗きに来てもいいわよ? クリスくんなら歓迎するわ」
「行きませんよ」
セナさんのからかいに即答すると、笑いながらリビングを出ていく。
その後、俺は鍛治小屋に向かいセナさんに託されたシャインの素材で、装飾品を作ろうと考えていた。
「さて、セームに渡すならどんなのがいいか」
パッと思いついたのは指輪、腕輪、ヘアゴム、ヘアピン、ピアス、イヤリング、ネックレス等、日常的に着けておける物だ。
今まで主従のペンダントを首から下げていた事を思うと、ネックレスが良いかと思ったが、俺は戦闘中でも揺れ動くセームのツインテールを思い出した。
「アレなら確かアイツもヘアゴムの上から付けてたっけな」
ふと口から出た”アイツ”という言葉を気にも止めず、俺はただただセームの為にとあるヘアアクセの制作に取り掛かる。
道具はこの小屋にあるものを自由に使っていいと言われているため、必要な道具をかき集めていく。
今回必要なのは、素材を溶かすための釜と成形に使う鍛治用のハンマー、金床、そして火である。
魔法というより魔力で火を出すことができる世界だが、俺は何故か火、水、風といった日常生活で頻繁に使う属性を出す事ができない。
そのため俺は火を起こす時は火打石を取り出し、石刀の側面に当てて火花で火を起こしている。
初めての鍛治で緊張もしたが、セナさんからいきなりLv5の鍛治スキルをもらったおかげか、製作には戸惑うことなくすんなり作る事ができた。
「これを早くセームに渡したいな」
他にも作りたくなった俺は、自分が持ってる素材をざっと確認した後、鉄鉱石をメインに”投擲用のナイフ”を作れるだけ作成する。
「ふぅ、なるべく素材を集めて持っていたおかげでナイフを20本と、オリジナルの大剣を1本作れた」
しかし俺が作った大剣は、石素材を多く使ったためか、重量が俺の腕力値と誤差レベルの重さになってしまい、振り回す以前に持ち上げるのに精一杯になってしまった。
「まぁいつかこの大剣を、自由自在に振り回せるくらいになってるだろ」
作成している間にセナさんが上がっていたので、家に戻った後はすぐにお風呂に入って部屋で休んだ。
翌朝セナさんとリビングで、セームが起きてくるのを待っていると、今日も眠たそうに起きてきた。
「ふあー、おはようお母さん、クリスさん」
「今日は一段と眠そうね」
「うん、昨日は寝るに寝れなくて」
「とりあえず、顔洗ってきたら?」
「はい、そうします」
セームは欠伸をしながら洗面台へ向かった。
しばらくすると、リビングにいつもの姿でセームが現れる。
「スッキリした?」
「まだ眠たいには眠たいですが、しばらくすれば大丈夫だと思います」
「そっか、それなら良かった」
「はい!」
セームの元気な返事は、俺も元気になれるから正直好きだ。
朝食をテーブルに並び終え、全員テーブルに着くとセナさんが話し出した。
「2人共、昨日いきなり帰る話をしたけど、今日にでも村長に話して明日の朝には出るから、そのつもりで」
「急だねお母さん」
「ごめんね、皆とキチンとお別れしたいだろうけど」
「ううん、大丈夫。今日中に村の子達に話してくるから」
朝食を済ませた後はセームに着いていき、子供達とお別れをする姿を少し離れたところで見守った。
子供達もセームも泣きじゃくってしまい、何か起きたのかと、たまたま近くに居た村人や子供達の親が駆けつけて来る始末。
俺はセームのそばに寄り、懐に飛び込んできたセームの頭を撫でることしか出来なかった。
子供達にお別れを告げた後も、セームは俺の手を握ったまま離れようとしない。
俺が一人暮らしをしたいと、両親と妹に伝えた時と状況が似ている。
あの時は妹まで連れて行こうとも、妹が着いてくるとは微塵にも思ってなかった。
「くっ!」
突然頭に軽い痛みが走る。
「大丈夫ですか、クリスさん」
「あぁ、大丈夫だ」
セームに心配を掛けさせまいと大丈夫と答えたが、一瞬とは言え大丈夫というには少しばかり強い痛みを感じるため、長い痛みが出てきたときは誤魔化しようがない。
それに段々と痛みを感じるタイミングが掴めてきている。
それは”妹”のことを思い出した時だ。
こっちの妹”エリス”の事を思い出しても特に何も起きないが、あっち妹の事を思い出すと必ず頭痛が起きている。
それに、”妹”はわかるのにその妹の名前や顔立ち、声、外見の特徴などがハッキリと思い出せない。
わかるのは微かに残ってる断片的な記憶と妹が居たという情報だけだった。
「……スさん、ク……スさん、クリスさん!」
「ごめんごめん、なんだった?」
セームの呼び掛けに我に返る。
「急にぼーっとしだしたので。本当に大丈夫ですか?」
「心配かけてごめんね、大丈夫だから」
俺はそう言い、誤魔化すようにセームの頭をわしゃわしゃと撫でた。
家に戻ると。
「ようやく帰ってきたわね。待ってたのよ」
どうやら俺達も一緒に、村長の所へ連れて行くつもりだったらしく、セナさんが玄関の前で俺達の帰りを待っていたのだ。。
3人で村長の家に向かうと、事前に知らせていたのか、はたまた偶然か村長が玄関の前で俺達のことを待っていた。
「すみません、村長お待たせしました」
「よいよい、セームと子供達の泣き声がここまで聞こえておったからの。子供達にお別れの挨拶に行っておったんじゃろ。仕方がないことじゃ、さっ入っておくれ」
「失礼します」
「失礼しまーす」
「お邪魔します」
「さて、セナ殿から先に軽く聞いてしまっているが、お主らは明日この村を出るのじゃろう?」
「はい、その通りです」
「ふむ、セームはセナ殿に着いていくと聞いておるが、クリス殿はどうするんじゃ」
「俺も2人に着いていこうかと思いましたが、セームが一人で頑張りたいと言うので、俺は自分の目的のために魔法都市マギュラウトに向かおうと思っています」
魔法都市マギュラウト、この世界に2ヵ所しかない魔法のための都市の1つだ。
自分が使える魔法や属性を知るために、エクサリス村を出る前から決めていたルートだ。
「マギュラウトか。もう一方の都市”エルミラージュ”より近いが、それでもここから1週間ほど掛かるぞ。それにここから向かうとなると、必ず”龍獄の森”を抜けていかねばならん、危険な道のりになるぞ」
「はい、わかってます。元々龍獄の森も気になっていたので特に問題ないですね」
龍獄の森とは数多の竜種系が暮らしている森で、森全体が大きな都市を飲み込めるほど広いため、迂回しようとすると1ヶ月は掛かると言われている。
だからと言って森の中を抜けようとすると、魔物の中でトップに君臨する竜種系と対峙する事になるため、戦死者が後を絶たないのだ。
「クリス殿が良いのであれば止めはしないが、今は龍獄の森を管理する”ドラゴンスレイヤー”も居らん。気を付けて入られよ」
「ありがとうございます」
ドラゴンスレイヤー、表記は”龍殺し”と言い、竜種系の討伐に特化した人達の事だ。
ドラゴンスレイヤーは世界中の龍の数をコントロールしている。
なぜならドラゴンには明確な天敵が居らず、放っておくと数が増えすぎてしまうため、龍の討伐に特化したドラゴンスレイヤーに管理をさせる事で世界中のドラゴンの数をコントロールしているのだ。
しかし、ドラゴンスレイヤーもまたモンスターマスター同様、その称号を手にする人が減っていき、現在ドラゴンスレイヤーは1人も居ないと言われている。
「では明日の朝、見送りに顔を出す」
「ありがとうございます、それでは失礼します」
「「失礼します」」
家に戻って昼食を済ませた後は、家の掃除と荷造りを手伝うことになった。
と言っても大体のものは魔力化して持ち運ぶため嵩張ることはあまりないが、不要なものは村の人達に譲そうだ。
そして俺は、不要だけど人に譲るには微妙な、壊れかけや欠けている家具を剣で破壊していく。
有難いのは、本来ならば粗大ごみに出すようなものまで、それぞれに設定されている耐久値を0にすれば消滅するという点だ。
俺が創ったこの世界はリアル感とゲーム感を両方金揃えている結果でもある。
セナさんの話によると、最終的には今まで住んできたこの家も壊すそうだが、さすがに俺の良心が痛むと言って断った。
その後も夕食とお風呂以外は掃除と解体に没頭し続け、なんとか寝る頃までに残りは家を解体するところまで進んだ。
最後ということで俺とセームは一緒のベッドで寝たが、よくよく考えればセーム自身の見た目は小学生だが、中身は高校生ぐらいの年齢だったということを、翌朝目が覚めてから思い出した。
だが、隣で寝ているセームの寝顔を見ていると、不純な考えを持っていた自分がバカらしくなってくる。
ベッドから降りてリビングに向かうと、いつものようにセナさんが朝食を用意していた。
「セナさん、おはようございます」
「おはようクリス君、旅立ちに良い朝ね」
朝食の準備を手伝っていると、セームが髪も結ばず慌てて起きてきた。
「ク、クリスさん! これクリスさんが作ってくれた物ですよね!」
セームが差し出した手の上には、俺が枕元に置いたシュシュがあった。
「そうだよ、よくわかったな」
「このシュシュの詳細見たら、製作者がクリスさんになってたので」
偽造やなりすましを防ぐため武器や防具などを始め、すべての道具には必ず製作者の名前が見れるようになっている。
「すごく嬉しいです、それにこの輝き方シャインの毛並みそっくりで」
「実はそれ、シャインが残してくれた素材で作ったんだ」
それを聞いた瞬間、セームが泣き出してしまった。
「ありがとう……ございます、クリスさん。シャインもありがとう」
セームはシュシュを握り締め、胸元で祈るようにお礼を口にする。
「……着替えてきますね」
「あぁ」
セームは自室に向かい、着替えて戻ってきた時はツインテールにシュシュを着けていた。
朝食後、残った荷物をまとめ村を出る準備を進める。
「おはよう、クリス殿」
「村長、おはようございます」
玄関を出て2人を待っている時、見送りに村長がやってきた。
「もう準備は済んだかね?」
「はい、あとは残していく荷物を一纏めにしてる最中ですね。もう出てくると思いますよ」
しばらく村長と待っていると。
「すみません、お待たせしました」
セームが外に出てきた。
その後すぐセナさんも出てくる。
「すまないねクリス君。あ、村長いらしてたんですね」
村長が頷く。
「行くのか?」
「はい、今まで大変お世話になりました」
「うむ、道中気をつけてな。クリス殿も気をつけてください」
「ありがとうございます」
村長と話しているとセームが駆け寄ってきて、俺の右手を両手で握った。
「本当にここまで連れてきてくれてありがとうございました。
この恩は一生忘れません! このシュシュも大事にします!
そしていつか、シャインとルナの仇を取れたら会いに行きます。それまで待っててください」
「あぁ、俺も再会できるのを楽しみにしてる。無理はするなよ」
「はい!」
「さ、セームベル行くわよ」
「はーい、村長さん今までありがとうございました」
「うむ、達者でな」
セームは頭を深く下げ、セナさんの横に並んで歩き出した。
俺も村長に頭を下げ、2人のあとを着いていく。
村の外に出たあとセームは姿が見えなくなるまで後ろ向きで歩いたままこちらに手を振っていた。
姿が見えなくなった後、俺は一人マギュラウトに向けて歩き出したのだ。




