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第十九話 月と太陽 後編

 「私が旦那……セームベルの父親と会ったのは、今から20年ほど前のことよ」

______________________________

 出会ったのはクエストのために訪れた、アトランタルのクエスト屋だった。

 彼を見掛けた時はその他大勢の冒険者だったんだけど、選んだクエストが被ってしまってね。


 私はそのクエストを譲ったんだけど、彼が私の手を掴んで誘ってきたの。

 でも私は断ろうとした。


 それなのに彼は食い気味に。

 「俺はあんたと行きたいんだ」


 今まで男性と関わりがなかった私は、その場の雰囲気と勢いに彼の提案を飲んだ。


 クエスト自体は特に問題はなかったけど、私は彼が”モンスターマスター”である事に驚いていた。


 気付いたのは街を出発してすぐの事。

 彼が”シャバード”という全身が真っ黒で影のように揺らめいている、鳥型のモンスターを使役していたからだ。


 モンスターマスターというだけで物珍しさはあるが、彼の実力は本物だ。


 彼の身体能力の高さと純粋な魔法使い並の魔力量があり、魔法で戦える程だった。


 彼の魔法は主に闇属性で、相手の能力を弱体化したり状態異常を与えたりとサポート系の魔法が多い。

 他にも一撃が重たい地属性や回復魔法が多い水属性なんかも使えて、今まで1人でやってきたと言われても納得するレベルだ。


 出会った時から彼の実力は明確だったから、彼のことは心の底から信頼していたわ。


 シャバードも含めお互い信頼し合ってたと思う。

 彼は私に背中を預けてくれたし、私も彼に背中を預けられた。


 その結果、私と彼は出会って1年も経たないうちに恋人になったの。


 その時初めて知ったわ。

 依頼書で手が重なったのは偶然ではなく、一目惚れした彼の故意によるものだってことをね。


 その後一緒に旅を続けてる間にセームベルを授かった。

 当時一緒にいたもう1人の仲間には申し訳なかったけど、この村に来るまでずっと一緒にいてくれた親友よ。

______________________________


 「その後はこの村で、セームベルを産んで3人仲良く暮らしてたのよ」

 「そうだったんですね」


 「お互いに背中を預けられる仲間……私もクリスさんになら背中を預けられます」

 「ありがとう、俺もだよ。セームはセーム自身が思ってる以上に強いからな」

 俺はセームの頭を優しく撫でる。


 「えへへ、ありがとうございます」


 「そして私と彼は、一緒に居た仲間から月と太陽みたいだねって言われたのよ。”お互いに月でもあれば太陽でもある”とも言われたけどね」

 「月でもあり、太陽でもある……どういう意味なんでしょう」


 「そうね、言われた当時は私も意味がわからなかったけど、あなた達を見ていたら自然と出てきたわ」


 「どういう意味なんですか?」

 「当たってるか分からないけど、多分”付かず離れず無意識にお互いを信頼して支え合ってる”って言いたかったんだと思うわ」


 それを聞いたセームは意味がわからず首を傾げていたが、俺にはまるで俺と妹の事のようだと思った。


 けど正直納得はしてない。


 月と太陽はお互いを支え合ってるんじゃなくて、月が太陽の光で輝いてるだけだから。


 月は太陽が居ないと輝けないけど、太陽は月が居ても困らない。


 だから俺はセームとの間柄を、こう解釈する事にした。

 ”お互いがお互いを支えなくても輝けるけど、支え合えば更に輝いて見える”。

 お互いに助け合いながら高めあえる、いわば仲間だけどライバルのような存在だと。


 

 昼食を済ませたあとは特に依頼もなかったので、手当り次第モンスターを倒して回る事にした。


 セームは俺が手を貸さなくても、相手の動きをよく見てから行動に移すようになり、着実にレベル以外の面でも強くなっていく。


 時折危ない場面はあるが、武闘家の素早い動きで対応できている。

 正直、俺が居なくても強くなっていただろう。


 同時にレベルも上がっており、俺は50になりセームは41になった。


 スキルポイントも前回残した分も含め80ポイント余っている。


 約束していた継承は鍛治スキルに決めているため、俺は5ポイントで錬金スキルを覚え、それを更に20ポイント使ってレベル3まで引き上げた。


 また、いざという時セームを守れるようにと思い、残っていたスキルポイントで護衛スキルのレベル3に上げる。

 護衛スキルのおかげで自身の防御力が10%上昇と防御スキル”パラディン”を手に入れた。


 ついでに今手に入れたパラディンを残ったスキルポイントを注ぎ込んでレベルをあげてしまう。


 取っておこうか迷ったが、欲しいスキルも思いつかなかったから使い切ることにした。


 「クリスさんは、今の私ならクイーンサンドワームに勝てると思いますか?」

 「えっ?」

 すぐ側に居たセームの不意な問い掛けに戸惑ってしまった。


 俺が何も答えなかった事を察したのか、セームは何も言わず村に歩き始める。


 村に戻ると、村人が広場に集まりなにか準備しているのが目に止まった。


 「砂化の儀式の準備をしていますね」

 セームが寂しそうな声で言う。


 「いよいよだな」

 「はい……でも、もう泣いたりしませんよ。ルナとシャインがくれたこの勇気と力で、絶対クイーンサンドワームとあの黒い龍を倒してみせます」


 「セーム、さっきの事なんだけど」

 「何も言わなくても大丈夫ですよ。無理して死んだらあの子達に会わせる顔がないですもん」


 お互い無言のまま家に向かうと、玄関の前でセナさんが待っていた。


 「ママ、何してるの?」

 セームが駆け寄る。

 「丁度帰ってきたね2人共、セームはこれ持って儀式に行きな。

 クリスくんは私と一緒に行こうか」

 セームはセナさんから青色の石がはめ込まれたペンダントを受け取ると、両手でぎゅっと胸元で握りしめるとゆっくり広場の方へ歩き始める。


 「私達も行こうか」

 「はい」


 セナさんに連れられセームの後をついて行く。




 広場に着くと、先程通った時にはなかったルナドラゴンと思わしき濃い青色のドラゴンが、うつ伏せの状態で置かれていた。


 そのドラゴンのそばにはセームが立っており、優しく頬の辺りを撫でている。


 「あれがルナドラゴンですか?」

 「えぇその通りよ、旦那の相棒だった一体でもあるけど」


 「……セナさんも辛いのでは?」

 「私は旦那が亡くなった時が一番辛かったわね、大事な人だったから。でもあの子のためにも私は強くいなくちゃいけないから、辛くても泣く気はないわ」


 「……もし辛くなったら」

 「しないわよ……さすがに旦那にもあの子にも悪いし」


 「そうですか」


 ずっとルナドラゴンの傍に居るセームから目が離せず眺めていると、村長が現れた。


 村長はセームの傍で一度止まり、なにか話しているように見える。


 さすがにここからじゃ何を言ったか分からないが、少なくともここから見えるセームの目には涙が溢れていた。




 辺りが真っ暗になりようやく砂化の儀式が始まろうとしている。

 だが、用意された座席には村に初めて来た時にセームに駆け寄ってきた子供の姿はあるが、大人はセナさんや村長を除いて誰もいない。


 セームは村人達からも忌み嫌われているのかと、改めて感じて右手を握りしめた。


 村長が、ルナドラゴンが置かれた台座の前に立つ。

 「これより、ルナドラゴンの砂化の儀式を始める。主君セームベル・アレクトルよ、前へ」

 「はい」

 そう言われセームはスッと席を立つ。

 ルナドラゴンの顔の前に立ったセームは、そっと優しく顔を抱きしめた。


 数秒後手添えたまま離れたセームはルナドラゴン顔を撫でるように首の方に移動する。


 首元には青色の宝石が埋め込まれたペンダントが付けられており、それを左手で握りしめたセームは、セナさんから渡されたペンダントを首に掛けて右手で握り締める。


 十秒前後握りしめたまま俯いて動かなかったセームが、ようやく顔をあげると力一杯にルナドラゴンに付いていたペンダントを引きちぎった。


 さらさらさらとルナドラゴンの背部から徐々に砂になっていく。


 セームはその場にぺたんと腰を落とした。


 ルナドラゴンが砂になっていく中、会場には大きな声で泣き叫ぶセームの声が鳴り響き、微かだが椅子に座っている子供達のすすり泣く声も聞こえる。


 俺の隣にいたセナさんも灯火の光のせいか、貰い泣きか目元が赤くなっていた。


 ルナドラゴンが完全に砂になった直後突風が吹き出し、ルナドラゴンの形をしていた砂山が飛ばされていく。


 「ルナ!」

 『セームベルよ、今までありがとう』


 謎の声が頭に響く。

 「私の方こそありがとう! ごめんねルナ!」

 『私の方こそすまぬ、元気でな』


 本の数秒で砂山が消し飛び、ルナドラゴンが乗っていた台座には灯火の光で輝く龍鱗が置かれており、謎の声も聞こえなくなった。


 俺は突風が止んでも泣き止まないセームに駆け寄る。

 「ルナァ……」


 「セーム」

 「クリ……ス……さん……私、私……」


 そっとセームを抱きしめると、セームは再び泣き叫び始めた。


 しばらくすると村長が現れたが、台座の上になにか置いて何も言わずに去っていく。


 俺は泣き続けるセームの手を取り、一緒に立ち上がる。


 村長が台座に何を置いていったのか気になり、視線を向けるとそこには、白く輝く毛皮と爪が置いてあった。


 「セーム、これって」

 「……多分シャインが、置いていってくれたものだと思います。ルナを砂化させる前に、村長からシャインニングタイガーの素材が見つかったって言われましたから」


 あの時か。


 「そしてルナも置いていってくれました……こんなの貰ったらいつまでも泣いてはいられないですね」

 セームはたくさん泣いたぐしゃぐしゃな顔で微笑んだ。


 俺はその目元に溜まった涙を親指で拭い、セームを抱きしめた。

 「絶対強くなろうな、セーム」

 「はい!」

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