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第6話 がんばらなくて、いいよ

 荷物の山から這い出す。


「よい……しょっ」


 白い前足。


 頭。


 耳。


 最後に丸いお腹。


 ぽん。


 抜けた。


「生還」


「おめでとう!」


 ポポが拍手した。


「死んで転生して荷物に潰されて生還した女に、おめでとうって言う?」


「二回生きたね!」


「数え方が怖い」


 隣ではノノがまだ荷物の下にいた。


 折れた耳だけが出ている。


「ノノ」


「なに」


「出られる?」


「出たくなったら」


「生存意欲が低い」


「ここ、暗くて寝やすいよ」


「寝床認定しないで」


 荷物の反対側から、黄色い耳が二本、


 ぴょこん。


 ポポも埋まっていた。


「ぼくもいるよ!」


「知ってる」


 その前に。


 杏色の子が立っている。


 ココ。


 さっきまで身体の三倍はある荷物を背負っていた。


 今は何も持っていない。


 何も持っていないのに。


 身体がまだ前へ傾いている。


 重さを身体が覚えているみたいだった。


 胸だけは重いまま。


 名札。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 いや。


 多い。


「ちょっと見せて」


「うん」


 わたしは一番上の名札をめくった。


《おとどけ係》


 その下。


《おみず係》


 その下。


《なおす係》


 さらに。


《おかたづけ係》


 さらに。


《おてつだい係》


 さらに。


「…………」


《もうひとつ係》


「何これ」


 めくる。


《もうひとつ係》


「え」


 めくる。


《もうひとつ係》


「待って」


 めくる。


《もうひとつ係》


 めくる。


《もうひとつ係》


「マトリョーシカみたいに仕事出てくる!」


「まだあるよ」


「怖いこと言わないで」


 めくる。


《もうひとつ係》


「何枚あるの?」


「もうひとつ」


「枚数を聞いてる!」


「もうひとつ終わったら、その下のもうひとつをするよ」


「いつ終わるの?」


「もうひとつがなくなったら」


「永久機関二号!」


 この村、永久機関が多い。


「なんでこんなに増えたの?」


 ココは不思議そうにする。


「おてつだいしたから」


「それは見れば分かる」


「早く終わったら」


「うん」


「『ココなら、もうひとつできるよね』って」


「…………」


「できたら、『やっぱりココはすごいね』って」


「…………」


「そしたら、またもうひとつ」


「…………」


「いっぱい褒めてもらったよ」


 嬉しそう。


 胸には星形の《よくできました》が何枚も貼ってある。


 虹。


 銀。


 桃色。


 小さい星。


 大きい星。


 わたしがまだ見たことのない柄まである。


「…………」


 羨ましい。


 違う。


 羨ましがるな。


 でも限定っぽい。


 違う。


「このシール、何種類あるの?」


「そこ!?」


 自分で自分へ突っ込んだ。


 ココが答える。


「いっぱい」


「あとで詳しく」


「聞くんだ」


 ノノの声が荷物の下からした。


「うるさい」


     *


「とにかく今日は休んで」


 ココの笑顔が曇った。


「でも」


「でもじゃない」


「これを待ってる子がいるよ」


「明日でいい」


「今日ほしいって」


「じゃあ困ってもらって」


 ココが目を丸くした。


「困るよ?」


「うん」


「かわいそうだよ?」


「うん」


「なのに?」


「あなたがここで潰れるよりまし」


「でも、ぼくなら――」


「そこ」


 前足を向ける。


「その《ぼくなら》禁止」


「どうして?」


「聞いてると腹立つから」


「…………」


「昔の私みたいだから」


 ココは意味が分からない顔。


 それでいい。


「足、怪我してるでしょう」


「反対は動くよ」


「歩くとき両方使うの」


「尻尾もあるよ」


「三本脚の椅子みたいに身体使わないで」


 ぜんまいみたいな尻尾が、


 ぶん。


 ぶん。


 ぶん。


 高速で動いている。


 頑張っている証拠みたいで腹が立つ。


「休んで」


「でも」


「休んで」


「おしごとが」


「休んで」


「明日のごはんが」


「…………」


 止まった。


 そうだった。


 休めば。


 仕事は残る。


 食費はかかる。


 家もかかる。


 黒い葉っぱ。


《明日の自分とのおやくそく》。


 増える。


 わたし自身、二きら持っている。


 正論だけでは腹は膨れない。


 休息を勧めるのは簡単。


 休んだあとの請求書を払うのはココ。


「…………」


 ココは胸のシールを見る。


 一番大きな星。


「それに」


「なに?」


「今日がんばらなかったら」


 前足で触れる。


「《よくできました》、もらえない」


「…………」


 そこか。


 そこだった。


「欲しい?」


「うん」


「そんなに?」


「うん」


「…………」


 分かる。


 分かってしまう。


 死ぬほど分かる。


「がんばるのをやめたら」


 ココが小さく言った。


「ぼく、何が残るの?」


「…………」


 やめて。


 その質問。


 わたしにも刺さる。


 仕事。


 評価。


 褒め言葉。


 役に立つ。


 頼られる。


 できる人。


 感じがいい。


 ちゃんとしてる。


 それを全部取ったら。


 前世のわたしに何が残った?


「…………」


 答えは。


 今も持っていない。


 だから。


 優しいことを言うのをやめた。


「分かった」


「?」


「休まなくていい」


 ココの顔が明るくなる。


「ほんと?」


「うん」


 ノノの耳が荷物の下から、


 ぴく。


 動いた。


「代わりに」


 わたしは笑う。


「仕事して」


「うん!」


「新しい仕事」


「うん!」


「特別なやつ」


 ココの尻尾が、


 ぶんぶんぶんぶん。


 速くなる。


 ちょろい。


 昔の私くらいちょろい。


「何するの?」


 わたしは言った。


「十分間」


「うん」


「ここに座る」


「うん」


「荷物を持たない」


「うん」


「誰にも返事しない」


「うん」


「目を閉じる」


「うん」


「何もしない」


「…………」


 ココの尻尾が止まった。


「それ」


「うん」


「おしごと?」


「そう」


「何係?」


「…………」


 考えていなかった。


 でも。


 こういうとき、名前は大事。


 この世界は名札に弱い。


 名札がついていれば、だいたい仕事になる。


 わたしはココの胸から、


 余っている《もうひとつ係》を一枚外した。


「一枚くらいなくてもバレないでしょう」


「まだ下にあるよ」


「知ってる」


 裏返す。


 真っ白。


 地面から小さな炭の欠片を拾う。


 書く。


《きゅうけい係》


「できた」


「…………」


 ココが見る。


「きゅうけい?」


「そう」


「何する係?」


「休憩する」


「休憩って?」


「何もしない」


「…………」


「十分」


「何もしないのを?」


「そう」


「がんばる?」


「がんばらない」


「…………」


 ココが混乱した。


「がんばって、がんばらない?」


「違う」


「がんばらないように、がんばる?」


「違う!」


「むずかしい」


「私も今、言ってて分からなくなってきた!」


     *


「重そう」


 ノノが荷物の下から這い出した。


「置けば軽くなるよ」


「もう置いてある」


「じゃあ成功だね」


 そのまま。


 ココの荷物へ登る。


「何してるの?」


 ココが聞く。


「使う」


「何に?」


「寝るのに」


 ノノは一番大きな包みの上へ丸くなった。


 尻尾を道具箱にかける。


 箒を水差しへ渡す。


 完全な寝床。


「それ持っていくんだけど」


「いま使ってるよ」


「何時まで?」


「起きるまで」


「いつ起きる?」


「起きたら」


「ノノ!」


「なに」


「今日はキレッキレだね!」


「眠いよ」


 二秒で寝た。


「…………」


 ココは荷物へ手を伸ばす。


 引っぱる。


 ずる。


 荷物と一緒にノノまで動く。


 ノノは起きない。


 さらに引く。


 ずる。


 ノノ。


 動く。


 寝たまま。


「…………」


 荷物を運ぶためには。


 ノノまで運ばなければならない。


 ココは自分の何も持っていない前足を見る。


「何もしないのは」


 小さく聞く。


「どうやるの?」


 荷物の上。


 ノノが目を閉じたまま答える。


「いま、できてるよ」


「…………」


 ココが座った。


 休むのが上手かどうかを考える前に。


 休むしかない状況を作られた。


「ノノ」


「なに」


「やっぱり師匠」


「やだ」


     *


 門前では。


 ピピが働いている。


「おはようございます(はぁと)」


「大変だったね(はぁと)」


「でも、きっと大丈夫(はぁと)」


「今日も笑ってがんばりましょう(はぁと)」


 完璧なわたしの声。


 そのたび。


 ココが、


 ぴく。


 反応する。


「がんばりましょう(はぁと)」


 立ち上がろうとする。


 胸の大量の名札に引っぱられ、


 こてん。


 前へ転ぶ。


「立たない!」


「でも、がんばるって」


「ピピ!」


「ピピ!」


「今は『がんばって』禁止!」


「今は『がんばって』禁止!」


 ピピが元気に繰り返す。


「それも違う!」


 ピピが首を傾げる。


「どっちを、まねするの?」


「新しいほう!」


「新しいほう!」


「だから繰り返さなくていい!」


 ピピは姿勢を正した。


 通勤者が来る。


「おはよう」


 ピピ。


「おはようございます(はぁと)」


 そして。


「今日は、がんばらないでね(はぁと)」


「え?」


 通勤者が止まる。


 門が、


 ぱたん。


 閉じる。


「違う!」


「違う!」


「全員に言うな!」


「全員に言うな!」


「ココだけ!」


「ココだけ!」


「名前まで言うな!」


「名前まで言うな!」


 列の全員がココを見る。


 ココが縮こまった。


「すみません」


「謝らなくていい!」


「謝らなくていい!」


「ピピ!」


 頭がおかしくなる。


     *


「よし」


 わたしは仕切り直した。


「ココ」


「はい」


「《きゅうけい係》の最初のお仕事です」


 背筋を伸ばす。


 営業事務時代。


 新人へ説明するときの声。


 少し優しく。


 少し自信ありげに。


 相手が、


《この人の言う通りにすれば大丈夫》


 と思う声。


 嘘でも。


「十分間、座ってください」


「はい」


「荷物を触らない」


「はい」


「誰かに頼まれても動かない」


「はい」


「目を閉じてもいい」


「はい」


「眠ったら?」


「失敗?」


「大成功」


「…………」


 ココが驚く。


「寝たら成功?」


「最高評価」


「《よくできました》?」


「…………」


 そこを聞くか。


「私が貼る」


「ほんと?」


「うん」


「正式?」


「…………」


「正式?」


 目が期待で輝いている。


「正式っぽくする」


「っぽく?」


「細かい!」


 胸の自分の虹色シールを見る。


 剥がす気はない。


 絶対にない。


 代わりに。


 地面へ落ちていた黄色い花を一輪摘む。


 花びらを一枚。


 ココの名札へ、


 ぺた。


 唾ではつかない。


 木の実の汁を少し。


 ぺた。


「はい」


「…………」


 ココが見る。


「なにこれ?」


「《よくやすめました》」


「手書きもないよ?」


「心で読んで」


「正式?」


「私が今作ったから正式!」


「権限あるの?」


「ない!」


 勢いで押した。


 ココは花びらを見る。


 少し嬉しそう。


 効いた。


「十分休めたら、もう一枚」


「ほんと?」


「ほんと」


「二十分なら?」


「二枚」


「三十分?」


「三枚」


「一時間?」


「六枚」


 ココの目が輝く。


「休む!」


「計算できるんだ!」


 座った。


 目を閉じる。


 尻尾が、


 ぶんぶん。


「尻尾も休んで」


 ぴた。


 止まる。


 三秒。


 ぶん。


「動いた」


「ごめんなさい!」


「謝らない!」


「はい!」


「返事もしなくていい!」


「はい!」


「だから返事!」


 難しい。


 休息の指導ってこんなに難しいの?


     *


 一分。


 ココが目を閉じている。


 二分。


 身体の震えが少し減る。


 三分。


 尻尾が止まる。


 四分。


 肩が落ちる。


 五分。


「…………」


 寝た。


「やった」


 思わず小さく言った。


 ノノも寝ている。


 ココも寝ている。


 ピピは門前。


 ポポは荷物の横で、意味もなくココの水差しを磨いている。


 平和。


 ほんの少し。


「…………」


 胸の奥が温かくなった。


 いいことをした。


 たぶん。


 珍しく。


 純粋に。


「…………」


 門の上を見る。


《99%》


「…………」


 温かさが一瞬で冷えた。


「九十九」


 声が出た。


 ココが笑っていないから。


 門を通っていないから。


 昨日まで。


 二日連続。


 百。


 金色まであと五日。


 今日。


 九十九。


「…………」


 胸の虹色《よくできました》を握る。


「別に」


 誰にも聞かれていない。


「いい」


 九十九。


「別に」


 金色。


「いい」


 金色。


「…………」


 すごくよくない。


 泣きたい。


 でも。


 ココは寝ている。


 足には包帯。


 身体はやっと震えていない。


「…………」


 息を吐く。


「くそ」


 ノノが寝たまま言った。


「汚い言葉」


「起きてるの!?」


「半分」


「九十九なんだけど」


「百に近いね」


「違う」


「一しか違わない」


「その一を大事件にするために評価制度があるの!」


「ふうん」


「興味持って!」


「眠い」


 腹立つ。


     *


 ココが。


 眠ったまま。


 少し笑った。


 無理に上げていない。


 作っていない。


 ただ。


 安心したみたいに。


 口元が、


 ふわ。


『にこにこ、できました』


「え?」


 門が、


 ぱあっ。


 開いた。


《100%》


「…………」


 戻った。


「百!」


 嬉しい。


 死ぬほど嬉しい。


「やった!」


 両前足を上げた。


 その瞬間。


 門の蔓が、


 しゅる。


 伸びた。


「え」


 眠っているココの身体へ。


 そっと。


 優しく。


 巻きつく。


「ちょっと」


 ずる。


「ちょっと待って」


 ココを。


 仕事へ向かう道へ。


 ずるずる。


「待て待て待て待て!」


 わたしは左前足へ飛びつく。


「寝てる!」


 ずる。


「いま休んでる!」


 ノノが荷物の上から身体を伸ばし、右前足を掴んだ。


「それ、わたしの枕の近くにいる子」


「理由!」


 門が引っぱる。


 わたしたちが引く。


 ココの身体が、


 びよん。


 少し伸びる。


「ココ伸びる!」


「起きないね」


「それどころじゃない!」


 門。


 ぐい。


「笑ってるからって仕事へ連れていくな!」


『にこにこ、できました』


「睡眠中の笑顔は同意じゃない!」


 自分で言って。


 止まった。


 第4話。


 眠っているわたし。


 笑顔。


 門。


 普通に勤務。


「…………」


 あれ。


 同じだ。


「私もやられてた!」


「気づいた?」


「今!」


 ノノ。


 ぐい。


 わたし。


 ぐい。


 門。


 ぐい。


 ココ。


 びよん。


 ポポが参加。


「ぼくも!」


「どっち引くの!?」


「みんな!」


「意味がない!」


 ポポは真ん中からココを抱えた。


 ただ重くなった。


「邪魔!」


「おてつだい!」


「今はやめて!」


 最終的に。


 ノノが荷物からずり落ちた。


「わ」


 門が一瞬力を抜く。


 反動。


 わたしたち全員、


 ぽーーーーん。


 荷物の山へ。


 どさっ。


 鍋。


 からん。


 水差し。


 ちゃぷん。


 箒。


 ぺし。


 わたしの頭へ当たった。


「痛い!」


「ごめん」


「ノノの箒!」


「わたしじゃないよ」


「所有者責任!」


「持ってなかった」


「強い!」


 ココだけ。


 眠っている。


 幸せそう。


「…………」


 笑顔になったからって。


 仕事へ運んでいいわけじゃない。


 当たり前。


 この世界では。


 当たり前ほど、制度になっていなかった。


     *


 しばらくして。


 ココが目を覚ました。


「……寝た?」


「寝た」


「どれくらい?」


「三十分くらい」


「じゃあ」


 ぱっと起きる。


「《よくやすめました》三枚?」


「そこ覚えてる!?」


「うん!」


「……分かった」


 黄色い花びらを三枚。


 ぺた。


 ぺた。


 ぺた。


 名札へ貼る。


 ココは嬉しそうに見た。


「できた」


「できた」


「休めた」


「うん」


「ぼく、休むの上手?」


「…………」


 その質問。


 危ない。


 でも。


「最初にしては上手」


「ほんと?」


「うん」


 ココが笑う。


「じゃあ、もっと上手になる」


「いや」


「いっぱい休めるように」


「待って」


「明日は一時間」


「待って待って」


「次は二時間」


「待って!」


 嫌な方向へ走り始めた。


「休息で目標設定しないで!」


「でも上手になりたい」


「ならなくていい!」


「上手じゃなくていいの?」


「休みに上手も下手もない!」


「でもシール――」


「私が餌をつけたせいだ!」


 頭を抱えた。


 これ。


 まずい。


 わたし。


 今。


 休むことへ評価をつけた。


「…………」


 嫌な予感。


 ものすごく。


 嫌な予感。


     *


「すてきだねえ」


 声。


「…………」


 振り返りたくなかった。


「新しいおてつだい、見つけたんだねえ」


「…………」


 大きな桃色。


 花の耳。


 《はじめまして係》。


 にっこり。


 来た。


「何しに」


「見てたよお」


「見ないで」


「ココちゃんが、おやすみするおてつだい」


「違います」


「《きゅうけい係》だねえ」


「違う」


「とってもいいねえ」


「違うって言ってるでしょう!」


 《はじめまして係》は大きな鞄を開いた。


 中から。


 名札。


「…………」


 出た。


 嫌だ。


 見たくない。


 丸い枕の形。


 水色。


 雲の飾り。


 ものすごく可愛い。


 中央。


《じょうずにおやすみ係》


「やめろ」


「正式にしようねえ」


「やめろ!」


 ココの目が輝く。


「正式?」


「うん」


「シールも?」


「もちろん!」


「やめろおおおお!」


     *


 十分後。


 《にこにこ門》の横に。


 新しい看板が立っていた。


《じょうずにおやすみ できるかな?》


 雲。


 星。


 月。


 眠る動物の絵。


 可愛い。


 最悪。


 その下。


《きょうの おやすみ目標》


《目を閉じる 10ぷん》


《深呼吸 3かい》


《きもちよく ごろん》


《すっきり笑顔で おきよう》


「…………」


 わたしは看板を見た。


「なんで」


「分かりやすいでしょう?」


「なんで休むのに目標があるの?」


「できたら嬉しいからあ」


「できなかったら?」


「明日はもっとじょうずにできるねえ」


「成長させるな!」


 さらに。


 看板の上。


 数字。


《本日の おやすみ達成率》


《87%》


「数字つけるなああああ!」


 ココが震える。


「十三パーセント足りない」


「気にしないで!」


「深呼吸、二回しかできてなかった?」


「どうでもいい!」


「ごろんの角度?」


「評価項目にするな!」


「笑顔?」


「起きた瞬間の顔まで管理するな!」


 ココが焦る。


「もう一回休む!」


「やめて!」


「今度は百パーセントにする!」


「休むために焦るな!」


「リラックスする!」


「命令形でリラックスするな!」


 ココが地面へ横になる。


 目をぎゅっと閉じる。


「…………!」


 身体が力んでいる。


 尻尾。


 ぴーん。


「力抜いて!」


「抜いてる!」


「抜けてない!」


「どうやったら上手に抜ける!?」


「知らない!」


《はじめまして係》が優しく言う。


「焦らなくていいよお」


「はい!」


「じょうずにおやすみしようねえ」


「はい!」


「だから仕事にするなあああ!」


     *


 ノノが。


 看板の前へ来た。


 読む。


《おやすみ達成率 87%》


「ふうん」


 横になる。


 二秒。


 寝た。


 看板。


《100%》


「…………」


 金色の星。


 ぱあああっ。


《とっても じょうず!》


「ノノおおおお!」


「…………」


 寝ている。


「百取るな!」


 返事なし。


「しかも無意識!」


 返事なし。


「私が欲しいやつ全部こいつが簡単に取る!」


 腹が立つ。


 でも。


 それでいい。


 休息は本来、そのくらい雑でいい。


 評価される必要なんてない。


 分かっている。


 分かっているのに。


《100%》


「…………」


 ちょっと羨ましい。


「私ほんとダメだな!」


     *


「これダメ」


 わたしは《はじめまして係》へ言った。


「なにが?」


「全部」


「ぜんぶ?」


「休みを仕事にしたら」


 看板を指す。


「休みが仕事になった!」


「うん」


「うんじゃない!」


「きゅうけい係だもの」


「だから!」


「おてつだいにしたの、きみだよお」


「…………」


 刺さった。


「私だ」


「うん」


「私がやった」


「すごいねえ」


「褒めるな!」


 そう。


 悪いのは。


 制度だけじゃない。


 わたしが制度を利用しようとした。


 ココを休ませるために。


《休むこと》


 へ仕事という皮を被せた。


 その瞬間。


 この世界は嬉々として食いついた。


 名札。


 目標。


 評価。


 達成率。


 シール。


 全部つけた。


「…………」


 これは。


 面白い。


 いや。


 面白がっている場合じゃない。


 でも。


「なるほど」


 わたしは笑った。


 少し。


 かなり性格の悪い笑顔。


「この世界」


 ルールを破っても怒らない。


 ルールの外へ出ようとしても止めない。


 違う。


 もっと悪い。


「反抗まで、仕事にするんだ」


「はんこう?」


「なんでもない」


 休ませたら。


《じょうずにおやすみ係》。


 助けたら。


 たぶん。


 助ける係。


 文句を言えば。


 文句を言う係。


 改善しようとすれば。


「…………」


 嫌な予感。


「これ、改善しないと」


《はじめまして係》の花の耳が、


 ぴん。


 立った。


「あ!」


「…………」


「じゃあ、きみ」


「待って」


「《かいぜん係》も――」


「言うな!」


 口を両前足で塞いだ。


「今のなし!」


「でも」


「なし!」


「ぴったり――」


「なし!」


「名札――」


「出すな!」


 鞄へ手を入れようとする。


 わたしは鞄へ飛びついた。


「閉めろ!」


「遠慮しなくていいよお」


「遠慮じゃない!」


 ノノ。


 横で寝ている。


 ピピ。


「名札、出すな!」


 元気に真似。


 ココ。


「かいぜん、がんばる?」


「あなたは黙って休んで!」


《おやすみ達成率》


《82%》


「下がった!」


「わあああ!」


「数字見るな!」


 地獄。


 ものすごく可愛い地獄。


     *


 しばらくして。


 門の上。


『ほんじつの、にこにこ率』


 数字が出た。


《99%》


「…………」


 花びら。


 なし。


 金色の粉。


 なし。


 祝福の鐘。


 なし。


「九十九」


 わたしはその場へ座った。


「九十九……」


 金色シール。


 一日目からやり直し。


「…………」


 ころん。


 後ろへ転がる。


 平らな地面。


 ころん。


 二回。


 ころん。


 三回。


「なんで平地で転がれるの?」


 ポポが聞いた。


「悲しみの推進力!」


 止まった。


 空を見る。


「金色……」


 普通に悲しい。


 かなり悲しい。


 ココを止めたことに後悔はない。


 それはそれ。


 これはこれ。


 いいことをしたら欲望まで浄化されるほど、人間は便利にできていない。


「うう……」


「ほとんど百だよ」


 ノノ。


「百と九十九は違う」


「一しか違わない」


「その一に課金させるのが評価制度なの!」


「かきん?」


「気持ちの話!」


 ピピがやってくる。


「九十九パーセント」


「言わないで」


「よくできました」


「違う」


 門が訂正。


『よくできましたは、百パーセントです』


「門、お前今日ほんと嫌い」


 ピピが考える。


「九十九パーセント」


「うん」


「できました」


「…………」


 褒めていない。


 事実。


 ただの事実。


「九十九パーセント、できました」


「…………」


 少し。


 楽になった。


「それでいいか」


「いいの?」


「よくない」


「どっち?」


「両方!」


 ピピが笑う。


「どっちも本当」


「そう」


 第5話で。


 自分で言った。


 助けたい。


 評価も欲しい。


 休みたい。


 役に立ちたい。


 好かれたい。


 楽したい。


 全部。


 本当。


「ココを止めたのは正解」


「うん」


「九十九は悔しい」


「うん」


「金色は欲しい」


「うん」


「でも次また同じことがあったら」


「うん」


 少し考える。


「……止める」


「うん」


「たぶん」


「たぶん?」


「金色が目の前だったら三秒くらい迷う」


 ノノが言った。


「長いね」


「三秒で済むの褒めて!」


「やだ」


     *


「困っている子を見つけるのが」


 《はじめまして係》が言った。


 まだいた。


「とってもじょうずだねえ」


「嫌な予感」


「無理してる子にも気づけるし」


「やめて」


「新しいおてつだいも考えられるし」


「やめて」


「みんなのやり方を変えようともするし」


「やめろ」


 鞄。


 開く。


「やめろって!」


 出た。


 名札。


 でかい。


 ものすごくでかい。


 桃色のハート。


 白い羽。


 金色の縁。


 わたしの身体より大きい。


「悪趣味!」


「かわいいでしょう?」


「可愛いから嫌なの!」


 中央。


《おせっかい係》


「いらない」


 即答。


「ぴったりだよお」


「いらない」


「村を歩いて」


「いらない」


「困ってる子を見つけて」


「いらない」


「その子にぴったりの――」


「いらなあああい!」


 逃げた。


 短い足。


 しゃかしゃかしゃかしゃか。


 高速。


 距離。


 ほぼ変わらない。


 後ろから《はじめまして係》。


 一歩。


 追いつく。


「遠慮しなくていいよお」


「遠慮じゃない!」


 ぱちん。


「重っ!」


 胸に名札。


 身体が右へ、


 ぐい。


 傾く。


 左足で踏ん張る。


 左足。


 浮く。


「これサイズおかしい!」


「責任が大きいからねえ」


「物理的に表現しないで!」


 ポポが拍手。


「よかったね!」


「よくない!」


「おしごと、ふえたね!」


「最悪の祝い方!」


 ピピ。


「よかったね(はぁと) おしごと、ふえたね(はぁと)」


「私の声で言うな!」


     *


 わたしは名札を見る。


《おせっかい係》


「何するの?」


「村を歩くよお」


「…………」


 聞き捨てならない。


「門から離れていい?」


「うん」


「村中?」


「うん」


「仕事場にも?」


「うん」


「いろんな係のところ?」


「うん」


「…………」


 少しだけ姿勢を直した。


 名札が重くて直らない。


「それで?」


「困ってる子」


「うん」


「無理してる子」


「うん」


「うまくおてつだいできない子」


「うん」


「その子にぴったりの《もうひとつのおてつだい》を、一緒に見つけるの」


「…………」


 台無し。


「仕事増やす係じゃん!」


「ぴったりを探すんだよお」


「減らすのは?」


「へらす?」


「仕事を」


 《はじめまして係》が首を傾げる。


「どうして?」


「…………」


 来た。


 この世界の根本。


「多すぎる子がいるから」


「じゃあ」


 にっこり。


「多すぎる子を助けるおてつだいを、考えてあげて」


「…………」


 つまり。


 仕事は減らせない。


 でも。


 仕事の名前は変えられる。


 休息を仕事にしたように。


 役割を増やせる。


 配置を変えられる。


 人を動かせる。


 そして。


 この名札があれば。


 門の前から離れられる。


 村じゅうを見られる。


「…………」


 悪くない。


 いや。


 悪い。


 ものすごく悪い。


 でも。


 使える。


「権限は?」


「けんげん?」


「どこまで口出していい?」


「困っている子のおてつだいなら、いっぱい考えていいよお」


「勝手に?」


「いっしょに」


「本人が『はい』って言えば?」


「ぴったりだねえ」


「…………」


 わたしの口角が、


 ゆっくり上がった。


 ポポが嬉しそうに言う。


「かわいい!」


「今、たぶん悪い顔してるよ」


「かわいいよ!」


「この身体、倫理観まで隠せるな」


     *


 荷物の上では。


 ノノが寝ている。


 その横。


 ココ。


《じょうずにおやすみ係》の名札を胸につけている。


「…………」


 捨てさせよう。


 あとで。


 いや。


 捨てても別の仕事になる。


 なら。


 利用する。


 休息を業務にする制度ができたなら。


 最低基準じゃなく。


《上限》


 をつければいい。


 一時間休んだら。


 その後は仕事を増やせないように――


「…………」


 待て。


 今の考えも制度化したら。


《上手に休んだ子には、元気になったごほうびでもうひとつ》。


「……絶対やる」


 この世界ならやる。


「何が?」


 ポポ。


「なんでもない」


 簡単じゃない。


 善意で変えると。


 善意ごと食われる。


 反抗すると。


 反抗まで役職になる。


 休ませると。


 休息まで評価される。


 だったら。


「…………」


 どうする?


     *


 ノノが目を覚ました。


「まだいる」


「いるよ」


「名札増えたね」


「見れば分かる」


「えらくなった?」


「たぶん」


「じゃあ」


 あくび。


「仕事しなくてよくなる?」


「…………」


 止まった。


「なに?」


「もう一回」


「えらくなったら、仕事しなくてよくなる?」


「…………」


 ノノは別に深いことを言っていない。


 たぶん。


 単に。


《偉い=楽》


 くらいの雑な認識。


 でも。


 わたしの頭の中で。


 何かが。


 かちっ。


 はまった。


 前世。


 仕事が増える人。


 仕事を決める人。


 評価される人。


 評価する人。


 頼まれる人。


 頼む人。


 同じ会社にいても。


 全然違った。


「…………」


 そうか。


 今まで。


 わたしは。


 ずっと。


 仕事をする側で戦おうとしていた。


 笑う。


 休む。


 サボる。


 代役を作る。


 断る。


 全部。


 下から。


 でも。


 この世界。


 上へ行ける。


 名札をつけられるたび。


 役割が増える。


 役割が増えれば。


 見られる範囲が増える。


 口を出せる範囲も。


「…………」


 ポポが聞く。


「どうしたの?」


「方針、決まった」


「ほうしん?」


 わたしは《おせっかい係》を見る。


 桃色。


 ハート。


 羽。


 金縁。


 悪趣味。


 可愛い。


「この世界」


 壊す?


 逃げる?


 戦う?


 違う。


「壊すより」


 笑った。


「偉くなったほうが早いかも」


 ポポが拍手する。


「出世するの?」


「する」


「すごい!」


「するわ」


 もう一度。


「めちゃくちゃする」


 ピピが遠くで。


 わたしの笑顔。


 わたしの声。


「めちゃくちゃする(はぁと)」


「言い方!」


 でも。


 訂正しなかった。


     *


「目標は?」


 ポポが聞く。


「まず」


 村を見る。


 《にこにこ門》。


 荷車。


 広場。


 煙突。


 パン屋。


 遠くに工房。


 森。


 見たことのない建物。


 見たことのない仕事。


 まだ会っていない子たち。


「楽する」


「うん!」


「寝る」


「うん!」


「借金返す」


「うん!」


「金色シール取る」


「うん!」


「可愛くいる」


「うん!」


「褒められる」


「うん!」


「嫌われない」


「うん!」


「でも、嫌な仕事は減らす」


「うん!」


「潰れそうな子は止める」


「うん!」


「私の邪魔をする制度は利用する」


「うん!」


「利用できないなら、意味を変える」


「うん!」


「それでもダメなら」


 少し考える。


「偉くなる」


「うん!」


「それで」


「うん!」


「上からルール変える」


「うん!」


 ポポが、


 ぱちぱちぱち。


 拍手。


「すてきだね!」


「でしょ?」


「みんなのため?」


「…………」


 止まった。


「いや」


「え?」


「私のため」


 即答した。


「私が楽に生きたい」


「うん?」


「私が気分よく寝たい」


「うん」


「私の目の前で誰かが潰れると、気分悪い」


「うん」


「だから潰れないようにする」


「うん」


「私が褒められたい」


「うん」


「そのために結果も出す」


「うん」


「可愛いって言われたい」


「うん!」


「そこだけ返事強いな」


「かわいいよ!」


「知ってる」


 声が半音上がる。


「つまり」


 胸を張る。


 大きな《おせっかい係》が重くて。


 後ろへ、


 ころん。


 転がった。


「……つまり!」


 寝転がったまま続ける。


「世界平和は、副産物!」


「せかいへいわ?」


「私が快適に暮らした結果、みんなもちょっとマシになったら最高でしょう?」


「うん!」


「聖女じゃなくていい」


「せいじょ?」


「救世主も嫌」


「きゅうせい?」


「損するから」


「うん!」


「悪女でいい」


「かわいい?」


「可愛い悪女」


「すごい!」


「それでいく」


 立ち上がる。


 今度こそ。


「善意だけじゃ、この世界には勝てない」


 ココを見る。


「正論でも勝てない」


 ノノ。


「サボるだけでも勝てない」


 ピピ。


「コピーだけでも勝てない」


 ポポ。


「こいつはたぶん何の役にも立たない」


「えへへ!」


「褒めてない!」


 でも。


 笑った。


「だから」


 わたしは村へ向き直った。


「全部使う」


 善意。


 悪意。


 可愛さ。


 嘘。


 本音。


 建前。


 褒め言葉。


 数字。


 制度。


 サボり。


 代役。


 名札。


 ルールの穴。


 自分の顔。


 全部。


「世界に性格悪いって思われてもいい」


 少し考える。


「いや、やっぱり嫌」


「どっち?」


 ピピ。


「どっちも本当」


 笑う。


「性格悪いことはする。でも感じのいい女ではいる」


「むずかしいね」


「前世から得意」


     *


 そのとき。


《はじめまして係》が嬉しそうに言った。


「じゃあ、おせっかい係さん」


「はい」


 初めて。


 素直に返事をした。


「最初のおてつだい、見つかってるよお」


「早いな」


「困ってる子がいるの」


「どこ?」


「村の向こう」


「何があった?」


「おてつだいが」


 一拍。


「三百六十二個ある子」


「…………」


「何個?」


「三百六十二」


「ココより多い!」


 ココが起き上がる。


「すごい!」


「競うな!」


「その子ねえ」


《はじめまして係》は笑う。


「三百六十二個ぜんぶ、今日中に終わらせたいんだって」


「なんで!?」


「明日は」


 花の耳。


 ふわ。


「三百六十三個になるから」


「増える前提!?」


「がんばり屋さんだねえ」


「褒めるな!」


 村の向こう。


 どこかで。


 鐘。


 りん。


 りん。


 りん。


 可愛い音。


 嫌な予感。


 最高。


「…………」


 わたしは笑った。


「行く」


 ポポが跳ねる。


「おてつだい?」


「違う」


「?」


「出世活動」


 ノノが荷物の上から片目を開ける。


「帰ってくる?」


「たぶん」


「いつ?」


「偉くなったら」


「じゃあ、あとで」


「あなたの『あとで』と一緒にしないで」


 ピピが翼を広げる。


「いってらっしゃい(はぁと)」


「門、任せた」


「任せた(はぁと)」


「百パーセント頼むよ」


「百パーセント頼むよ(はぁと)」


「金色、今度こそ取るから」


「今度こそ取るから(はぁと)」


 ココが聞いた。


「ぼくは?」


「寝てて」


「おしごと?」


「違う」


 一度。


 言い切る。


「生活」


「…………」


 ココが少し考える。


「上手に?」


「下手でいい」


「何パーセント?」


「測らない」


「シールは?」


「なし」


 少し寂しそう。


 なので。


 付け加えた。


「起きたら私が可愛いって言う」


「ほんと?」


「それくらい無料だから」


「やった」


 笑って。


 横になる。


 今度は。


 看板を見ない。


 数字も見ない。


 ノノの尻尾へ頬を乗せる。


「おやすみ」


「おやすみ」


 数秒。


 眠った。


 《じょうずにおやすみ係》の看板。


《測定中――》


 わたしは前足で、


 ばたん。


 倒した。


「それ」


《はじめまして係》が言う。


「こわしたら――」


「壊してない(はぁと)」


 完璧な笑顔。


「ちょっと横になってもらっただけ(はぁと)」


「…………」


「おやすみ中(はぁと)」


「…………」


 《はじめまして係》が考える。


「そっかあ」


「そっかあ(はぁと)」


 勝った。


 小さい。


 ものすごく小さい。


 でも。


 勝った。


     *


 わたしは歩き出す。


 胸には二つ。


《にこにこ係》。


《おせっかい係》。


 虹色の《よくできました》。


 二きらの《明日の自分とのおやくそく》。


 連続百パーセント記録は途切れた。


 金色は遠のいた。


 仕事は増えた。


 責任も増えた。


 名前はまだない。


「…………」


 普通なら。


 悪化している。


 なのに。


 妙に気分がいい。


 門の前に立って。


 ずっと同じ言葉を繰り返していた昨日とは違う。


 村へ行ける。


 他人の仕事へ口を出せる。


 仕組みを見られる。


 利用できる。


 出世できる。


「ふふ」


 笑いが漏れた。


「待ってろ、異世界」


 誰も待っていない。


「私、めちゃくちゃ感じよくしてやるから」


 意味が分からない。


 でも。


 それでよかった。


 可愛いは正義。


 たぶん。


 だからこそ。


 この世界は、


 こんなに悪い。


 そして。


 わたしは。


 そんなに良い女ではなかった。


 最高だった。

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