No.6:災いを屠る雄軍《Legion》
咲「...さ、3分って...こんな巨大なの3分で片付くわけが...!!!」
男はため息をつくと、顔を少し咲の方に向ける。
???「言っただろう、技量が違うと。それに、俺も丸腰じゃないんだ。こんな『弱い』アノマリーなんぞ、奥の手を使うまでもない」
そう言うと男は腰に下げていた機械を取り外した。
訝しげに見つめていると、男は機械を空中へ放り投げた。
そして。
降って男の手に戻ってきたのは、円弧を描くように曲がった剣のような武器だった。
大樹「........えっ?」
手に持った瞬間、男は走り出す。その速度は、まるで常人のそれではなかった。
???「はぁっ!!!」
男は間髪も入れずに周りにいた怪物たちを葬り始める。
1匹、また1匹と次々に倒れていく。
巨大な怪物――――男の言う「マスターアノマリー」も、男に反応し、戦闘を開始する。
4人は呆気にとられ、ただ男の戦う姿を見ているだけであった。
鳴り響く轟音。
飛び散る火花と電撃。
そして、男の華麗な戦闘が繰り広げられる。
その光景はまるでひとつのショーのようであった。
敵の増援が迫り来ると、男は周囲を逃げ場のないほどに取り囲まれてしまった。
恵美「やばっ、このままじゃ数に押され...」
恵美がそう言い終えようとした瞬間。
閃光が、辺りに輝いた。
そして瞬きをしたその時には、男は武器を持たずしてその場で屈んでいた。
すると残っていた一匹がしめたとばかりに襲いかかる。
そして攻撃が男に当たろうとした時。
???「...思考が浅いぞ、化け物が」
武器が一直線、縦真二つにその歪んだ身体を切り裂いた。
響「...ブーメランか...!」
大樹「...あんなデカくて重そうなものを...」
男が振り向く。
???「御明答だ、白髪の。俺の武器は飛去来器型の斬撃武装...まあ安直だが、ブーメラン・『ツイン』ソードと言ったところか?」
咲「はぁ......え?ツイン?!」
咲が気づく頃には、男はブーメラン型の武器を展開し、瞬時に双剣に切り替えていた。
彼は真っ先にマスターアノマリーの方向へ向かうと、トリガーを押し刀身を光らせる。
響(剣が光った...?)
男は踏み込んで剣で横一線に空気をなぞった。
4人「...............っ...!!」
彼らはまた唖然とした。
虚無を切ったはずの剣は、巨大な衝撃波となり、マスターアノマリーの腕を切り落としたのである。
怪物は唸り声を上げ、暴れ狂った。周囲を闇雲に破壊するその姿は、まるで猛獣。その姿を男は鋭い目つきで見つめた。その目には淡い光がやどる。
恵美「すっげぇ〜...」
しかしすぐに切ったはずの腕が再生してしまった。先程より凶暴性が増したのがみてとれる。
そして、それに呼応するように数匹の低級個体達がこちらへ向かってきた。
大樹「...俺達もできる限り雑魚を足止めしよう!みんなまだ弾はある?!」
3人は頷き、大樹もそれを確認するとニヤリと笑う。
そして、4人は同時に腕を上げ、目の前の...比較的小さな化け物に向けた。
???「...ほう...」
そして、片方では火花が、片方では閃光が歪んだ空を彩る。4人が雑魚たちを仕留める頃に、長髪の男はマスターアノマリーの四肢を切断しきっていた。
響「いつの間にここまで...!」
???「フン、こいつがマスターアノマリーだと...?口ほどにもないな。...一気に落とす......!!!」
彼は双剣を再びブーメランに戻すと、今度は両刃をそれぞれ反対の方向に向ける。
咲「なんか大きい手裏剣の類みたいですね....」
そして先程よりも目と頭髪が輝きを増し、指先から糸のようなものが伸びた気がした。
トリガーが押され、警告音が響く中。
男は髪と目を鈍く光らせ、構えをとった。
ゆっくりと瞼を閉じ、深呼吸をして1拍。
(........異能、《レイルウェイズ》...!!!)
飛び上がった一筋の光は、軌跡を描きながらマスターアノマリーを取り囲む。
そして再び地に足をつけると、手に握り拳を作った。
その瞬間。
残された軌跡の光は縄のごとく怪物を縛り上げ、
...その軌道上を、双剣が踊り狂った。
切っ先は怪物を切り刻み、そして男の手元に戻ると、大きな十文字を最後に描いた。
怪物は徐々にその形を崩してゆき、
.......そして華々しく爆風とともに散ったのだった。
???「我々人類に喧嘩を売ろうものなら、.........もう少し賢くなってから来るんだな、化け物め。」
大樹「...すっご.........まるで人間の動きじゃなかった...」
恵美「...かっけーーーー...........」
4人が感嘆の言葉を零していると、男はすぐに振り返った。
???「さあ、時間がない。その少女とともにここを出たまえ。これ以上その子の浸食が進めばもう生きてはいられんからな。」
そう、淡々と言葉を綴る男に響は待ったをかけた。
響「...どこから出ろって言うんだ、どうやって入ったかも分からないのに。」
男は訝しげに睨んだ。
大方信じられないといった様子である。
しばらく考える動作をすると、なにか腑に落ちたように顔を上げる。
???「...おい、それは本当なのか?何も虚言は無いな?」
恵美以外の3人はこくりと頷く。
おちょぼ口にして3人を見る恵美に男は話しかける。
???「...どうやらお前は違うようだな?この3人のツレかと思ったが。」
恵美「...いやーツレなんだけどさ。あたしと落ちた理由が違うなーって。あたしはこの子と一緒に来たんだけどさ。...その、なんつーかな....床をすり抜けてくみたいな......」
男は一瞬目を恵美から逸らし、
???「......わかった。とりあえずここを離れろ。今は逃げるのが先だ。すぐに救助部隊に連絡を取る。」
なにか引っかかると感じつつも、無線で何者かと会話していた。時たまこちらを見つつ、状況を事細かに伝えている。
恵美「...あたしたちお縄になっちゃうとかないよね?ほら、ここ一般市民がいちゃいけないっぽいし...」
咲「やめてくださいよ縁起でもない...でも、そうなったら私たちどうなっちゃうんでしょうね...」
響「十中八九拘留でもされるだろうな。それに、恵美。俺たちは『一般市民』じゃないんだぞ。」
恵美「...そういえばそうじゃん」
大樹「まあまあ、まずは命が大事だ。ここを脱出して、その子供を親の元に帰さないと」
しばらくして、固い装甲に身を包まれた兵士が駆け寄ってきた。
屈強な兵士「指揮長!!ただいま参りました!!」
背の高い兵士「直ちに案内を済ませますか~い?」
男は軽く頷くと、武器を持ち直し、前方を見据えた。
???「俺はまだここに残る。お前たちはここから出て避難基地に行け。青髪の子が抱える子はもうノード3.5だ。基地に着いたら速やかに応急治療を施せ。わかったな!」
背の高い兵士「し...指揮長はどうするんですか?もうマスターアノマリーは倒したはず...」
男はいいから行けと言い去っていき、不思議そうに2人の兵士は首を傾げた。
屈強な兵士「...まあいっか。よし、あなた方は着いてきてください。安全な場所までお送り致します」
咲「よろしくお願いします...」
響「...お願いします」
恵美「うぃーっす」
大樹「すみません、ご迷惑をおかけして...」
そうして一行は歩き出すのだった。
...そうしてしばらく歩いた頃。
兵士が小声で喋っていた。
屈強な兵士「......おい、これどうすりゃいいんだよ!!」
背の高い兵士「知ッらッねッえッよ!!こっちだって気まずくて困ってんだよ!!!」
背の高い兵士は顔色ひとつ曇らせない4人を横目で見ながら苦虫を噛み潰したような顔をする。
背の高い兵士「...俺たちが今まで救助してきた中でこんなに静かで大人しいやつ見た事ねえや...」
屈強な兵士はキョロキョロと首を動かす4人と浸食の症状で昏睡している少女をチラリとだけ見ると、ため息をついた。
屈強な兵士「指揮長も言ってたけど、マジで経験者ばりの落ち着きだな...」
背の高い兵士「大体は訳が分からなくなってパニクるはずなんだけど...もしかして指揮長の言う通り『野良』じゃない?あんな戦闘能力持ってて一般人なわけないし」
屈強な兵士「『野良』ねぇ...所謂ストリートの何でも屋、みたいなやつだろ?法スレスレの依頼も受注して、依頼人の望むものをあの手この手で取り寄せる...今どきたぁくさんいるのにな」
背の高い兵士「俺達も、相手取ってるのが重役とかばっかってだけで、野良とかギャング共とあんまし変わらないと思うんだけどな...」
そう愚痴を零していると、
響「...あの」
兵士たち「どわぁあああっ?!」
どこからともなくニュっと響が間に入ってきた。
背の高い兵士「な.....なんだい、君。何か困ったことでも?」
響「...いや、まだ着かないのかなって...」
屈強な兵士「もうそろそろ我々の駐屯地が見えるはずです。あの場所からは幸いショートカットの経路が存在するのでまだ早い到着かと」
大樹「こら響、兵士さん困らせない」
大樹が後ろから声をかける。
響は心外とばかりにムスッとした顔になる。
響「む、困らせてない。ただ会話をしてるだけ。」
恵美「ほぉんとかなぁ?響ってたまに無自覚で人を困らせt」
ベキョッと、響は大方とてもただじゃ済まないであろう音を恵美の頭部から鳴らした。
兵士2人「?!」
咲「...あーあ、余計なこと言うから...」
恵美「......痛ぁい......」
そんな茶番もそこそこに、やっと彼らは駐屯地までたどり着いた。
そこには、先程見た空の大軍の中にいた軍用の大きなヘリが、黒々と機体を光らせ居座っていた。
恵美「おぉ〜!!!いいですなあこの感じ!何人乗れんのかな?!」
先程深刻なダメージを負ったであろう恵美は何故か何事も無かったかのようにはしゃいでいる。
兵士たちは少し恐怖を感じつつ、ヘリの中へと響たちを連れ出した。
中は存外狭く、そこら中に物資や機械があった。
響「........」
大樹「はえー...すっごいな...技術力の塊みたいなとこだ...」
咲「ほら姉さん、はしゃいでないで行きますよ!」
恵美「えーいいじゃんちょっとくらい楽しんだって!!!」
兵士は楽観的な彼らを苦笑いしながら見ると、抱えている少女を手際よく治療室に寝かせ出発の準備をし始めようとした。すると、
響「......おい」
先程まで俯いたままだった響が顔を上げた。
屈強な兵士「?なんでしょうか」
背の高い兵士「トイレならあっちだぞ~」
響は顔色ひとつ変えず兵士たちを睨む。
響「お前ら...一体何者だ?」
場の空気が一瞬凍りつく。
大樹「...あーーー...それ聞いちゃう?」
咲「...はぁ...まあ、そう思うのも仕方ないですけど」
兵士は少したじろぐ。
背の高い兵士「...何が言いたいんだ?」
響「とぼけるつもりなら詰めてやる。お前たち、確実に国が管理してる軍じゃないな?」
その場にいる全員が静寂を保っている中、響は畳み掛けるように言葉を続ける。
響「あの時降りてくる奴らを見てずっと引っかかっていた。全員装備が均一じゃない。銃、軍刀、斧、さっきのやつに至ってはブーメランの剣ときた。...まるでギャングの連中みたいなバラツキだ。まあ、レパートリーはお前たちが格段に多いが。それに...」
制止を諦めた大樹が間に割って入り続ける。
大樹「このヘリ、警察予備隊の持ってるものにしては数が思ったより少ないし、まず備品があの連中の持つようなもんじゃないものばかりだ。さらに言えば、軍用ヘリなのに会社のロゴと名前が着くわけが無い。...ハーレイテックス、だったっけか?」
屈強な兵士は驚きのあまり後ずさる。
屈強な兵士「入るまでの短時間でそこまで...!」
背の高い兵士(...さすが、俺たちより若いのにあそこで生きてたまであるな。)
恵美「...ステゴロでもやぶさかじゃないけど?」
響「第1はまず命ってこと忘れるなよ。」
恵美「っへへ、わかってらぁ」
背の高い兵士「おっとっとっとストップストップ!!別に取って食ったりしねえって!!」
ジリジリと間合いを詰める4人を制止するも、その目はまだ警戒が全く解けていなかった。
背の高い兵士「…って、いつの間に俺達の武器まで…!」
大樹の両手には兵士二人が持っていたライフル銃があった。響が問い詰めをしている間に彼が奪ったのだ。
屈強な兵士(この隠密力と手練れさ…今どき一端の野良でも稀にすら見ない精度…!!)
2人の兵士は同時に、こう悟った。
この若人たちは、只者ではない――――――
と。
背の高い兵士「あーもうわーったわーった!もうここまでされちゃお手上げだ!話すから!話すから一旦落ち着けって!」
屈強な兵士「...うーむ...なんといえばいいのか...」
悩んでいると、背の高い兵士が一瞬渋い顔をして口を開く。
背の高い兵士「...レギオンハーツ」
屈強な兵士「?!お、おいっ」
4人の体がぴくりと動く。
背の高い兵士「シナリオケース22、プロトコル03。『素性に関してやむを得ない場合最低限の情報を一時的に述べる事。対象の身辺情報によっては記憶処理または終了、一時的な調査の協力要請を可能とする』...俺たちみてえな下っ端が覚えてなくてどうすんだよ。」
屈強な兵士「...はぁ。あなたたちも反応を見るに、名前は知っているんですね。」
咲「...噂程度だと思ってました...いままでやってきた中で出会ったことなんてなかったので」
大樹「一般には市政の特殊部隊の1つ、少し上層になると俺たちみたいな依頼請負人の集団がいたり...とか」
恵美「...うっそーん......」
背の高い兵士「ま、まあそういうわけで、俺らはデカい依頼先から...特に国から依頼を受理して今ここにいるっつーわけだ。...だから...な?武器下ろしてくれよ...?」
4人はお互いの顔を見ると、やっと戦闘態勢を解いた。
兵士2人がほっとしていると、響が彼らに近づき
響「...さっきの子はどうなった?別の部屋に置いたようだが。」
と、少女の状態を訊いた。
屈強な兵士「応急処置で何とかなりそうです。今は先程より様態は良くなっていますから...到着する頃には回復しているでしょうね。」
咲「わかりました。お疲れさまです。」
屈強な兵士「...いえ、あなた達のおかげですよ。あの子が助かったのは。」
兵士二人はコックピットへ赴き、ヘリを離陸させに行ったのだった。
4人は安堵すると、各々楽な体勢でその場にへたりこんだ。
咲「よかっ...たぁ〜〜〜〜......!」
響「...お手柄だな、恵美。」
一瞬空気が止まった。
恵美「うぇっ?!...え、あぁ〜...あ、ありがと...」
大樹「珍しいじゃないか、響が恵美のこと褒めるなんて」
響「…悪いか。」
恵美は顔を逸らす響をニヨニヨ見つめると、やめておけばいいものを反応をいじりだした。
恵美「おンやァ〜〜〜〜〜〜〜〜????おやおやおやおや????なになになになに何ですか響さぁ〜ん!なぁ〜んで顔逸らすんですかぁ〜〜〜〜??」
響「...っ、なんでもない。」
恵美「へいへいへいへい素直になろうぜ響ちゃんよぉ〜!照れ隠しは良くないぜぇ!?」
響「照れてない。離れろ。」
恵美「えぇ〜?!意外と可愛いとこあるじゃねえn」
響「フンっ!!!!!!!!!!!!!」
恵美「ごふぇえッ!?!?!?」
大樹「...あーあ...余計なことを...」
咲「...でも...」
咲は顔を紅潮させながら肩を上下させている響と、重い一撃を食らって床で震えている恵美を見ながらこそっと大樹に言った。
咲「響さんも大概、ツンデレ気質ですよね。」
大樹「......まぁ、確かに...」
バラバラとかすかにプロペラの音がこだまする中、彼らは束の間の平和に身を預けるのであった。




