No.7:新たなる戦いの渦へ
...あの後。
響たちは無事に「崩壊区」を脱し、避難基地へと足をつけようとしていた。
少女「やだ!!おねえちゃんたちがいい!!!!」
屈強な兵士「そ、そうは言っても...」
少女「おねえちゃんたちがいないならあたし行かないもん!!!」
背の高い兵士「...うーんどうしたもんか...困ったなぁ...」
外で何やら少女が駄々を捏ねている。どうやら、様態はほとんど回復したようだ。そう、4人は中で安堵の表情を浮かべた。
恵美「......で」
ヘリ内の一室。無機質な白の壁が彼らを取り囲み、
恵美「なんであたしらこんなガッチリと固められてんのさ!!!!!」
手足を固定され、身動きが取れない状態であった。
大樹「しょうがないじゃないか。気づかないうちに浸食が進行してたら避難基地になんか入れるわけないし...」
響「...我慢するしかない。手に付いてるのが手錠じゃなくて良かっただろ。」
恵美「はーーーーなーーーーせーーーーー!!!!」
じたばたと恵美は暴れる。しかし、思いのほか固定具の素材が固いようだ。そして。
咲「一応の防犯の為に異能鎮静剤飲まされてるから...誰も異能使えませんしね」
恵美「うがああああああああああああああああ!!!!!!!!」
大樹「...まあ、すぐ終わるし。どうせ浸食状態の検査なんだから。痛くもないし、すぐ離してくれるよ」
そう話していると、また外から声が聞こえてくる。
少女「嫌だっ!!!おねえちゃんたちが来るまで待つもん!!!絶対動かないもん!!!」
対して恵美。
恵美「うがああああああああ離せーーー!!!!」
響「...まるで写し鏡だな...あれだ、類は友を...なんかだ」
大樹「...友を呼ぶ...全くその通りかもしれないね...いや、一回り以上も離れてるのにやってること一緒ってどうなんだ...?」
咲「妹として不甲斐ないです...」
恵美は抵抗を諦めたのか、ものすごく嫌そうな顔をしながらぐったりしている。
程なくして、2人の兵士が少女を連れて戻ってきた。
屈強な兵士「...はぁ...じゃあ、すぐ終わるから、ここで待っててね?」
少女「あい!!!」
背の高い兵士「ちゃんとじっと待てる~?」
少女「あいっ!!!!」
咲
大樹(純真な瞳だなあ...)
そうして数分たち。
屈強な兵士「さぁ、検査は終わりです。結果は紙面の通りですので、ご確認ください。」
そうして4人に紙が渡される。
恵美「あーーーーやぁーっと開放されたァーー...」
恵美は伸びをするとブンブンと腕を回した。
響「全員異常なし...心配事も無さそうだな。」
大樹「やっと外に出れるね...」
背の高い兵士「そんじゃ、さっさと外に出ようか。...ちびっ子が健気に待ってる」
そうしてドアが自動で開くと、奥で小さな少女がちんまりと立っていた。
彼らを見るやいなや、パァっと明るい笑顔を周囲に振りまいた。
少女「おねえちゃん!!」
少女は目を輝かせながら4人の元へと駆けていった。
そうして一人一人にぎゅっと抱きついていく。
そうして、外を眺めていた響を見つけ、じっと見ていると響は気づいたのか少女と目を合わせた。
響「...?」
響は不思議に思いつつも目を少女から外そうとする。すると、いきなり少女は響のそばまで走り出した。
響「?!な、何だっ」
直後、響の首元には少女の腕が巻きついていた。
少女「むふふふふ〜♪」
響はいきなり抱きついてきた少女を慣れた手つきでかかえると、少し面倒くさそうな顔をしながらもしっかりと支えた。
響「...危ないだろ全く...」
恵美「かわちぃ〜〜〜!」
恵美は少女の柔らかな頬をつつく。しかしやり過ぎたのか、少女は怒って恵美の指を噛んだ。
恵美「ぎゃあああああああああ!!!!」
大樹「...アホなんだから...」
むくれ顔になりながら響にしがみついている少女は、ふと兵士2人の方を見た。
少女「兵隊さん、疲れてる?」
少女が指さした方向にいる2人は、少々待ちくたびれた様子である。
咲「...ちょっと戯れすぎました...申し訳ないです」
恵美「...行こっか、皆。この子を早く親に返さなきゃ」
大樹「そうだね。避難先でこれからの事も考えなくちゃいけないし。」
響「...そろそろ下ろしていいか」
少女「えー...」
大樹「まぁまぁ...ほら、行こう?」
少女は差し出された大樹の手を嬉しそうに握ると、
少女「...んっ」
と頷いた。
咲「...大樹さんも響さんも割と子供に好かれますよね。本人自覚ないですけど」
恵美「第1発見者あたしなんだけどなー...いてて...」
...彼らが歩いて避難基地の中に入ると、そこには混乱した人々でごった返していた。
一部は治療を受け、一部は恐怖でガタガタと震えている。
響「...いつもこんなに酷いのか。」
背の高い兵士は首を横に振り、ため息をついた。
背の高い兵士「いつもこうじゃないんだ。ただ、今回はあまりにも突然だった上、大半が落ちたのは特に危険な場所だった。」
屈強な兵士「...そう、いつもこうじゃないんです。だから指揮長は調査のために残ったのかもしれません。」
神妙な2人の顔につられて4人が心配の表情を浮かべていると、どこからか声がした。
???「マーシャ?」
その声のした方に一同は振り返る。するとそこには、
少女「...!!!!お母さん!!!!」
どうやら母親もここにいたようだった。
少女の母親「あぁ、無事だったのね...!!てっきりもうダメかと思ったわ....!!!」
続いて父親らしき人があとから来た。
少女の母親「あなた!!マーシャが帰ってきたわ!!」
少女の父親「マーシャ?!マーシャなのか!?」
マーシャ「お父さん...うんっ...!!」
親子はお互いに強く抱き締め合った。
そうして母親が兵士の方を向くと、慌てて父親と共に駆け寄ってきた。
少女の母親「あぁ...!!本当にありがとうございます...!なんと、なんとお礼を言ったらいいか...!!!」
何度も頭を下げる少女の両親を前に、2人の兵士は顔を見合わせる。
背の高い兵士「...そういうことなら」
屈強な兵士「彼らに言うべきですよ。助けた張本人は我々ではなく、あの少年少女たちです。」
すると両親は4人の方へ向いた。
少女の父親「...あの若者たち4人が、ですか?」
少女「兵隊さんの言った通りだよ。あたし、あのお姉ちゃんたちに助けて貰ったの!」
少女の父親は心底驚いたような顔をした。
少女の父親「まさか....本当に彼らだと言うのか...?!あんな若い少年少女たちが、あんな軽い装備でここから脱出して...挙句には娘まで助けてくれたって言うのか?!信じられない...」
4人は満足気な表情を浮かべる。小さな命を守ったという実感は、その手に残った少女の手の温もりが証明していた。
少女の母親「...あなた達は...何者なんでしょう...?そんな芸当が出来るなんて...」
4人は表情を固くする。堂々と口にできるような身分ではないのだ。
警察予備隊だと誤魔化せる兵士と違い、彼らは生身で武器を携行していた上、崩壊区...さらにC2フィールドから少女を助け出すという離れ技を成し遂げたのだ。
どう誤魔化そうか、とその場を取り繕っていると、少女の父親は何となく察したのか、母親を制止した。
少女の父親「カレン、あんまり深追いしてやらないでおいたほうがいい。どんな人だって、大事な娘を救ったのは事実なんだ。...それに、隠し事を探るのは良くないだろう?」
少女の母親「あなた...そうね。ごめんなさい、こんなこと聞いちゃって。とにかく、本当にありがとうございました...!」
母親は兵士や響達に深々と頭を下げる。
そうして。
少女「ばいばーーーい!!」
親子3人は避難基地の奥へと消えていった。
響「...そういえば、こんな大層な基地にこんだけの人を集めてんのに、疑われないのか?それに、崩壊区の活動だって完全に伏せる事は出来ないはず...何より装備が違うだろ?」
響はふと気になり横にいた兵士に聞いた。
すると思いの外すぐに答えが帰ってきた。
屈強な兵士「我々のことは一般市民の間では...国に雇われている傭兵団、という認識が主です。そういう風に情報は操作してありますし、何より混乱を招きかねないですから。」
大樹「...あんまり知られちゃいけないはずなのに...さっき簡単に話してましたね」
屈強な兵士「あなたたちは勘が鋭い。更に武力行使でも制圧はできないと来れば仕方がないのです。...確かに犯罪集団やギャングにはお見通しでしょうが、あくまで開示するのは最も外側にある情報のみ...詮索でもされて余計なことを知られてしまえば、我々も相応の対処をしなければならない、ということです。」
ゾワッ。
4人の背筋に悪寒が走る。
恵美「き、急にガチトーンで言うのやめてよね...」
屈強な兵士「これは冗談でもなんでもございません。世界に多大な影響を及ぼすことなのですから。」
咲「...私たちは...まあ別に情報を外に漏らす気なんてさらさらないですけど...」
咲は響たち3人の方を見る。
響「俺達もその情報は活用の選択肢がある。このまま手放すには惜しいんだ。記憶処理でもされようもんなら困るな」
兵士2人は難しい顔でコソコソと話す。しばらくした後。
背の高い兵士「そういうことなら俺に考えがある。」
ずいっと顔を4人に寄せ、身を乗り出すような体制になる。
背の高い兵士「単刀直入に言うと...お前たちには俺たちレギオンハーツに協力して貰いたい」
4人「協力...?」
背の高い兵士「そう、あのツンケン眼鏡サンはあんたらの行動力を買ってたし、どうやら敵意もなさそうだしっつーことで、臨時の調査に参加してもらいたいんだ」
屈強な兵士「あなたたちの戦闘センスは他よりも群を抜いています。それに、崩壊区に滞在していたにもかかわらず、現実と遜色ないであろうパフォーマンス...貴重な戦力となりうるはずです」
大樹「えっ...で、でも...俺たちそこまで知識とかないですよ?!現に俺達も救出された身ではあるし...」
咲「あの量の化け物...しかもあんなに強いもの、私たちじゃ歯が立たなかったのに...」
屈強な兵士「それに関しましては我々の方で簡易的な武装を支給致します。簡易的な軍用サーベルと我々と同じカスタムタイプの銃のいずれか...まあ両方でも構いませんが。」
恵美「んーーーーでもなぁ...」
4人は突然の提案に慌てふためいた。
そもそもレギオンハーツの兵士たちが来なければ、朽ち果てていただろう。
そんな危険な地にさっきまでいたにも関わらずもう一度そこに赴けと言うのだ。
響「俺達も仕事柄、そういう事はメリットがないとするつもりは無い。なにか俺たちにとって得がなかったらすぐには頷けないな。」
背の高い兵士「もちろんタダ働きじゃないさ、きっちり報酬も出そう。」
響「...報酬...ん?」
響がなにか思い出したように顔を上げた。そして4人の方に振り向く。
響「昨日の依頼の報酬....どこいった?」
恵美、咲、大樹「...あっ」
3人は膝から崩れ落ちた。そのケースには割かし大金が入っていたのだ。
屈強な兵士「...可哀想に」
背の高い兵士「あの様子じゃあ、全部消し飛んだみたいだな...」
.......流れる沈黙。
恵美「....泣きそう」
咲「.......端的に申しまして、辛いです」
大樹「....貴重品とか全部あっちにあるのに....」
響「何より俺たちは今日から晴れてホームレスの1文無しだからな...」
4人「はぁ~~~~~~~~~.........」
背の高い兵士「....ちなみにそいつぁどこなんだ?」
大樹は弱々しく顔を上げ、へにゃりと顔を横に潰しながら言った。
大樹「.......環状地区南郊外、旧23番区4号。スパイアタウンの2つ隣町のとこです...」
屈強な兵士「....なるほど、崩壊区の圏内に...」
背の高い兵士「まだ起点の座標から1200メートルズレてる...モノ自体は歪んではないだろうが...まぁあの地区の建設構造は...な」
屈強な兵士「...わかりました。モノは歪んでいなくとも、建物自体は狂う可能性が高い...手間取りそうですが、やれない事はない筈。5人くらい向かわせよう」
背の高い兵士「おう。...良かったな、戻ってくるぞ...多分な。...あー、これで報酬チャラってことでいいか?」
大樹「はい...ありがとうございます...!」
咲「...よ、良かったぁ...」
恵美「マジ神っす......」
4人は心の底から安堵したのだった。
報酬の代わりとして全て回収してくれるということで、結局彼らは協力要請に応じることにした。
そしてその後、4人は軽めの武装を支給され、ちょうど増援要請がかかったため準備をしていた。
恵美「おぉ......!かっけぇ!!」
大樹「しっかりした造形だな...」
響「...武器が軽く振れる...流石だな」
彼らは初めて見るような武装に新鮮さを感じていた。
その裏で、兵士の1人が誰かと会話をしていた。
...相手は先程の長髪の男である。
兵士「...それは本当なのですか?」
???「ああ、間違いない。確実だ。」
兵士「わかりました。前哨基地はもう完成したようなので、我々もすぐ向かいます。...あぁそれと」
???「なんだ、なにかトラブルでも?」
兵士「先程の『野良』の方々、参加するようですが...うちの兵士5人程度が彼らの私物の回収に向かうとのことです」
???「はぁ?!」
兵士は突然耳に響いた轟音に驚いた。痛そうに耳を抑えると、男が怒涛の苦言を並べる。
???「なぜ今この状況でそんなことをする?!人員の無駄使いというのが分からないのか?!」
兵士「...ですが...彼らは報酬としてそれを...」
はぁ、と無線越しに男はため息をつく。
???「まあそのぐらいならまだマシだが...わかった。すぐ向かえ。」
兵士「はっ!!」
大樹「...さあ皆、気を引き締めよう。俺たちができることをしなくちゃ」
恵美「足引っ張んじゃねえぞぉ~?」
咲「姉さんが言いますか」
響「お前が言うな」
恵美「ねえ酷い」
そんな彼らの前にいる兵士は、下唇を噛み、眉間に皺を寄せるのだった。
そして崩壊区。
――――――『警告。新たな上級アノマリーの兆候を確認。直ちnnnnnnn』――――
バキッ...と、災難の始まりを告げる音がどこかで鳴り始めるのだった。




