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No.4:入り乱れる非日常

...埃にまみれた地下鉄の駅の中。


数発の銃声が轟き、歪んだ断末魔が音の隙間を埋めるように反響する。ボロボロと崩れ落ちる怪物だったものが地面に落ちては消失し、そのたびに埃が足元を覆う。


そうして立ち上がった煙が辺りの視界を遮る中から青髪の少女...恵美が姿を現した。



恵美「ふぃー...あらかた倒した...ハズ?もうほんっとヒヤヒヤするなぁ...いちいちゼロ距離で撃たないとくたばってくれないんだから...しかもここあの裂け目から結構離れてるくせしてけっこーバケモンうようよいるし」



幸い近くにいたのは5匹程度しかいなかったため疲弊した恵美でもギリギリ対応出来たが、おかげで銃弾をいくつも消耗してしまった。


懐がだんだんと薄くなっていくのが、感覚でよくわかった。



恵美(一応武器は持っといた方がいいんだろうけど...やっぱし銃は慣れないな...げんこつファイトじゃ絶対太刀打ち無理だし...かといって異能乱発したらまた響にどやされちゃうし...何か他に武器になりそうなものとかないんかな...?)



落ちた薬莢を蹴飛ばしながら辺りをキョロキョロと見回しながら呑気に歩いていると、駅員の事務室が目に止まった。



恵美「...しめた!!絶対あそこじゃんね!」



事務室ならば押収された武器なんかがあるハズ。そう思い立ち塗装のはがれたドアノブに手をかけるも...



恵美「...うーん開かないか。わかってたけど。」



力技で開けたところで音に反応してまた怪物たちが集まってくる可能性が高い。


そうなると必然的に戦うことを余儀なくされるため、また残り数少ない弾薬を更に消耗してしまう。


諸々のリスクやデメリットを考えた結果、渋々恵美は事務室への侵入を諦めホーム内を息を潜めながら練り歩くことにしたのだった。





...そしてまたしばらく経ち、道中で何度も危機一髪の状況になりながら、何とか改札までたどり着いた。



恵美「よっ...と!うぇ〜い無賃乗車〜」



閉まったままで動くことのない改札のドアを飛び越えて遊びだす恵美は、ふとすぐ隣にある駅員室に目が止まった。



恵美「…もしかしたら…」



何か有用な物があるかもしれないと、恵美は駅員室に侵入することを決意した。



恵美「よっ...こいせっ...と...ふぃー...窓が空いててよかった...ホントはダメだけど今の状況じゃなりふり構ってられないからね~...ま、もっとやべえことあたし達はやってるわけだけど。」



恵美は駅員室に窓口から侵入すると、書類が散乱している室内を目の当たりにする。



恵美「...うげぇーーー....こっから探せってのぉ....?!勘弁してよねもぉー!...はぁ...そんじゃ失礼...」



ガサゴソと物が散乱しているデスク周りを漁っていると、懐中時計が目に留まる。



恵美「あ....駅員さんのかな...?不思議だねぇ...ちゃんと動いてるのに、ずっと反対回りに進んでる…」



駅員室にかけられている時計も、針の進み方が滅茶苦茶になっていた。


自分の知る世界ではないという錯覚じみた感覚に恵美は少し身震いした。



恵美「...おっ」



床に何やらカードのようなものが落ちていた。


拾い上げると、使用済みの定期券であった。実に3ヶ月ほど過ぎている。



恵美「ちぇー、パクって使えると思ったのにさー...まぁしゃーないか。どうせ使う場面の方が少ないし。...えーと、他には...っと。うーん、まず紙の束片付けっか!」



実に能天気である。


書類をあらかたどけ終わると、次は膨大な量の引き出しを調べることにした。



恵美「うげ...重労働だなぁ...まぁ物資漁りしてるだけだから結局自業自得だけど。」



一つ一つ、ガサツながらもくまなく調べていく。中には、時刻表や使用済の切符、その他様々な専用器具や小物が詰まっていた。


武器にできそうなものが見つからずそろそろ面倒と思い始めた頃。



恵美「...あ、鍵。」



恵美は小さな鍵を見つけ出した。


一瞬先ほど開かなかった扉の姿が脳裏をよぎったが、記憶にある事務室の鍵穴とは合わないことは容易にわかった。



恵美(どこの鍵だ...?車...なわけないか。マジ頭おかしくなるくらい昔の話だし)



ふと顔を上げると、一つだけ鍵のついた引き出しがあった。


吸い寄せられるように鍵を穴に差し込むと、ピッタリとはまる感触がした。


右に回し、カチッと音がする。



恵美「...っしゃ、ビンゴ!!」



ガラッと引き出しを開けると、中には色あせてしまっているカードキーらしきものがあった。


表裏を確認してみても、それが何なのかは到底わかりはしなかった。



恵美「鍵を鍵付きの引き出しにしまうって...変なの。」



恵美はカードキーをもとの引き出しへ押し込みぐるりと部屋全体を見渡す。


もうあらかた調べきったことを確認すると、恵美は先程入ってきた窓から外へ出るのだった。



恵美「...収穫なし、かぁ...あーあ、やっぱこんなきちゃない場所に期待するもんじゃないなぁ...」



溜息をつきながら肩を落とししょげていると、どこかで子供がすすり泣く声が聞こえた。耳を澄ませてみると、それはより鮮明に聞こえてきた。



恵美(子供...女の子かな...まさか迷子?…いや、バケモンが擬態してるなんて可能性も…)



恵美は手元の銃に視線を落とす。まだ弾は残っている。いざとなればこの狭いホームでも異能を使えば逃げられるはず。



恵美(…行くか)



声を頼りに奥へ進むと、しゃがみこんで泣いている少女がいた。



少女「ひっぐ...ママぁ...どこに行っちゃったのぉ...」



5歳くらいだろうか。隅で肩を小刻みに震わせている。


恵美が近づこうとした足音に反応し、びくりと体を弾ませると、へたりと座り込んだ。



少女「イヤ...イヤぁ...ママ!!助けて!!!」



恵美「えっちょっ...!あたし人間だから!落ち着いて!マジで!お願いだから!!」



恵美は慌てて誤解をとこうとするも、少女の興奮は留まらなかった。



恵美「うにゃあああもう!!」



泣きわめく少女を抱きかかえ、肩で口を塞ぐ。


すると、ジリジリと足を擦るような音が聞こえた。



恵美「...!!!っっっっぶねぇ...」



咄嗟に少女を抱えながら物陰に隠れる。


幸い死角だったようで、息を潜めれば気づかれることはなかった。


恵美は少女の小さな口を手で塞ぎながら人差し指を唇にあて、シーッとかすかに息を漏らす。


少女は恐怖で大粒の涙をポロポロと流しながら、コクコクと何度も頷いた。


その後しばらくして怪物が去ったのを横目で確認すると、そろりそろりと足音をたてぬよう歩き出した。




気づくと、そこら中で人の形に限りなく似た、それでいて人には到底見えないような異形が何匹も駅の中でうごめいている。


目も、口も、鼻も、耳もなく、その顔はぐにゃりと歪んでいた。


恵美(改めて見るとめっちゃキモイなこいつら...夜に見たらちびっちまいそう...)


横を歩く少女に視線をやると、ピッタリと恵美の袖にはりつき、辺りを心配そうにキョロキョロと見回している。


他人といる時の沈黙が嫌いな恵美は、話しかけるべきでは無い状況の少女といることは何よりむず痒いことだ。



恵美(...まずいな...こんなところに子供が紛れ込んでいたなんて思わないじゃん...!)



そういえば。と、ふとある疑問が脳裏によぎる。


恵美は、思い切ってこの場所にいた経緯を訊いた。



恵美「...ねぇ、キミ」


少女「なぁに?」



少女は首を傾げる。


先程までの恐怖で充ちた顔はすっかり消え、離れぬようにと恵美と手を繋ぎながら歩いている。


小刻みに、きれいに整えられたブロンドの髪が揺れた。



恵美「...ここまでどうやって来たか、思い出せそ?...えっとその〜ほら、お母さんとかは?」



少女は首を振る。


そして、俯き寂しそうな顔をした。



少女「ママはね...さっきまでいたのにね、どこかに行っちゃったの。そしたらね、さっきのおばけが出てきてね、走ってたらここまで来たの」



恵美「...こんな所まで電車で来たの?」



少女は今度は首を縦に振ると、



少女「でもね、なんでここに来たかわかんなくてね、よくわかんないの」



と幼い声で話した。


恵美は状況を整理し、とにかくこの少女を保護することが最優先であると判断した。



恵美(あのニュースがあった後だ、電車は止まってるはず。...かと言ってトンネルの中を歩かせる訳にも...待てよ?)



一瞬、恵美は歩みを止める。



少女「...?おねえちゃん、どうしたの?」



少女の声に遅れて気づき、安心させようと慣れない作り笑顔を顔に貼り付ける。



恵美「あぁ...ううん、なんでもないの。ほら、行こう?」


少女「うんっ」



再び歩き出すと、恵美は普段まともに働かせない頭をフル回転する。



恵美(何かがおかしい。普通に考えて崩壊が発生したのはあたしたちが起きた9時過ぎより前のはずだからまあ普通に考えて電車なんて来ない。避難用路線を使うってのもあるけど...あそこは崩壊が起こったとしても空間異常対策は整備されてる。な~んでこの子だけ来ちゃうかな...)



考えるうちに、恵美と少女は改札口を通り抜けホームへと出てきた。


地下鉄だからかやはりどこか薄暗く湿ったような空気が流れており、汗と混じって肌先に不快感が芽生えてきた。


出処の分からない歪んだ音が微かにホーム内でエコーがかかったように響き渡り、改札口の奥ではまだ化け物が足を引き摺っているのが音でわかる。



恵美「こいつら、ほんとゾンビみたいだなぁ...音キモいし見た目もキモいし。てか、遮蔽物あったら飛び越えようとか思わないわけ?」



そんな事を小声で言っていると、少女が突然なにかに反応した。



少女「...!!ママ!ママだ!!」



少女の視線の先には、髪の長い女性の姿をした人影が立っていた。


顔はぼやけていてよく見えないが、白い服で、娘であるこの子供と同じブロンドの髪を垂れ下げていた。



恵美「...えっ?」



おかしい。


絶対おかしい。


あんなところに人がいるわけない。


だってそこは...



――――――「鏡の先」だから。



恵美「ダメ!!お母さんはそこにはいない!!!」



手元を離れ鏡の方へと駆け出していく少女に手を伸ばす。


しかし恵美が掴んだのは、


さっきまで少女がいたはずの、誰もいない空間だった。



恵美「...えっ...」



突然の状況に恵美は混乱する。


いつの間にやら鏡の女も消えていた。



恵美(いま...さっきハッキリ見えた。あの子...床の下にすり抜けてった。まるで...『落とし穴に落ちた』みたい。...もしかして...)



空を切った自分の手と少女がいたはずの場所を交互に見つめると、もしかして、と恵美は1歩踏み出す。


落ちたと思われるところだけ、妙に視界がぼやけていた。


1歩。


また1歩。


あゆむ度に心臓の鼓動が早まる。


この先は本当に未知の世界だ、と直感がこれまでにないほど警鐘を鳴らしている。


それでも、まだ小さなあの少女を救わなければならない、と意を決し、そしてまた次の1歩を踏み出そうとした瞬間。



恵美「うわぁっ?!」



恵美は床をすり抜け、深淵の中へ落ちていく。


そこに残ったのは、やはりとめどなく流れ続ける不気味な音。


その音色は、どこか改札口に流れるものと似通っていた。





恵美「どわっ?!痛ってぇー........もうヤダ....ん?ここは....えっ...?!ちょちょちょちょちょ、えええええ...マジ?」



起き上がろうと顔を上げた恵美の目の前には、モノクロの空と、工事現場にも似た謎の街が広がっていた。


恵美の落ちた場所は、その中の廃ビルの屋上。



恵美「なんだこれ...どうなってんの...?!」



テレビのモニターらしき物体があちらこちらで積み重なり、不気味な砂嵐を映し出していた。



恵美「なぁんかやばい場所に来ちゃったんですけどぉ...?!もしかしてこれも崩壊の影響かなんかなわけ?」



とにかく状況を把握しないと、と恵美は、立ち上がり、歩みを始めた。


しばらく辺りを探索していると、後ろから突然声がする。



少女「あっ...!おねえちゃん!!」



恵美は振り返り、安堵の表情を浮かべている少女に駆け寄った。


目立った外傷はない。


しかし、服は少し汚れている。


恵美は手でできる限りその汚れを振り払いながら、少女の安否を確認する。



恵美「大丈夫?!怪我は無い?!」



少女はこくりと頷くと、恵美の袖に掴まりながら



少女「おねえちゃん、ここ、どこ?」



と、不安そうな声色でそう尋ねた。



恵美も首を左右に振り目線を四方八方に向け周囲を確認すると、頭を掻いた。



恵美「...あー...あたしもさっっぱりわかんないんだけど...取り敢えずここにお母さんがいないか探そっか?」


少女「うんっ...!」


恵美「まあ、こんなとこにゃ多分いるわけないんだけど...まぁ念の為...ね。」



そうボソッと呟き、2人は慎重に歩き出した。降りれる道があったので降りようとするも、そこは先程見たものよりも人からかけはなれたおぞましい生き物の闊歩する地獄であった。


2人は固唾をのみ、互いに目を合わせる。



少女「おねえちゃん...あれ、何...?怖いよ...」


恵美「大丈夫大丈夫、見つかんなきゃいい!かくれんぼと鬼ごっこを同時にやるだけよ!」


少女「...うんっ」


恵美(とは言ったものの...どう切り抜けっかなぁ、これ...)



幼い少女の手を握る恵美は、ただため息をつくしかなかったのであった。


...




一方またどこかで、3人の少年少女がこの世界を彷徨っていた。



響「案外広いな...クソ、なんでもっと早く気づけなかったんだ...それに、恐らくここは」


大樹「...ああ、響の考えてることで間違いないと思う。...まぁしょうがないさ...とにかく、生きて帰ることが大前提だ。恵美が待ってるんだから」


咲「もしかして姉さんもここにいたりして....?なぁんて、まさかあるわけないですよねぇ〜...」


響「十分に有り得る。崩壊なんていう現象に絶対があることはないからな。」


大樹「うーん、事態がどんどん悪くなってる気がするなあ...」









――――――――――――




重装備の男「...指揮長、見つけました。おそらくあそこが入口です」


???「ああ...やはり座標通り。上にマップ演算改定を依頼して正解だったな」


重装備の男「最近多いですよね~崩壊...ま、見合ったギャラが貰えてるだけマシっちゃマシなんですけど」


???「...お前な......まあいい。いつも通りの仕事だ。総員、フィールド突入準備!!!」


兵士たち「了解ッ!!!」





少年少女が迷い込んだこの不可解な世界で、





「(神々しい『音』を発している。)」




響たちの理解など優に超える、『世界の主』がいることを知るまで、そう、時間はかからないであろう。




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