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No.3:未知の奥底で

女性ニュースキャスター『速報です!!郊外での侵食が過去最速レベルに迫っています!近隣住民の方々は直ちに避難を開始してください!今はご自身の命が優先です!直ちに、避難を開始してください!!』


徐々に、ざわつきが強まっていく。能天気に過ごしている都心の人々も、ニュースにたじろぎ始めていた。


...そして、少年少女が武器を手に駆け回る、彼ら以外には文字通り「人」のいない街。


どこからか警報のサイレンが鳴り、まるで殺伐とした戦場のようになっていた。


奥でそびえる裂け目は鈍く禍々しい佇まいで、なにかに反応しているかのようにエネルギーらしき光を放出していた。


糸のように広がるそれは、確かにこの世界を食い尽くさんとしているようである。


そんな地獄がすぐそこにある中、街の一際大きな(と言っても他の街と比べて廃れてはいる)街路で、耳をつんざくような金切り声と数発の銃声が鳴り響いた。


恵美「オラァッ!!こっち来んな!!!」


ズドン、と銃口から鈍い音を吹き出させる。弾は怪物の貫かれた胴体と共にボロボロと崩れ去っていった。



咲「ひぃいい変な顔してこっち来ないでください!!」


大樹「こいつらに変な顔もクソもあるのかな...」



倒しては増え、倒しては増えのサイクルに響たちはうんざりし、そして徐々に迫ってくるタイムリミットに焦りを覚えていた。



響「こいつら、前に出くわしたやつより手強いな...!」


大樹「それだけじゃない、侵食の速さも段違いだ!!」



そうこうしているうちにあちら側の攻撃もそろそろ激化してきていた。


何より数をいなすのはそう簡単では無く、いくら響たちとは言えど流石に限界というものはある。



大樹「くっ...無駄にしつこいな...!!こいつらに疲れって概念はないのか...?!」



空にポツポツと散らばっている雲がその形をぐにゃりと歪め始めていることを気にする余裕など彼らにはなく、ただ指でトリガーを引き、武器を振り下ろす事で精一杯であった。


空気も不快なものに変わり、焦りは募りつづけ最高潮に達しようとしていた。



恵美「あぁもうポリ公の部隊はまだなの?!全ッ然来ないじゃん!!」


響「馬鹿言え、身分が万一奴らにバレたらあとが面倒だろ!来る前に逃げた方がマシだ!」


咲「あわわわ、ちょっと数が多くなってきてます!!」



そう、彼らも法スレスレで食い扶持を繋いでいるため、もし彼らの素性がバレてしまえばどうなるかは想像にかたくないのである。


基本的にこのような「崩壊」が起こった場所で活動しているのはこの異形生命体か、政府直属の警察予備隊、それか力のある裏社会の連中なのだ。



大樹「なんにしろこのままじゃずっとここに留まったままだ!!早く突破口を見つけないと!!」


咲「でもちょっとこの数をいなすのはいくらなんでも無理があります!!やっぱり救助を待った方がいいんじゃ...きゃあっ?!」



突然、周辺の地面が音を立て、そして小刻みに地表が揺れた。



恵美「な、何....?!」


咲「いやあああなんですかなんですかぁあ!!!???」



アスファルトごと地面が抉れ、咲のいる場所だけではなく、至る所に浮遊する小さな島がいくつも点在し始めた。


やっと響たちは周囲が著しく歪んできていることに気がつき、さらに焦りを募らせていく。


それと同時に、街の建物の数々が大きなヒビを刻み、いくつかは鉄骨がむき出しになり、あるいは完全に地面から離され始めた。


崩壊によるエネルギーに耐えきれないのである。



恵美「あぁ〜マイスイートホームも崩れちゃうよぉ〜!!」


大樹「そんな事言ってる場合じゃないでしょうよ…第一、あそこただ廃ビル不法占拠してるだけだから家でもなんでもないし」


響「クソ...早く行かなきゃいけないってのに...!!」



しかし、周りには怪物が何十体もいる。


しかめっ面をしながら戦い続けてもう早10分が過ぎようとしていた。


抉られ浮遊した地面に取り残された咲は、たまたま近くにあった標識でバランスをとった。



咲「ひぃいい!!なんか浮いてるんですけどぉ?!」



ちょうど咲のいる地面が抉られたため、咲だけが小さな島に孤立していた。



大樹「咲!!降りられそうか?!」


咲「わ、私は大丈夫です!!それよりあれを何とかしなくちゃ!!」



咲は大群を指さす。


ぞろぞろと出てくる化け物達が映る光景はさながらゾンビ映画であった。



咲「うぅ~...私だけ取り残されてる...でも、ここなら安全に狙えますっ!!」



一際大きな銃声が鳴り、そして恵美のすぐ真横を通り過ぎて行った。



恵美「おわっ?!ちょっと咲!どこ撃って...あ」



恵美が銃弾の当たったであろう背後を振り返ると、自分のすぐ後ろでボロボロと崩れ落ちる怪物がいた。



咲「全く、ちゃんと周りを見なさいっ!」


恵美「へへ...スンマセン」


響「全く今まで生きてるのが不思議だな」



頭を掻きながら少しバツが悪そうに舌を出した後ろで、また怪物が襲いかかろうとする。


すると、



恵美「ウラっ!!」



持っていたハンドガンのグリップ角を怪物に思い切り押し付ける。すると衝撃で怪物はよろめき、その隙に恵美は引き金をゼロ距離で引いた。



大樹「おぉ、流石」


恵美「にしし、なんてったってあたしゃスーパーつよつよ恵美お姉ちゃんだからね...ッ?!」



余裕そうにふんぞり返って歩いていると小石につまずき転んでしまい、あだっ?!と情けない声が恵美の口から漏れ出る。


このように恵美が調子に乗ってヘマをするのを見るのは、最早彼らの日常の一部。


ここに来てやっと、そのことが思い出された。


びたりと地面に伸びている恵美を響は足で小突き、ため息をついた。



響「お前なぁ...仕方の無いやつだな、全く」



そして背中を雑に掴んで立たせると、服に着いた汚れを適当にとっぱらった。


その様子を眺めていた咲は思わず、



咲「お母さんみたい...」



と零してしまった。



響「うるさい!誰がお母さんだ!!」



声高で華奢な声を荒らげる響は、どこか威嚇している猫のようにも見えたのだった。


しかしこれ以上茶番をしている余裕は彼らにはなく、先程まで響たちに迫ってきていたものが崩れ去り、立ち代わるようにぞろぞろと増援が出てくる。


時間が経つにつれ、徐々にあちら側の戦闘力も大きくなっているのがわかった。



大樹「ッ?!まずい、こいつら、さっきより火力がでかい!このままじゃ長く持たない!!」



恵美「.......。」


響「チィッ!ちょこまかと鬱陶しいな...!!」



怪物たちの恐ろしい声が絶えず鳴り響く中。


咲は上から怪物の頭や胴体目掛けて弾を送るも、やはり大群相手には豆鉄砲に等しかった。


刻々と過ぎ去ってゆく時間。段々と目の前が歪んだ化け物で埋まり、突破が困難を極めようとしていた。


その時。不意に恵美が決心したように顔を上げた。



恵美「みんな、ちょっとどいて!!」


大樹「恵美...?何を」


恵美「あたしが...《《道を開く》》!!」



いつもどこか間の抜けている目をしている恵美だが、今はどこか「本気」を思わせた。



響(あいつ...なるほど、そういう事か)



彼らが自分の視界から完全に外れたことを確認すると、恵美は前傾姿勢に入る。



咲「...姉さん...あぁもう、あんまり被害出さないといいんですが...!」



深呼吸をし、開いたその目と髪は淡く青々と光っていた。



響「......来るッ!!」




――――――瞬間。



青い髪の少女は轟音を巻き起こす旋風となって街を一閃に駆け抜け、響たちはその強大な風に押され少しだけ後ずさった。


その軌跡が砂埃の風穴として残り、淡く、青色の閃光がくすんだ砂埃の色を染めていた。


砂や瓦礫の破片が当たらないよう腕で防ぎながら、恵美が走っていったであろう方向を目で追う。


数秒たち砂埃が完全に晴れると、化け物たちは消え去り、そこには恵美が足を踏み込んで前進したであろう跡が大きな地面の割れ目として堂々と張り巡らされていた。



大樹「...っはは、使ったか...」


咲「ずっと使う場面がなかったから忘れてましたけど、そういえばここ、いい場所ですね...『アレ』を使うには...」




...この世には、数々の奇っ怪な力が存在している。


形を変えながらこの世界に影響を及ぼし続け、ある時は自然現象となり、またある時は生活の一部となりうる技術のひとつとして何千何万と続く人類史に深く関わってきた。


その中で、特別な場合を除き確認される限りヒトにしか発現しない超常的な力を人々、ひいては人類は、



「異能」



と呼んだ。


異能の特性は千差万別且つ定義がしにくいものがほとんどであり、所持している者も完全には分からない。


異能を発動しない限りは異能者かどうかも判別ができない場合がある。


しかし絶対的な異能の特徴として、異能の使用時には頭髪や虹彩が発光することが挙げられる。


恵美の異能は、端的に言えば機動力の極限的加速。


凄まじい初速をたたき出せる故に走り出す時の風圧は半端なものではなく、小さな子供程度であれば吹き飛ばすことさえさできることが出来る程の風が一気に降り掛かってくるのである。


そんな彼女の異能も万能ではなく、コントロールが効きにくく小回りがきかないため場合によっては進む直線上にいる関係のない人やものまで巻き込んでしまう可能性がある。


そのため恵美が使えばスムーズにことが済んだであろう時に使うのを躊躇ったのもこれが原因である。



響「恐らくあいつは突き当たりにぶつかってる。アイツが先で囲まれる前に行こう。」


大樹「そうだね、せっかく逃げやすくなったのに恵美がまたトラブってちゃ本末転倒だ。咲-、降りられるかい?」



しかし咲は大樹の言葉に反応せず、ただ立ち上がったままじっと恵美の向かった方を見つめていた。



咲「...この道、姉さんが異能を使えるとはいえ、こんなに長く続いてましたっけ...?」



片眉を上げて立ち尽くしている咲に響はジト目で呼びかけた。



響「なぁにぼーっとしてんだ、早く行くぞ!」


咲「は、はい!今降りますね!」


大樹「少し高いけど、咲、大丈夫かい?」

咲「うーん...心配ありません!私も《《使う》》ので!」


すると咲は、先程の恵美と同じように目と髪を鮮やかに煌めかせ、武器を持ってひょいと飛び降りた。


その落下速度は、まるで羽のようである。



響「...便利なもんだな、その異能」


大樹「姉妹揃って久しぶりに使ったんじゃないかい?」


咲「まあ...姉さんに比べて効果も不安定ですし、無闇やたらに使えないからこういうことぐらいしかできないですもの。」


手をぷらぷらと揺らしながら咲は苦笑いをした。


今のところ、咲の異能が可能とされているのは重力磁場の一時的、局地的な操作、という事になっている。


本人も言うように、特性が不安定ゆえ不慮の事故を防ぐために彼女自身もこのような場面以外での使用は控えている。



咲「ふう...。それじゃあ...行きましょっか?後ろ、来てますし」



咲の言う通り、背後にはあまたの異形たちがぞろぞろと出てきていた。


大樹と響は頷き、そして3人は瓦礫が吹き飛び見晴らしの良くなった寂れた街路を駆けるのだった。



一方、その頃恵美は。



恵美「...っはぁー、こりゃ派手にやっちったなぁ...さっさとずらかろ...って、そうだ、あいつら置いてきちゃったんだった」



よっ、と軽やかに飛び起きると、服に着いた埃を払った。


その後ろではもうもうと辺りに煙が立ち上り、ビルの壁にはぽっかりと穴が空いていた。


先程の衝撃の余波で少しだけふらつきながらもすぐに体制を立て直し、軽快な足取りで駅のホーム前まで来た。


その奥では、快晴の空が、歪みながら堂々とそびえていた。


そして中へと入ろうとする彼女を迎えたのは、駅員でも一般市民でもなく、自我なき異形たちである。



恵美「何さ?定期もなけりゃ切符も買ってないけど?運賃は前払いなわけ?それかあんたらの分も買えって?えぇ?」



本能的に反応しただけなのか何かしら意味があるのか、数匹が金切り声をあげる。



恵美「まぁまぁ落ち着きなって...すぐカッカすんの良くないよん?」



やれやれ、と恵美は顔を下に向けニヤリと笑みを零す。



恵美「っへへ...あたしゃツレの3人が来るまで場所取りしなきゃなんないからさ、キープしてるとこを取られんのはちょっち許しちゃいけないんだよね~」



恵美は瞬時に間合いを詰めると銃身で殴り掛かり、そのまま2発発砲した。


怪物は為す術なく地面にうちつけられ、そのままぐったりすると崩れていった。



恵美「へっへーん、今日のあたし調子いいじゃん?...そんじゃあお先に入って交通整理でもしていきますか...」



残りを全て掃討し終えると、余裕そうに銃をくるくると指で回しながら中へと入っていった。


当然、中はもぬけの殻。


不気味に駅のホームから音が流れてくる。


元々廃れた場所だからか、入口から漏れ出てくる光が余計に不気味さを加速させる。



恵美「うへぇ...なんかホラー映画でもできそう...」



電灯が明滅する薄暗い通路を通り、やっと駅のホーム周辺へと出てきた。


地下鉄の駅にしては少々広く、足音が反響するほどであった。


妙な気配がたちこめ、風の音すらなく足音がなければそこにはただ静寂があるのみとなる駅の中を散策する恵美は、一瞬だけ人影が通り過ぎたのを見た。



恵美「...お?」



生存者か?...そんな期待を抱きながら話をしようと駆け寄ろうとするも、よく見れば先程の異形とほぼ同じような見た目をしていた。



恵美「スゥ-..........失礼しました~...」



足音に気づいた怪物は恵美の方をぐるりと向いた。そして縄張りの侵入者を排除するべくジリジリと近づいてくる。


そして恵美が後ずさろうとした時、背後にも気配を感じ、振り向くと既に恵美は通路の前後で囲まれていた。



恵美「やっべ...こりゃやっちったな...うぅ~、やっと安心できると思ったのにぃ!」



今度は心底面倒くさそうに銃を構えると、すぐに真剣な顔で立ち向かっていった。


銃声と引っ掻くような断末魔が段々と静寂を塗り替え駅の中を満たしてゆく。


裂け目が段々と日常を蝕んでいく中で、


それぞれの場所で少年少女は、戦うことを余儀なくされていたのであった。


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