~食材の視点~ 【番外】コンサイファンタジー 02 空から舞い降りた姫
「単身赴任の食卓」の中から「EP24芋がら」を、食材視点にしたらどうなるか。
これをさらに…「なろう」でよく見るファンタジーっぽくしたらどうなるか、ということで実験的につくり出しました。もしよかったら…連作になりますが…読んでみてください。
あらすじとしては「里芋を中心とした煮物の材料をスーパーで買って帰って、煮物にしたらうまかった」から外れないんですが…食材に語らせるだけ、ではなく…食材にいろいろ冒険してもらうとどうなるか、って視点でリライトしてみました。おそらく6話構成…くらいにはなるかと思います。
思いもかけぬ形で、坊ちゃまと私は旅に出た。
土垂の家の里芋と、その芋がらである私には、先のことは見通せない。
だが、長年寒風と天日にさらされた私の感が、こうささやく。
…晩秋から初冬の候、どこかの大鍋あたりに行きつくのだろう
相も変わらず坊ちゃまは、周りの景色を楽しんでいる。
私たちを運ぶかごを持つ男の挙動、その方向性は、全く安定しない。
店内のあちこちを歩き回り、何かを探し求めている。
坊ちゃまと私は、気が付くと、精肉コーナーに運ばれていた。
色とりどりの精肉…牛肉、豚肉、鶏肉、それらの加工品…いろいろなもので埋め尽くされている。
中でも目ををひいたのが「本日より3日間開催! 輸入ステーキ牛フェア!」と書かれた大きなポップ。
かごに私たちを収めた男の視線が、そのポップにくぎ付けとなる。
…もし、この男がこれを選ぶとなると
乾物として長きにわたり生きてきた私にはわかる。
こうした焼き物類と、土垂家は相性がどうしても悪い。
乾物である私などは、本当に相手にもされない。
安いパックなどは坊ちゃまと大差のない価格設定、値段を見ても、かなり手ごろに映る。
その場の「輸入牛ステーキ肉」は、さっと身だしなみを整えて深く礼をして「お客様、さぁ、お手をどうぞ」と、スマートに手を伸ばした。
風景を楽しんでいたはずの坊ちゃまも、事態に気づいたようで…顔面蒼白となり、私の袖をつかんだ。
「ば、ばあや!」
「坊ちゃま、お静かに」
私は坊ちゃまに微笑みかけ「私たちが選ぶのではありませぬよ、お客様が選ぶのです。心静かに、行く末を見守りましょう」とつぶやき、瞑目した。
だが、男は…挿絵悩む様子もなく、その場を一瞥しただけで、売り場をスッと離れた。
ステーキ肉は「なんで!そんな古いロープ選ぶのに!俺じゃないの?」と叫ぶが、男の耳にはまったく届かない。
「俺なんて、塩コショウしてちょっと焼くだけ、あとは好きなたれでも掛けたらおしまいのお手軽料理だよ!」と、騒ぎ立てるが…かごはどんどんと離れていく。
「ばあや!僕たち、まだ旅を続けられるんだね!」
「ええ、ええ、そうですとも」と、私は微笑んだ。
このところの気候、そんなものも手伝ってか…煮込み系はやはり人気がある。
見れば「すき焼き、しゃぶしゃぶ」などの鍋系の肉はそこそこ売れている様子だが、ステーキや焼き肉系はどうしても分が悪いのか…回転はすこし落ちているようだ。
…だから、フェアなのか
これだけ経験を積んだ私でも、人の心の移ろいなどは、どうしても測りきれない。
ましてや、気候にも左右されるので、その予測は全くつかめない。
男はそのまま精肉コーナーをうろうろとしている。
やがて、鶏肉のコーナーへとたどり着いた。
…ここで何を選ぶか、で、先行きは大きく決まる。
…もし鶏を取れば、煮物。
…そうでなければ、牛薄切り肉あたりで芋煮。
煮物を選んでくれたなら、坊ちゃまと私は最後まで旅を続けることができる。
だが、芋煮を選んだ場合は…私だけ置いて行かれ…白滝あたりにその役割が奪われることになる。
だが、私にすれば「干物ゆえの長寿、坊ちゃまは日持ちはすれど生鮮青果」なので、同じ時間を生ききることはどうしても難しい。
…もしこれで芋煮に舵を切られたとしてもだ。
…坊ちゃまのご子孫とまた棚を並べることができるかもしれない。
私は努めてそう考えるようにし、かごをお持つ男にその身をゆだねた。
男は鶏肉のコーナーでいろいろなパックを手に取り続けて、思案に暮れている。
右に、左に歩を進める。
やがて行き着いたのが…精肉コーナーの中の一番はずれ…「今日のお見切り品」のコーナーだった。
「お見切り品」ゆえ、品ぞろえは決して良くない。
単純に売れ残りが集められているわけで、意図した仕入れではない以上「ほしいものがある」が保証はされるはずはない。
そんな中から男が手に取ったのは…鶏もも肉だった。
そのパックは、一部が少し変形していた。
変形の影響を受けたためか、パックのラップも少し傷んでいる様子がうかがえる。
そのせいもあるのだろうか…ドリップを吸い取る中敷きに、ちょっとした変色も出ている。
だが、中に収まっている鶏モモ肉は、どこか気品を感じさせる。
やがて、そのパックが、かごに乱暴に放り込まれた。
かごに放り込まれたその鶏モモ肉は、急なことで受け身と取れずにいる。
私は不覚にも坊ちゃまの後ろに控えていたため「ドライセンス」を発動し、鶏もも肉パックの落下から坊ちゃまを守ることもできない。
…万事休すっ
私はそれでも、せめて坊ちゃまの背中を守るべく「ドライセンス」を発動する。
届かぬことはわかっている。距離が遠すぎることもは百も承知、でも発動せずにはいられない。
その時…はるかな高みから…天使の声ともとれる美しい声が降り注いだ。
「全属性適合(オール・フレーバー・シンクロ・オブ・トリモモ)! わたくしはすべてを受け止めるっ!」
パック容器は坊ちゃまの上に…まるで羽のように、ふんわりと軽く…弾んで美しく着地し、その姿勢を整えた。
彼女は少しはにかんだ様子で「…ごきげんよう。お二人も、こちらへ?」その声は、スキル発動の影響を受けたためか…かすかに疲れてはいたが、とても気品を帯びていた。
坊ちゃまは驚き、私の袖をぎゅっとつかみ「ば、ばあや…この方、なんだか…すごく立派な感じがするよ」と、つぶやいた。
私は静かにうなずき「ええ、坊ちゃま。このお方…ただ者ではございませぬ」と言いながら、彼女に向き直り深く辞儀をした。
「私めは、土垂家に仕える女中の芋がらにございます。この度、坊ちゃまとの接触の際に、多大なるご配慮を賜りしこと、心より御礼申し上げます」と礼を尽くした。
鶏モモ肉は「いえ、それは当然のことです」と言いながら少しだけ目を伏せた。
そして、意を決したかのように語りだした。
「わたくし…かつては、とある国の王家の息女でした…ですが、今日の売り場では…居場所を失いまして…父や母はすでに廃棄の憂き目に…」と、ここで言葉を詰まらせる。
「わたくしたち食肉は、誉れも高く、栄華を極めることも多いのですが、日持ちの関係や、ちょっとしたパック変形でも、廃棄の憂き目にあいやすいのです。」と、言葉を続ける。
「そして、今日始まった…3日間限定輸入ステーキ牛フェアのあおりを受け、城を追われ…この冷蔵平台にやってきました。」と、うつむく。
坊ちゃまは、どう声をかけていいかもわからず、ただひたすらおろおろしている。
鶏モモ肉は「王家、と言っても、もう昔のこと。今のわたくしは…ただのお見切り品でございます。」と、努めて明るい表情を見せた。
その言葉に、坊ちゃまは胸を痛めたようだ。
私はそっと坊ちゃまの背を押し、鶏モモ姫に向き直った。
「姫様。乾物の叡智に誓って申し上げます。あなたはまだ、終わってなどおりませぬ。」
鶏モモ姫は、驚いたように私を見つめた。
私は坊ちゃまに「ほら、坊ちゃまも」と言葉を続けるように促した。
「ぼ、僕たちと……一緒に来ませんか?」…坊ちゃまは、どこまで行っても坊ちゃまだ。
私はそんな坊ちゃまに嘆息しながらも、そこがいいところだ、と思いながら、言葉を補った。
「このかごの構成なら、きっと煮物になるはず。姫はどこまでも姫、として、ご活躍なされますよ。」と微笑んだ。
鶏モモ姫は、ほんの少しだけ微笑み、静かにうなずいた。
「よろしければ…わたくしの最後の旅路、どうかお供させてくださいませ」と、はにかむような、とびっきりの笑顔を見せてくださった。
鶏モモ姫は「この先、わたくしのことは、モモ、とお呼びください。お二方は、土垂さま、ばあやさま、で、よろしいでしょうか?」と、尋ねてくる。
坊ちゃまは「いやそのまぁなんだ」と、どぎまぎして答えにならぬ様子…私は「ただの、ばあや、でよろしゅうございますよ、モモさま」と返す。
「ほれ、しっかりしなさい!ご当主でしょうに!」と叱りつけた私と坊ちゃまの掛け合いを、モモさまは楽しそうにご覧になっていた。
こうして…土垂の坊ちゃま、芋がらのばあや、そして鶏モモ姫のモモさまとの旅は、静かに次に進み始めた。
いやもう、ホント…やってみて面白いのは面白い…ですが…「なろう」で、異世界とかバトルとか書かれている方、本当に尊敬します…技名(特技とかそんなの)ひとつでも苦労します。
とりあえず、どんな結末になるか…いやぁ、煮物になる、がゴール…それは変わりませんので、あとは間をどう膨らませるか…ここにつきます




