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~食材の視点~ 自己否定する「塩」

これは「単身赴任の食卓」のなかの、EP04、自己否定する「塩」から、着想を得ました。

塩なのに、と思って手に取って、いややっぱり塩じゃん、話ですが…ネーミングとかが面白い、と感じて、うちではレギュラーです。

俺は、棚の端っこでひっそりと生きている「減塩タイプの塩」だ。

緑色のキャップが目印だが、正直あまり誇らしい色ではない。


だってそうだろう…塩なのに、塩を減らされているんだ…自己否定もいいところだ。


普通の塩たちは、いつも堂々としている。

有名ブランドの塩は、棚の一番いところを占めている。


「年末の討ち入り」で有名な土地の塩は「年末でもないのに、いつでも大威張り」で、目立つところに居座る。

「美しい海」で有名な地区の塩は、その地方の言葉を使った商品名で、周囲とは大きく差別化を図る。

「太陽の光と、地区を吹き抜ける風だけでつくられた」をウリにしている塩は、自然、を強く打ち出している。

外国人労働者向けにも見える「狂った塩」というちょっと物騒な商品も、俺を生み出したベースの「食卓に常時ある塩(赤いキャップ)」も、そういった塩コーナーの一角で存在感をあらわにする。

青いキャップの「アジ」のついた「シオ」ですら、本当に目立つ場所に置かれている。


…だが、俺ときたら。


名称がもう半端…「塩」なのに「減塩」…その立ち位置の半端さを面白がり、棚に乗っている姿を写真に撮られたりもする。

だが写真に撮られても、実際に手に取られることは、あまりない。

海外からやってきた「ピンク色の小砂利っぽい岩塩」のほうが、目立つ。


…別に拗ねているわけじゃない。


俺のとがった部分…カリウムの都合で、俺を避けなければいけない、という人も存在する。

腎臓があまりよくない人には、俺を構成する成分は「害」にもなりかねない。

そういった点まで踏まえると「血圧だけで考えて」という立ち位置だけでは済まない俺は…万人向け、とはいいがたい。

だから、俺は「選んでくれる人がいる」のを、棚の片隅で、じっと待つ…そういう風にできているんだから、そうする、と決めていた。


俺が棚の端っこで、今日もひっそりと存在感のなさを発揮していたときだ。

かごを持った男が、ゆっくりと通路を歩いてきた。


男は調味料棚の前で立ち止まり、しばらくの間、何を買うか迷っていた。


…まぁ、どうせ俺じゃない。


そう思っていた。

俺はいつもそうだ。

期待しない。

期待して裏切られるのは、減塩塩の宿命だ。


ところが、男の視線がふっと俺のほうに向いた。

緑のキャップが、蛍光灯の光を反射したのかもしれない。

あるいは、ただの気まぐれかもしれない。

だが次の瞬間、俺は、棚から持ち上げられていた。


…え?


思わず声が出そうになった。

いや、塩に声帯はないんだが、気持ちとしてはそんな感じだ。


隣の「赤いキャップ」が「おいおい、マジかよ」と、小声をあげた。

「討ち入りで有名な地区の塩」は「俺のほうが絶対うまいのに!」と、つぶやいた。

「美しい海の塩」は「あたしのこの、雪のような美しさが響かないとはねぇ」と嘆息し、海外からやってきた「ピンクの小砂利」は「フン」と、そっぽを向いた。


ここの店員と思われる、賑やかなイメージのある若い女性は「それ、意外といいんですが…腎臓に病気がある人は医師に確認したほうがいいですよ」と注意を促した。


…おい、せっかく手に取ってくれたのに!

…てか、俺の前でそれ言うか?いや、正しいんだけどさ。

…正しいんだけど、なんかこう、俺はそれが胸に刺さるんだよ。


でも、男は悩むでもなくあっさりと「特に問題ないです」と答え、俺をかごに入れた。


その瞬間、俺は思った。

ああ、この人は「俺を選んだ」んだな。

減塩で、半端で、自己否定みたいな名前の俺を。


かごの中には「昔の宇宙刑事みたいな名前の黒コショウ」がいた。

やたら自信家で、「おう、新入りか。よろしくな」と軽いノリで話しかけてきた。


俺は控えめに「いや…俺、減塩だから…その…」と、返す。

宇宙刑事ギャバンは「関係ねぇよ。役割をこなせばいい。お前はお前の仕事をすりゃいい」と、笑った。


…なんだよ。ちょっと嬉しいじゃないか。


男は豚バラ肉にいろいろな食材を巻き付けている。

宇宙刑事ギャバン黒コショウは「たぶん、あれに俺らを振りかけて、焼くつもりだ」とつぶやいた。

俺は「そんなことされて…俺って…持ち味出せるのかな」と自嘲気味に言うと、宇宙刑事ギャバンに背中をバン、とたたかれ「やるんだよ、俺らが味を決めるんだ」とあおられた。


俺の頭の緑のキャップが外される。

瞬時躊躇いはあったが…エイヤと外に飛び出し、豚バラの上に降下する。

ほどなく黒コショウも舞い降りてくる。


そのままトースターに閉じ込められ、俺と宇宙刑事ギャバンは豚バラ肉の上で一体となっていく。

熱がじわりと広がり、豚バラの脂が俺を包んでいく。

その瞬間、俺は初めて「塩としての役目」を果たしている気がした。


ひどく哀愁の漂う「ちん」という音とともに、トースターの扉が開かれた。


皿の上に乗った俺は「どうにでもなれ」と思い、目を閉じていた。

宇宙刑事ギャバンは「力入れ過ぎだよ、大丈夫だって!」と勇気づけてくれる。


男は一口食べて、小さくうなずいた。


「…うまい」


その一言で、俺の存在は満たされた。

減塩でも、半端でも、緑キャップでも…俺は、この人の夜に寄り添えた。


「ほらな、言ったろう? 味は俺らが決めるんだよ」

俺は、宇宙刑事ギャバンに黙ってうなづいた。

宇宙刑事ギャバンは、皿の端で小さくガッツポーズをしていた。

塩分の取りすぎによって、血圧が上がる、とかいろいろあるんですが、やっぱり食事に塩分は欠かせないわけで…だから、こういう塩も開発されたんでしょうね、と思います。

基本自分は「ノーマル」よりは「ちょっと手が入ったもの」を選ぶ傾向にあり、赤いキャップの塩はほとんど買いません。かといって、高級ブランドのお塩を選んでも「差が分からない」くらいのバカ舌あほ舌ビンボー舌ですので…青いキャップやら、緑のキャップで十分満足しています。


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