~食材の視点~ 鶏肉とカシューナッツ炒め~プレミアム版~
この話は「単身赴任の食卓~学食編~ 鶏肉とカシューナッツ炒め~プレミアム版~」から発想を得ました
このシリーズのもとは、自分で作れる「単身赴任の食卓」から得ることが多いのですが…今日、偶然に中華料理屋でカシューナッツ炒め(プレミアム版ではない、普通のもの)を食べまして、視点変更可能かな、と思い、エイヤと書いてみました。
俺は、今日も銀色のバットの中で、静かに出番を待っていた。
朝から厨房は灼熱で、火の上をくぐり抜けた俺は、照り返しの強い夏のアスファルトみたいに熱を帯びている。
鶏肉たちは、まだまだ若い。
プリプリしていて、油を吸ってもなお弾力がある。
皮の部分なんか、パリッとしていて見た目だけでも非常に香ばしいのがよくわかる。
ピーマンは色鮮やかで、見た目担当としての自覚が強い。
それだけではなく…この調理法なら、普段は嫌がられる苦みですら、もてはやされる。
そして俺…カシューナッツは、今日も香ばしさ担当だ。
「今日は当たりだな」
「ごはんにのせて丼にしようかな」
配膳台の向こうから、若い男性たちの声が聞こえる。
ああ、やっぱり鶏肉は人気者…ピーマンはその主役を添える名わき役。
俺は…モブに近いほどの脇役。
でも、モブにはモブの誇りがある。
噛んだ瞬間の「カリッ」が、どれだけ料理全体を引き締めているか…わかる人にはわかるのだ。
そう思っていた。
俺は、仲間たちと一緒に皿へと滑り落ちた…はずだった。
気づけば、周りはほとんど俺の同族。
カシューナッツ、カシューナッツ、カシューナッツ、ピーマン、糸くず程度の鶏肉、カシューナッツ…
本当にピーマンが申し訳程度に顔を出すが、鶏肉の姿…糸くず程度、皮のかけら程度しか見えない。
…これは、もしかして事故か?
…それとも、運命のいたずらか?
皿の向こう側、若い男性とは大きく世代の違う、初老男性が俺を見下ろしている。
どこか体調でもよくないのか…じっと身じろぎもせず…顔に立て線を見えるほど刻みながら、じっと皿を見つめている。
その視線は鋭いというより、困惑と諦めが入り混じったような…そんな温度だった。
「…カシューナッツばっかり」
初老男性の心の声が聞こえた気がした。
いや、実際に漏れていたのかもしれない。
きっと初老男性は「鶏肉が入っていない、鶏肉とカシューナッツ炒めなんて、大佐専用の赤いモビルスーツのツノがないのと同じだろう!」と、訳のわからないことを考えているに違いない。
「先生、ナッツ好きなんじゃないですか?」と、向かいの若い男性が、ぽつりと言う。
「センセ、ナッツ好きそうな顔してますよ」という言葉には、カシューナッツである身を忘れて、俺が吹き出しそうになった。
…どんな顔だ、それは。
でも、初老男性は、苦笑しながら俺を見つめている。
別の若い男性が「先生、それ当たりですよ。鶏肉よりナッツのほうが高いっすから」と、言う。
…そうだ。俺たちは、地味に高級食材だ。鶏肉よりも、原価はよほど高い。
つまり初老男性の皿は「原価的には、ツノこそないが大佐専用」ということになる。
初老男性は「騙されんぞ!」と言いながらも、口元は緩み、どこか楽しげだ。
結局初老男性は。俺をひとつ残らず食べてくれた。
「ツノなしカシューナッツ炒め」を、黙々と、でもどこか楽しげに完食してくれた。
皿が空になったとき、俺は思った。
…脇役でも、主役でも、誰かの一日の物語に混ざれたなら、それで十分だ。
初老男性は食堂を出て、強い日差しの中へ歩いていく。
「いつものスーパーで、唐揚げでも買って帰るか」
初老男性のつぶやきに、俺はどこか安心した。
鶏肉は鶏肉で、ちゃんと愛されている。
それなら、今日の俺たちの役目も、きっと悪くなかった。
鶏肉のカシューナッツ炒め…これ、ちょっとあまっ辛くて、おつまみぽくもあり、ご飯に乗せてどんどん食べちゃう、もできるので結構好きです。
ただ、さすがに自分で作れるかなぁ、という懸念はあり、未だに挑戦したことはありません
今住んでいるところは、カスの圧力が強い(そんなことなるのか?)のかどうかは不明ですが、ものすごい火力をコンロがたたき出してくれるので…作ってみたい一品、ではあります。
単身赴任の食卓、でも出せるよう、ちょっと頑張ってみようかな…




