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~食材の視点~ 第三のねぎ

赴任先のスーパーは、基本品ぞろえがカオスです。

でも、地場野菜には本当に誇りを持っています。

そんな地場野菜…いや、トップブランド有名ブランドに比べたら、知名度は劣るのかもですが。でも、ほhン等に負けていません。

単身赴任の食卓EP37「第三のねぎ」からの派生です。もしよろしければ、本編のほうも読んでみてもらえると、とてもうれしいです。

土の中は、まだ少し冷たい。

でも、風の匂いが変わってきた。

春が近いのが、私にはすぐにわかる。

根っこが、季節の足音をいちばん先に拾うからだ。

今日も、おっかさんが畑にやってきた。


「よし、そろそろ出荷だよ」


そう言って、私たちを一本ずつ丁寧に抜いていく。

太くて短いこの体は、長ねぎとは違う。

土の中でぎゅっと身を締めて育つから、重い。

それが私の誇りでもある。

箱に詰められ、軽トラに揺られ、スーパーへ運ばれた。


―――――


土の中は、朝になると少しだけ緩む。

夜の冷えが残っているけれど、太陽が昇ると、表面の土がふわりと温かくなる。

その温度の変化で、わたしは今日も季節がひとつ進んだことを知る。


ここは、とても賑やかな娘さんがいる、ご家族の畑。

周りには遮るものがないせいか、風の通りが柔らかい。


賑やかな娘さんはどこかに働きに出ているようで、たまにしか畑では出会えない。

けれど、土の扱いがとても丁寧だ。

たまに手伝いに出てくるが…植え付けのときも、追肥のときも、「よしよし、甘くなれよ」と声をかけてくれる。


…私はその声が好きだった。


土の中にいても、声は根っこに響く。

太く短い体は、私に関せられたブランド名…「甘ゆき物語」の誇り。


長ねぎみたいに背は高くないけれど、この土地の土と水をぎゅっと吸って、ずっしりと重く育つ。

ある日、むすめさんが畑に来て、私を一本ずつ抜き始め「よし、今日はこれで出荷だね」

そう言って、わたしをそっと抱えるようにして軽トラに乗せた。


…選ばれたんだ。


そう思うと、胸の奥が少しだけ熱くなった。


―――――


蛍光灯の白い光が、私たちを照らしていた。

土の中とは違う、乾いた光。

でも、ここに来ると「いよいよだな」と思う。


右側に並んだ私は、おっかさんの畑で育った「姉」。

左側に並んだのは、娘さんの畑で育った「妹」。


妹が、そっと声をかけてきた。

「お姉ちゃん、いい太さ、いい白さ、だね」

「そっちこそ。さっき出会った、とても賑やかな娘さんが丁寧に育ててくれたんだろう?」

妹は少し照れたように、白い胴を揺らした。

「うん。見かけるたびに、甘くなれよ、って声かけてくれてたよ。お姉ちゃんのところは?」

「あのおっかさんはね、黙って土を触る人なんだ。でも、その手つきがすごく優しいんだよ。あれで育てられたら、そりゃ太くもなる。」


二人でくすくす笑う。

ねぎなのに、笑うというのも変な話だけれど。


―――――


しばらくすると、買い物客が近づいてきた。


妹が「この人、料理好きな人だよね。持ち上げ方でわかる。」と、小声で言う。

「わかるわかる。重さを確かめる手つきが違う。」と、姉は観察眼を働かせた。


男の人は、まず姉を手に取った。

妹は「いいなぁ」とつぶやいた。


「大丈夫。あの人、あなたのことも気にしてるよ!」と、姉はかごの中から叫ぶ。


「甘ゆき物語、買ってくれたんですね!」…声の主は、おっかさんと娘さんだった。

男の人は、私を育ててくれたおっかさんと、妹を育ててくれた娘さんとなにやら話をしている。


おっかさんは「勝った」顔。

娘さんは「負けた」顔。


だが…男の人は、慌てた様子で「妹」の待つコーナーに駆け戻ると…ラベルを確かめながら「妹」をつかみ、そっとかごに収めた。


「お姉ちゃん!」妹は大喜びして、私に抱きついてくる。

「だから言ったでしょ?大丈夫って!」と、妹をそっと抱きしめる。


妹が嬉しそうに「ねぇお姉ちゃん、同じ家に行けるね。」と、微笑んだ。

「そうだね。どうせなら、一緒においしくしてもらおう。」


蛍光灯の下で、二人並んで袋に入れられる。

土の匂いはもう薄いけれど、心のどこかで、同じ風を思い出していた。


アルミホイルに包まれたまま、私たちは並んでトースターの中に入れられた。

古い機械特有の「じいいいいい」という音が、静かな部屋に響く。

暗闇の中、隣から妹の声がした。


「お姉ちゃん…ちょっと、あったかいね。」

「うん。じわじわ来るね。でも、この熱は悪くないよ…育った土地の味が、ちゃんと出てくる。」

妹は小さく笑った。

「おっかさんの畑の子は、やっぱり落ち着いてるね。」

「娘さんの畑の子は、素直でかわいいよ。」


二人でくすくす笑う。

ねぎなのに、笑うというのも、やっぱり変な話だけれど。


熱がさらに強くなり、体の中の水分がゆっくりと動き出し、やがて繊維はほどけ、甘さがにじみ出す。

妹が少しだけ不安そうに言う。

「ねぇ……わたしたち、これからどうなるの?」

「大丈夫。あの人、丁寧に食べてくれるよ。料理が好きな人の手つきだった。」

「そっか……よかった。」


外側のホイルが、熱で少しだけ膨らむ。

豚バラを巻かれた仲間たちが、隣でじゅうっと音を立てている。


妹がぽつりと言う。

「ねぇお姉ちゃん。わたしたち、同じ家に来られてよかったね。」

「うん。畑は違っても、どこまでも一緒だよ。」


「ちん」


物悲しくて、どこか懐かしい音が響いた。

アルミホイルが開かれる。

一気に光が差し込み、蒸気がふわっと立ち上る。

私は、白い胴を光沢に包まれながら姿を現した。

妹も、隣で同じように輝いている。

男の人が箸を入れる。

すっと割れる。

中心から透明な汁がにじむ。

その瞬間、私は思った。


…ああ、これでいい。


土の中で育った日々も、おっかさんの手の温度も、娘さんの声も、スーパーの蛍光灯も、トースターの熱も、全部がこの一口のためにあった。

男の人が目を細め「…これは、6本買って正解だったな。」とつぶやいた。

その言葉が、胸の奥にじんわりと染みた。


妹が小さくつぶやく。

「お姉ちゃん……わたし、、ちゃんと甘くなれたかな。」

「なれたよ。ほら、あの顔。あれはね、私たちを選んでよかったって顔だよ。」


外はまだ冷える夜。

けれど、皿の上の私たちは、

確かに「春の手前の味」になっていた。

このブランドのねぎ…甘ゆき物語…3本束180円てちょっと破格です。

うまいんですよ、まじで。下仁田にも宮ネギにも負けてない。

単身赴任って…基本つまらなくて…知り合い友人出来なくて、最後は部屋の壁あたりが友達になるみたいな部分もあるんですが…地方都市のこういう出会いは、捨てがたいです。

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