~食材の視点~ となり町の名産品
下仁田ネギ、とても有名でおいしいです
そんな北関東の大スター..そんな大スターに真っ向勝負をかける「地元のねぎ」
※バトル等は当然ありません。ネギバトルって、絵面的には連面白そうですが…
単身赴任の食卓EP22「となり町の名産品」が、元の話の出どころです
おれは宮ネギ。
栃木・下野の土で育った、だるまみたいな体つきのネギだ。
今日も野菜ケースの片隅で、ひんやりした空気をまとって並んでいた。
…と、そのすぐ隣に「あいつ」がいた。
下仁田ネギ。
群馬の看板スター。
太くて、まっすぐで、どこへ行っても「おお、下仁田産だ」と持て囃される。
…また来やがったな…隣県のくせに、こっちで幅利かせすぎなんだよ
そう思って横目でにらんでいると、あいつが、ふっとこちらを見た。
「おや、宮ネギじゃねぇか。いい感じで今日も曲がってるなぁ…」と、ちょっと見下すかのように語り掛けてきた。
「お、おまえな…! これは味の個性、地に合わせた栽培方法ゆえってやつだよ!」、と言い返す。
「まぁ、その地元愛は褒めてやるけどよぉ…でも、今日も俺が当然トップは頂く」と、ふんぞり返る。
やつは全国有数のトップブランド、当然支持者も多い。
だが俺は、というと「地元では、知る人ぞ知る…といえば聞こえはいいが…好事家こそよく知っているはけれど…」というレベルだ。
「はいはい。まあ、がんばれよ。おれは今日も、奇跡の甘さで圧倒する。俺は北関東、いや、日本全土を制覇するネギだ。」
…くっそ…!
胸の奥がぐらぐらと煮えたぎる。
でも、言い返せないほどの知名度の差があるのは事実だ…だからこそ、決めた。
…今日は絶対に、おまえを超えてやる
そこへ、風采の上がらぬ中年男性が近づいてきた。
どこをどのようにしてここに来たかはわからないが、表の寒さの影響だろう…頬が赤くなっている。
そんな中年男性は、おれを手に取りじっと見つめる。
…よし…来た。ここだ。ここで決める。
下仁田ネギは「おい宮ネギ、どうせ今日も残るんだろ? その男、どう見ても下仁田派だぜ?」とあざ笑うかのように横から言う。
「うるせぇ! 見てろよ!」と、一言つぶやきおれは体の芯にぐっと力を入れた。
太く、堂々と、甘みを湛えた俺自身を見てもらう。
…お、おう…おれを連れてけよ。ホント、名前は知られていないかもだが、おれは本当に下仁田にも劣らないぞ?
どれくらいの時間が過ぎただろうか…落ち着いた感じのする「おっかさん」のにおいを感じさせる女性の声が響いた。
「それ、宮ネギよ! 下仁田ほど有名じゃないけど…」を受けて、下仁田は「ほらな、知名度の差ってやつだよ」と、勝ち誇るように語る。
だが…
「有名じゃないけど…おいしいんだから!」と、しきりに俺を中年男性に奨める。
中年男性はにっこりと微笑みながら、おれをかごに入れた。
…よっしゃあああああ!!
下仁田が目を丸くながら「お、おい…マジかよ…?」とひざを折る。
中年男性が住む部屋の冷えたキッチン。
LEDの白い光に照らされ、ぶつ切りにされたおれの断面がひんやり光る。
包丁が入るたびに、俺は全力を尽くし「これでもか!」というほど、香りを立ち込めさせる。
…せっかく手に取ってもらった、その恩は絶対に返す!
白だしの湯気が立ちのぼる小さな土鍋に、豚バラ、しいたけと一緒に放り込まれる。
だしが沸き、俺の体はゆっくりと透明度を高め、柔らかくなっていく。
…ここからだ。甘さで勝負だ。下仁田になんか負けるかよ!
豚バラの脂を受け止め、だしの旨みを吸い込み、おれの甘さがぐんぐん広がっていく。
男がひと口食べた瞬間、その目が見開かれた。
…どうだ! おれの甘さ、届いたか!
その反応だけで、すべてが報われた気がした。
外はしんしんと冷える冬至の夜。
土鍋の中でおれは…下仁田を超えた気がした。
でも「下仁田にも負けないネギ」は、北関東にたくさんあります
実は、そんなことも知らずに当地に来て、スーパーで見かけたのが縁、でした。
本当に入手は難しいようです。




