~食材の視点~ 冬の風が鳴る夜に
このあたりは(当地を含め)、下仁田ネギっぽい形状のものがたくさんあります
真似、というより、品種改良等、なのでしょうが…みんなおいしいです
そんな「ずんぐりむっくりなネギ」の大将格であろう「下仁田ネギ」を題材にしました
単身赴任の食卓EP19の「冬の風が鳴る夜に」を主題にしました。
群馬の山あいで育った筋金入りの「冬の使者」…俺は…下仁田ネギ。
朝晩の冷え込みが骨身にしみる街で、泥をまとい、太く、短く、ずっしりと育つ。
細長くてシャキシャキしてるの「深谷ネギ」あたりの都会派ネギとは、立ち位置も違えば、太さも違う。
俺たち下仁田ネギは、群馬の寒さに鍛えられた「北関東の武骨な血統」だ。
群馬…茨城もなのだが、なぜか「好感度ランク」では、下位に甘んじることが多い。
俺は心底「ふざけるな」と叫びたい。
こんにゃくも、赤いだるまの弁当も、駅売りで大人気な釜めしも、峠道で溝に車輪を落としながら走る豆腐屋のせがれも、みんなみんな群馬のシンボル。
群馬の連中は、みんな俺を見て言う。
「おめぇは北関東連合の長だんべ」と、みんなに言われる。
…いや、そんな大層なもんじゃねぇと思うんだけどな。
でも、群馬の誇りってやつは、時に俺たちを勝手に「看板」にする。
なめたけにも、焼いた俺たちを添加するほど、強くこだわりを持っている。
そんな俺は、今日…愛し愛された…群馬を出た。
JAを通じ買い取られた俺は、気が付いらた隣県にいた。
「ちょっと脅かしてこい」
「存在感だけでも見せてこい」
「なんなら、おまえ一本で十分だんべ」
俺は、不安が半分…でも、群馬以外を地をこの目で見る好奇心半分…そんな気持ちを抱え、JAから運び出された。
次に気が付いたのは「関東地方都市の、とあるスーパー」だった。
すっかりと寝てしまった俺は…背中をぎゅうぎゅうに押され、泥をつけたまま箱に詰められ、ここに運ばれてきた。
そんな理不尽な目にあいながらも、俺はなぜか、この場所に嫌悪感は抱かないままでいる。
気づけばスーパーの入り口に立っていた。
そこは、冬の入り口の匂いがする場所だった。
暖房のぬくもりと、外から吹き込む空っ風の境界線。
栃木の人間たちが、夕暮れの買い物に訪れる場所。
俺は思った…ここが、栃木…地元スーパーか。。
群馬の山とは違う、どこか柔らかい空気…でも、やはり、油断はできねぇ。
北関東はどこも「気性が強い」ことで有名だ。
「交差点を渡ろうとしている人が、横断歩道に立っていても、道を譲らない」…こんなのはざら。
「右に曲がるのに、ざわざわ左側一杯まで車を寄せて曲がらないと気が済まない」…こんなの、交差点ごとに必ずいる。
「踏切で一時停止している車がいると、クラクションを鳴らす…下手するとそこで追い越す」…こんなの、朝夕はちょっ中だ。
それほど気性が荒い俺をつかんだのは…一人の男だった。
言葉遣いは北関東風味ではない…少なくとも、当地の人間ではない。
でも、俺をつかんだ手はがっしりと…それでいて、とてもやさしい感触。
その瞬間、俺は悟った。
…あ、こいつ、料理する気だ。
…しかも「俺」を、ちゃんと扱うタイプ”だ。
さらに追い打ちをかけるように、背後から「世界営業選手権代表」みたいな店員が現れ、こう叫んだ。
「これ!ほんとおいしいですよ!!焼いて!蒸して!焦がして!トースターで15分!プラス3分!!」
…おいおい、押しが強ぇな。
群馬の山でも、たとえ碓氷峠の線路でも、こんな勢いで押してくるやつはいねぇが…でも、悪気はねぇ…むしろ、俺を輝かせようとしてくれている。
「群馬の代表として、恥ずかしくねぇ仕事をしよう。」と心に決めた俺は静かに、買い物かごへと身を預けた。
家に着くと、俺は静かに水道の下へ運ばれた。
ざああああ……
冬の水が、俺の泥を洗い流す。
…ああ、いよいよだな。
青い部分を切り落とされ、白い胴体をアルミホイルの上に置かれる。
包まれる瞬間、なぜか俺は群馬の山を思い出した。
吹き抜ける冷たい風と、凍った畑。
仲間たちのざわめきが今でも脳裏に焼き付いている。
「おめぇ、行ってこいよ」
「栃木を脅かしてこい」
「北関東連合の長なんだからよ」
そんな声が、遠くで響く。
アルミホイルが閉じられ、俺は完全に“密室”に包まれた。
暗闇の中で、俺は静かに覚悟を決める。
...これが、俺の仕事だ。
群馬の名を背負って、旨味や奄美で納得させる。
東京神奈川千葉埼玉…次は群馬…俺はそう叫びたい。
だが、俺を買い求めた家では…特に灌漑なども持たトースターの扉が閉まりだす。
ダイヤルが「ジジジジジ」と鳴る。
熱が、じわりと俺を包む。
繊維がほどけ、甘みが滲み、香りが立ち上がる。.
アルミホイルが破られた瞬間、俺は光の中に姿を現した。
外側は焦げ、中はとろとろ。
でも、お甘いおなしでと、塩をひとつまみ振られる。
男の箸が俺に伸びる。
口に運ばれた瞬間、男は小さく息を漏らした。
「……甘いなぁ……すっごいなぁ……」
その声を聞いた瞬間、俺は静かに思った。
…群馬よ、見てるか。
俺はちゃんと「脅かして」きたぞ。
外では、冬の風が電線を鳴らしていた。
まるで、群馬からの祝砲のように。
こういう食べ方を、当地に来て初めてしました
まぁ、本気でうまいですね…もっと早く知ればよかった、と今でも思っています




