第38話 救われる場所、切り捨てられる場所
最初に消えたのは、
地図だった。
「……表示が、
欠けています」
リーネの声が、
乾いている。
世界地図の端。
山岳地帯の一部が、
存在しないように空白になっていた。
「観測不能?」
「いいえ」
彼女は、
首を振る。
「観測対象が
いません」
次の瞬間。
《世界基盤通知》
《安定性評価:
再配分開始》
俺は、
歯を食いしばる。
「……始まったな」
勇者が、
息を呑む。
「これが、
“選別”か」
各地から、
報告が入る。
「北部都市、
魔力供給が
急増しています!」
「病床の回復率、
異常値!」
「結界が、
自己拡張を――」
画面に映る都市は、
守られている。
人が多い。
生産性が高い。
影響範囲が広い。
世界は、
合理的だった。
一方で。
「……辺境村、
通信が……」
「応答、
ありません」
画面が、
ノイズに沈む。
その場所には、
祈りも、
奇跡も起きない。
世界は、
判断を下した。
「待て!」
勇者が、
叫ぶ。
「そこには、
人がいる!」
「分かっている」
俺は、
即答する。
「だが、
世界は
全員を
守らない」
沈黙。
「守れる場所を
先に守る」
「それが、
自己保存だ」
《世界安定度:
93%》
数値は、
下がっていない。
むしろ、
安定している。
「……ひどい」
リーネが、
震える声で言う。
「これは、
正しいんですか?」
「正しい」
俺は、
目を逸らさずに答えた。
「そして、
残酷だ」
外では、
混乱が始まっていた。
「なぜ、
あの街だけ
奇跡が起きる!」
「見捨てられたぞ!」
「管理者は
何をしている!」
だが、
世界は答えない。
説明をしない。
その時。
《外縁観測》
《管理者評価更新》
悪魔の声が、
直接響く。
『ほら』
『始まった』
『君が止めなければ、
こうなる』
俺は、
静かに答える。
「……想定内だ」
『強がりだな』
「違う」
拳を、
強く握る。
「ここからが、
本当の保守だ」
俺は、
決断する。
「救われない場所を
切るな」
「切らせるな」
全員が、
こちらを見る。
「世界が
選別するなら」
俺は、
宣言した。
「俺が介入する」
《権限要求》
《世界基盤・
手動制御》
警告が、
赤く点滅する。
《不可逆点接近》
それでも。
「世界よ」
俺は、
低く言った。
「勝手に
決めるな」
その瞬間。
世界安定度が、
初めて――
急落を始めた。




