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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
慧の目にうつる世界
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不毛な会議

 昨日の文教厚生委員会には、高田さんと一緒に傍聴に行った。

役場の駐車場につき、高田さんと歩き出すと、停まっていた車から、A新聞の後藤さんが降りてきた。

 

 彼とは、先週ひなぎくに取材にきて会っている。保母さんたちが前面に出るとまずいからということで、取材を受けたのは木田さんと私だった。

「今 福祉課長と話をしてきましたよ。」

「会えたんですか?」

 請願を出してから 父母の会は、村長と福祉課長に面会を求めてきた。しかし いつものらりくらりと逃げられて、まだ実現していない。

「受付通すと絶対取り次いでもらえないから、奇襲作戦でいきました。食後の昼寝ってかんじのところを。」

後藤記者は、まだ三十才前。いつも飛んでるように移動している。記者が天職のようだ。

「すごい!」思わず笑ってしまう。

「初めて会えましたよ、はっきりと物を言わない、逃げ腰でしたよ」

「ひなぎくに一度もに来たこともない。誠意がないひとですよね」と高田さん。

「え!?課長は保育園を視察してないんですか?」と後藤記者

「管轄の保育園にはきてるはずだよねえ。そのはずだけど、どうなんだろ。少なくとも、今回っていうか今年の春統廃合のことが出てからは、一度も来てない。と」後藤さんはぶつぶつ言いながらメモをとる。

委員会の会場まで連れ立って歩く。


「こないだの福祉審議会で、統廃合という答申が出てしまいましたよねえ、詳しいことご存知ですか?」高田さんが尋ねると

「いろいろ討議はされたみたいですね、あ、詳しくはまた後で」

文教厚生委員会と書かれた部屋の前に来た。

 議場ではない。大教室の教壇に議長がいて、議員が生徒のように机に座っている。といった様子。

傍聴席は、後ろにしつらえてあった。ひなぎくの父母たち、保母さんも来ている。

思いがけず美和さんも来ていた。隣に座る。

「さっちゃん、とっても元気そうだね。」

「元気、元気。いつもありがとう。」

「うん、慧といっしょに連れていけばいいんだから。帰りも言ってね」

「朝、助かってる。もう少しよろしく。絶対に良くなるって国立病院でも言われた。」

美和さんは薬のせいで ものすごくゆっくりゆっくり話す。眠り薬のようなものだから朝は起きられないらしい。

退院してからも、さっちゃんのひなぎくへの送迎は、小寺さんと我が家で引き受けている。お隣には、綾さんがいてフォローしているし、一時、激やせしていた美和さん、お顔が少しふっくらと穏やかになってきた気がする。

 今日も、傍聴に来られたなんてすごい。

「焦らないで、だいじょうぶだからね。」と言っている間に時間になった。


 『「ひなぎく父母の会」による保育に関する請願についての討議に入ります。』

 議長席から照沼議員が告げた。

 まず、福祉課長の話。


‥村の財源を鑑みますと、保育行政の見直しが必要で。そこで社会福祉審議会に 充分なる調査、討議を一任いたしました。最終的に9月3日に開かれた同審議会で、最も小規模であり、なおかつ充足率の低いひなぎくを、統廃合という方向で検討すべしという答申が出されました。

保育に関する請願につきましては、現状の保育環境の変更、保育料の負担軽減などでありますが、村では国で定められた基準を満たしており、全く見直す余地はないものと考えております。


では、この件についての質疑を行います。


共産党革新議員の武田さんが手を挙げた。

「保育に関する請願について 6000名を越える署名があったということは 保育という福祉に多くの村民が関心を寄せているということであり、もう少し真摯にお考えいただきたい。

  国の基準というのはあくまでも最低の基準であり、これより下回ってはなりませんという基準であることは言うまでもなくご承知のことと思います。

 翻ってこの村は 原子力施設誘致の結果、財政的には非常に恵まれた地域であります。その有利な財源を何につぎこんだら良いのか。


 福祉、教育に使われてこそ、意味のある歳出といえるのではないのでしょうか。

請願にあります、保育環境の向上、保育料の荷重な負担の軽減などの実現は この村において十分可能であり、また村の大きな課題であると考える次第です。」


ほかにこの請願についてのご意見はありませんか


やはり、革新議員団の 町田議員が手をあげた。


「武田議員のご意見に同意いたします。重ねて私の意見も申し述べたいと存じます。

今月3日の社会福祉審議会の答申でありますが、この答申の内容について申し上げる前に、審議会そのものについていくつか質問をしたいと思います。」

照沼議員が

「この案件、ひなぎく父母の会の請願についての委員会ですので、無関係のことについては質問ご遠慮ねがいます」と言い、

町田議員は

「わかりました。審議会のメンバーの中に保育については全くわからないから審議会では自分の意見など言えない。という方がいらしたと耳にしたものですから、ひなぎく存続をかけて議論される今回の委員会には関係あると判断したものですから。」

 関係ないよ! やじが飛んだ。

照沼議員は福祉課長を指名した

「審議会には有識者の方がなっておられ、慎重な討議がなされています。」

「保育のことがわからないという発言をされた方が、2名は確かにいらっしゃいます。なぜ、ひなぎくに視察に行くとか、関係者に話を聞くとかの調査をされないのでしょうか?これで審議会の役割をはたしているのでしょうか?」

課長が答えた。

「充分な調査、検討のうえの答申と思います。」

町田議員は

「充分な調査、検討ということの認識の差が」と言いかけて、照沼議長のほうを向き

「わかりました。では、本題に戻ります。」と質疑を続けた。

「答申には、村の健全な財政を考慮すると、存続には無理があるとの判断から統廃合の方向で検討すべしとあります。

その理由は、定員に満たないからということなんですね。ひなぎく保育園のここ数年の児童数を参考にしてということのようであります。 

果たして、過去の数字だけで、今まで地域の中で大切な役割をになってきた歴史ある施設を簡単に無くしてしまってよいものでしょうか。とりかえしがつかなくなる前に、過去ではなく、未来を見据えて保育園の意義を多角的に考えていってはどうでしょうか。

 まずは保育園の従来の目的であります、保育ができない家庭への支援という面から考察いたします。今後も保育児童が少ないままでしょうか?その判断は正しいでしょうか?ひなぎくの立地が市街化調整区域の中心であること、また、女性の就業の今後の動向、このふたつのファクターを考慮しましても、保育児童がこの先、減少し続けると予測してしまうことは、危険ではないでしょうか。

 また別の考察ですが、近年、独立した家庭が多くなっております。子育てを母親ひとりが全部受け持つわけですから、その負担は心身ともに重くなってきています。

 特に、母としての精神的な重圧は、計り知れないものがあります。 

世の中が便利になりあらゆる速度が増して、情報のみがどんどん入ってくる昨今、親たちは、迷いとまどうことも増えてきております。

母子の密室育児、孤立化は母を精神的に追い詰め、こどもの発達を歪めるという危険を多く孕んでいると思います。

 児童から青少年を経て社会の有能な一員として活躍できる大人となるためには 集団での健康的な遊びが幼児期には欠かせないと教育の専門家たちも口をそろえております。

母親が仕事を安心して続けられ、こどもは子供らしい生活を思いっきり享受できる村であることをアピールしていくことは 今後の村の発展に大きく寄与すると私は確信するものであります。

 今 少しの予算を削ることで、将来の展望を閉じてしまうことのないよう、最初にも申しましたが、とりかえしのないことが起こらないよう、慎重な討議を重ねるべきだと考えるものであります。」


この二人の質疑があったきりで、応答は皆無。

小学校の委員会よりひどい。


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