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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第五章 虐殺のエレメンタリスト
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10‐ 腐敗感染のエレメンタリスト

※残虐な描写が含まれます

 襲い掛かってくるのは強烈な罪悪感。



 理屈ではない。事件への因果関係への理解もこの感情を鎮める事は出来ない。生きているという罪悪感。



 リッカがアイリーに寄り添った。

『呼吸に集中して。アイリーが一番に負うべき責任に意識を向けて。アイリーはこの事件の目撃者だという自覚をもって自分が為すべき行動を考えて』



『リッカ』

『心は後で向き合う時間がある。現場にいられるのは今だけだよアイリー』



 冷徹な助言ではない。アイリーの混乱し暴走し始めている感情を制御するには強靭な理性を強制的に呼び覚ます他ない、というナビゲーターとしての判断だ。



 アイリーの心を守るための判断だ。

 実のところ目の前の死者に対してリッカは思うところを持たない。何の感傷もない。自分のパートナー以外に一切の興味を持たない事はナビゲーターの特性の一つだ。



『クラリッサ…発砲の必然性を教えてください』

『あたしが説明するよりも自分の目で確かめた方が早いよ、アイリー』



 クラリッサが遺体を指さした。

 床に倒れる20人分の遺体の全てに変化が起き始める。



 死後も緑色の膜は皮膚への増殖を続けている。

 全身を覆ったところで大きく発光する。



 発光と共に微細な胞子の様なものが靄となって遺体から離れていく。

 象牙色の骨格と僅かな液体を残して遺体が腐乱しきった後の白骨体となるまでに1分かからなかった。



 隔離された空間内で靄の様に煙っていたものがその密度を薄めてゆく。

 さらに1分を待たずに通路は白骨体が横たわる以外に何の瑕疵もない風景を取り戻した。



『生きている人間に寄生して媒体を生み出し致死の感染を拡げるエレメンタリスト。発症した者は媒体を生み出し続ける宿主となる。感染を止めるには汚染された者を絶命させるしかない。絶命した者はあり得ない速度で体の腐敗が始まる。宿主が白骨化した時点で飛散した靄のようなものも消失する。あたし達が今追っているエレメンタリストが残した遺体と同じ現象。同一犯と判断している』



 発症前の遺体も白骨化したという事はこの場の全員がすでに感染していたという証明になる。



 アイリーが固く目をつむる。

『今回の標的は俺だった? この事件は俺のせいか?』



『あんたは巻き込まれているだけだ。犯行動機を生み出したのも実行したのもエレメンタリスト。最初の殺人はあたし達が調査室を訪ねる前に起きている。あんたには何の落ち度もない』



『何故、俺だけが無事なんだ』

『理由は不明だ。エレメンタリストが感染からあんたを除外したのかも知れない。その意図は分からない』



『多分違う。エレメンタリストは何かの液体をアイリーに噴きつけて反応を見ていた』

 アイリーの思考にリッカが応えた。



『アイリーが無事だったのはエレメンタリストの能力を無効化する何かが備わっていたから。多分、カイマナイナがアイリーの胸に残した印が作用している。仕組みは分からないけど状況判断するとそう推測できる』



 アイリーが強く下唇をかみしめた。怒りの叫びを堪えている。

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