10- 火炎のエレメンタリスト
凄まじい熱波がアイリーの顔を叩く。
応急処置を受けるためにパワードスーツの姿勢を固定している上に胴体部分全域に麻酔が効いている為アイリーは身動きが取れない。
微動だに出来ないままアイリーは炎の破城槌を直視した。
「俺は…… 今日あと何回死にかければ家に帰れるんだ」
「…すごいなアイリー。君はこの状況で帰宅を予定から外さないのか」
憮然とした独り言にエドワードが驚いてアイリーの顔を見た。
廊下ですれ違った時の臆病そうな甘えた雰囲気が消え生還への強い意志だけが漲る厳しくも頼もしい表情になっている。
「…こうしてみると似ているんだな。 試すなんて浅はかだった。 心からお詫びする」
「何の話ですか? 」
エドワードが小さく首を左右に振った。
『アイリー。 この炎はわたし達の知っている炎じゃない』
リッカがアイリーの真横に現れ同じ方向を向きながら頬を寄せてきた。
『1秒25000フレームで燃焼を解析してみた。放射された燃料の炭化が全く確認できない。炎の形も燃料が燃焼する時に見せる球状表面のぶつかり合いがない。まるで炎が液体になって螺旋流を描いているみたいな形に見える』
小さく頷いてアイリーは炎の先にカイマナイナの姿を探した。
「世界のどこで生きていくとしても男に対する礼は学んでおくべきだったな。女」
優越感に満ちた男の声がアイリーの耳に届く。
男の視点に立てば両肩付近から放たれる二本の炎柱の先に立つカイマナイナの姿を見る事は出来ない。爆炎が衝突する壁の向こう側となるからだ。
炎の壁の向こう側でカイマナイナはどうしていたか。
自分の眼前で岩にぶつかる波の様に広がる炎を前にして満足気に深呼吸を繰り返していた。
「火炎界の産直炎、おいしい」




