11- 屈服
カイマナイナのすぐ横に立つエイミーが舌打ちをして横方向へと歩き出した。
火炎の破城槌の横、男の視界に入る位置まで歩いて青い衣の男へ問いかける。
「……まさか裸火だけで私達に相対するつもりだったのか?」
「あ、エイミー? 私まだ…」
「黙れ、ブタ」
カイマナイナのねだる様な声は無慈悲な言葉で断ち切られる。
エイミーが片手持ちにした剣を炎へと振り上げ、振り下ろす。
その軌跡に沿って炎は直角に断ち切られた。
槌の様な形状を保ったまま、炎の奔流さえそのまま、エイミーの太刀筋を境に炎は消え失せてその先には夜の闇が本来の姿を取り戻している。
「物理攻撃を空間の置き換えをもって無効化させる。自分も同じ盾を用いながらエレメンタリスト相手に物理攻撃を仕掛けるバカがいるとは思わなかった。忌々しい」
再びカイマナイナの目前に炎の壁が拡がった。
振り向くと炎の壁の向こう側でカイマナイナが軽く拳をにぎり、親指と人差し指だけを伸ばして小さな間隙をつくっていた。もうちょっと、のサインだ。
「食うな!」
見れば炎はエイミーよりもさらに男の近く、肩口上の発射点から1メートルにも満たない空間で鮮やかな断面を見せながら途絶されている。
そこで断ち切られた炎はカイマナイナの目の前で再び出現している。
カイマナイナが手繰り寄せたのだろう。
一喝したエイミーがさらに舌打ちした。苛立った表情のまま男に向き直る。
「男に対する礼を口にする前に強者に対する礼を身に着ける事を勧める。バルバロイ。資本主義の走狗も寄らぬ暗黒大陸の枯れた端では治安介入部の名前は届かぬか」
「治安介入部…」
男の呟きに怯えがこもるのをアイリーは聞き取った。
恫喝に対する怯えや暴力に対する怯えではない。
巨大な破砕機に自分の体が巻き込まれる瞬間を目にした時の様な絶対的絶望的な死への怯えだ。
「待て…待ってくれ。警察への協力を約束する」
「跪いて私達への非礼を詫び自分の無力を懺悔しろ」
男が跪いてエイミーの言葉に従った。
平時には男性の優位を全ての女性に誇示しつづけているのであろう男が少女に膝をついた。これ程の破壊力を持つ男が。
どれ程の実力差をこの少女に認めたのだろう。
アイリーはエイミーの不機嫌そうな横顔を見つめた。
エイミーが横眼でアイリーを睨み、忌々しそうに舌打ちをしてアイリーから顔をそむけた。
「…だが警察への協力は母国へ戻り母国の警察に対して行いたい」
恭順を示した男がエイミーにそう告げた。




