第61話 国境の町
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俺たち魔王討伐隊の一行は、サマルキアとの国境付近にあるバルサと言う町に到着していた。
三つの部屋に別れて宿を取った後、夜になるまでの間は其々が自由行動を取る事となる。
しかし、ヴィルだけは何時なんどき命を狙われないとも限らない。そのため、俺が結界を張った部屋の中でジャンとマギを護衛にお留守番となった。
俺は、アルを伴い冒険者ギルドに向かう事にする。現金を引き出しにいくためだ。
しかし、彼女だけ連れていくという話にエマとティナはかなり怒っていた。
「冒険者ギルドなんかに何の用があるって言うのよ! アルだけ連れていくって話にも納得いかないし!」
そう文句を言うエマに対し、俺は適当に話をでっち上げ説明する。
「ちょっと現金を引き出しに行こうと思ってな……旅の路銀はいくら有っても困るもんじゃないだろ? 実は、アルに冒険者登録をさせていて、口座にもけっこうな金額を預けさせているんだ」
「へぇ~。アルいつの間に冒険者の登録なんてしていたのよ? ところでまさかとは思うけど。用があるフリをして、何処かでイケない事してくるつもりじゃないわよね?」
そんなエマの発言を、真に受けてしまったようだ。彼女の話を聞いたティナは、突然ヒステリーを起こしたように叫びだす。
「えっ……えっちな事ですって!? この状況で、よくそんな事をしに行こうなんて気になりますわね! 私を差し置いてエッチな事しに行くなんて、絶対に許せませんわ!」
エマは、ハッキリそうとは言ってなかったはずだが。ティナの暴走気味な性格は、やはりまだ直りきっていないようだ。
そもそも、そういった行為に関して彼女の許可を得る必要なんて全くない。
そんなフザけた事を言う二人に対して、アルは不敵な笑みを浮かべながら反撃する。
「何を言ってるんですか二人とも! わざわざ二人でこそこそと出掛けてまで、そんな事しに行くはずないじゃないですか。エッチするなら部屋で堂々としますよ。そのために二人部屋を取ったわけですしね」
勝ち誇ったかのようなアルの言葉に、悔しさのあまり歯ぎしりするエマ。
ティナは、その言葉で完全に心を折られてしまったみたいだ。口を真一文字にして、目に涙を浮かべながら肩を震わせていた。
「もう良いか? 早く用事を済ませたいんでな」
これ以上は面倒だと思った俺は、特に否定もせずそう言うと無言で歩き出す。
アルは、二人を一瞥するとすぐに向き直り嬉しそうに俺の腕を取った。
冒険者ギルドの建物前に到着した俺は、例の鞄から仮面を取り出して装着する。
俺が付けた仮面はフレイア用の物だった。
「ディール様! どうして仮面を付けたりするんですか?」
仮面を付けた事に対して、アルは唐突に質問してくる。本当にわざと言っているとしか思えない。
「これ、何度目のやり取りだ? フレイア用の仮面を付けた時は、俺の名を呼ぶなって何度言わせるんだよ……」
「あっ、そうでしたねディール様! それで、どうしてフレイア用の仮面なんて付けたりしたんです? お金は私の口座から下ろすって話だったし、それで私を連れてきたって言ってませんでしたっけ?」
「お前なぁ……いつ冒険者登録なんてしたっていうんだよ。そんなの、ここに来るための口実に決まってんだろ」
「あっ、やっぱりそうなんですね! 私、いつの間に冒険者登録なんてしてたのかな? って、ここに来るまでの間ずっと真剣に悩んじゃってました」
相変わらずなアルの天然ぶりに、もう怒る気にもなれない。ただ溜め息しか出なかった。
入り口の扉を開けてすぐ俺の目に飛び込んできたのは、つい先日見かけた事のある連中の姿だった。
「うわっ! 何であいつらがここに居るんだよ!」
俺は、思わずそう小さく叫んだ。
天然丸出しのアルは何も考えずに、その見覚えのある連中に声をかけに行ってしまう。
「あれ? ラグドラさん達じゃないですかー! 結局、向かう先は同じだったみたいですね?」
アルの声を聞いてすぐに気が付いたチロは、怪訝な顔をしながらこちらに向かってくる。
俺は他人のフリをしようと、たまたまそこに有った掲示板に目をやった。
「アル達もこの町に来ていたにゃね? ところで、どうしてディールはそんなヘンテコな仮面を付けてるにゃか?」
いきなり正体を見破ってくるとは正直驚いた。
無視していれば、誤魔化せるかもしれない。そう思い黙っていたが、チロは完全に確信しているようだ。
「どうして無視するのにゃ! 俺の事を、もう忘れたにゃか?」
「私に対して訊ねているのか? 私はそんな名前などではない。人違いだ!」
「何を言ってるにゃか? そんな仮面を付けていたって、黒髪の人間はかなり珍しいのにゃ! それに匂いがまんまディールの匂いにゃしね。近付いてみたらすぐに分かったにゃよ」
チロにそこまで言われ、俺は観念する。これ以上フレイアの仮面を着けた状態で、俺の名を連呼されては敵わない。
仕方なく仮面を外し、俺は適当なことを言う。
「あまり人前で目立ちたくないもんでな。普段から人の多い場所では、何かしらの仮面を付けるようにしているんだ」
「そんな怪しげな事してたら余計に目立つと思うにゃけどね……ちゃんと見えてたって事は、認識阻害のマスクとは違うにゃよね?」
単細胞を絵に描いたようなチロにそう指摘され、俺の中に羞恥心が込み上げる。鋭い指摘をしてくる辺り、意外と頭のキレる奴だ。
「ああ。コイツはただの仮面だ。目立ちたくないからってのも冗談だけどな。こいつを着けてたのは、ちょっとしたファッションみたいなものさ」
「ファッションにゃか? それにしては随分とセンスがないにゃね? それがカッコいいと思ってるのにゃったら、今後やめる事をお勧めするにゃよ」
チロのド直球な言葉に、俺は衝撃を受ける。
アルは何が面白いのか、口元を押さえながら必死で笑いを堪えていた。
取り敢えず誤魔化す事はできたようで、俺は一先ず安堵する。あまり関わり合いたくないと思いつつも、一応社交辞令として彼女たちの目的を訊ねることにした。
「それでお前たちは、新しい依頼でも探しにきたのか?」
「違うにゃ、例の件について報告しにきたにゃよ」
どうやら魔王の一味は、普通にギルドを通し依頼を出していたようだ。
それに食いついたチロたちの事を調べ上げ、利用できるネタを見つけた。そんなところだろう。
「それってちゃんとした依頼だったんだな。まさかバカ正直に報告したりしてないよな?」
「当然にゃ! 必要以上の事をしても余計に報酬が貰えるわけでもないにゃしね。却ってトラブルの元になるだけにゃ。生きてるにゃら死体が見つかるはずもないにゃし、報告書にはちゃんと『死体は見つかりませんでした』って書いて出したにゃよ」
「そうか。それなら良かった」
チロの答えに安心した俺は、そう端的に返事をする。
俺がその事を気にした理由は、新たに即位した幼い女王の安全を気にしたからだ。
ヴィルが生きていると公になれば、彼女の耳にも入り父の捜索を本格化するはず。
そうなると、あからさまな行動を取れなくなった魔王が、どんな暴挙に出るかも分からない。
このままでは現金を引き出せないので、俺は一旦建物を出ようとチロに別れを告げる。
しかし、集まってきた他のメンバー達によって俺たちは、もうしばらくこの場所に留まることになってしまった。




