第58話 蹂躙
(直接手を下せないのは残念にゃけど、きっとお母ちゃんとトラが奴にとどめを刺してくれるにゃ)
廃城に向かって歩きだしたディール。チロは、彼の後ろ姿を見ながらそんなことを思っていた。
想定外の事態にはなったが。ディールとヴィルヘルムを引き離す事が、ソフィアという女との間に交わした約束だ。その事に関しては上手くいったのだから、他に良い手が思い付かない以上妥協せざるを得ない。
廃城には、不死身の巨人二体が待ち構えているのだ。ディールという男が噂通りの強さだったとしても、うち漏らす事などあろうはずもない。
チロは、そう高を括っていた。
最初から対象の事を認識している人間に対しては、認識阻害の効果は発揮されない。
しかし、遠く離れていくほど次第にその効果は表れ始める。50メートルほど進んだ所で、ディールの姿は完全に消えてしまった。
「ちょっとお花摘みに行ってくる」
タマは、そう言うと森の中へと消えていく。彼女の目的は、再び伝聞鳥を飛ばす事にあった。
☆☆☆
廃城に到着した俺は、階段状に光のプレートを出現させる。
派手に破壊して入っても良いのだが、今回に関しては人質の二人と接触するが最優先。戦闘するかどうかは、事実確認を済ませた後だ。
光のプレートを越えていき、城壁の上に到達する。そこからは、普通に内側の階段を使って下りた。
しかし、内部に潜入した俺はすぐに我が目を疑う。
「よく来たわね、勇者ディール。私は、魔王軍新四天王が一人、心眼のソフィアよ! まさか、こうもあっさりと罠にかかってくれるとは思ってもみなかったわ」
突然そう女の声がしたかと思うと、崩れかけた石の壁に隠れていた鎧騎士達がわらわらと姿を現す。
鎧騎士と共に現れた声の主は、青い髪をしたダークエルフの女だった。
「罠なのはわかっていた事さ。だが、認識阻害のマスクを着用していたにも拘わらず、その効果を無効化した事には正直驚いたな」
俺が、そう言って返すと、ソフィアと名乗った女は「フン」と鼻をならし勝ち誇ったように言う。
「負け惜しみね! 罠だと理解していたのなら、どうしてヴィルヘルムから離れたりしたのよ? 我々の目的が、彼の殺害だって事もわかるはずよね?」
「ああ、勿論それも分かっていたさ。それを理解したうえで、敢えて罠にかかってやったんだ。俺が離れたところで、ヴィルヘルムの命を取る事はできないからな」
「ヴィルヘルムの命を取る事はできないですって? あんた以外は、全員ゴミみたいなものでしょ? 今頃は森に配置していた不死身のホムンクルス百体が、あんたの仲間たちを襲っている頃でしょうね!」
「森に伏兵を配置していた事も当然わかっていたけどな。そこには俺の嫁がいるんだ。残念だが、いくら不死身の兵隊を用意したところで、雑魚なんかじゃ目的を果たす事は到底できない」
俺の話には全く根拠が無いとばかりに、余裕の表情を浮かべる新四天王の女。
彼女は、俺が負け惜しみを言っているとしか思っていないようだ。
「まぁ、どちらにしても今すぐ仲間の元に戻られては、かなわないからね。一応、足止めはさせてもらうわよ!」
ソフィアは、そう言うと左腕を前方に差し出す。彼女の指には、赤い色の宝石があしらわれた指輪が嵌められていた。
宝石は突然強い光を放ち、廃城の奥から何かが向かってくる足音が響き始める。
程なくして、体長10メートルほどのサイクロプス二体が姿を現した。
「不死身のサイクロプス共よ。今こそ邪神の力を表す時だ!」
ソフィアがそう言うと、二体のサイクロプスは変異し始める。オズボーンの時と同じく体長は二倍に膨れ上がり、巨人共は筋組織が剥き出しとなった醜悪な姿へと変貌した。
俺は、即座に二挺の銃を抜き弾丸を打ち込む。
弾丸は、サイクロプスの胴体に其々三発と四発命中する。しかし、空いた大きな風穴は、内側から這い出した無数の触手によってすぐに塞がってしまった。
「ちっ、やっぱりオズボーンの時と一緒かよ……あまり俺に、力を使わせて欲しくはないんだけどな」
俺は一旦、銃をホルスターにしまうと静かに目を閉じる。精神を集中し、内なる力を解放した。
銀色に輝く俺の姿に、ソフィアは言う。
「オズボーンを倒した例の力ね?」
あの場に情報伝達用の使い魔でもいたのだろう。新四天王の女は、俺が奴を倒した事を把握していた。
しかし、この姿を見ても彼女は相変わらず余裕の表情だ。
「ずいぶんと余裕みたいじゃないか。だが、一応仲間の方も心配なんでな! 悪いがさっさと片付けさせてもらうぞ!」
俺は、そう言うなり再び大腿部のホルスターから二挺の愛銃を抜く。それと同時にソフィアは、不敵な笑みを浮かべながら鎧騎士たちに命令を下した。
「ホムンクルス共よ! 勇者を殺せ!」
ソフィアの命に従って、鎧騎士たちは一斉に動き出す。
俺は、すぐにそいつらに向かって全弾撃ち込む。14本の閃光が走り、射線上に居たホムンクルス共は一気に消し飛んだ。
「嘘よ! 肉片の一つでも残っていれば、再生するはずだわ! 完全に消滅させてしまったとでも言うの!?」
「まぁ、残念ながらそういう事だ。次はそのデカ物の番だな!」
そう言いながら即座にリロードを済ませ、二体のサイクロプス目掛けて次々と弾丸を打ち込んでいく。
繰り返しリロードし続け、閃光が貫通する度に巨人共の体は瞬く間に形を失っていった。
二体のサイクロプスを片付けた俺は、続けて残ったホムンクルス共を蹂躙し始める。
圧倒的な火力に茫然とするソフィア。
彼女が次の行動を思考する間もなく、僅か数秒の後に不死の軍団は完全に消滅した。
「クッ! ここまでの化物だとはね……不死の軍団が大した時間稼ぎにもならないなんて……」
ようやく状況を理解したのか、そう呟くソフィア。
そんな彼女に対し俺は質問する。
「残念だがそういう事だ! それで、お前達の本当の目的は一体何なんだ? まさかアメリア王国を簒奪する事だけが真の目的ではないだろ?」
「ずいぶんと余裕ね? そんなに残してきた連中の力を信頼しているって事なのかしら?」
「質問に答える気が無いなら、すぐに終わりにしてやるが?」
「フフッ! せっかくだから、せいぜい時間稼ぎさせてもらうわね……そうよ! 我々の目的は昔から変わらないわ! 魔族と呼ばれ蔑まされてきた我ら種族の理想郷を建国し、その国を拠点にして世界を支配する。そのためには邪神の力が必要なのよ」
「なるほど。あの魔人体って言うやつが、邪神の本当の力ってわけじゃなさそうだな? さしずめ、その邪神を完全に復活させる事が、お前達の真の目的なんじゃないのか?」
「あら? ずいぶんと察しが良いじゃない。あんたみたいな化物がこの世界に存在しなければ、その必要も無かったんだけどね」
化物扱いされるのはかなりムカつく。お前らにそれを言われたくない。
そんな事を思っていると、不意に俺に対し殺意を向ける者の存在に気づく。その存在は、壊れかけた壁の向こう側で息を潜めていた。




