第55話 ヤバい存在
アメリア王国の王都ベルグラード。その王宮内にある一室にて。
即位したばかりのヴァイセリーナと、アスモデロ、美鈴の三者によって今後の方針についての話し合いが行われていた。
「本来であれば父の仇を討つべきところなのでしょうが。私は戦争を好みません。元々こちらから仕掛けた戦争でもありますし、先の戦いで亡くなった大勢の兵士達とその家族の事を思えば、これ以上の悲劇を生むであろう行いは私としても望むところではありません」
幼い女王の言葉に、内心ほくそえむアスモデウス。
元々ヴィルヘルムを殺害する事が目的で起こした戦争だ。魔王としても、これ以上無駄に戦をするのは望むところではなかった。
戦争責任の問題としては、発案者であるアスモデロにその責任を取る事が求められる状況ではあったが。その件に関する根回しは既に終わっていた。
自身に対して、反抗勢力となり得る者達の粛清作業も殆んど完了している。新体制の重役を務める者達は、彼の息のかかった人材で全て固められていた。
「元々この戦争を強く進言したのは私です! ハルバ正教会の意向としても、神をも畏れぬかの国を討伐するのは神命と考えております!」
「しかし、聞くところによると、サマルキア王国の教会と新たに即位した国王の間では、和解が成立したそうではないですか?」
「確かにそのとおりのようですね……しかし、ミスズ殿の事を考えれば、やはり代行者たる神の使徒を追放した国家という事実に変わりはございません」
アスモデロはそう言うと、美鈴に対して苦悶の表情を向ける。
予め示し合わせていた彼女は、はっきりと聞こえるわけでもない天の声を適当にでっち上げた。
「天はおっしゃっております。神の代行者を蔑ろにするかの国に対しては、いずれ天罰を下すであろうと。しかし、今はまだその時ではない。ともおっしゃっております」
美鈴の言葉に、我が意を得たりとばかりに同調するヴァイセリーナ。
「やはり天も、今は戦を望まれてはいないようですね。しばらくは、先の戦で疲弊した我が国の国力を回復する事に専念いたしましょう……アスモデロ! 今回は、あなたに対する戦争責任を問う事は致しません。これからも未熟な私の支えとなってくださいますか?」
「女王陛下……寛大なるお言葉、誠に感極まります! 不肖ながらこのアスモデロ。これからも身命を賭して陛下にお仕えする所存にございます!」
事が上手く運び、安堵するアスモデウス。
白々しくそんな事を言う魔王に対し、美鈴はジト目を向けていた。
「では、これにて話は一旦終わりといたしましょう。二人とも下がってよろしいですよ」
ヴァイセリーナにそう促され、部屋を後にする二人。別室に移動した後、アスモデウスは美鈴に対し先程の件に関して訊ねた。
「天の声は、本当にあのような事を言っていたのか?」
「そんなわけないじゃん! 私が聞こえるのは、召喚できる魔獣の事と、そのやり方の事ばかりだよ。まぁ、たまに『全ての人間は罪深い』的な言葉も聞こえてくるけどね」
「なるほど、ハルバらしいと言えばハルバらしいな。で、美鈴はその声に対してどう思っているのだ?」
「別に何とも。天司くんの言っているように、目的を達成できれば元の世界に帰れるとも思ってないし。かといって、天の声に従ってこの世界をどうにかしようとも思ってない。まぁ、自分でもどうしたいのかよくわかってないってのが正直なところかな?」
「やはり私が見込んだだけのことはあるな」
「まぁね~。何がしたいのか自分でもよくわかってないから、面白そうなあなたに付いていく気になったってのは確かかもね」
そう言って不敵な笑みを浮かべる美鈴。
奏多の常軌を逸した行動も然ることながら、彼女も相当に食わせ者であった。
計画したとおりの展開になり、早く話を切り上げ自室へと向かいたい美鈴。
しかし、彼女がドアに向かおうとしたところで、部屋の中に突然黒い霧が立ち込める。
すぐに霧は晴れ、その場所には二人の魔族と思われる者達が出現していた。
二人のうち、青い髪のグラマラスな美女がまず最初に口を開く。
「アスモデウス様。グリーラッドへの調査結果をご報告に参りました」
「うむ、勇者の様子はわかったのか?」
「はい、どうやらヴィルヘルムを伴ってこちらに向かっているようです」
「なんと! やはりヴィルヘルムは勇者に保護されていたのか!」
「旅商人に化けさせ潜入させた、元近衛兵のホムンクルスからの報告ですので間違いはないかと」
報告を受けたアスモデウスは、しばらく考え込んだ素振りを見せた後もう一方の男性魔族に確認をする。
「イアン、例の物は手に入ったのか?」
「はい、ミスズの言っていたとおりの場所に、確かにございました!」
イアンと言われた男は、そう報告すると右の手のひらを差し出す。
彼の手から黒い煙が立ちのぼり、煙が消えるとそこには小さな箱が出現していた。
「この中に、例の物が入っているのね……本気でやるつもりなの? アスモデウス」
不安な顔をしながら、そう魔王に質問する美鈴。
「ああ。勇者ディールを倒すためには、それくらいの化物を当てなければ無理だろうからな」
「もし制御に失敗したら? 私達も危ないわよ?」
「いざとなれば、カーリィ様の力を解放するまでさ」
アスモデウスにそうは言われたものの、美鈴は不安の色を隠せない様子。
彼女がそこまで危険だと感じるほど、それは途轍もなく恐ろしい存在だった。




