第54話 私も連れてって
今回の旅は、七人の大所帯パーティーという事になった。そのため出発に際して、それなりに入念な準備が行われていた。
着々と準備が進められるなか、一緒になって荷造りに加わり始めるアル。そんな彼女の様子に、エマとティナの二人は怪訝な顔を向けていたが。ついに堪らなくなったのか、二人はその事に対して突っ込み始めた。
「アル、何であんたまで自分の荷物を用意してんのよ」
「そうですわ。アルさんは、お留守番と決まったはずですよね? 何しろこれと言って、旅の役に立つような能力もお持ちではないのですから」
ティナにそう揶揄され、アルは不敵な笑みを浮かべながら言う。
「力なら、私にもちゃんと有りますよ! ね? ディール様」
いきなり振られた俺は「ああ、そうみたいだな」と歯切れの悪い感じで答える。昨晩の事を思い返し、非常に気まずい。
そんな俺の態度に、何か有ると直感的に感じたのだろう。エマは、いつもの調子で無理やり訊き出そうとしてくる。
「どういう事なの? ディール! アルの力って、一体どんな力なのよ? それに、さっきから態度がなんか変! まさかとは思うけど、アルと何かイケない事とかしたりしてないわよね?」
流石は幼馴染みとでも言うべきか。エマの的確な突っ込みに、俺は目を泳がせる。
「別に何もないけどな」
俺はそう答えるも、結局アルが全てを暴露してしまう。
「私達、夫婦なんですから、エマさんが想像するような事をして何か問題でも? ええ、昨日の晩しましたよ! エマさんのご想像どおりでしたね」
「なっ! なんだとぉーっ!」
エマが叫ぶと同時に、ティナも嘆きの言葉を漏らす。
「そんな……ディール様……私というものが有りながら、どうしてですの?」
このやり取りを見ていたヴィルヘルムは、何故かガックリと肩を落としている。
そんな主君の様子を、ジャンは心配そうに窺っていた。
マギは、いつもの事だといわんばかりに、知らん顔で自分の準備に集中している。
「想像どおりの事ってのが何なのか、今一よく分からないけどさ! アルに力が有るって話に関しては、どうしても納得がいかないわね!」
エマはそう現実逃避しつつも、それを紛らわすかのようにアルの力について再び否定的な考えを述べる。
それを目の当たりにしている俺だって、いまだに信じられないのだ。見てもいない人間が、言葉だけで信じられるはずもない。
エマにそう言われた直後、アルは不敵な笑みを浮かべると全身から柔らかい気を発する。
俺にはあまり効果はないようだが、どうやら昨日の力を周りの人間に向けて送り込んでいるようだ。
「何よこれ! まさか支援魔法なの?」
そう叫ぶエマの全身は、青白い光に包まれていた。
エマだけではない。この場にいる全員が、同様の状態となっている。
「これが私の力! どう? 力が漲ってきたでしょ? この中で一番貧弱そうなティナさん。試しにあの樽を一人で荷台に運んでみてもらえます?」
先ほど能力が無いと揶揄したティナに対し、アルは仕返しとでも言わんばかりにそう言ってみせる。
怪訝そうな顔をしつつも、ティナは言われるがままに運び込む予定だった大きな樽の前に立った。
「さぁ、さっさとその樽を荷台に運んじゃってください」
「そんなの絶対に無理に決まってますわ!」
大きな樽の中には満タンの水。大の男が転がして運ぶような物。荷台に乗せるとなると、数人がかりだ。
ティナの言うとおり、それをか弱い女性が一人で運ぶなんて不可能に思われる。
しかし、自身に力が漲るのを感じているのだろう。彼女は、そう言いながらも樽を軽く片手で押した。
「えっ!? 本当に軽く感じるのですが!」
まるで中身が空であるかのように、簡単に傾く樽。
ティナは、そのまま樽を持ち上げ一人で荷台の上に乗せてしまった。
その光景を見て、ヴィルヘルムは呟く。
「やはり彼女は、聖女様だったのか……」
どっちの事を言っているのかは分からないが、たぶん俺の居ない間に何かあったのだろう。
「これで私も、役に立つっていう事が証明できましたよね?」
アルがそうどや顔で言うと、それでも納得のいかないエマは何故か俺に攻撃を向ける。
「あんたがアルに対して魔道具を作ったんでしょ? こんなのって贔屓よ! ずるいわ!」
「いや、俺は何もしてないぞ? 信じられんかもしれないが、この力は本当にアル本人の力だ」
「そんな……これだけの力が有って、今までずっと隠していたとでも言うの?」
エマの嘆き対して、アルは力を得た経緯について語る。と言っても、実際は大部分が彼女の創作話なのだろうが。
「信じられないかも知れないけど、私もディール様の役に立ちたいって強く思ったら、急に天からの啓示が降りてきてこの力を授かったの。なんて言うか……これってやっぱり愛の力なのかな?」
ついでにそんな惚気たことまで言ってみせるアル。
現実を突き付けられたエマは、よほど悔しいのか歯ぎしりしている。
何の予告も無く聖女ポジションを奪われてしまったティナも、複雑な表情をアルに対し向けていた。
結局、他のメンバー達もアルの力を認めざるを得なくなったようだ。特に彼女がついてくる事に対して、反対意見を言う者など現れない様子。
パーティーリーダーである俺も否定しなかった事で、自然と彼女を連れていく流れになった。
必要な物資を荷馬車に積み込む作業も終わり、一旦落ち着いたところで急にアルは俺に質問してくる。
「ディール様って、どうしてそんなに荷物がいつも少ないんですか? て言うかディール様って何処に行くにしても、常にそのウエストバッグだけですよね?」
「あー、これな。コイツは別の空間と繋がっている。どんな物でも出し入れできる、魔法の鞄だからな」
俺が愛用しているこのウエストバッグは、自分で作った神級とも言える魔道具だ。転移魔法を応用したものである。
他人から便利に扱われるのが嫌で、ずっと黙っていた。
愛銃の弾倉はここから出している。大量にストックしているので、戦闘中はほぼ使い放題だ。
「他人の荷物まで出し入れするのは嫌だからな。誰にも喋るなよ」
俺は一応そう言って釘を刺す。
「ちゃんと分かってますよ、ディール様」
アルの事だから、本当にわかっているのか不安だが。一先ずこの場は、彼女の言葉を信じることにした。




