第52話 パーティー結成
兄レイチェルの要請を受け、ディールは対アルフカンド王国の戦線へと向かう。
全く兵を引き連れていかないというのも格好が付かないため、副将としてマイティス、ガルドの二名を連れ二千人の部隊を率いて領地を出た。
留守を預かる主要メンバーは、エマとマギの二名である。
マギは、先般の戦いでもわかるとおり、目覚ましい成長を遂げていた。
「それにしても、あのような少年と女騎士を留守役として残していくとは、サマルキアの元勇者もずいぶんと警戒心が薄いことだな」
領内の散策をしていたヴィルヘルムは、ふとした瞬間にそう言ちた。
そんな主君の考えに対して、行動を共にしていたジャンが意見する。
「あのマギと言う小僧ですが、ああ見えてなかなか侮れません。この私と互角以上に渡り合ったばかりか、部隊の指揮能力もなかなかのものでした。恐らくあのガルドと言う腹心の獣人族に、相当仕込まれているのでしょうな」
「なんと! かつて、我がアメリアで一二を争うと言われた勇士である辺境伯と、互角以上だったとは誠の話か?」
「如何にも。若い時ほどの力は今は無いとはいえ、その分技量ではまだまだ誰にも負けない自信が有ったのですが。斬り結んだ際に、むしろ私の方が余裕が無いとすら感じました」
「なるほど……ディールと言う男。良い部下にも恵まれているのだな」
ヴィルヘルムの一言に、申し訳なさそうにするジャン。
そんな彼の心情をすぐに察した国王は、慌てて取り繕うように言葉をかけた。
「済まぬ辺境伯よ……我が臣下の者達が、良い部下ではないと言っているわけではないのだ。此度の事は全て、奴を魔王だと見抜けなかった私の落ち度。お前たちを無意味な戦に駆り立ててしまった事には、本当に申し訳なかったと思っている……」
「勿体なきお言葉にございます陛下! しかし、奴を魔王だと見抜けなかった事に関しては、我々臣下も同じこと。どうかその件に関しては、お気になさいますな」
そんなジャンの言葉に、余計情けなさが込み上げるヴィルヘルム。
情けないという感情と同時に、彼は自身が最も心配する事に関してふと思いを巡らせた。
ヴィルヘルムには10歳になる娘がいる。しかし、彼の現在の年齢は23歳だ。
王女は、彼が12歳の時に誕生した娘である。ショタコンの年上王妃に無理やり犯され、できた子供であった。
ところがその王妃は、王女を産んですぐに亡くなってしまう。
年齢のこともあって、ヴィルヘルムは残された王女を最初は娘と認識できずに愛する事ができなかった。
しかし、そんな環境で育ったにも関わらず娘は真っ直ぐに成長する。10歳にして、美しさだけでなく優しさも兼ね備えた良き王女となっていた。
そんな彼女に対し、ヴィルヘルムは我が娘ながら神々しいとさえ感じていた。
彼女はきっと、名君と呼ばれる女王となるに違いない。
常々、そう思っていたヴィルヘルムだったが。このまま自分が国に帰還する事ができなければ、彼女は確実にアスモデウスによって傀儡とされる運命だ。場合によっては殺されてしまう可能性すらあるだろう。
娘の事を思い、しばらくの間不安そうな顔をしていたヴィルヘルム。
そんな国王の心情をすぐに察したジャンは、彼を安心させようと言葉をかける。
「ヴァイセリーナ姫は、恐らくまだご無事でしょう。アスモデウスも、このような回りくどいやり方をするという事は、強引に国を簒奪する体制がまだ整ってないのではないでしょうか。例え一時、傀儡となったとしても、生きてさえおられれば救いだす事も叶いましょう」
本音としては、一刻も早く姫の救出に向かいたい。
その感情を言葉に出したいところだが、自分を慮ってくれた臣下の気持ちを無下にする事はできない。ヴィルヘルムはただ黙ってその言葉に頷いた。
その後も城下町の散策を続けていた二人だが、そんな彼らに近づいてくる一人の少年。困った顔の彼は、ヴィルヘルムを探していたようだ。
「困りますヴィルヘルム陛下! いくらディール様が魔族やその使い魔を寄せ付けなくする結界を張っているといっても、陛下に何かあったら俺が責任を問われるんです」
そうヴィルヘルムに声をかけたのは、二人が噂をしていたマギであった。
「小僧、噂をすればだな!」
困り顔のマギに対してそう反応するジャン。
続いてヴィルヘルムが、マギが話した内容について質問をする。
「ディール殿が結界を張ってくれているのだから、少なくとも城下町については安全なのではないのか?」
「言いましたよね? 魔族とその使い魔にだけ有効なんであって、人間には無効なんですよ。アスモデウスの手下には、人間の間者だって居るのでしょう?」
「なるほど、道理だな。済まなかったディール殿の騎士よ。今度からは、貴殿の許可なしに勝手に出歩かないようにしよう」
アメリアの国王からディールの騎士だと言われ、自然と笑みが溢れてしまうマギ。
ヴィルヘルムは、意外にもこういった部分で人の心を掴むのが巧みな男であった。
「ディール様は、遅くとも一ヶ月も有れば決着をつけて帰ってこられると言っていましたが。国の事で逸る気持ちもわかります。気晴らしがしたい時は、声をかけてもらえれば護衛いたしますので、今度からはそうしてもらえるようお願いしますね」
そう返すマギの言葉は、明らかに柔らかいものとなっていた。
とはいえ、本来ならば十分不敬な態度である。
しかし、ヴィルヘルムによって予め言い含められていたジャンは、その態度について彼を叱責するようなことはしなかった。
これより後どんな運命の悪戯か、ジャンとマギは良いコンビとなっていくのだが。この時の彼らには知る由もない事だった。
それから三週間ほどして、ディールは予定よりも早くグリーラッドに帰還する。
彼が戻るなり、すぐに魔王討伐に向けたメンバーの選定が行われた。
アメリアの王宮へと帰還した後、即座に玉座奪還を果たすためにヴィルヘルムは同行する事となる。
その方が、ここに残すよりもむしろ安全という考えもあったからだ。
魔王を倒すうえで当然必須であるディールが、パーティーのリーダーとなる。他にはジャン、エマ、マギがメンバー入りを果たした。
その際、更に二人の人間がパーティー入りを懇願し、一悶着する場面もあったが。無事にメンバーも決まり、ディールは帰還して早々アメリア王国へ向け旅立つ事になるのだった。




