第47話 思わぬ展開
初戦を勝利で飾り、俺はしばらく静観しようと決めていたが。自陣に戻るなり、敵軍に大きな動きが見られた。
敵の大部分が一斉に行軍を開始し、いよいよ総攻撃の構えを示したのだ。
相手が一斉に行軍する様子に、浮き足立つグリーラッド兵。その状況を見て、同じく慌てふためいた様子のエマは俺に問う。
「ね、ねえディール! いざとなったら、あんたの超古代魔法があるから平気よね?」
「ん? あー。まぁ、いざとなったらそうするしか無いとも思ってはいるけどなー。ただ、敵軍とはいえなるべくなら、あんまり人間相手に大量殺戮はしたくないんだ。心情的にな」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょうに! いくらなんでも、あんな大軍から一斉攻撃を受けたら一溜りもないわよ!」
「まぁ、大丈夫だ! 適当に押し返して、敵が攻略を諦めるように持っていければ上々ってところじゃないか?」
「じゃあ、とにかく勝てる自信は有るのね?」
そう念押しをするエマだったが、俺にはいくつかのプランがあった。
俺は、自信有りげな態度でいるも、それでもエマは不安を拭いきれていない様子だ。
そんな女騎士に対し、マイティスが言葉をかける。
「エマ殿、少し落ち着きなせれ。ディール様には、何かお考えがあるのでしょう」
「考えがあるって言うなら、具体的にどんな事を考えているのか、教えて欲しいものだわね!」
マイティスの言葉に対して、そう反応するエマ。
彼女の言う事も尤もだと感じたのか、首脳陣の面々は一斉に俺の方に注目する。
ただ大丈夫と言うだけでは、流石に今回ばかりは納得させられないだろう。
視線を浴び、そう感じた俺は「城壁でも造るか?」と彼らに対し提案してみせた。
突拍子もない俺の提案に驚きつつも、エマは少し安心した様子で再び質問をする。
「そんな事が可能なの? 超古代魔法の一つに、そういう物も有ったりするわけ?」
「まあな。他にもプランは、いくつかあったが。それが一番インパクトが強そうだ」
「インパクト?」
「ああ、追い返すだけで良いって言ったろ? それでも敵さんが諦めてくれないようなら、まぁそん時は仕方がないけどな」
プランAは、派手だが敵を直接攻撃するものではない。それでも敵が引かないなら、殺戮も辞さず大魔法をお見舞いしてやれば良い。兎に角やってみるまでだ。
俺はそんな含みの有る言葉を残し、すぐに馬を走らせ自軍の前線へと向かう。
兵士達の前に躍り出ると、浮き足立つ彼らに向かって大声で叫んだ。
「勇者としての力は、本来人に対して向けられる物ではない! だが、安心してくれ! 俺はこのグリーラッド領を、むざむざとアメリア王国なんかに蹂躙させるつもりなどない! 奴らを追い返す術なら、いくらでも有る! 今から諸君らにその奇跡を起こして見せよう!」
俺が先頭に立ち話し始めた途端、大部分の兵士達は落ち着きを取り戻した様子になる。
元からのグリーラッド兵は、ついこの間五千ものアメリア王国軍を屠ったところを目撃したばかり。俺の言葉に、安心するのも当然だ。
マイティスが引き連れてきた兵達は、最初から落ち着いた様子だった。俺が強力な古代魔法の使い手である事を、殆どの者が認識していたからだろう。
宣言を終えると、グリーラッド軍の兵達から大きな気勢があがった。
俺は、形式的でしかない鼓舞を行うと、単騎で敵陣に向かって走り出す。
特に指示も無く、いきなり走り出した俺を見て、兵達は僅かに混乱しているようだ。
しかし、後方からマイティスの声がする。兵の動揺を機敏に感じ取ってくれたのだろう。俺の代わりに彼が前線に立ち、制止するよう合図をする声だ。
単騎で進み出た俺は、進行する大軍の百メートルほど手前で立ち止まる。そこで片膝を付き、大地に右手を当てながら呪文の詠唱を始めた。
~イーリーズアイアッド ロッドアサクストゥーアイット イーガティスアインアイウメガーウ タイランオットウタットアガーウ マバーウタックヨーンアイケット~
~地を司る大精霊よ我が命に従え! 我が盾となりて敵の行く手を阻め~
「大地城壁!」
最後の呪文と共に、俺の足元から隆起し始める大地。それは敵の行く手を遮るような、巨大な岩の城壁となっていった。その高さは20メートルに達し、横の長さは数キロにも及んだ。
突然出現した巨大な岩壁を前に、行軍を停止するアメリア王国軍の兵士達。そんな敵軍に向かって、天然の城壁に立つ俺は声を張り上げ恫喝する。
「攻城兵器も持たないお前達に、ここを突破する術など有るまい! その気になれば、これに類する攻撃魔法だっていくらでも持っている! 無駄に命を散らせたくないのであれば、撤退する事を勧める!」
そう叫んだ直後、俺は大腿部に装着した専用ホルスターからケラウノスとアイギスを抜く。二丁拳銃で、極超音速の弾丸を敵前衛の地面に次々と撃ち込んでやった。
猛烈な炸裂音と共に激しく土煙があがる。アメリア王国軍の兵士達は、一気に混乱状態に陥っていた。
土煙は次第に晴れていく。抉られた大地を前にし、敵の軍はむしろ静かになった。
魔法だと勘違いしてくれたかは分からないが、とにかく強烈な破壊力だけは伝わったはずだ。
壁のせいで、状況が今一掴めないでいるグリーラッド兵達も同様である。
激しい爆音に、魔法攻撃が開始されたと思っているのだろう。俺の後方でも、大きな歓声が巻き起こっていた。
強烈な破壊の痕跡を目にし、敵軍の司令官は一旦退却を決意したようである。
アメリア軍は静かに後退を開始し、完全に俺の思惑どおりの形となった。
しかし、退却を始めたアメリア軍は、それからしばらくして突然大混乱に陥る。
「何だ? 流石にこれは予想外だな!」
敵軍が撤退する様子を窺っていた俺は、信じられない光景を目の当たりにする。
敵の後詰めとして配置されていた魔物の軍団が、味方であるはずのアメリア軍を攻撃していたのだ。




