第46話 もうこの気持ち抑えらんないよ~
だだっ広い草原地帯に、爆炎と雷撃が間断無く打ち込まれる。
炎の渦に巻かれ、消し炭になっていく中型鬼の軍団。
その中には大型の魔物であるトロールも居たが。比較的上位に位置する魔物といえど、雷の直撃を受けては一溜りもない。
無数の大型鬼が全身を焦がしながら、次々と地面に倒れ伏していく。
強力な魔法による先制攻撃を受け、いきなり多くの味方部隊を失った魔物の軍団。奴らは、完全に士気を喪失して雪崩を打つように退却を始めた。
そこに、騎兵隊を率いるガルドとマギが激しい突撃を仕掛ける。
大型鬼は、俺が雷撃により全て処理していた。そのため追撃により、背を向けて逃げるのは中型鬼のホブゴブリンばかりだ。
精鋭部隊による激しい追い討ちにより、僅か数分の戦闘で魔物の軍団は壊滅する。辺りはその死骸で埋め尽くされる事となった。
アメリア王国軍の先方部隊である魔物の軍団は、ざっと二千体といったところだったが。グリーラッド軍はそれを僅か500騎で蹂躙した。
幸先良く初戦を勝利し気を良くしたのか、エマは俺に対し浮かれた様子で話しかける。
「それにしても、本当にあんたって器用よね! こんな物作れるなら、この間の戦いが起きる前に作って欲しかったわよ」
魔法の術式が至る所に施された鎧。それを見せ付けるように、両手を広げてそう言うエマ。
そんな彼女の言葉に、俺は少し考えが甘かったと反省する。
「ああ、確かにそうだな。あの時は、まさかあれ程大規模な侵攻があるとも思っていなかったから、魔力砲が五百挺も有れば事足りると思ってたんだよ」
「そのせいで、大切な幼馴染みを死なせるところだったわね?」
「いつまでも、その事をつついてくれるなよ……そう思ったからこそ、今回そいつをお前の為に作ってやったんだからさ」
今回、俺が作った鎧はエマの為に作った特別仕様の物だ。
全パーツに身体強化と防御力上昇。彼女が扱える、全ての上級魔法の術式も施してある。更には、足りない魔力を補完する為の魔玉を各所に埋め込んでいた。
いくらオーダーメイドとはいえ、武具店の品物として並んだとしたら一般人の一生分の収入が吹き飛ぶ。それくらい高価な代物だろう。
「冗談よディール。無詠唱で上級魔法をバンバン撃てるようになったんだもの。ちゃんと感謝してるわよ」
「ああ。お前に死なれたら、確かに寝覚めが悪いからな」
「フフッ! それに……」
悪戯な笑みを浮かべながら、何か言いかけるエマ。嫌な予感がしつつも、俺はその先を促す。
「それに? 何が言いたいんだよエマ」
「こんな国宝級の装備を、私だけの為にくれたんだもん! これは、婚約指輪代わりと受け取っておくわね」
「はぁ!? また、なに言い出すんだよお前は! どうしたら、そんなに事になるって言うんだ?」
「でも、私には死んで欲しくないのよね?」
「そっ、それはだな……幼馴染みとして、お前に死なれたら悲しいと言うか……」
「でもこの間、私があんたに伝えた気持ち。それについても、はっきりと断ってはいないわよね? それってどうしてなのかしら?」
「いや、だから、アルのやつと俺が事実婚の間柄だって、お前そのとき既に知っていただろ? この間の事は、お前が一方的に気持ちを伝えたかっただけで……」
そこまで言いかけてハッとする。
流石にこの先を言ってはいけない。そんな気がして。俺は、そこまで言って口をつぐんだ。
「私ね! あんたに気持ちを伝えたら、何か吹っ切れたみたいなのよね! あっ、勘違いしないで欲しいのは、吹っ切れたって言ってもあんたの事を諦めたってわけじゃないのよ! ずっと心に仕舞っていた気持ちを吐き出したら、何だか逆に素直な気持ちになっちゃって……そう、逆にあんたの事を諦めたくなくなっちゃったのよね。だから、仮にあんたにはっきりと断られたとしても、ずっとあんたの側に居続けたいと思う……」
少し目を潤ませながら、そう一気に言いきるエマ。そんな彼女に圧倒され、気まずくなった俺は「そうか」とだけ言ってソッポを向いた。
女性に対して、はっきりとしない態度を示してしまう。自分でも分かっているが、本当に俺の悪いくせだ。
しばらく気まずい雰囲気が流れるなか、俺たちの元に掃討を終えたガルドとマギが戻ってくる。
「敵軍は壊滅しました。初戦は大勝利ですね!」
「ああ、ご苦労だったな! こちらの損害は?」
「軽い怪我を負った者が数名出ただけです! 死者、重傷者はおりません!」
「そうか、それは僥倖だ!」
「しかし、敵の本軍が全く動きを見せないのは不気味ですね」
最後にそう呟くガルド。
今回アメリア王国は、総勢15万もの軍を動員してきた。ところがどういうわけか、数に任せて一気に総攻撃を仕掛けてくるような事はなかった。
広大な草原地帯に野戦陣地を形成し、強固な防御体制を整えるグリーラッド軍。こちらの万全な様子に、無理な攻撃で無駄な消耗は抑えたい。そう敵軍側は考えているのではないだろうか。
初戦に関しては、何とか迎撃に成功したが。魔物だけの軍団で攻めてきたことに関しては、どうにも腑に落ちない。
敵軍の中には召喚士が居るようで、アメリア王国側の軍容は15万中1万程が魔物によって編制された軍団だった。
「魔物の部隊は、こちらを消耗させる目的の捨て駒だろうな」
俺の言葉に対して、ガルドが疑問を投げかけてくる。
「確かに、そうとも思えますが。それにしても動員する部隊が少なすぎるような気もします。何か別の意図が有るのかもしれません」
「まぁ、しばらくは様子見だな。何ていっても、味方の軍は三千しか居ないわけだし。敵さんが静観しているなら、無理にこちらから攻撃を仕掛ける事もないだろう」
戦果の報告を終えると、俺は部隊を纏め即座に野戦陣地へと引き返す。グリーラッド軍はこれからも積極的には仕掛けず、敵軍の動きに応じて様子を見ながら動く方針とした。
ところがそう決めたのも束の間。敵の本軍に大きな動きが見られる。陣地に戻るなり、俺はすぐにその対応に負われることとなった。




