第45話 新たな戦力
時は少し遡る。ムーンガルド大陸の西に存在するアーリア大陸へと渡るために、奏多達一行は大陸西武の港町に来ていた。
その港町はアメリア国内に有る、ポルガという名の大きな造船所の町である。
目的の大陸に渡るため、奏多は完成間近の巨大な帆船を購入し後は進水式を待つばかりだった。
宿のロビーにて。ラフな格好をしたカースト上位の三人が、雑談をしていた。
どういうわけか、最近すっかり外道を働かなくなっていた奏多。そんな彼に対し、亜里奈がその事に関して質問する。
「それにしても奏多。最近は乱暴なこと殆どしないし、お金までちゃんと払うなんて。何か心境の変化でもあったわけ?」
「金ならいくらでも有るしな。反乱軍の例もあるだろ? いちいち俺達に逆らう連中を殺して回っていたら、却ってスムーズに事が運ばなくなるって気づいたのさ」
奏多の大人な意見を聞き、亜里奈は嬉しそうに微笑む。理由はともあれ、彼がそうなった事を好ましく感じていた。
「奏多、あなたも少しは成長したのね?」
思いがけない事を彼女から言われ「フンッ! 何だよそれ」とだけ言って、奏多は気恥ずかしそうにそっぽを向く。
そんな二人のやり取りを、悠哉は生暖かい目で見守っていた。
他の面々は、進水式までの間自由行動が許されており其々が町に繰り出していた。
今までやりたい放題にやっていた人間狩りなども禁止され、最初は困惑していたクラスメイト達。
しかし、最近では奏多から十分な金を支給されるようになり、すっかりその生活スタイルにも慣れてきたようだ。
昼間から酒を呷る者。女を買いにいく男子達。ショッピングを楽しむ女子グループ。其々が、思い思いにムーンガルド大陸での最後の一時を過ごしていた。
そんななか一人行動が好きな美鈴は、誰ともつるまずウインドウショッピングを楽しんでいた。
ショーウィンドウの服を眺める美鈴の後ろから、フードを被った怪しげな男が突然声をかける。
「お嬢さん、一人で買い物かな? 他の者達とは一緒に行動しないのか?」
振り返り様、目に入った怪しげな男が発した『他の者』という言葉に、警戒の色を見せる美鈴。
そんな彼女に対して、男は包み隠さず話を進める。
「お察しの通り、私はお前達が何者なのかを知っている。魔王アスモデウスだと言えば、わかってもらえるかな?」
突然のカミングアウトに驚愕しながらも、美鈴は応対を始める。
「まっ、魔王ですって? 魔人体を持ってきた、あの魔族の男が言っていた?」
「そうだ! パノプリアは、面白い土産だっただろ?」
「持っていくのが大変そうだったから、王宮の地下にある秘密の宝物庫にそのまま置いてきちゃったわよ」
「そうか。その感じだと君たち召喚者には、あまりお気に召さなかったようだな?」
「それで、天司くんに用があるんでしょ? 彼ならグランデポルガって言う、この町で一番大きな宿にいるわよ」
自分には関係ないとばかりに、適当にあしらおうとする美鈴。そんな彼女に対し、アスモデウスは唐突に質問する。
「美鈴は天司奏多にずっと付いていくつもりなのか?」
「なっ、何で私の名前まで知っているのよ!」
「勿論、知っているとも。君だけじゃなく、召喚者全員の事を把握しているよ」
「そっ、そう……それで、どうしてそんな事を私に訊くわけ?」
「今回は、君に対して興味があるからだよ」
「わわっ、私に?」
「そうだ! 君が持つ召喚者としての力に私は興味が有るのだよ」
不敵な笑みを浮かべながらそう言うアスモデウス。興味があると言われた美鈴の反応は、満更でもなかった。
☆☆☆
アメリア軍の侵攻を撃退してからしばらくして。今ではゴッドディルと呼ばれるようになった古城周辺の町に、二千人ほどの武装集団が接近していた。
斥候として精鋭の騎兵隊を率い、その集団の確認に向かうガルドとマギの二人。遠巻きに様子を見る限り、彼らは友軍である事が窺えた。
警戒はしつつも、ゆっくりとその集団に近づき大声で問うガルド。
「私は、ゴッドディル防衛軍団長のガルドだ! 卿等の指揮官と話がしたい!」
ガルドの問いかけに対し、軍馬にて先頭を進んでいた中年の男が即座に応じる。
「私がこの一団の指揮官、マイティスと申す者です。旧サマルキア王国北部方面軍の一部を率いて、ディール様の麾下に入るために馳せ参じた次第です!」
「了解した! すぐに確認するので、しばしこちらで待機願いたい!」
一応、監視のためその場にマギを残し、ガルドは一人馬を走らせ確認に向かった。
☆☆☆
腹心の報告を受けた俺は、マイティスと聞き急いで彼らを出迎えに行く。
俺が到着すると、二千の軍団はマギと共に大人しく街道脇で待機していた。
そのまま招き入れてくれても良かったのだが、マニュアルどおりに対処した二人を責められない。
「やあ、マイティス! 北部方面軍の司令官として、現地に戻っていたんじゃなかったのか?」
「ディール様! 王都奪還作戦の時以来ですな! と言っても、まだ一月も経ってはおりませんが。見てのとおり、私と思いを同じくする者達と共に、あなた様の麾下に入ろうと馳せ参じた次第です!」
「そうか! ちょうど現在アメリア王国からの侵攻を受けている最中だからな。正直なところ援軍は非常に助かる!」
「援軍というよりも、我々はあなた様の陪臣となりたいのです」
「兄上の許可は取っているのか?」
「勿論です! 私を含め、ここに居る者全員が、新王から軍を離れる許可をもらっています」
「そうか……何日にも渡る行軍ご苦労だったな。すぐに宴の準備をさせるから、とにかく町に入ってくれ」
俺はそう言って、早速マイティス達を領内に招き入れる。
町に入った彼らは、発展した市内の様子に驚きを隠せないようだ。
隣をいくマイティスは、その光景を見て俺を称賛する。
「グリーラッドは、荒野と岩山くらいしか無い所だと聞いておりましたが。城の周辺は既に、かなりの発展を遂げておりますな。まだ赴任されてから一年にも満たないというのに、流石はディール様です!」
「まぁ、積極的に難民を受け入れたりしたからな。俺が凄いというよりか、彼らが良く働いてくれたってだけさ」
「多くの難民たちが、何もないとされるこの地を目指してきたのも、あなた様の人望が故に為せる業だと思います」
「そんなに煽ててくれるなマイティス! 単に元勇者の肩書に皆寄ってきただけさ」
そう謙遜してみせる俺に対し、マイティスは自分達が肩書につられてきたわけではない事を強調する。
「ディール様がどうおっしゃろうと構いませんが。肩書だけにつられた者達が、身の危険を冒してまで軍を辞する決断をいたしますでしょうか?」
マイティスの発言に、俺は恥ずかしくなる。謙遜したつもりだったが、却って彼のプライドを傷付けてしまったようだ。
それにしても、こうもストレートに褒められると照れ臭くて仕方がない。
(王宮の連中とは違って、外の人間達は案外俺の事を認めてくれてたんだな……)
俺は、今更ながらにその事を認識する。マイティスの言葉を受け、自然と人が集まるこの状況を素直に嬉しいと感じることができた。




