第44話 窮地に立たされる新国王
アメリア王国の王宮にある一室にて。国王と重臣達による緊急の会議が行われていた。
最近、魔道師団の顧問となったばかりの、アスモデロと言う男の進言に従い始めた今回の侵攻作戦。
しかし、それは失敗に終わり。続々と帰還する敗残兵達の姿に事態を重く見た国王が、今後の方針について話し合いの場を設けていたのだ。
そこには真っ先に帰還していた、召喚者である美鈴の姿もあった。
アーリア大陸には渡らずに一人残った彼女に対し、状況の詳細を求めるアスモデロ。
「ヒュドラを制御するための魔玉は、持たせていたはずだが? あの魔道具が有って、制御を離れ暴走してしまうというのは考えにくいな」
「制御を離れるも何も、倒されちゃったのよ!」
「倒されただと? 不死身の魔物だぞ? そのような話、俄には信じられんな!」
「私だって信じられなかったわよ! でも、それが事実!」
美鈴がそう言い終わると、わざとらしく考え込む様子を見せるアスモデロ。
しかし、実のところ彼には、こうなる事が最初からわかっていた。
アスモデロは、ヒュドラを倒した張本人についても知っていた。
また、召喚した魔物が例え不死身であったとしても、その人物には勝てないだろう事も十分承知していたのだ。
更に言えば、その人物が不在である状況を狙ったとしても、いざとなればすぐに帰還できる体制を整えていた事もである。
事実。ティナと共に馬で移動していたディールは、その時アルからの連絡を受けるなり、例の光るプレートにて最寄りの転移陣まで移動していた。
それによって彼は、すぐに帰還する事ができていたのだ。
謎の人物アスモデロが真に掲げる目的は、グリーラッドの制圧などではなかった。
「どうやら、新たにグリーラッドの領主として任命された人物は、相当な使い手のようだな。これはサマルキア王国への侵攻作戦も、一旦考え直さないといけないのかもしれん」
他の帰還した兵士達からの情報も受けていた国王。元々、侵攻作戦に乗り気ではなかった彼は、二人の会話にそう口を挟んだ。
そんな国王の意見に対し、再び進言するアスモデロ。
「僭越ながら申し上げます国王陛下。サマルキア王国が現在置かれている状況を鑑みるに、攻め滅ぼすにはこれ以上ない好機である事に間違いはありません!」
「しかしなぁ……グリーラッド一つ占領するのに、5,000もの兵を送り込んで敗北したうえに、2,000人以上もの戦死者を出すような事態になったのだ。本格的に軍団を編成したとして、今度こそ勝てるという保証もあるまい」
「要は、その手練れさえ倒してしまえば良いのです! 次は私も参戦いたしますので、兵達の士気を高める為にも陛下自らが軍の指揮を取られては如何でしょうか」
「アスモデロ殿が参戦してくれるのであれば、確かに心強い事ではあるが……貴殿はその者に勝つ自信が有るのか?」
「勿論、ございます! それに、創造神であるハルバを蔑ろにするような国をこのまま捨て置くなど、ハルバ正教を国教とする我が国としてもこれ以上看過できる事ではありますまい」
アスモデロが発したその言葉によって、若き国王の心は決まった。
サマルキア王国の討伐を決意した彼は、その場の重臣達に向かって命じる。
「サマルキア王国討伐の軍を召集する! 此度の戦は、私自らが指揮を取る事といたす! アスモデロを軍師とし、全ての軍を動員してかの国の討伐に向かうぞ!」
国王の宣言により、大臣達は即座に担当部署へと移動する。軍の編成に向け、其々が準備に動き出した。
少し疲れた様子の国王は、その後すぐに自室へと向かった。
「ねぇ、アスモデウス~。あんた一体、何を考えてるの?」
そのまま会議室に残っていた美鈴が、同じくその場に残っていたアスモデロに対してそう質問する。
「何かの拍子にボロが出ないとも限らんし。いくら二人とはいえ、あまりその名で呼んでは欲しくないのだがな」
「ごめん、ごめ~ん。つい、うっかりね! で、あんた一体、何がしたいわけ?」
「前に話したとおりだよ。ここに我らが魔族の王国を建国する。その為には、王家が邪魔になるのでな。ヴィルヘルムには、この戦で退場してもらうつもりだ」
「ヴィルヘルムちゃんを戦争に引っ張り出すために、私が負けて帰ってくるのを承知でグリーラッドに向かわせたわけ?」
「まぁ、そう言う事だな」
アスモデロは、不敵な笑みを浮かべながら彼女の質問に対してそう答えた。
☆☆☆
その頃。新たな王家へと移行したばかりのサマルキア王国王宮では、国王となったばかりのレイチェルが各地から寄せられる報告の対応に追われていた。
混迷を極めるサマルキアの国情に乗じて、隣接する各国が続々と討伐の軍を興していたのだ。
国王になった喜びもつかの間、続々と寄せられる各地からの援軍要請。就任早々いきなり直面した危機的な状況に、レイチェルは苛立ちを覚えていた。
そんな新国王に対し、大臣の一人が今しがた入ってきた援軍要請に関して意見する。
「まさか、アルフカンド王国までもが我が国に対して侵攻してくるとは……既に王都に残っている兵力は、一万にも満たない数しか居りません。しかし、かの国が相手では残る兵を全て送り込んだとしても焼け石に水でしょうな」
「うむ、まさか就任早々このような事態になるとは皮肉なものだな。兎に角、考えていても仕方がない! 六年前の例も有る。俺自らが、一万の兵を率いて援軍に向かう。そうすれば、数的劣勢を跳ね返す事もできるかもしれん」
絶望的とも言える状況のなか、レイチェルは自ら軍を率いて援軍に向かう事を決意する。大臣たちとの会議を終えたあと、早々に軍団編成の準備を始めた。
因みに弟のスネイクは、既に別の援軍要請に応じ司令官として現地に向かっていた。
六年前の例とは、まさしくディールが圧倒的不利な状況から、アルフカンド王国軍を殲滅した戦いの事である。
しかし、レイチェルとしては弟にこれ以上活躍させたいとは思っていなかった。
使えるものは何でも利用したルーイ11世。そう考えると彼は、前国王とは対照的な性質であると言えるのかもしれない。
新体制となったばかりのサマルキア王国の命運は、まさしく彼の双肩にかかっていた。




