第43話 女のバトル再び
現在、古城の一室では、戦勝の宴を前にして殺伐とした空気が漂っていた。
俺が座る椅子に自分の椅子をくっ付け、アルはピタッと俺に貼り付きながら見慣れない女と睨みあっている。
そんななか入室してきたエマが、その女を見るなり目を丸くして叫んだ。
「ティティッ、ティナ王女殿下!?」
「あら? エマ! あなたやはり、王家を裏切っていたのですね?」
「そっ、それは……」
答え辛そうにするエマの為に、俺は一応フォローを入れる。
「俺が頑なに固辞し続けたからな。あの国王の性格からして、手ぶらじゃとても帰る事なんてできないだろ?」
俺のフォローが功を奏したのか、ティナは表情を柔らかくして言う。
「冗談ですわよエマ。国王以外は全員あの時、戦うという選択肢はあり得ないという思いで一致しておりましたもの。それに私も、今となっては王族を辞めた身。元臣下だったからといって、私に気を遣う必要などございませんことよ」
「王族をお辞めになった? 一体どう言う事なのですか?」
当然、驚いてそう問うエマ。俺は伏せるべきところは伏せつつ、一連の件についての説明を行った。
ある程度の説明が終わったところで、今度はアルが元王女に対して質問をはじめた。
「それはそうと、どうしてティナさんは、このグリーラッドに来る必要が有ったんですか? 元王族なら、それなりに厚待遇で都に住み続ける事もできたんじゃないでしょうか」
「この領地には、まだ教会が無いと聞いております。私は、このグリーラッド領に教会を建設して、神の教えを広める役目を果たしたいと考えているのです」
「神の教え? ハルバのですか?」
アルの問いに、俺を除く他の者達はみな興味を引かれている様子。ティナが次に発する答えを固唾を呑んで見守った。
「勿論、ハルバの教えなどではございません。私が広めたいのは新しい教えなのです」
「新しい教え? 一体どのような教えなのですか?」
「この世界に於いて古くから信仰されていた古の神々。そういった古い信仰対象をもう一度復活し、その言い伝えに新しい解釈を加えた教えですわ。ディール様を聖人の一人とし、まずはこの領内を皮切りに世界に広めていきたいと考えているのです」
己の事を聖人扱いされ、正直なところ俺としては勘弁願いたいといった感じだ。だが、召喚者たちの横暴な行為の数々を見れば、ハルバという神が信用ならんのも確か。
「どうやら、そういう事らしいぞ。俺なんかの何処ら辺が聖人なんだかはよくわからんけどな……」
「何をおっしゃいますディール様! あなた様こそ、この世界における、真の神から遣わされた聖人に他なりません! あのような神がかった力をお持ちなのです! 私の考えに、間違いなどございませんわ!」
ティナの言い様に何故かガルドも同調する。
「確かに、ディール様のお力は神がかっていると言っても過言ではありません。私も先程アメリア軍を屠った大魔法を見た後では、その意見に同調せざるを得ませんね」
「だからあれは、勇者として恥ずかしくないようにだな……研鑽を重ねていた結果だ! そんな大した事なんかじゃないぞ!」
そう謙遜してみせる俺の気持ちを余所に、今度はアルがどや顔で語り始める。
「私は、その大魔法を見ていたわけじゃないですけど。実際に私が見たディール様の力は、もっと凄いんですよ! 実体の無い、幽霊の親玉だって浄化しちゃうんですから! その時のディール様は確かに、本当の神様から使わされた聖人と言ってもいいくらいでした」
俺にべったりと寄り添いながら話すアル。そんな彼女に対し、ティナはジト目を向けながら問う。
「それはそうと、あなたは何故さきほどからディール様に、べったりとくっついてらっしゃるのかしら? そのお方は、私の元婚約者なのですが」
「あなたの事は、ディール様から聞いてます。あなたは、元婚約者ですよね? 私は、ディール様にとっての現在の妻なんですが」
「ななっ! 何とおっしゃいましたか!? 妻って……まさしくそう言う事なのですか? ディール様! その件につきまして、詳しく私に説明してくださいませ!」
突然、始まってしまった女のバトルに、ため息しかでない。だが、丸く収めるには下手に両方立てるような言い方をしない方がいい。事実を述べるのが一番だ。
「まぁ、あれだ。事実婚っていうやつだな! 式をちゃんと挙げたわけじゃないんだが、何となくそういう感じになってしまったと言うか……」
そうは思いつつも、俺は結局そんな歯切れの悪い説明しかできなかった。そんな俺の言葉にエマは叫ぶ。
「このロリコン! バカッ!!」
「ディール様は、ロリコンなんかじゃありません! 私、もうすぐ17歳ですよ? 背が低めなのと、顔立ちがロリ顔なのはこの際もう認めますけど。前にその事は説明しましたよね? エマさん!」
そう即座に反論するアル。そんな彼女の話にエマが反応するよりも早く、ティナが口を挟んだ。
「式をまだ挙げてはいないのですね? と言うことは、神の前で結婚を宣言してはおりませんわよね。それならば、ディール様のお気持ち次第では、事実婚の間柄を解消する事もあり得るのではないかと」
一旦は自身の性格を省みて、まともな考えをするようになったかと思っていた。
しかし、すっかり元のご都合主義な感じに戻ってしまい、俺は少しがっかりする。
「ティナ! お前をここに連れてきたのは、今までの態度を反省して、元王族としての罪を教会を建設する事で償いたいって話だったからだぞ?」
「勿論、その気持ちに嘘偽りなどございませんわ!」
「それなら尼になるって事なんだし、いくら元婚約者だからって人の結婚に対して口を挟むのはおかしいだろ」
俺がそう指摘すると、黙り込んでしまうティナ。
微妙な空気になるなか、エマはボソッと呟く。
「ディール……私の告白に対する答え、まだよね?」
エマの言葉に対し、過敏に反応したのはアルだった。
「告白? 何の事です? ディール様!」
(また余計な事を……)
このタイミングでその件を持ち出すエマに対して、俺は心の中でそう思う。そんななか、ちょうど良いタイミングで部屋のドアを叩く音が響く。
ミグが、宴の準備が整った事を伝えにやってきたようだ。
「ディール様! 戦勝祝いの準備が整いました。皆ディール様がお越しになるのを、首を長くして待っております。なのでお急ぎいただけると嬉しいです」
「そうか! ありがとなミグ。じゃ、この話しはまた今度ゆっくりするという事で。そんじゃ早いとこ宴会場に向かうとするか!」
これ幸いにとばかりにそう誤魔化し、俺は部屋を出ようと席を立つ。何故かアルは勝ち誇ったような顔で、俺の腕に絡みついてきた。
「お待ちくださいませディール様!」
「ちょっと待ちなさいよディール!」
俺は、二人の呼び止める声を無視し、アルと共にそそくさと部屋を後にした。




