第36話 仲間達の存在
「クソッ! 一体何が起こったってんだよ!」
急に消えた敵軍を追撃する事なく。悠哉は地面に埋もれていた奏多を発見すると、兵を引き上げ王宮に帰還していた。
程なくして意識を取り戻した奏多は状況が掴めずに、目覚めるなり急にそう叫び出していた。
「何が有ったのか聞きたいのはこっちの方だぜ、奏多」
悠哉は、奏多が目覚めたら事情を訊くつもりでいたのだが。当人のこの反応に面食らってしまう。
二人は、取り敢えずわかっている範囲で、お互い状況についての説明を始めた。
「気づいたら、いつの間にか敵の軍が撤退を始めていたからよ~。てっきり奏多が敵の大将の首を取ったんだと思って状況を確認しに行ったんだ。そしたら、地面に埋もれてる状態のお前を発見してびっくりしたぜ。総大将がそんな状態じゃ、どうして良いのかわからなかったしな。とりあえず軍を引き上げて、王宮に戻ってきた感じだ」
「クソが! 敵をみすみす逃したってのか? こっちは敵の大将を、あと一歩のところで殺すところだったんだぞ!」
「じゃ、何であんな状態になっていたって言うんだよ?」
「それがわからねーから、俺も余計にムカついてんだろが!」
「しかし、それにしても自動再生ってパッシブスキルはスゲーよな! 発見した時のお前は、殆んど瀕死の状態だったんだぜ? でも、一日もしたら、もうケロっとしてんだからな~」
あまりにも突然すぎる事だった。それが故に奏多にしてみても、まさか自分がターゲットにしていた男によって、一撃で瀕死の状態にされたなど理解できるはずもなかった。
悠哉は、敵軍が引き始めた事で味方に対し勝利宣言を行い、一応の格好をつける形を取ってから撤退していたのだ。
一方、一週間ほどで軍を引き上げて、ヴァーニア侯爵領へと帰還したレイチェルとスネイク。
二人は、父のスコットを交えて戦果の報告と今後の行動についての話し合いを行っていた。
「まさか、異世界人が、あんな化物染みた強さだなんて思ってもみませんでした……」
レイチェルが父に向かってそう呟く。
「だから申したであろう? あのディールが、一撃で倒されたと聞いておったのだ! いくら高価な魔道装具を持っていたとしても、常人が敵う相手でない事くらいわかるはずだ」
「戦況そのものは、我が軍が常に優勢に運んでいたのですが……個の力であそこまでやられえしまうと、軍略も何も有りません。しかし、ディールの奴があのフレイア殿と友人関係だったとは……何とかしてあの御仁を、我が方の味方にできないものでしょうか?」
「召喚者を一撃で倒すなど、もはや人かどうかすら怪しいものだがな。少なくとも悪人というわけではなさそうだ。まぁ可能であれば、味方になるよう交渉してみるのも手かも知れん」
「では早速、ディールの奴に伝聞鳥にて手紙を送りましょう。実家の危機なのです。奴の事ですから、必ずフレイア殿を説得してくれるはず!」
人外の強さを持つ者に対しては、同じく人外の者を当てる。それが最上の策と判断したレイチェル。
彼は、父との話し合いが終わると、すぐに執務室へと向かい弟に宛てた手紙を書き始める。
伝聞鳥とは、魔道具を取り付ける事によって制御できるようにした鳥だ。
レイチェルは、伝聞鳥に手紙をくくりつけ執務室のテラスに出るとその鳥を空へと放つ。
馬鹿にする弟が、仮面の英雄フレイアであるという事も知らずに。
☆☆☆
フレイアとして戦場に赴いてからしばらくして、俺は兄のレイチェルから送られた手紙を受け取っていた。
フレイアに対し反抗軍に加わるよう説得して欲しい。という内容の手紙に、俺は頭を悩ませる。
一人では解決できないと感じ、臣下の者達を集めて緊急の会議を行っていた。
「フレイアを説得したところで、奴は戦争に加わるという内容では動いてくれないだろう」
俺は臣下の者達に事情を説明し、自身の見解を述べた。そんな俺の言い様に対して、アルはジト目を向けながら爆弾発言をする。
「ディール様! ここに居る皆には、もう話してしまえば良いのではないですか?」
「話す? 何の事だアル」
俺は、幼妻の問いに対してあくまでもシラを切り通そうと考える。情報を知っている人間が多ければ多い程、漏洩する危険性も高まるというものだ。
ようやく察してくれたのか、アルはそれ以上つついてくる事はなかった。
そんな俺たちの様子に、ガルドは怪訝な顔を向けてくる。
やはり誤魔化しきれなかったか? そう思い、少しだけ真実を明かす覚悟をしたが。俺が腹心と認めるこの男は、ちゃんと空気を察したようだ。その事は軽くスルーして、話を先に進めてくれた。
「それで、ディール様はこの件に関して、どうお考えなのですか?」
「さあな、どうしたものか……俺がここを長期間離れるわけにもいかないし。かと言って、フレイアは絶対に動かないとわかっている。今回ばかりは、実家の危機といっても放置するしかないのか?」
「大事なご実家の危機なのです! それを放置するなど、ディール様の心情的にも居た堪れない気持ちなのではないですか?」
「まぁ、両親の事だけは心配だけどな。兄貴達の事は正直、自分のケツは自分で拭けって感じか」
俺がそう冷たい反応をすると、エマは珍しく下手に出た感じで懇願してくる。
「お願いよディール! 私の実家も隣同士だし絶対に巻き添えを食うわ! だから、今回の件は何とかしてあげて欲しいの!」
「最近、アメリア王国の動きも活発になってきたしな。エマの気持ちもわかるが、やはり俺がここを長期間離れるのはかなり心配だ……」
俺の不安に対し、ガルドはやはり真剣に考えてくれているようだ。
非現実的ではあるものの、なかなか的を射た提案をしてきた。
「ディール様がお持ちの、レールガンという武器ですが。それが何挺かでもあれば、かなりの戦力強化に繋がると思います。しかし、やはりそれはディール様が勇者時代にどちらかで手に入れた、神級の魔道具かなにかなのでしょうか?」
「いや、こいつは俺が作った武器だから、他に作ろうと思えばいくらでも作れるさ。ただし、こいつは普通の人間には扱う事ができない」
「あまりにも強烈な威力に、普通の人間ではその反動に耐えられないという事でしょうか?」
「まぁ、それもあるがな。強力な電流を発生させる事ができない者には、使用する事ができないって言うのが一番の理由だ。だが、その考え自体は良い案かも知れないな」
「何か、類似する別の案でも?」
「ああ、大量に魔力砲を生産して射手を育成すれば、少ない兵力でも有効に戦う事ができるんじゃないか?」
「しかし、それを大量に生産する事など、可能なのでしょうか?」
「それについては大丈夫だ! 俺に任せとけ!」
自信満々の俺の発言に対して、エマだけは不安そうな表情だ。やはりコイツは、俺の事を何処までもポンコツだと思っているらしい。
「それで、あなたは実家の救援に向かうって話で良いのよね? その魔力砲ってやつを大量に配備すれば、あなたが居なくてもここを防衛できるってこと?」
「まぁ、取り敢えずはな。俺もそんなに長く、ここを離れるつもりはないけど。やはり、まるっきり顔を出さないってわけにもいかないしな。魔力砲の生産が上手くいったら、エマにはここの事をしばらく頼んでも良いか?」
「ええ! 勿論よ! それじゃ、私の実家の事もお願いねディール!」
話は纏まり、新たな防衛体制を整えるための準備が行われる事となる。
俺にとって、今回の件は気が進まない話ではあった。しかし、それと同時に今回の件で、新たに得た仲間達の存在を頼もしくも感じていた。




