第34話 激怒する奏多
フレイアを殺した、と言う報告が一向にもたらされない事に奏多はイラついていた。
そのうえ、自身に次ぐ強さを誇るはずの聖也から連絡が途絶えていた事も、彼の苛立ちに拍車をかけていた。
「聖夜の奴、今何処で何をしているんだ? まさか、やられたとか言わないよな?」
カースト上位であるが故に、ゲームには参加していなかった亜里奈。そんな彼女が奏多の言葉に反応する。
「聖夜くんも上位チームの人間なんだから、無理にゲームになんか参加しなくても良かったのにね?」
「アイツは金じゃなく、ゲーム自体を楽しみたかったんだろ? 個人の能力だけでもいけるはずなのに、わざわざ下位グループの連中とパーティーなんて組むか? それがゲーム感覚で楽しんでるっていう良い証拠さ」
亜里奈と同じく、ゲームには参加していなかった悠哉も奏多の意見に同調して言う。
「あいつ俺と一緒で、文書を集めるのも飽き飽きしたって、しょっちゅう言ってたからな。連絡がまるっきり無いのも、あまりにもゲームに夢中になりすぎての事なんじゃないのか?」
「それにしたって、同じパーティーを組んだ他の4人からも、連絡が無いってのは流石におかしいだろ?」
「まさか本当に、フレイアって言う奴に殺られてたりしてな」
「冗談じゃない! 神の代行者である俺達召喚者が、そうでない者に負ける? そんな事はあり得ない! ところで悠哉、お前こそ樹海文書を集めるだけじゃ飽きるって言ってたんじゃなかったか? どうして聖也と一緒に参加しなかったんだよ?」
「別に、ゲームに参加してないわけじゃないぜ? 他の連中からの定期連絡で、何となく奴が居そうな場所を絞りこんでからスタートしようと思ってな」
「なるほど、そういう事か」
クラスメイト達の進捗状況について、三人で話が行われている最中。玉座の間に一人の兵士が入ってきて、奏多に対し急報をもたらす。
「国王陛下! 緊急のご報告があります!」
「何だ? 言ってみろ!」
「ヴァーニア侯爵領にて、反抗軍なるものが結成されたようで、その軍勢が王都に向かって進軍中とのこと。その数は三万人に達するとのことです!」
「ヴァーニア侯爵だと? 聞かない名だな? この俺様に反抗しようなんてフザけた連中だ!」
亜里奈は、ヴァーニアの名を聞いて思い出したように言う。
「確かヴァーニアって、王宮を追い出された元勇者の実家の名前じゃない?」
「あのポンコツ偽勇者か? 俺に一撃で倒された」
「そうそう」
「なるほど。あのディールって言う奴、弱っちいくせに今さら俺に復讐しに来たっていうわけか!」
奏多の言葉に対し、報告に来た兵士からそれを否定する内容が告げられる。
「いえ、ところが軍を率いるのは、侯爵家の次期当主である長男のレイチェルと、次男のスネイクだとのことです! かつて国家認定勇者だった三男のディールは、どうやらその軍には参加していない様子」
「どっちにしてもフザけた連中だ! 良いだろう。この俺自らが軍を率いて、力の差を思い知らせてやる! 良かったな、悠哉。これで少しは暇潰しもできるんじゃないのか?」
突然そう振られた悠哉も、実際嬉しそうだ。
「ああ、そうだな! 戦争ごっこか。面白そうだ!」
兵士の報告を受け、緊急に軍の召集がかけられる。奏多の号令によって集められた軍は、五万人にも及んでいた。
王宮前の観閲広間に集まった五万の兵士達に向けて、国王である奏多から出陣に際する演説が行われる。
「ここに集まった諸君は神の軍勢である! ハルバの加護を受けた我々は無敵の軍であり、何者も恐れる事はない! 神に対する反逆者共に、我らの力を示す時が来た! 一兵たりとも逃す事なく、反逆者共を蹂躙し尽くせ! 出陣だ!」
新国王の号令を受け、広間に集まった兵士達から一斉に気勢が上がる。士気旺盛の兵士達を見て、奏多は満足そうな顔をしていた。
そんな彼の演説に対し、思わず言葉を漏らす悠哉。
「奏多、お前ってけっこう、こーゆーの得意なんだな? 俺にはとても真似できないぜ」
「当然だ! 俺は神に選ばれた者達のリーダーだからな!」
自然と漏れた悠哉の言葉に、奏多は更に満足げな表情を浮かべる。そのまま彼は、大軍の待つ観閲広場へと下りていった。
用意されていた軍馬に跨がると、彼は大軍の間を通りながら悠然と城門に向かって進んでいった。
既に軍を発して王都に向かっていた反抗軍。あと二日程の行軍で王都に到達する場所まできていた。
奏多が発した討伐軍とは、翌日になって対峙することとなる。
何もない広大な平原地帯で睨み合う両軍。
数のうえで劣性である自軍を鼓舞する為に、レイチェルは自ら先頭に進み出て、馬上から兵士達に向かって演説する。
「数のうえでは、我が軍の方が僅かに劣性のようだ。しかし、戦は数だけではない! 相手は戦の素人集団だ! 本物の実戦を経験した我らの力が、奴らに劣るなどという事などあろうはずもない! 神の代行者を語るペテン師どもからこの国を取り戻すために、俺にお前達の命をくれ!」
レイチェルの演説により、反抗軍の兵士たちから気勢が上がる。直後、彼の号令と共に先陣部隊が敵陣に向かって進撃を開始した。
始まってみれば、最高司令官であるレイチェルの言ったとおりの展開となる。
寄せては返す波のような動きを見せる反抗軍に、奏多の軍はいいように翻弄され続けた。
いくらチート能力を持っている召喚者とはいえ、軍の指揮に関しては全くの素人である。その事がすぐに露呈したわけだ。
レイチェルの言ったとおり、王宮近辺の兵士達は殆んど実戦らしい実戦をした経験などない。
それに加え、軍に参陣していた経験豊かな司令官達の進言を、奏多は全く聞き入れようとしなかった。
彼のめちゃくちゃな采配も相まって、正規軍は次第に混乱状態へと陥っていく。
次々と入ってくる味方の劣勢を知らせる報告に、新国王の苛立ちは次第に強まっていった。
「イングベス卿率いる第五師団が、敵の囮作戦にかかり全滅! イングベス卿は討ち死にした模様です!」
連絡役の兵士による報告を受け、奏多は激昂する。
「クソが! 役立たず共め!」
そんな国王の様子に堪り兼ねた一人の将軍が、恐る恐る彼に対し進言する。
「恐れながら申し上げます陛下! 敵軍はどうやら我が軍を誘い込んだうえで、異国の魔道具をもって集中砲火を浴びせ、突出した部隊を殲滅しているようです」
「だからどうした!?」
「このまま闇雲に突撃を繰り返しても、被害は増えるばかり。我が軍の方が数は多いのです。一旦陣形を整え、こちらは敵を包囲する形を取り四方から一斉にかかれば、敵の注意を分散できるのではないかと存じます」
将軍がそう言い終わった瞬間、彼の頭は宙を舞っていた。
自身を否定されたと捉えた奏多は、怒りを抑える事ができなかったようだ。将軍の首を飛ばした後で、周囲の者達に向かって絶叫する。
「この俺に対して、生意気な口を利くなど絶対に許さない! 我が軍が劣勢なのは、お前達がだらしないからだ! 俺のやり方が間違っていない事を、俺自らが証明しにいってやる!」
そう宣言した横暴な国王は、一人本陣を出て軍馬に跨がる。そのまま単身で、敵陣へと向かって駆け出してしまった。
群がる反抗軍の兵士達をものともせずに、奏多は次々と襲いかかる敵の首を斬り飛ばしていく。
気づけば無謀な新国王は、敵の本陣近くまで切り込んでいた。




