第33話 浄化
「アイツら、いつまで狩りしてんのよ! 流石にちょっと遅すぎない?」
仲間の戻りが遅い事に不安を感じているのか。俺が森の中にあったその場所に到着したところで、一人の少女がそう独り言ちていた。
気づいてるはずだがよく躾られてるようで、俺の接近にも拘わらず隣の魔獣は大人しいもんだ。
「お前の仲間はもう、戻ってはこないぞ!」
後ろから突然そう声をかけてやると、驚いた少女は振り返り様に叫ぶ。
「フ、フレイア!?」
「残念ながら、そのとおりのようだな」
「まさか、全員やられたっていうの?」
俺は、少女が投げかけてきた疑問には答えず、彼女の脇で大人しく待機しているキマイラの件に関し賛辞を送る。
「大型の魔物だと聞いてはいたが、神級の力を持っているとされる伝説級の魔獣じゃないか。何処でそんなもんを見つけてきたのかはしらんけど。そんなやつを完全に躾けてるなんて、お前けっこう凄い奴なんだな」
単純な性格の娘だ。俺の言葉に有頂天になったのか、少女はどや顔でその事に対して自慢を始める。
「召喚士の子が召喚したのよ。でも、召喚した本人が使役する事ができなかったから、代わりに私が手なずけたっていうわけ」
「異世界からの召喚者ってのは、いろいろな天職を持っているとは聞いていたが。魔獣を召喚したり、手なずけたりできる職の奴もいるんだな? だが、召喚する事はできても、自分たちが元の世界に帰る事はできないのか?」
「残念ながら、そうみたいね。で、あなたはわざわざ、この私に殺されに来たっていうわけ? コイツが何だかわかっているのなら、あなたに勝ち目が無いことくらいわかるわよね?」
俺の目から見ても、虚勢を張っているのは明らかだ。自分に勝ち目の無い事がわかっている彼女は、ハッタリをかます事で主導権を握るつもりなのだろう。
少女のこめかみから濁った汗が伝う。
しばらく俺の反応を窺っている様子の彼女だったが。全く動じない俺に対し、ついに緊張の糸が切れてしまったようだ。
破れかぶれとなった少女は、使役する魔獣に向かって命令を下す。
「キマイラよ! この仮面を着けた男を食い殺せ!」
少女の命令に従って動き出す合成魔獣。しかし、その刹那。俺は、巨大なライオン形の頭部に容赦なく弾丸を撃ち込んだ。
一瞬で弾け飛ぶキマイラの頭部。
大量の血を撒き散らしながら、頭を失った合成魔獣はその巨体を地面に横たえた。
「は、はぁ? 銃? 何でこの世界の人間が、銃なんて持ってんのよ! しかも、何なの? その大砲並みの威力はさ! こんなの無しよ! 反則だわ!」
まさか一撃とまでは思ってなかったのだろう。少女は、半ばパニックになった感じで叫び散らした。
そんな彼女に対し、俺は更に脅しをかける。
「魔法が良いか? それとも、今のでキマイラみたいに跡形もなく消し飛んでみるか?」
俺の言葉に腰を抜かして、少女はその場にへたり込んでしまう。
そんな彼女の眉間に、俺はケラウノスの銃口を容赦なく突き付けた。
「おね、お願い! こっ、こっ、殺さないで!」
「お前の仲間達も、同じようにそう命乞いしていたな! 他人の命は軽くても、そんなに自分の命だけは大事なのか?」
「も、もう、人を殺したりはしません! 本当です! だから殺さないでください!」
ただひたすらに命乞いする異世界人の少女。そんな彼女に呆れつつも、俺はこの際だからと思い、いくつか質問をしてみる事にした。
「お前たち召喚者の目的は一体何なんだ? ただ、神の代行者として横暴の限りを尽くすために、この世界にやってきたわけじゃないだろ?」
そんな俺の問いに、少女は何の躊躇いもなく答え始める。
「詳しい事は私達にもわからないんです。私達は、ただ天の声に従って行動しているだけなんです!」
天の声と聞いて、アルの事が頭を過る。そのせいで相手が居るのを忘れて、思わず言葉を漏らしてしまった。
「まさか、アルが聞こえるって言う声の主も、こいつらのと同じ存在じゃないよな?」
「は、はぁ? アル? 誰の話ですぅ?」
「何でもない、こっちの話だ! それで、お前らが聞こえるっていう天の声は、お前らに対してどんな命令をしているんだ?」
「は、はい! 最初は樹海文書を集めるように言っていました。それには、いろいろと次の行動について示されていて……一番直近で入手した王宮倉庫の文書によると、武神体という物を手に入れる事が、私達に課せられた最終的な使命なんだとか……」
「パノプリア……一体、何なんだそれは?」
「それは私達にもまだわかりません! ただ、魔王の手下を名乗る者が私達にコンタクトを取ってきて、文字は違うけど同じ読み方をする物を持ってきたんです! その物体は、どんな状態になっても消滅しない不滅の肉塊でした」
魔王、不滅の肉塊。この二つの文言に、俺は一つ思い当たる。かつて自分を襲ったオズボーンという名の四天王。奴も確かに不死身だった。
「ひょっとしてそれは、体に取り込んだりすると不死身の肉体を手に入れる事ができたりやしないか?」
「え、ええ、よくご存知で! 逆に人や魔物を取り込んで、知性を得る事もできるみたいですね! 私達のリーダーが、ティナ王女の頭を切り落として、それにくっ付けて玩具にして喜んでましたよ」
いきなり聞いてしまった王女の末路に、俺は絶句する。
お互い愛情の欠片も無かったとはいえ、流石に元婚約者の話だ。俺としても当然、何も感じないはずはなかった。
「ん? どうされましたか? もうこれで、質問は終わりですかね?」
「いや、それなら目的の物は手に入れたって事じゃないのか?」
「いえ、表記されている文字も違いますし、私達のリーダーは違う物だと言っていました」
「どうして、そいつの言っている事を信じるんだ?」
「彼は天の声を、他の誰よりも強く聞き取る事ができるみたいなんです」
そこまで聞いて、俺はある事を試してみようと考える。
気配感知を使った際に、召喚者たちの中に別の存在が居る事を感じ取っていた。
恐らくコイツらの力の源は、その存在だ。
「わかった、もういい」
俺は、そう端的に言うと精神を集中する。大量の神気を解放し、その状態で少女の中に己の意識を潜り込ませた。
一瞬のうちに失神した少女は、バタッと倒れ仰向けの状態で痙攣し始める。しかし、すぐに動かなくなってしまった。
「死んだか? いや、生きてるな。どうやら上手くいったみたいだ」
処置を終えた俺は、少女の脇腹を軽く蹴飛ばす。
それで案外早く、少女は意識を取り戻した。
「命だけは助けてやる。だが、お前から力を奪った。普通の人間に戻った状態で、何処まで生き延びられるかはしらんが。生きている限り、今まで犯してきた罪をせいぜい償うことだな!」
俺の言葉に、茫然とする魔物使いだった少女。
言いたい事を全て言い終えた俺は、彼女をそこに放置したまま無言でその場を後にするのだった。




