第32話 命乞いしたって許さねー!
数十メートルも吹き飛ばされ、正面ゲート脇の壁に激突した聖也。彼は、瓦礫に埋もれながら体をピクピクと痙攣させていた。
俄には信じがたい光景に、茫然と立ち尽くす仲間の召喚者達。
聖也のレベルは既に、聖騎士として80を超えている。彼は、クラスメイト達の中でも奏多に次ぐ強さを持っていたのだ。
そんな彼が、一撃でこのような有り様にされてしまったのである。何が起きたのかわからない、といった反応になるのも当然の事だろう。
考えられる可能性としては一つしかない。仮面の男を目にした女子の一人が、すぐにその状況となった理由を悟って大声で叫ぶ。
「フレイア!」
彼女の声を聞き、緊張が走る他の男子二人。
仮面の男は、そんな彼らに向かってにじり寄りながら質問を始めた。
☆☆☆
「お前らは、神の代行者なんだろ? 何で罪もない人々を、何の理由もなく殺しまわっているんだ?」
「罪もない? 人間は皆、罪深いと神はおっしゃっている」
そう答えたのは、大剣を持った少年。
「まぁ、確かにそれは間違いないだろうけどな! だが、そうだからと言って辺り構わずに殺しまくるのが、神のご意志だとでも言うつもりなのか?」
「そうだ! 俺たちの要求に応じない時点で、神に対する反逆者と見なされる。それが証拠に俺たちの行いが、神から罰せらるような事にはなってないだろ?」
少年の言葉に、俺は少しだけ考えさせられる。
そもそも俺は、それほど信心深いというわけではない。だが、少なからず神は人を守ってくれる存在だとも思っていた。
「神が人の味方だなんて、思い上がった人間の勝手な考え方だって事だな。まぁ、言われてみれば、確かにそのとおりだ……」
一人納得する俺に向かって、女が苛ついた感じで叫ぶ。
「慎太郎! 勇司! お目当てのフレイアだよ! 三人がかりで戦えば、きっと勝てるはずだわ!」
少女の叫びに反応して、戦闘態勢を取る大剣の少年。
しかし、もう一人の戦槌を持った少年は、その意見に否定的なようだ。彼は、二人に対し撤退するよう促す。
「聖也が一撃でやられたんだ! 俺達が三人がかりでやったって、勝てるわけないだろ! 彩香のところまで一先ず撤退だ!」
そう叫ぶ少年に一瞬で迫った俺は、胸ぐらを掴んで吊し上げながら質問する。
「他にもまだ、仲間がいるのか?」
「ま、魔道士だろ? な、何て力なんだ……」
「俺の質問に答えろ!」
「あ、ああ……い、いるさ!」
「召喚者たちが全員できているのか?」
「全員では来てない。俺達の仲間は、あと一人いるだけだ……」
「それじゃ、その仲間の所に案内してもらおうか?」
そう言って、俺は少年を地面に投げ捨てる。
僅かに神気が漏れだしていたようで、少年は完全に戦意を喪失してしまったようだ。
恐怖に震える少年に向かって、俺は再び脅迫を始める。
「どうした? 別にお前らをここで殺したって、その仲間を探し出す方法はいくらでもあるんだぜ。まぁ、その方が手っ取り早いしそうするか?」
半分脅しで半分は本気だった。次に俺は少年の頭を掴み上げ、少しずつ力を加えていく。
軋む音と同時に悲鳴を上げる戦槌の少年。
「わか、わかったからっ! 頼むから殺さないでーーっ!」
少年は、召喚者としてのプライドなど関係ないとばかりに叫ぶ。
「他の人間を、楽しみながら殺してた奴がよく言うぜ! 人を殺す時は、自分の命も失う覚悟をしてからにしろ! 無抵抗の者を一方的に殺すなんて所業は、魔物や獣と同じじゃないのか?」
俺は、少しだけ掴む力を緩めそう問う。
「NPCを痛めつけでもして金を巻き上げるくらいしないと、召喚者の中で底辺の俺達は生活費すら稼げないんだよ! 何だかよくわからないけど、この世界って質の悪いゲームかなんかなんだろ?」
「言ってる意味がよくわからんが。弱者を狙わなきゃいけない程、お前らは弱くはないはずだろ?」
「お、お前だってその強さなんだ! 弱い奴らをいたぶるのが楽しいって感覚くらい、わかっ、わかってるんじゃないのか?」
少年の問いに俺は呆れ返る。それと同時に激しい怒りがこみ上げてきた。
「外道が!」
そう吐き捨てると同時に、少年の溝尾を蹴りつける。さっきの奴とは門を挟んで反対側の壁まで、蹴り飛ばしてやった。
残り二人となったところで、次に俺が狙いを定めたのは大剣の少年だった。
「わ、わかった! 仲間の所に案内すれば良いんだろ?」
「なんだ、急にものわかりが良くなったな? だが、気が変わった。お前ら害虫としか言い様のない外道どもは、ここで全員始末してやる!」
「ま、待て! た、頼む! 殺さないでくれ! 俺たちだって、いきなりこんな世界にこさせられるような理不尽な目に遭って、気がおかしくなってたんだよ!」
「まぁ確かに、その点については少し同情するけどな」
今しかない、と思ったのだろうか。俺がそう言った瞬間、少女は門に向かって駆け出す。
しかし、そんな彼女の行動を俺は見逃さなかった。瞬時に大腿部のホルスターからケラウノスを抜き、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
少女が逃げた先の石畳は激しく吹き飛び、その衝撃で彼女も後方に吹き飛ばされる。
どうやら腰が抜けてしまったらしく、少女は尻餅をついたまま身動きがとれなくなってしまったようだ。
その様子を目にした少年は、恐怖のあまり失禁しながらその場で気絶してしまった。
少しだけ召喚者たちに対し同情心が湧いたのか。自分でもそれはよく分からない。
俺は召喚者たちにとどめを刺す事なく、ずっと茫然と様子を窺っていた町の警備兵たちに向かって叫んだ。
「こいつらはもう、完全に戦意を喪失してるみたいだ! 後はお前らの判断に任せる! 煮るなり焼くなり好きにすれば良いさ!」
俺からそう告げられた兵士達は、我に返り次々と動きだす。召喚者たちを手慣れた感じで拘束し始めた。
取り敢えず命は助かったと安心したのか。少女は、兵士たちに縛られる際、全く抵抗する事はなかった。
いくら人外の力を持つ召喚者たちとはいえ、後ろ手に縛られ、両足まで縛られては身動き一つできない。
しかし、念には念を入れた方が良いと思ったのか、兵士達は詰所から鉄製の拘束具も持ち出してきた。
連中が完全に拘束されたのを確認した俺は、精神を集中し町の外に意識を広げる。俺の体から青白い光の波紋が広がり、その微かな光は数キロ先にまで至った。
「意外と近くに居るようだな」
俺は独りそう言ちる。
数キロ先に感じたのは、強い力を持った一人の人間と大型の魔獣の気配だ。
俺は、町の外へ出ようと破壊された正面ゲートに向かって歩き始める。誰一人として、逃してやる気なんてまるでなかった。




