第23話 Sランク冒険者フレイア参上!
「フレイアだか何だか知らないけどさ! 私は、一緒にルーイ陛下の元に来いって言ってんの! 魔物の討伐なんて、この際どーでも良いのよ!」
そう言って、急に本性をさらけ出すエマ。兎に角、王に命じられた事を全うするために必死なのだろう。そんな彼女に対して、俺も本音をぶちまける。
「そもそもなー、お前! 国中で魔物共が暴れまわっている現状で、王の座を奪還する為の戦争なんてやってる場合じゃないだろ? そうは思わないのか?」
俺の言葉に、兵士達は全員が賛同した様子で頷く。エマは一人、納得いかない様子で更に反論してきた。
「魔物共が暴れまわっているのを放置していたのは、異世界からの召喚者達よ! 王家はちゃんと、やる事はやっていたでしょ? だから、そんなどーしようもない連中から王権を取り戻して、もう一度一致団結して魔物共に対処しようって事を言ってんのよ!」
「そんな尤もらしい事を言われてもなぁ……そもそも神の代行者って言われてる連中と戦うとして勝算は有るのかよ?」
「あなたが素直に召集に応じさえすれば、魔物討伐のため各地に散らばった軍がこちらに味方するでしょ?」
「やっぱりそういう事か! だったら余計にお断りだな!」
「なっ! 何ですって? それの一体、何がいけないって言うのよ!」
「馬鹿なのか? お前!」
どこまでいっても話が通じない奴だ。全く話が噛み合わない事に、俺はついそう言ってなじってしまった。
俺から馬鹿と言われたエマは、当然の事ながら激昂する。
「あんたにだけは、馬鹿だなんて言われたくはないわよ! 馬鹿なのは、あんたの方でしょ? 私の気持ちも知らないで、よくそんな事が言えたわね!」
私の気持ち……それが一体なんだと言うんだ? 俺に対して嫉妬を燃やす以外に、別の感情でもあると言うのだろうか。
俺が理解に苦しむなか、何故かアルはこちらを心配そうな目で見つめる。隣に座る彼女は、見えないところで俺の袖を強く引っ張っていた。
「各地で討伐活動を行ってる軍が王の元に召集されてしまったら、魔物共に苦しめられている人々は一体どうなると思うんだよ? くだらない権力闘争が優先で、お前らの命は後回しって言いたいのか?」
俺が淡々とそう述べると、少し落ち着きを取り戻した様子になるエマ。いきなり兵士達に「帰るわよ!」と言って席から立ち上がった。
そんな彼女の言動に、俺はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、何故かアルは彼女に向かって余計な事を言い出した。
「このまま帰ったら、きっと王様に咎められてしまうんじゃないですか? この際だからエマさん達も、王様の元に帰るのはやめた方が良いんじゃないかと思うんですが……」
アルの発言に一瞬イラッとした顔をするも、エマはすぐに取り繕った感じで言葉を返す。
「そうね! たぶん陛下の性格からして、説得に失敗したなんて聞いたら、私ただじゃ済まないでしょうね!」
嫌な流れになってきたと感じ、俺はこれ以上長引かせまいと話に割り込む。
「まぁ確かに、お咎め無しっていうわけにはならないだろうが。近衛騎士として最後まで職務を全うしたいって言うなら、王の元に帰るのが正解なんじゃないのか?」
俺はそう言って冷たく突き放す。そんな俺の態度に、何故かエマは悲しげな顔だ。
とても嫌な予感がするが、アルは何か言いたげな様子。客人を見送ろうと俺が席を立つと、彼女は再び余計な事を言い始めた。
「ディール様! エマさん達も、ここに置いてあげてはどうですか?」
「はぁ? 何を言い出すんだよアル!」
「彼女たちさえ良ければ、この城の戦力を上げる意味でも、十分助けになってもらえるとは思いませんか?」
アルの提案に、俺は少しだけ悩む。
しかし、エマのへそ曲がりな性格からして、そんな提案に乗るとはとても思えない。
ところが、上司である彼女が言葉を発する前に、兵士の一人が先んじて発言する。
「私は、ディール様の元で働きたいです! あんな民の事を微塵も思わない国王の元に帰るより、尊敬する勇者様のお側にお仕えしたい!」
その発言に、他の兵士たちも次々と賛同して同じ事を言い始める。
「そうです! 今まで数々の国難を救われてきたのは、他ならぬディール様です! 私もあなた様にお仕えできるのなら、この命捧げる覚悟にございます!」
次々と俺に対し忠誠を誓う兵士達。そんな状況に、エマは呆気に取られている様子。
しばらくして彼女は、やれやれと言った感じで口を開く。
「部下たちもそう言っている事だし、しょうがないわね! でも、あんたなんかの下に付くなんて私のプライドが許さないわ! だから軍事顧問として対等の立場でって言うなら、この城を守る事に協力してあげる!」
そう上から目線で言うエマに、俺は当然ムッとするが。正直、断る文句を考えるのも面倒だ。
実益を取ってその提案を了承する。あまり気は進まないが、それが一番だと判断した。
「そこまで言うなら、勝手にすれば良いさ! ただし、ただ飯を食わせるつもりなんて一切無いからな! この城の為に働くってんなら、しっかり俺の要望には応えてもらわないと困るぜ?」
「そんなのわかってるわよ! 私の事を雇って良かったって、必ずあんたに言わせてみせるわ!」
話が良い方向に纏まり、兵士達はみな安堵の表情を浮かべる。俺にとっては、けっして良い纏まり方だとは言えないが。新たな臣下を得る事もできたわけだし、ここは結果オーライだと考えておこう。
一旦、話し合いを終えた後、俺はアルに話したい事が有ったため二人きりで自室へと向かった。
部屋に入るなり、用件を伝えようと彼女に話しかける。
「お前は既に俺の秘密を知っているわけだから、少し協力してもらえるか?」
「協力ですか? 勿論、私に出来ることなら、どんな事でもしますが……一緒に部屋に入るように言われたから、ついにそういう事をされちゃうのかと思って。ちょっとだけ期待しちゃいました」
そんな大人な話を、何の恥じらいもなく言うアル。相変わらずな天然ぶりに俺は苦笑いしつつも、黙々と部屋の床に魔法陣を描き始めた。
「ディール様、それは一体何を描いているのですか?」
「古代魔法の魔道書に書かれていた、世界各地に有ると言われている転移陣に繋げるための魔法陣だ。これからはこいつを使って、目的の場所の近くまでいき来できるようにする」
「やっぱりディール様、魔物に苦しめられている人々を救いに行かれるんですね? それで、私は何をすればよろしいんですか?」
「ああ、お前には俺が居ない時の適当な口裏合わせと、万が一の時の連絡係を頼みたい」
そう言いながら、俺はアルの耳たぶに星形のイヤリングを装着する。アルは、頬を紅く染め嬉しそうな顔だ。
「私にプレゼントしてくれるんですか? とっても嬉しいです!」
相変わらずな天然ぶりを発揮するアル。話をちゃんと聞いていれば、そうはなるまい。
否定するのも可哀想なので、俺はそのまま使用方法について説明を始める。
「そいつに指で触れながら俺の名前を呼ぶと、どんなに離れていても俺と会話ができるようになる」
そう聞いて、更に頬を紅く染めながら言うアル。
「嬉しいです! 私達もう、一心同体みたいなものですね!」
ニヤニヤしながら嬉しそうにするアルを無視して、俺は描き終えた魔法陣に向かって古代語の呪文を唱える。
「ガヌゥストイアケス!」
☆☆☆
それから数時間後──とある辺境の町近くに広がる平原地帯にて。
五千体ものオーガによって構成された軍団と対峙する、一万人の旧王国軍兵士たち。彼らの上空には、謎の発光するひと形の物体が出現していた。




