第24話 フレイアの超絶破壊魔法
「何だ? あの青白く光る物体は!」
「これは神が下された審判なのか?」
「そうか……異世界の勇者達が、全く魔物共を討伐しに行かなかったのもこれで頷けるな……」
突然、上空に現れた謎の発光物体に、騒然となる元王国軍の兵士達。そんな彼らに向かって、上空から大きな声が響く。
「俺の名前は冒険者フレイアだ! ある人物に頼まれて、彼の代わりに人々を苦しめる魔物共を討伐しにやってきた! お前達は離れて見ているが良い! これから巨大な破壊魔法で奴らを殲滅する! 巻き添えを食らいたくなければ、今からすぐに後退を始めるんだ!」
フレイアと聞いた軍の司令官は、咄嗟に彼が巷で噂のSランク冒険者だと気づく。
本当に危険だと判断した彼は、即座に軍に対して後退の指示を出した。
軍が後退していくのを確認すると、上空にとどまる仮面の男は古代語の呪文を唱え始める。
~イフスラーノヨノック リジェミニアイーシャドネットバース エットモゥアラキットラブアーラ イフサールアトモゥアイカヒアッド ソボールオーウィケトサナドアイニュアーウ~
~この世に在りし全ての大精霊に命じる、荒ぶる力をもって大破壊をもたらし我に仇なす敵を滅ぼせ~
「爆裂滅壊!」
辺りに轟音が響く。仮面の男が最後の決め呪文を唱えると、オーガの軍団が密集体系を取っていた半径一キロメートルの範囲に異変が起きる。
地面は激しく揺れ動き、隆起と陥没を繰り返す。
大気中には青紫色の光球が無数に発生し、その一つが突然爆発を起こす。すると、他の光球も誘爆し広範囲に渡って激しい爆発が起こった。
激しい揺れにより、元王国軍の兵士達はその場で転倒する者もあれば、馬が暴れだして馬上から落下する者もあった。
混乱を通り越して、皆どうして良いのかわからないといった感じだ。
彼らはただ地面に這いつくばり、必死でこの恐怖をやり過ごそうとしていた。
仮面の男が放った超絶破壊魔法。後に残ったのは完全に地形を変えた大地と、ただの肉塊と化した大型鬼の無残な骸が散らばる光景だった。
螺旋階段状に光のプレートを出現させた仮面の男は、一段一段飛び移るようにして軍のど真ん中に降り立つ。
彼が周囲を見渡すと、ちょうどその辺りにいた軍の司令官が数名の部下と共に歩いてくる様子が窺えた。
向かってくる彼らに対し、自らも歩み寄る仮面の男。お互い声の届く位置まできた所で、司令官が一礼してから感謝の意を述べる。
☆☆☆
「Sランク冒険者のフレイア殿ですな? 此度は助太刀いただき、誠に感謝いたす!」
「あんたがこの軍の司令官か?」
「はい、私は北部方面軍の司令官を務める、マイティスと申す者です!」
俺は、そのマイティスと名乗った男を知っている。
その司令官は、かつてメルトの戦いに於て俺の副将として活躍した人物だった。
まだ15歳という年齢でありながら、俺は軍の総司令官として指揮を取っていた。
その時副将を務めていた者達は、マイティスも含め全員が30歳以上の熟練した将軍達だった。
既に40歳を過ぎているであろうその懐かしい男に、俺は当時の事について語り合いたくなる。
しかし、今後の小遣い稼ぎを考えると、アル以外に正体を知られる人間が増えるのはまずい。そう思い直し、どうするべきか迷っていた。
そんな空気に堪り兼ねたのか、俺が黙っているとマイティスの方から口を開く。
「私の顔に、何かついておりますかな? 先程ある人物から頼まれたと言っていたようですが……」
「あ、ああ。魔物共によって苦しめられる民を憂いた、元勇者とだけ言っておこうか」
「元勇者! それは、ディール様の事ですね?」
「さあ、どうだかな」
俺としては、あまりその会話を長引かせたくない。
そんな空気を察してくれたのか、マイティスは急に話題を変える。
「それにしても、さっきのアレは何だったのですか? あのような魔法、もはや神業としか思えませんな」
「超古代の禁呪の一つだな。まぁ、そんな事はどうでも良いが。俺がわざわざ降りてきたのは、あんた達に頼みがあったからなんだ」
「我々に頼みたいこと? それは一体どういった話なのでしょうか」
「このままこの地に残って、この地域の人々を守ってやって欲しい。まぁ、前の王に忠誠を誓うなら無理にとは言わないがな。だが、ここの軍が前王の召集に応じてこの場所を離れてしまったら、また多くの人々が家を失い命を失う事になる。民あっての国だ! 王なんて、その時々で適した者がなれば良い。そう俺は思ってる」
俺の言葉に、マイティスは少し考え込んでいる様子だ。しばらくして彼は、俺に対して質問を投げ掛けてきた。
「私個人の考えとしては、フレイア殿のおっしゃるとおりだと思っております。しかし、何故あなたは、我々が王から召集を受けた事を知っているのですか?」
「別に知っていたわけじゃないさ。ただ、聞いた話だと、ルーイ11世は異世界の召喚者に王の座を奪われたらしいじゃないか。当然そうなると、各地に派遣した軍の召集にかかるだろうと思ったまでだ」
「なるほど。しかし、王座奪還作戦の指揮を取るのがディール様だと聞いてしまい、私の気持ちは揺らいでいるのですよ」
(王の奴、本人の了承もなく勝手に決めて、それを言いふらしまくってるのかよ……)
マイティスが本気でそう思い込み、軍を引き連れて無駄な戦いに赴いて欲しくはない。当然そう思った俺は、その事について完全否定する。
「彼が王の召集に応じる事などあり得ない! 恐らく王が、そう見込んで勝手に言っているだけだ!」
「やはり貴殿もそう思いますか?」
「奴とは旧知の仲だからな『もし、そのような要請が有ったとしても応えるつもりはない』と以前に奴が言っているのを聞いたから間違いない!」
俺は、友人の話という事にしてそう自分の気持ちを述べる。
意外にもマイティスは、その説明で簡単に納得した様子となった。
「なるほど、わかりました! そう聞いて完全に迷いもなくなりました。北部方面軍は王の召集には応じずに、この地域の人々を守る事に専念いたします!」
「そうか! 司令官殿の決断に感謝する! 俺も、もしまたこの地域で大規模な魔物の襲撃の話を聞いた時には、すぐに飛んできて助力しようと思っている」
「その言葉を聞いて安心しました! 我々も、なるべく貴殿の助けを請わなくても済むよう、全力を尽くしましょう!」
「ああ、頼んだぞマイティ……司令官殿!」
俺はそう言うなりすぐに踵を返し、空中に次々と光のプレートを出現させる。そのまま上空へと駆け上がっていき、次の目的地へと急いだ。
☆☆☆
次第に豆粒になっていく仮面の冒険者に対して、マイティスは呟く。
「ディール様、お達者で……またいつか、お会いできるのを楽しみにしております」
その言葉に対して、側近の一人がすぐに反応する。
「司令官殿、今なんとおっしゃいましたか?」
「いや、何でもない。ただその話が出たから、つい懐かしくなってしまっただけだ」
そう言って誤魔化すマイティス。
しかし、間近で若い司令官の魔法を見てきた彼には分かっていた。かつて勇者と呼ばれた青年の魔法が、唯一無二のものであるという事を。




