第18話 ガルドの事情
ガルドは自身の事について、いろいろと語り始める。
滅多にお目にかかれない程の手練れの過去だ。他の連中はあまり興味ないかもしれないが、俺としてはこの時間を割いてでも聞きたいくらいには興味があった。
「私は以前、ある傭兵団に所属しておりました。剣闘士に身をやつしたのは、五年程前からです。まぁ、どちらも似たようなものですが……それこそディール様が指揮を取っていらしたアルフカンド王国との戦いに、実は私も参加していたのです」
「六年前の事だな? あの戦に参加していた傭兵団と言えば、有名なところで言ったら『獣牙の団』辺りか?」
獣牙の団とは、獣人族の戦士達だけで構成された組織だ。彼ら特有の身体能力を活かした、戦闘力の高さが売りの傭兵団である。
俺にとって実は、少なからず因縁の有る傭兵団だったのだが。ガルドの答えでその事実が明らかとなった。
「はい! 私は、その獣牙の団に所属する傭兵の一人でした」
「そうか……じゃ、メルトの戦いの件で、俺の事を恨んでいるんじゃないか?」
「いえ、そんな事はありません。確かに多くの仲間を失いましたが、あの戦いでのディール様の采配は本当に見事なものでした」
メルトの戦いとは、当時敵対していたアルフカンド王国との戦争に於いて、その地域を主戦場に繰り広げられた戦いである。
兵力的に圧倒的不利な状況のサマルキア軍が、俺の指揮によって大勝利を収めた戦いだ。
そのとき俺は軍団を二手に別けた敵軍に対し、相手の一軍に獣牙の団をはじめとする精鋭部隊だけを当たらせた。
先にもう一方の軍団を壊滅させた後、最終的に残った一軍を挟み撃ちにしサマルキア王国に勝利をもたらした。
「あの戦いの後に、あんたは傭兵をやめて剣闘士に落ちたんだな?」
俺の問いに対して、ガルドは更に詳しく話を進める。
「はい! あの戦いにより負傷した私は、療養の為に一旦故郷の村に帰る事にしたのです。しかし、帰ってみると私の村は滅ぼされており、妻と三人いた息子達も行方知れずに……どうやら村は、野盗か何かに襲われたようでした……」
「それで、行方知れずになってしまった、妻と子供達を探しに村を出たってわけか」
「はい! 妻と子供達は、奴隷商にでも捕まったのではないかと思い、探しているうちに流れ着いたのがデリコダールの町だったのです」
「それで、そこに辿り着いてから一体何があったんだ?」
「故郷の村の男が一人、そこに居たのです。その男とは、酒場で会いました。すぐに村で何があったのか訊いたのですが。その男の話ではやはり、村は野盗に襲われたとの事でした……」
状況から考えて、瞬時に最悪の結果を予想する。俺は、ガルドに対しかける言葉を失った。
「その男の話では、私の家族はやはり襲撃の際に殺されてしまい、村はずれの丘に埋葬されたと言う事でした……自暴自棄になった私は、それからというもの酒とギャンブルに溺れてしまいその後はお察しのおとりです」
「そうか……まぁ、その話を聞いてしまったら、あんたの事を無理に説得する事はできないよな……」
「いえ、ディール殿! 私としては、既に気持ちの整理はついていたのです! 1,000回目の優勝を果たし晴れて自由の身になったら、第二の人生は真面目に生きようといろいろ考えていたのですよ! しかし、契約も果たしていないのに。私に施された奴隷紋が消えてしまっているのは、一体どういう事なんでしょう?」
「あー。それなら、当然俺が解呪しといたぞ!」
解呪と聞いて、怪訝そうな顔をするガルド。俺は続けてその内容を説明する。
「俺は、呪術系の古代魔法にも精通しているんだ。奴隷紋を司る古代神など低級神だからな。上位の古代神に働きかけて呪いを解くくらい、俺にとっては容易い事さ」
俺の話を聞いて、ガルドは感じ入った様子でしばらく黙り込む。しかし、すぐに決意を固めたようでガッと立ち上がる。俺の手を取りながら急に宣言し始めた。
「ディール殿! 決めましたぞ! 私は、これからの人生を、全てあなたに捧げると誓います! 微力ではありますが、これから我が力を存分にご活用ください!」
意外にも、あっさりと臣下になる事を了承してくれたガルド。俺は、一瞬呆気に取られるもすぐに喜びを言葉に表した。
「そうか。それなら良かった! あんたが、俺の部下になるって決意してくれて嬉しいぜガルド! あんたのこと頼りにしてるからな!」
「これからは、あなたの臣下として、粉骨砕身の努力をいたしましょう!」
望みを順調に叶える事のできた俺は、自分でもわかるくらい上機嫌だ。
「よし! じゃ、皆、腹減ってるだろうから。今日は俺が全員に飯作ってやるぞ! アル! 手伝ってくれるか?」
「はい! ディール様! 予め用意していた調理器具と食材が、無駄にならなくてほんと良かったですね?」
そう返事をすると、先行して城の調理場へと向かい歩き出すアル。俺も少し遅れて彼女の後ろを付いていく。
調理場に着くと、俺はすぐに調理に取りかかる。アルに指示を出しながら二人で手際よく作業し、着々と百人分の料理が作られていった。
「昨日のうちに仕込んどいて良かったですね。ディール様」
「ああ、料理は段取りが一番重要だからな。こんなに上手くいくとも思ってなかったから、仕込んだ食材が無駄にならないか実際ハラハラしてたぜ」
「でも、これから毎日、百人分の料理を作るなんて忙しくなりますね?」
「はぁ? 俺がアイツらに料理を作ってやるなんて、今日が最初で最後だ! 明日以降は飯作れそうなガキ共を仕込んで、そいつらが調理担当だな」
本気でそう思う俺に対し、アルはクスクスっと笑いながら自身の担当についても宣言する。
「それじゃ、明日から私が調理長しますね! こう見えても料理は得意なんですよ。それと食事が終わったら、あの子達の担当も決めないとですね?」
「そうだな! 十代とは言ったが、まさか一番上で15歳が十人とも思ってなかったけどな。まぁ、あまり重労働もさせられないし。城の修繕作業はしばらく後になりそうだが、それは仕方がないか……」
アルによって、鳥の肉が入った野菜のスープとサラダがまず運び出される。
その後メインディッシュのスパイシーな汁と、それに浸す用のパンが運ばれていった。
食事会場は、それなりに大きい広間だ。恐らくかつて会議室として使われていたのだろう。
予め設置しておいたテーブルに料理を置きながら、アルは嬉しそうに俺に語りかける。
「皆の口に合うと良いですね?」
「大量調理と言えば、カレーしかないだろ。きっと皆、うまいって言うに決まってるさ」
「へぇ、このとっても食欲をそそる香りのする料理は、カレーって言うんですね? ディール様、本当にいろいろな事を知っているから私感心しちゃいますぅ~」
「お前が調理長だって言うなら、これからしっかり俺のレシピも覚えてもらわないといけないな」
「はい! 私頑張ります!」
テーブルの上に置かれた料理を目にし、入室してきた子供達から素直に喜びの声が上がる。
余程お腹がすいているに違いない。
俺は席に着くと、そんな子供達の気持ちを察して一言だけ声をかける。
「皆、腹減ってるだろ? もう食って良いぞ! いただきます!」
良民と共にする初めての食事会。本当はいろいろと言いたい事もあったが、そこは歓談しながら食事を取ればいい。
俺が先に食いはじめると、最初は躊躇していた子供らも次々とカレーを口に運びはじめた。




