第19話 古城防衛戦
ガルドと少年少女たちが領地にやってきた翌日。其々の役割分担が決められた。
13歳以上の男子はできる範囲ではあるが、城の改修工事に当たる者、農地を開拓し麦の種をまく者の二組に分けられる。
彼らの監督はガルドが担当し、午前中だけ其々に割り当てられた仕事をおこなう。午後は軍事教練をする事となった。
それ以外の者達も、適正に合わせた仕事が其々にあてがわれる。
俺の領地経営は、本格的に幕を開けたのだ。
新たなるスタートが切られ、数日が経ったある日のこと──。
物見櫓で周囲の警戒を担当していた少年が、異常を知らせる警鐘を打ち鳴らす。
同じく警戒に当たっていた少年の一人が、息を切らせながら俺の元にやってきて報告する。
「ディール様! 何百もの人影が、こちらに向かってきているのを確認しました! 大型の魔物とかではないみたいですが、たぶん敵襲だと思います!」
報告を受けた俺は、ガルドと共に物見櫓に向かい状況を確認する。
既にその影は、はっきりと視認できる距離まで近づいてきていた。それらは、明らかに武装した集団だ。
「どうやら、ホブゴブリンの集団のようですね? この規模の集団による襲撃があるなど、ディール様によって魔王が倒される以前にも、それほど頻繁にはなかった事ですが……」
ガルドの発言によって、俺は最近起きたあの一件を思い出す。
「あー、魔王だけどな……どうやら復活したらしいぞ」
「なんと! それは誠の話ですか!? まさか、最近、魔物共が異常に増えたと言われているのは、それが原因なのでしょうか?」
「さあな! それについてはよくわからないが。魔王が復活したって話は、たぶん間違いないと思うぞ。ここに来る途中で、魔王の四天王だったって言う男に襲われたんだけどな。その男がそう言ってたんだ。しかも、そいつの話じゃ、魔王の奴は前よりもパワーアップしてるって話みたいだったぞ」
「以前よりもパワーアップした事によって、魔物を操る能力も格段に上がったのかもしれませんね。しかし、とりあえずこの急場を、どうにか凌がなけらばなりませんが。この数は流石にかなり不味いですね……幸いな事に城壁だけは無事みたいですし、壊れた城門を何かで塞いで籠城するのが最上策かと」
「いや、城門にバリケードするのは良しとして。籠城はしないぞ。却って対応が間に合わなくなるからな。俺とあんたの二人で打って出て奴らを殲滅する!」
俺の決定に、驚きを隠せない様子のガルド。しかし、虎の獣人戦士はすぐに腹を決めてくれたようだ。
「この命、あなたに捧げると決めたのです! このうえは一人でも多くの敵を斬り殺し、華々しく散りましょうぞ!」
「おいおい! 討ち死に前提みたいなこと言うなよ! 俺が一人で殆んどの敵を受け持つから、あんたは俺が討ち漏らした奴らを片付けてくれ! 俺の後方で、城内になだれ込もうとする敵を始末してくれれば良いさ!」
「承知した! そこまでおっしゃるのなら、よほど勝つ自信がお有りなのでしょう! 後方は私が受け持ちますので、ディール様は安心して存分に戦ってください!」
「よし! じゃ、出陣するとしようか!」
俺はガルドにそう声をかけると、一緒に居た警戒担当の少年たちに命じる。俺たちが城門を出たら皆で協力してバリケードを築け、と彼らに伝えた。
朽ち果てた城門を潜ると、既に五百を超える武装した集団はすぐ目の前の所まで迫っていた。
百人の少年少女たちによって、門を塞ぐために次々と城内に有ったガラクタが運び込まれる。バリケードはみるみるうちに積み上げられていった。
「うへへぇっ! 廃城だと聞いていたのに人が住んでやがるホブゴブ! 久しぶりに人間を殺し放題ホブゴブ!」
「こちらの方が圧倒的に数が多いホブゴブ。全員生け捕りにして後でゆっくり楽しむホブゴブ! 皆で一斉にかかったら、すぐに楽しみが終わってしまうホブゴブ!」
「まさか、こんな何も無さそうな所で殺しが楽しめるなんて、ラッキーだったホブゴブ!」
先頭をいく兵士たちから、そんな声が聞こえてくる。兵の種類は身長2メートルを超す大型のゴブリン。
奴らは、軍団長の「蹂躙ホブゴブ!」という合図によって一斉に攻撃を開始した。
俺は、敵の進軍と同時にケラウノスの弾丸を放つ。青紫をした七本の閃光により、その射線上に居た兵士達の体は跡形もなく弾け飛んだ。
一瞬の出来事に驚いたのか、魔物共の進軍は一旦停止する。
「今の雷は一体何だったホブゴブ?」
「外に出てきている奴らは、たったの二人ホブゴブ! あんな魔法は、すぐに放てないはずだホブゴブ! 一斉にかかるホブゴブ!」
再び動き出すホブゴブリンの兵士達。それに対して俺は、リロードを繰り返しながら間断なく閃光を放ちまくった。
チラッとガルドの方に目をやると、あまりにも一方的な蹂躙劇に驚愕して立ち尽くしている様子。
堪らず迂回して、城門に取り付こうと別れた部隊を俺は確認する。即座に、左手に持つもう一つの愛銃に命じた。
「テメノス!」
俺がそう叫ぶと、アイギスから放たれた弾丸は青白い光の壁に変化する。それは、別動隊の目の前を遮るように展開された。
突然、目の前に現れた障害物に止まる事が出来なかった兵士達。奴らは、壁に突っ込むなり全員が消し炭になってしまった。
光の壁が消失した一瞬の隙を突き、後から続いていた一部の兵士達が俺の後方へとすり抜けて行く。
ハッと我に返ったガルドは、すぐに霊気を練って力を脚力に集約している。壁をすり抜けていった十体のホブゴブリン達に一瞬で迫ると、奴らの首を次々と跳ねていった。
五体の首を跳ねたところで、剣は刃こぼれを起こし六体目の首の半分で止まってしまう。
ガルドはその兵士の剣を奪うと、残りの兵士達の首を一瞬で宙に舞わせた。
最初は恐怖に怯えている様子の子供たちだったが、次第に興奮に包まれ大歓声を上げ始める。
いまだに、俺に対して馴染んでこようとしなかったマギ。そんなアイツですら俺たちの勇姿に興奮し、城壁の上から声援をあげている様子が窺えた。
静寂と、凄惨な光景がその場を支配する。
一方的な蹂躙劇に、ホブゴブリンの軍団はついに進軍を止めた。
城門の前には、元の形状を保たない死体の山が築かれている。
体の一部だけ吹き飛ばされ地に伏していた数体を除き、五百体は居た大鬼軍団は完全に壊滅した。




