第14話 外道どもに鉄槌を
体勢を低く保ったまま俺の懐に飛び込んでくるガルド。そのまま幅広の剣で横なぎの一閃を繰り出した。
俺は、それを軽いステップで後方に退き躱す。距離を取るなり、ガルドに対してもう一度話しかけた。
「あんたなら、今のでわかったろ? でも、そんだけ霊気を自在に扱える奴なんて滅多に居ないからな。そんなあんたの事を、俺は高く買ってるんだぜ?」
このオッサンは、今の一撃に全てを懸けていたはず。自身最大の霊気を脚力に集約し、まさしく一撃必殺を狙っていたはずだ。
しかし、その対象は確実に必中の間合いまで詰めたにも拘わらず、幻だったかのように自身の刃に空を切らせたのである。
実力者であれば、この意味が理解できないはずがない。
「うぬぬっ! 今一度!」
そう言うと、ガルドは再び同じように体勢を低く保つ。向かってくる奴の早さは、まるで瞬間移動でもしているかのようだ。
対する俺はというと、今度は躱すことをしなかった。
ガルドには攻撃する瞬間、僅かにモーションが生まれる。それを見逃すこと無く、先んじてその手首を制した。
そのまま流れるように脇の下を潜り、ガルドの巨体を一回転させる。
手首をキメたまま、仰向けになった巨体の胸部を足で踏みつけ完全に相手を制圧した。
チラッと観客席に目を向けると、アントンの奴が頭を抱えてる様子が窺えた。
なんて叫んでいるのか想像はついたが、ほんとざまぁないといった感じだ。
「完全に勝負有ったようだが? 素直に負けを認めるか?」
俺の問いに対して、ガルドは唸りながらも言葉を絞り出す。
「今ここで殺せ……」
「必ず殺さなきゃいけないルールじゃ無いだろ?」
「しかし、次の大会では、私の事を殺す予定だったのだろう?」
「まぁ、アントンの奴は、たぶんその方が盛り上がるし。儲かると思ったから、そう言ったんだろうけどな。古いスターは非業の死を遂げ、新しいスターは鮮烈なデビューを果たす……そんな感じだろ?」
「最初から約束を果たす気は無かったと言う事か?」
「さあ、それはどうかな? 急に思い付いたのかもしれないぜ? ただ、どっちにしろ、約束を破った事には変わりがないけどな」
「お主についていって、別の場所で再び剣闘士奴隷をしろとでも言うのか? これ以上、晒し者を続けるくらいなら、今ここで死んだ方がマシだ!」
ガルドの答えを聞いて、俺は深く溜め息をつく。
「疑り深いおっさんだな! 奴隷商自らが、剣闘士として試合に参加するわけがないだろ?」
「それはわからぬ! 誰か別の町の奴隷商に雇われたのかもしれん」
「だったら、わざわざ俺よりも弱いあんたを引っ張ってくる必要なんてなくないか?」
今の言葉で、ようやく冷静になったようだ。ガルドは観念したかのように言う。
「フッ、まさかこの私が、お主のような若造にそんな事を言われる日が来ようとはな……しかし、お主の言う事も道理」
ガルドの落ち着いた様子を見て、俺は今になりやっと剣を抜く。
「詳しい話は後でする! 悪いけど一回死んでくれるか?」
俺はガルドの目を見て、どのみち死を覚悟してると感じる。そのまま返事を待たず、胸に剣を突き刺した。
闘技場の石畳に広がる血だまり。この状況に静まり返る観客席。
因みに、ガルド殺害によってサガが勝利した場合のオッズは1.5倍。その逆は2.5倍だったようである。
悠然と闘技場を立ち去る俺の姿に、先程まで静まり返っていた観客席からは一斉に歓声が巻き起こった。
VIPルームの手前で、警備の者に武器を預けるよう促される。俺は、言われるがままに剣を渡した。
部屋に入ると、アントンはいきなり怒声を浴びせかけてくる。
「何のつもりでここに来た! お前のせいで私は大損したんだぞ!」
「何のって、金を受け取りにな! 言われたとおり、ガルドの奴を殺してやったろ?」
俺は、そう言ってアントンを愚弄してみせる。
「フザけるな! この大会ではわざと負けるように言ったはずだ! 私は殆んどの財産を、ガルドの勝利に賭けてしまっていたんだぞ!」
「そうなのか? まぁ、済んでしまった事をとやかく言っても仕方がないよな? とはいえ、俺がうっかり勘違いしていたせいで、あんたには大損させてしまったようだ。本当に済まなかったな悪い事をした。じゃ、金ももらえないみたいだし。俺は、これで帰る事にするわ」
流石にフザけすぎたのか、アントンはとうとうブチギレだす。
「帰るだと!? フザけるな! このまま素直に、生かして帰すわけがないだろ!」
アントンはそう叫ぶと、妖しげな模様の施された鉄の筒を俺に向ける。
銃身は50センチ程。俺の愛銃より少し長めだが、おそらく魔力砲というやつだ。
「魔力砲か。何処ぞの魔道国家の軍隊みたいなもん持ってやがるな」
魔力砲とは、魔法の力で弾丸を発射する銃だ。引き金を引く事で嵌め込まれている魔石が、火属性の方陣に繋がる回路に接触する仕組みになっている。それによって筒内に仕込んでいる火薬に引火し、爆発により弾丸を発射する武器である。
音速まで加速された弾丸は、鉄の鎧くらいなら簡単に撃ち抜ける破壊力を持つ。魔法による障壁でも張っていれば別だが。
そんな事を考えてるうちに、アントンの奴は躊躇わず引き金を引く。
ターゲットである俺の防具は、革製の軽装。そのため奴は、確実に仕留めたと思ったようだ。
しかし、当然俺はその場に平然と立ち尽くすのみ。
「なっ、何でなんともないんだ!? ちゃんと弾は入っていたはずだぞ!」
「防御障壁を張ったんだ。そんなもんじゃ、この俺は殺せないようだな」
「ぐぬぬっ! 魔法まで使えるのか! 何をしているお前たち、相手は丸腰だ! 早く殺してしまえ!」
両脇に控えていた護衛の戦士に、そう指示を出すアントン。
命令に応じて二人の戦士は剣を抜き、即座にこちらに向かってにじり寄ってくる。
「相手の実力もわからないで、よく護衛だなんて言えたもんだな。それとも、命令には逆らえないだけか?」
俺は、最後の忠告のつもりでそう言った。しかし、二人の護衛戦士は、その言葉を無視して同時に襲いかかる。
なかなかの手練れだが、ガルドに比べれば圧倒的に弱い。飛びかかる二人をあっさりと殴り飛ばし、VIPルームの壁にめり込ませた。
茫然と立ち尽くすアントン。
恐らくこの野郎は、隙を見て不意打ちするつもりだったのだろう。しかし、俺はそんな隙など与えず、ブタ野郎の胸ぐらを掴み吊し上げた。
「ぐっ、ぐるじぃ~! 放せ~!」
呻くアントンを無視して、俺は質問を始める。
「どういうプランだったかは知らんが。俺が現れなくても、最初からガルドを約束の1,000回目で殺すつもりだったんだろ? 大方、試合前に毒でも盛るつもりだったんじゃないのか? その方が、世間の連中は盛り上がるもんな」
「そっ、それがどうした! お、お前には……か、関係がない事だろ? この私を誰だと思ってるんだ!」
「ああ、わかっているさ! 金の亡者のゲス野郎だろ?」
俺はそう言うと同時に、アントンを下ろし顔面を殴りつける。
ゲス野郎は前歯を飛ばしながら飛んでいき、護衛たち同様VIPルームの壁に顔面からめり込んだ。




