第13話 奴隷市場と剣闘士の町
「だっ、誰かアイツを止めてくれ!」
恰幅の良い、顎にちょび髭を生やした中年の男が、コロシアムのVIP席からそう叫んでいた。
その日、突如として現れた外部参加者の戦士。フルフェイスの兜を被ったその戦士が、圧倒的な強さにより連戦連勝を重ねていた。
自分が所有する剣闘士たちに大金を賭けていた男は、彼のせいで既にかなりの損失を出してしまっていたのだ。
戦士のあまりの強さに会場中の観客達は魅入られ、すっかり彼はその日の戦いだけで一気に注目の的となっていた。
☆☆☆
試合を終え、俺はひと気の無い所で鉄仮面を外す。
すぐに猫耳カチューシャを付けたアルが、大きな袋を台車で転がしながら合流してきた。
「どうだ? アル。今いくらくらいになってる?」
「凄いですよディール様! 今日、引出した100,000Gがもう300万G以上になっちゃてます!」
「そうか。じゃ、そろそろ引き際のタイミングだな。それだけの金があれば、相当な人数の奴隷も買えるだろう」
ここはデリコダールという名の町。娯楽の町とも言われ、ここでは闘技場が最も人気のある施設だ。
俺は、領地の民を得る目的で奴隷を大量に購入しようと考えた。
金はあるが、領地の復興資金をあまり減らしたくない。そう考え、正体を隠して試合に参加。金稼ぎをしていた。
俺お手製のポータル発現装置は、一ヶ所しか繋ぐ事ができない。そのため俺は、リムダの出口を解除して新たにこの町に出口を設定した。
この町のギルド支部は、一度に下ろせる金額が100,000Gと高額だ。リムダの1,000Gに比べて段違いである。
それに加え奴隷市場も有るため、領地と繋げる場所としては非常に都合が良かった。
購入した奴隷達の搬送は、ポータルを使って行う予定である。
「優勝賞金は狙わないんですか?」
「アルお前、意外と強欲なんだな? これだけ稼いだら
もう十分だろ」
「別に、もっとお金を稼いだらとか、そういうつもりで言ったんじゃないんです。あまりにもディール様の戦いぶりが格好いいので。せっかくなら優勝するところまで見てみたくなって」
天然なのか、逆にあざといのか。そんなアルの言葉だが悪い気はしない。
「まぁ、次で最後の試合だしな! オッズも俺が1.1倍みたいだし。もう少し稼いだとしても、お前が運びきれなくなってしまう事もないか」
「次の大会で1,000回優勝となる、虎の獣人戦士ガルドのオッズが1.7ですからね。ディール様の方が人気高いですよ~」
「なるべく人気が上がらないように、かなり手を抜いて戦っていたんだけどな」
多くの人間がいる前で、レールガンをぶっぱなすわけにもいかない。そのため俺は、古城の武器庫から適当な片刃の長剣を持ち出していた。
自分で言うのもなんだが、俺は剣の腕前についても超一流である。
並みいる豪傑たちも子供扱い。俺は、つばぜり合いをするまでもなく相手を次々と瞬殺していった。
倍率を下げないようにするため、毎試合かなり手を抜いて戦っていたが。必要最小限の動きで決着をつけるその様が、むしろ観客達の目には華麗な剣技として映ったようだ。
対する獣人戦士ガルドはというと、強靭な肉体を活かした豪快な戦闘が売りの戦士。
今回と合わせて、あと二回で達成される1,000回優勝を果たす事ができれば、剣闘士奴隷から解放される約束のようであった。
決勝戦を前にして、そのまましれっとコロシアムから抜け出すつもりだった。
しかし、アルの言葉に考え直した俺は、彼女のリクエストに応えて決勝戦に臨む事にした。
俺は、再び仮面を装着し闘技場へと向かう。
アルの方は、今までに稼いだ金を全て券の購入に当てに行った。
彼女の着けている猫耳カチューシャには、認識阻害機能が付与されいる。これもまた俺お手製の魔道具だ。
少女一人で券の購入や換金を行い、大金を持ち歩いているのは危険極まりない行為。しかし、このカチューシャのお陰で、アルは安全に俺の求めたお使いをこなす事ができた。
闘技場へと向かっていた俺の後ろから、数名の護衛を引き連れた男が声をかけてくる。
「戦士サガよ! 少し待たれい!」
「俺に何か用か?」
「私は、この町で少しは名の知れた商会の頭目で、アントンと言う者だ! 君の目的は一体何なんだね? やはり優勝賞金の10万Gか?」
「まあな。話はそれだけか?」
俺は、サガと偽名を名乗っていた。そんな俺の素っ気ない答えに、したり顔で後ろに控える男に目で合図するアントン。
控えていた護衛の男は、手押し車に乗っていた袋の口を開いて俺に見せる。
「20万G有る。次の決勝戦は、わざと負けてくれんか?」
「俺に、八百長しろって事か?」
「君にはスター性が有る! 私と契約しないか?」
「契約?」
「そうだ! 次の決勝戦は、わざと負けてもらって、ガルドの方がやっぱり強いと世間の者達に思わせる。奴の記念すべき1,000回目の優勝が懸かった大会が一週間後に有るのだが。君にはその試合で奴の事を殺してもらいたいのだよ。その後は私と契約して、この町の新たなスターになって欲しい! どうだね? 悪い話じゃないと思うが」
俺は、すぐにアントンの意図を理解する。瞬間的にあるプランを思いつき、この男に対して了承する旨を伝えた。
「良いだろう、その申し出を受ける」
「交渉成立だ! この金は、約束が果たされた際にVIPルームまで取りにきてくれるか?」
「わかった」
俺は、そう端的に答えると決勝戦の場へと向かう。
謎の剣闘士サガの入場に、観客席からは大歓声が巻き起こった。
既に入場を終え、中央で待ち構えるガルド。相手の前まで進み出た俺はすぐに言葉をかける。
「一週間後に有る大会に優勝すれば、1,000大会優勝達成らしいじゃないか?」
そう話しかけても、全く答えようとしない虎の獣人戦士。
相手は、おもむろに剣を抜き構えるが。かなりこちらを警戒しているようだ。
既に戦闘体勢に入るガルドだが、俺は抜刀せずもう一度話しかける。
「お前のご主人様は、さっき俺に対して。この試合、八百長で負けるよう言ってきたぜ! ただ、一週間後の大会ではお前を殺せだとさ!」
そう聞いて、ようやく口を開くガルド。
「ば、馬鹿な! それでは約束が違うではないか!」
「まぁ、わりと良くある部類の話だとは思うけどな」
「何故その話を私にするのだ? 今日、私がこの試合に勝ったとして、その後で逃走してしまうかもしれないではないか?」
「一応、受ける、と適当なことは言ってあるが。20万Gなんて俺にとっちゃハシタ金だしな。それより俺が興味を持っているのは、ガルド、あんただ!」
「私に興味が有るだと? どう言う事だ?」
「俺と一緒に来ないか? あんたに新しい活躍の場を与えてやる」
俺の言葉を聞き、困惑した様子のガルド。
しかし、目の前の戦士はすぐに咆哮を上げると、ものすごい速さでこちらの懐に向かって飛び込んできた。




