6-8 グウィンの目覚めと絶望
2026/07/09 に投稿したものになります。話の投稿順番を間違えました。申し訳ありません。
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ー 宿屋の食堂にて……
……夜も更け、宿屋の食堂ではすでに温かい夕食が用意されていた。ルディアとしては、バルハワの市場で購入したスパイスを試したく、厨房を借りて自分で料理を作りたがっていたが、頼む前に次々に料理が運ばれてきていた。
配膳を担当する宿屋の女将や従業員たちはぎこちなく動き、若干の緊張感に包まれていた。寡黙に席についているヴァルターが、彼女たちを委縮させているのは間違いは無かった。
運ばれてきた大皿には、困窮した町とは思えないほどの肉料理が並んでいる。ルディアはそれを不思議そうに見つめた後、小首を傾げてちらりとヴァルターを見た。
「あら? なんか随分豪華ね。肉が多い気がするわ。生活に困っているように見えたのだけれども……」
「ああ、依頼の英気を養うため、特別な計らいなのだろう」
ルディアは運ばれてきた大皿を見つめた後、小首を傾げてちらりとヴァルターを見る。
「……彼らに……嘘をついた罪悪感があったのかしら?」
ルディアの言葉に、ヴァルターの手元がわずかに止まる。彼は顔を上げ、眼前の少女をじっと見つめた。
「気が付いてたのか?」
「ええ、霊が教えてくれたの……獣王国連合でもたまにあったわ」
あっさりと告げられた事実に、ヴァルターは吐き捨てるように息をついた。
「……どこでも同じなのか……人間も獣人も変わらないってことか……」
ヴァルターは呆れ顔でため息をつきながら、手元の料理をフォークで無造作につつく。
町人たちの身勝手な欺瞞を知りながらも、ルディアは特に怒る様子もなかった。彼女は『聖騎士』や聖教王国の人間が絡まない限り、どれほど理不尽な扱いを受けようとも憤りすら見せない。ヴァルターはそんな姿に、奇妙なほどの寛容さと、どこか歪な危うさを改めて実感していた。
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ー 二日後の昼……
激痛の記憶とともに、グウィンはベッドから跳ね起きた。
「はぁ、はぁっ……!」
荒い呼吸のまま、見慣れない景色に驚き、周囲を慌てて見回す。彼は吸い寄せられるように部屋に備え付けの鏡の前に移動し、自分のことをまじまじと見る。どこも変わっていない……そう思いたかったが、自慢の紫銀の長髪に白銀色のメッシュが入っていることに驚きを感じていた。
(……死んでいない……これは現実でしょうか?)
牛頭の幽鬼に胴体を貫かれたはずの腹部に手をあてる。衣服の破れもなく、簡素な服をめくり上げ、傷口を確認するが無くなっていた。跡形もなく、滑らかな肌に戻っていた。
「そんな、馬鹿な……」
呆然としながらも、彼は自分の腕を何度も動かしたり、拳を固く握ったりして、確かに動く自らの肉体を確かめていた。
(姿は変わっていないですね……髪の色は一部違う……だが……凄いですね、これは……力が溢れてくるようです)
彼は未だかつて経験したことのない、体の内から吹き出てくる万能感に驚きを隠せずにいた。五感が冴えわたり周囲の気配がすぐ近くに感じる程だった。
(これが魔族の力……私は……本当に魔族になってしまいましたか……)
信じがたい万能感とは別に、冷酷な現実を突きつけられる。
かつて黒耳長族の長老が語った『魔族との血の契約』。
御伽噺だと思っていたその過酷な現実を、彼は今、自らの肉体をもって深く理解させられていた
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― 商業都市バルハワ・討伐者組合にて
喧騒が渦巻く商業都市バルハワの討伐者組合についたフィデラは、受付嬢に歩み寄り用件を伝える。するとカウンターの奥から髭面のボルロードが姿を現し、胡散臭そうな視線をフィデラに向ける。
「また、宵闇の君へとお問い合わせか……」
「……宵闇の君? ルディア様が?……そのように呼ばれているのですか?」
「多いんだよね。彼女への問い合わせが……もううんざりって感じだ……」
ボルロードは心底煩わしそうに頭を掻く。フィデラは食い下がるように身を乗り出した。
「それで行き先を……」
「教えるわけないだろう? あんたも討伐者だろ? それくらいわかっているよな?」
フィデラは奥歯を噛みしめる。組合の規則を盾にされては、これ以上無理強いはできない。
「くっ……この街で待つべきでしょうか……」
「ま、好きにしな。ただ、ルディアという女性がここで討伐者証を受け取っただけなのは確かだ。それ以上は言えないな」
話を打ち切られ、フィデラは小さなため息をつく。
彼女は酒場を見渡し、知っていそうな……もしくは情報屋がいないか確認をするが……人が出払い、閑散としていた。
「……雑談ならいい? なんでこんなに人がいないの? ここ」
フィデラが何気なさを装って尋ねると、ボルロードは不機嫌さが増し、忌々しげに吐き捨てた。
「……ああ、どこかのバカがクソった……デグライア教の教会で大暴れしたらしくてな、その警護や犯人捜しで出払ってるだけだな」
フィデラがこれ以上は支部長や受付嬢からは情報が得られないと踏み、数少ない討伐者のもとに向かう。値踏みされるような視線を受け流しながら銀貨一枚を投げ渡す。
「ルディア様……宵闇の髪をした美しい女性の行き先を聞きたい。もしくは今いる場所を知っていれば……」
だが、銀貨を受け取った討伐者は銀貨を指で弾き、そのまま投げ返してきた。
「俺らも怪我をしたくないからな、残念ながら、そいつを連れた人間の情報は渡さない」
「そうね。ここでは誰も話さないと思うわ」
隣にいた連れの女討伐者が、同情を交えたような、どこか優しい声で言葉を継ぐ。
「……なぜでしょうか?」
「そりゃ、話したらあとで……ぼこぼこにされるからかしらねぇ……」
「まぁ、不条理な強さだからな、あいつは……」
男の討伐者は、思い出すだけでも恐ろしいと言いたげに肩をすくめて見せた。
フィデラは避難民の集団にいたルプスとリィリィから聞いた、ルディアに同行していた重武装の傭兵風の男の名前を思い出す。
「ヴァルターという討伐者のせいですか?」
「ぶっ!!」
男の討伐者が、口に含んでいた酒を盛大に吹き出した。
「え?」
討伐者が何で名前を知っているのか疑問の視線を送る。フィデラは確信し思考に没頭し始める。
「ありがとうございます……そいつを追えばたどり着けるわけですね……」
この街をホームタウンとしながらも、人望ではなく、恐怖によって周囲を支配している男。追うのは骨が折れそうだと、フィデラは内心でため息をつく。
「……追うのが面倒ですね」
ぽつりと漏らされた呟きを聞き、討伐者たちは自分たちが綺麗にカマを掛けられたのだと気がついた。彼らは色を失い、慌てて椅子を蹴立てて立ち上がると、カウンターの奥のボルロードへ向かって必死に弁明を始める。
「お、おい、支部長! 俺たちは何も言ってないぞ!?」
「そ、そうよ! 変なこと伝えないでよ!?」
とばっちりを恐れる彼らに対し、ボルロードはひらひらと無関心そうに手を振ると、そのまま奥の事務所の方へと引っ込んでいってしまった。
フィデラは討伐者組合を後にした。まずは宿屋や、旅装の整う道具屋のあたりを洗ってみるべきか……そう考えながら、雑踏の激しい通りを歩き出す。
ふと、雑踏の隙間から、明らかに堅気ではない不穏な空気を纏った一団が視界に入った。下卑た笑みを浮かべる男たち……奴隷商の人間だ。
(こんな町にも奴隷商……いや、ちがいますね。話題のデグライア教の人さらいか……)
関わり合いを避けるため、彼女は一本路地に入り、裏通りの店へと回ろうとした。しかしその時、必死に気配を殺して隠れている鼠人族の子供たちを発見してしまう。
明らかに標的にされ逃げまわっている……
フィデラは歩みを止め、思わず天を仰いだ。深く、重い溜息がこぼれる。
(……ルディア様なら気がついたら止めるでしょうね……)
その高潔な主の背中を思い浮かべれば、見過ごすことなどできるはずもなかった。
彼女はくるりと踵を返し、その手に静かに力を込める。奴隷商もどきの異教徒どもを「片付ける」ため、フィデラは静かに動き出した。
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ストック尽きましたので、また後日更新していきます。
次は8月でしょうか……
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