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竜血の復讐姫 ~魔女に育てられた少女は「悪」を狩り、世界を浄化する  作者: 藤明
三話 狩られる山賊達

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3-1 街道の山賊達

§ § § § § §



ー 野盗のアジト・洞窟の中にて……


 街道から一歩山へと踏み込めば、そこには陽光を拒むような原生林が広がっていた。さらにその森の奥に山賊のアジトがあった。見捨てられた小さな廃砦の周囲には尖った丸太を並べただけの簡素な防護柵が巡らされている。造りは粗末だが、この辺に生息する野獣の侵入を拒むには十分な威圧感を放っていた。


 砦の広場では、襲撃を終えたばかりの山賊たちが戦利品の整理に追われていた。強奪した荷馬、きらびやかな財宝、そして街で高く売れるであろう「商品」が次々と運び込まれていく。

 人間を主体の山賊の一団は、商人らしき兎人族の一団……執事らしき獣人、それに兎人族の女性たちを太い麻縄で数珠つなぎにされ、力なく連行されていた。


 その様子を上等な外套をまとった男性、見るからに山賊には見えない服を着た人間がパイプをふかしながらいら立っているようだった。見る限りは王都の政庁にでもいそうな文官、書簡を届け読み上げる伝令役のように見えた。


「……ここのところ、少々派手にやりすぎではないか?」


 山賊の首領は、積み上がる戦利品から目を離さずに鼻で笑った。


「そうですかねぇ、まぁ、そこまで人通り無いですから大丈夫でしょう。あそこの街道で行うのは初めてですな」


 山賊の首領も質問を受け流しながら、搬入されてくる商品や、獲物の奴隷候補の確認と置き場所の指示をテキパキとだしていた。半ば無視された形の貴族の伝令は、苛立ちを隠さず首領の背後を追いすがった。


「忘れるな、我々の受けた使命は「気づかれてはならない」……獣人共の町の補給路を断てばいいんだ。略奪はその手段にすぎん。もう少し慎重に……」

「……「慎重」に……ですか。あいつらを見て、同じことが言えますかね?」


 首領が顎で示した先には、山賊たちが捕らえた兎人族の男性を囲んでいた。彼らは無抵抗な男をボールのように蹴り飛ばし、殴りつけ、悲鳴が上がるたびに下卑た笑い声を上げている。

 その凄惨な光景に、伝令の男は顔をしかめて吐き捨てた。


「……なんと野蛮な」

「ええ、そうでしょう。そうでしょう。そんな野蛮人の言うことを聞かせるのもかなり厳しいんですよね。割り増しで給金が欲しいくらいですな」

「……ふん。だが、そいつらもいい「商品」だ。殺すなよ……特に女は手つかずで……傷モノになれば値が落ちるからな」


 その時、傍らに控えていた山賊の参謀格が、口封じと言わんばかりに銀貨の詰まった小袋を伝令に放り投げた。ずっしりとした重みを感じた伝令は、にんまりと口角を上げると、それ以上小言を並べるのをやめた。


 作業をしながら山賊の首領はふと思い出したことを質問する。


「ああ、そうだ、要請していた「癒し手」の件はどうなりました? 受理されてないんですかね?」

「こんな野盗まがいの掃き溜めに、まともな聖者、術師が派遣されるわけなかろう」

「ちっ……強奪した魔法の治療薬だけじゃ足りないんですよね……ほんと貧乏くじですなぁ……懐は潤いますがね」

「まぁ……全くだ。ははは!」


 二人の下卑た笑い声を切り裂くように、配下の山賊の一人がとらえられた兎人族の娘の腕を引っ張り連れ出してくる。


「お頭ぁ! 殺さなければ何をしてもいいんだよな?」

「い、いやあぁっ!」

「まぁ、ちょっと待て……手を出さないほうが金になるんだが……」

「大丈夫ですって、優しく可愛がってやりますから。へへへ……」

「嫌っ!離して、この変態ッ!!」


 貴族の伝令の男は、必死に抵抗する兎人族の女性と、彼女に対して本気で欲情している山賊の歪んだ表情を見て、思わず後ずさりした。殆どの人間から見れば「全身が毛に覆われた獣」にすぎない存在に、これほどの情熱を燃やせる神経が理解できなかったのだ。


「……私には到底理解できん趣味だ」

「自分もですよ……女は好きなんだが……人の姿に近い半獣までが限度ですな」

「そうだな……確かに、半獣には稀に類いまれなる美形がおるからな……」


 山賊の首領が配下のいつもの部下の暴走に困っていると、見張りの一人が血相を変えて砦に飛び込んできた。


「ボス! ボス! 討伐隊らしい集団がこちらに向かって街道を歩いているとの報告があったぜ!」

「あん?」

「討伐隊だと?」


 それまで沈黙を守り、地図を広げていた参謀格の男が顔を上げた。彼はこの集団の中で唯一身なりを整えており、どこかの街の長と言われても違和感のない風格を漂わせている。


「詳細を報告しろ」


 山賊たちが口々に騒ぎ立てるのを、一人が口を開くと我先に、口々にバラバラに情報を伝えてくる。参謀格が手を上げて発言を制し、それなりに頭の良い人物を指名して発言を促す。


「距離は大体一日ほどの場所、開けた草原の街道にいるって話ですわ」

「なぜそれが討伐隊だとわかる? 魔獣討伐かもしれんだろ?」


「ああ、なんでも、この辺を根城にしている野盗の討伐依頼が街の「魔獣討伐組合」で出されたらしいです? そうだよな?」

「まぁ、こんだけ派手にやったら気づくわな」

「……俺たち魔獣扱いかよ……」

「あいつらなんでも倒しに行くからなぁ……」

「ああ、酒場の姉ちゃんもそんなこといってたな。「山賊退治に参加しないの?」って」

「なんだ、お前も声かけられてたのかよ」

「見た目「討伐者」だからな。俺ら」

「売春婦もそんなこといってたな。五十人規模の討伐隊を集めてたって」


 山賊の首領はイライラしながら報告……と言うより「つぶやき」を拾い、断片的な情報を頭の中でまとめていく。彼がここまで上手くやってこれた「世渡り術である直感」が危機を告げる。


「……なんでそんな重要なことを連絡しない!」

「そりゃあ……」

「聞かれてないからな」

「お頭は話すと「うるさい! 出てけ!」ってすぐ怒鳴るじゃないですか?」


 貴族の伝令役と山賊の参謀の冷ややかな視線が、山賊の首領に突き刺さる。普段から高圧的な態度を見ていたため一瞬にして「報告が滞っていた」状況を理解する。


「ちっ、おい、お前ら! 強奪した馬車を隠しに行け! 死体も匂いが出ない様に埋めろ!! 時間稼ぎだ! 明朝にはこの砦を出て隣山のアジトまで引っ越すぞ!」


 子分たちが一斉に嫌そうな顔をして、お互いを見合わせた。


「隠すって……」

「あんなでかいもの」

「あとで売るから壊すなって言ったのお頭じゃないか……」


 子分たちが口々に不満を漏らした。


「ちっ……!おい、野郎ども! 馬車を茂みの中に放り込め!!」 

「どうやって?」

「あ~もう!! 馬車を目立たなくすればいいんだよ!! 壊してでもいいから街道から除けろ!」

「誰がです?」

「てめぇらだ!!!」


 山賊たちはうんざりした表情で誰が行くか、めんどくさい作業を擦り付けられるか部屋を見回すが、騒ぎを傍観していた他の山賊たちは目も合わせずに自分の作業に取り掛かり始めていた。


「へいへい」

「結局、俺たちが行くのかよ」

「はぁ、下っ端はつらいねぇ……」


 山賊の首領は、兎人族の女性の腕をつかんだままのリーダー格の首根っこをつかむ。


「お前もいけ!」

「えーそんなぁ……せっかくのお楽しみが……」

「時間が無い。死にたいのか? その獲物は牢にでも入れておけ! 死なれたら商品にならないからな! 殺すなよ! 怪我もこれ以上させるな! 十人くらい連れてさっさと作業してこい!! あとは森の中に入る足跡はなるべく消してこい!! いいな!」


「へ~い」

「無茶言うなぁ……」

「街で一晩遊べるくらいの小遣いはやる! さっさとやれっ!」


「「「了解しましたっ!!」」」


 現金なもので、報酬を聞いた途端に山賊たちの足取りが軽くなる。その様子を見ていた貴族の伝令は、拭いきれない不安に駆られていた。


(……本当に、こんな連中に任せて大丈夫なのか?)


 だが、目の前には賄賂として積まれた銀貨の袋がある。いざとなれば自分だけ適当な理由をつけて離脱すればいい……そう結論づけ、思考を放棄した。


 山賊の参謀は冷めた目で手元の赤い不気味な液体の入った魔法薬の瓶をクルクルと回し、指先で弄んでいた。



ー 野盗のアジトから近い山道にて


 嫌々ながら命令を受けた山賊たち、十人組の集団は愚痴を言いながら街道へ続く山道を下っていた。道中の野獣対策のため全員が皮鎧を身にまとい、馬車の護衛や積み荷から奪った剣や山刀、槍、斧、弓矢などバラバラな武装をしていた。


「疲れるんだよなぁ……一回でもいいからボスも来いっての」

「まぁ、お小遣いくれるっていうから、言う事聞くしかないね」

「小遣い貰ったら街に繰り出そうぜ?」

「いいね。でも隣山のアジトの近くって、寂れた村しかなかったよな?」

「つまらないね、それ」

「そりゃ退屈だ……」


 先頭を歩いていた目端の利く山賊が、急に手を挙げ全員の移動を止める。


「おい、静かにしろ。……なんか馬車のまわりに人がいるような? いるな……人間か?」


 全員が音を殺して身を伏せる。一人が使い古された折り畳み式の遠眼鏡を取り出し、獲物の様子をうかがった。


「二人だけか?」

「男と女だな。女の方は、かなりの上玉だぜ」

「もちろん人間だよな?」

「ああ、兎人族じゃないな、毛は生えていない」

「そりゃあいい」


 一人を除いた全員が、下卑た笑いを噛み殺す。


「なんだよ、あの兎人族はかなりいい女だったんだぞ? 滅茶苦茶可愛かったんだぞ?」

「……俺たちにはわからねぇよ……」

「んだな……」

「獣人好きってまわりにいないからなぁ……」


 遠眼鏡を覗いていた男が、欲望を隠さずに舌なめずりをした。


「本当にいい女だ。胸も尻も大きい……少女と大人の境目というか……とにかくそそるぜ」

「男は殺して、女は生け捕りだな」

「いいねぇ!」

「味見はしちゃっていいよな?」

「いいねぇ!!」

「報告しなければいいんだろ?」

「参謀がよく言う「予定外の遭遇」ってやつだろ?」


 山賊たちは互いに目配せし、手慣れた様子で獲物を狩るための布陣を敷き始めた。



§ § § § § §


― 山道に近い街道にて


 同じ頃、ルディアとヴァルターは近くの人間の村を目指して小走りで駆け抜けていた。

 疲れがたまらない程度の速度のはずだったが、彼らの身体能力と回復能力が尋常ではないため、傍目には、熟練の飛脚が全力疾走しているような速度に見えていた。

 『隠し砦』を出た時よりも荷物は整理されていたが、それでも大荷物を背負ってこの速度で走る二人に対し、すれ違う旅人や農民などは驚愕の視線を向けていた。


 見晴らしの良い丘に差し掛かった時、ヴァルターが足を止めた。視線の先には、中継地点となる城郭都市のシルエットが霞んで見えている。そこで彼は、極めて重大な欠落に気づいたのだ。ルディアが何事かと怪訝そうに振り返る。


「どうしたの?」

「……金が無い……かもしれん」


「えっ?」


 ヴァルターは慌てて荷物を下ろし、ポーチやポケットをひっくり返したが、出てきたのは数枚の小銭だけだった。


「……すまない。忘れていた……服が変わっていたんだった……」


 ルディアは呆れたようにため息をつく。


「……あなた、聖教王国の町から来たのよね? お財布は持っているものじゃないの? 山暮らしの私ですら持っているわ?」


 ヴァルターは気まずそうにしながら答える。


「遠征の時は……組合の銀行、魔獣討伐組合に預けておくんだ。大体は出資者が全部払うことになる……俺の小銭は道中の村で使ってしまった」

「……聖従士たちが持っていた袋……まとめて埋めてしまったわ……死んだらお金も一緒に埋めるのが風習だったから……」

「それで無かったのか……掘りに戻るか?」


 ルディアはふと今まで走破してきた道を振り返る。


「……だいぶ遠いわよね……」

「一日半戻るのか……」

「それも嫌ね」

「持ってきた装備は売りたくないものだな……」

「ええ、厳選した逸品ばかりだもの」


 彼らが『隠し砦』から持ち出した装備、武器などは一番使いやすく、一番頑丈、かつ、なにかしらの魔法の効果を持った武器だらけだった。これから行う聖騎士たちとの戦闘を考えると、少しでも質がいいもの……街で購入したら金貨数十枚は下らないものばかりだった。これから聖騎士たちと戦うことを考えれば、手放す選択肢はなかった。


「それで、ルディアの財布には金はないのか?」

「えっと……獣王国の銀貨一枚と、銅貨が十枚……獲物を売りに行くときに騒ぎを聞きつけたから……持ち合わせが無いのよね……」

「うーん、獣王国の貨幣は交換レートが悪いからな。全部銅貨になってしまいそうだ……」


「大きな街に入るのに入市税が必要なのよね……動物を狩って売るのはだめ?」

「それしかないだろうな。この気温じゃ痛むのが早い。なるべく通行料のない村や集落の近くで狩って小銭をつくりたい」

「保存の魔法があればよかったんだけど……まだ覚えてないのよね。調べておくわ」

「! 調べれば使えるのか?」

「たしかシルヴィのメモに書いてあったような……」

「そうか……」


 ヴァルターは思ったより怒らずに冷静に会話をしてくれるルディアを尊敬のまなざしで見ていた。過去に付き合いのあった女性たちなら……「金がない」などと言ったら大変な事になっていただろう。実はかなり早い段階で気が付いていたのだが言い出せなかったのだ。


「……霊が騒がしいわね……」

「ん?」


 ヴァルターが眼帯をくいっと持ち上げ、紅色に染まった霊視が出来るようになった瞳でルディアの視線の先を追う。


 兎人族の霊がある地点から逃げ出すように走っていた。しばらくすると元の位置に戻り、また向こうから繰り返し走ってくる……不思議な光景だった。


「……殺されたばかりの反応ね。死んだと理解せずに逃げている……」

「この先で殺人があったってことなのか……すごいな………それが分かるなんて。ん? 確かに血の匂いだな……」


 二人は気配を殺すと、迷える霊が指し示す方角へと、静かに歩みを進めた。


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